白スニーカーにはケアが欠かせません。防水・撥水・栄養効果が期待できる「レザープロテクター」は必需品で、定期的に洗ってあげる必要があります。こすらず、優しく磨きましょう。そして何より重要なことがあります。それは、ハルク・ホーガンのように素手で引き裂いてはならない…ということです。ですが、もしあなたがユーチューバーであるなら、そしてチャンネル登録数を増やしたのであれば…これはあえてすべきこととも言えます…。

 Youtube上でウェストン・ケイさんを見つけたときの私の反応は、他の何十万人もの人たちと同じかと思います。彼が「Common Projects(コモン プロジェクト)」の『Achilles』を、ゆっくりメスでバラバラにするのを絶望的な恐怖の表情を浮かべて見ていました。

 しかもその後、彼はスニーカーを2つに引き裂いたのです。これはミニマリストなメンズウエアの中でも、最も神聖なアイテムに対する冒涜行為とも言えます。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Cheap Posing as Premium - Cutting $425 Common Projects In Half
Cheap Posing as Premium - Cutting $425 Common Projects In Half thumnail
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 アメリカに住む革職人であるウェストン。彼はこれまで、ブーツやスニーカーなどの聖なる牛革を約1年前から分解し続けてきました。彼のYouTubeチャンネル『Rose Anvil』では、靴と言う愛すべきプロダクツをバラバラに分解したり、破ったり、吹き飛ばしたりといった…YouTubeにおける(ウケを狙った?)伝統的な手法で急成長し続けています。

 しかし彼の狙いは、単なる「破壊行動」によるウケ狙いの手法ではないようです…。彼は人気ブランドの革の品質を真摯に分析すべく、使われている技巧に関してなど、視聴者に対しリアルにシェアすることをモットーとしているようです。つまり、靴の購入の際に必要なディテール…消費者には隠れて見えない部分のこだわり(ときに手抜き)に対して、透明性をもたらすことをミッションとしているのです。

 このウェストン・ケイさんの手法は、同じくユーチューバーで友人のJerryRigsEverythingさんからアイデアを得たのだとか…。彼のチャンネルはスマホを分解する動画で、600万人近い登録者数を集めています。「同じことをブーツでやったらどうだろう? そう思ったんです」と、カメラハーネスや財布や指輪をつくっているユタ州のワークショップから、電話を介してウェストンさんは話をしてくれました。

 「『Common Projects』や『Dr Martens』や『Red Wings』のレビューをしているチャンネルはたくさんありますが、彼らが知っているのは靴のほんの一部分だけと言っていいでしょう。靴の内部がどうなっているかを知るには、半分に切って引き裂いてみるしかないのです…」とのこと。

 その工程は、さながら手術のようです。まずはカミソリのような鋭いメスを、つま先からタンに向けて入れていきます。靴ひもを手際よく取り除いたら、今度はかかとにメスを入れていき、ソールへと移ります。

 ラバーソールをカットするには力が必要です。それが頑丈なブーツの靴底ともなれば、はるかに複雑な作業が求められるのです。そういった場合は糸を引き抜いていき(動画では、感度の高いマイクがその音をひとつひとつ拾っていきます)、最後にサンドイッチ職人のように靴の断面を開いていきます。

 「テーブルの上に目玉焼きが垂れてくるのではないか?」と、ちょっと期待してしまうほどの手さばきを披露しています。観ているだけで、不思議とASMR(自律的感覚頂点反応=聴覚や視覚への刺激によって感じるゾクゾク感)のような満足感をもたらす動画なのです。

 そこには、「タブーの領域に触れている」という背徳感も感じることでしょう。これまで長い間にわたって人気のスニーカーというものは、YouTubeやその他の場所で(儀礼的とも言えますが…)敬意を持って扱われてきました。

 例えばウェブメディア「Complex」の超人気シリーズ『Sneaker Shopping』は、ニューヨークの「Stadium Goods」に大物たちを招いて、シュリンク包装されたスニーカーを見ながら新旧のスニーカーについて叙情的に語る動画として人気です。

