「奄美・沖縄」ユネスコ世界自然遺産登録を祝して、日本にある自然遺産のすべてをおさらい
このたび「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が加わり、知床(北海道)、白神山地(青森県・秋田県)、小笠原諸島(東京都)、屋久島(鹿児島県)、奄美・沖縄(鹿児島県・沖縄県)と合わせて5つになりました。
鹿児島・沖縄両県にある「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が2021年7月26日(月)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産に登録されました。2006年に登録延期を勧告されて以来、今回は2度目の挑戦でした。世界自然遺産となるための条件とは、「自然美」「地形・地質」「生態系」「生物多様性」という4つの評価基準があり、いずれかを満たす必要があります。
今回の登録によって日本の自然遺産は合計5件となり、これまでに知床(北海道)、白神山地(青森県・秋田県)、小笠原諸島(東京都)、屋久島(鹿児島県)が登録されています。そこで今回、奄美・沖縄の登録を記念して、日本にあるすべての世界自然遺産をいま一度、振り返ってみましょう。
地球環境の悪化が注視されるいま、将来の世代に引き継いでいくべき、日本の美しく貴重な自然について考える良い機会になるはずです。そして現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴って沖縄県には、「緊急事態宣言」が2021年8月22日まで実施されています。そうした中、多大なる影響を受けている観光産業全体への応援の意味も込めて、ここで一緒に再確認しておきましょう。また再び自由に旅行ができる日のために、旅先選定のヒントにしてください。
知床(北海道)/自然遺産登録2005年
まずは北海道から。北海道東部に位置する知床半島は、2005年に自然遺産に登録されました。長さ約70km、幅25kmの、オホーツク海に突き出した細長い半島で、その中心には1200~1600m級の山々が連なっています。流氷が育む豊かな生態系が評価されました。
知床半島は北半球での流氷の南限と言われていて、冬季には流氷が着岸。流氷がたくさんのプランクトンを運び、魚やそれをエサにするクジラやトドなどが暮らす、豊かな場所となっています。
しかし最近ではこの豊かな海流によって、人が出した多くの海洋ごみも知床に運ばれているようです。そうした現状を知るためにも、知床に行ってみはいかがですか?
知床半島には計77本の川が流れています。山と海が隣接する地形から、その多くは流れが急で川幅も狭くなっています。秋になると、その川をサケやマスが産卵のため遡上(そじょう)し、海と陸の生態系をつなぐ重要な役割を担います。
また知床周辺は、天然記念物であるオオワシの世界有数の越冬地。翼を広げると2メートルにもなる世界最大級のワシで、この地で行われているスケトウダラ漁の時季に飛来します。網からこぼれたタラをエサにするなど、人の営みと共生しています。
白神山地(青森県・秋田県)/自然遺産登録1993年
日本で1番目の自然遺産となったのが、白神山地です。青森県南西部と秋田県北西部にまたがる13万ヘクタールの山地帯に、手つかずの大自然が残っています。
世界最大級のブナの原生林が広がり、多種多様な動植物が生息しています。寒冷な気候で冬季はほとんどが雪に覆われるため、人が入り込みにくかったことが影響していると言われています。
吸い込まれそうなブルーが美しい「青池」は、白神山地を語る上で外せない場所。陽の当たり具合や見る角度によって、さまざまな表情を見せてくれます。緑の葉っぱとのコントラストが見事です。
貴重な生態系が維持されている白神山地には、約4千種の生き物が生息していると言われています。絶滅が心配されている天然記念物のクマゲラやイヌワシ、カモシカやツキノワグマ、ニホンザルなどが、豊かな大自然の中で暮らしています。
そんな白神山地も危機に直面しています。過疎化と高齢化によるガイド減少も心配ですが、生息しているニホンジカの数が近年急速に増加しているということも、深刻に捉えるべきでしょう。二ホンジカは繁殖力が強く、食欲旺盛でほとんど全ての植物を食べることができるため、木の若芽が食べられてしまうなど、樹皮が剥がされてしまう問題が起きています。
この原因としては、人口減に伴うハンター不足もありますが、地球温暖化による環境の変化によるものだと言われています。このままだと、この貴重な原生林が破壊されてしまう可能性もあることを自分の目で確かめるのもいいでしょう。
小笠原諸島(東京都)/自然遺産登録2011年
独自の進化を遂げた生物たちが暮らすことから、「東洋のガラパゴス」と呼ばれる小笠原諸島。父島、母島など約30の島々で構成され、貴重な動植物が世界にまたとない生態系を育んでいます。
2011年に自然遺産に登録された小笠原諸島は、歴史的にユニークな成り立ちを持ち地球史の見本と呼べるほど、さまざまな地形・地質が広がっています。
例えば父島の南にある南島は、島全体が「ラピエ」と呼ばれる