 欲しいスニーカーを選んだら、クレジットカードで実際にお買い上げ…。その金額は1万ドルを超えることも珍しくありません(スニーカーの金額に驚愕する有名人の様子をこちらから見ることができます)。スニーカー業界は、クロスカルチャーのコラボレーションやオンラインでの再販市場のけん引により、2024年までに1000億ドル近くの市場価値になるとも予想されています。

 そうした背景もあってか、2020年4月にウェストンさんが1000ドルもの『Air Jordan 1』を分解したときには、怒りの声をあげるコメントも見られました。

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$1000 Jordans (CUT IN HALF) - 100,000 Subscriber Video - Shattered Backboard 1.0
$1000 Jordans (CUT IN HALF) - 100,000 Subscriber Video - Shattered Backboard 1.0 thumnail
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 「レアな靴を分解するときはいつも、多くの人が欲しがっているものを破壊していることに対して腹を立てる人たちがいます」「でも、多くの人が大切にしているものが目的を持って破壊されるというのも、魅力のひとつだと思うんです。もし私が単に靴に火をつけているだけだったら、フォロワーは離れていくでしょう。ただただもったいない…無駄で不経済なことをしているだけですから…。」

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 「しかし、私が行っていることは、そこから正しい知識が得られる可能性が高いと言えるはずです。なので彼らは罪悪感を感じながらも、私の動画に満足してくださり、そして次にも期待してくれる理由だと思っています」と、ウェストンさんは話してくれました。

 YouTubeというプラットフォームは、どんなに無害な内容からもヘイトスピーチが生まれていることを考えると、『Rose Anvil』へのコメントはかなり肯定的で穏やかなほうだと言えます。

 フォロワーたちは丁寧に、ヌバックやスエードの細かい点を話し合ったり、人気ブランドの経験を共有したり、次に分解して欲しい靴をリクエストしたりしているようです。だからと言ってウェストンさんは、安い靴に非現実的な期待をして酷評したり、クリック数を増やすことを目的に、騒ぎ立てるようなことなどしません。

 「通常、価格と品質は比例しています」「50ドルで非常に高品質な靴を見つけるのは不可能ですし、500ドルで劣悪な靴を見つけるのも難しいでしょう。ただし、革の質に関してはどこを見たらいいか熟知していないと、判断が難しいところです」、とウェストンさん。

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Premium Timbs VS Basic Timberland Boots (CUT IN HALF)
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 ウェストンさんの評価に対し、意義を唱える人たちももちろん存在します。拡散して話題になった『Common Projects』動画のあと(リアクション動画までつくられました)、専門家が彼の主張の一部、特に「ヨーロッパの素材の品質基準」について、Redditでは否定的なコメントがあがっています。また彼のコスト分析は、「ファッション業界の経済や経費を無視したものである」と批判した人たちもいます。初心者にとって革の品質を判断するのが難しいのであれば、革職人の主張の真偽を判断することはさらに難しそうです…。

 いずれにせよ両者に共通するのは、「質の高いものづくり」を求めているということです。「意外かもしれませんが私は、『誰もが、好きな価格で商品を販売したらいい』という考えを持っています。そして有名ブランドにしろ限定スニーカーにしろ、消費者が購入後に満足できればそれでいいわけですから…」「しかし、何に対してお金を払っているのかをしっかり理解するという意味では、高品質の靴を買っていると思っていたのに実は粗悪な製品だった…という事態は問題ですからね」とウェストンさん。

 使い捨ての風潮や環境への深刻な影響、さらに労働搾取などが問題視される機会も増えてきたファストファッション界。これに反比例するかのように、数々の名品スニーカーを生み出すブランドに対しては、「スタイリッシュなデザインでありながら、堅牢でこだわりのある…まさに職人的な配慮でつくり上げてくれている」と、これまで以上に尊敬の念を抱いているようです…。

 さらに、そこにサステナブルなものづくりへと移行しようと精進しているブランドも増え、多くの消費者がその流れに対して敬意を払って見守っている…それが現状ではないでしょうか。そこで鍵を握るのは、やはり透明性です。ブランドがそれを提供できないのであれば、YouTubeそしてユーチューバーに頼るしかありませんね。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。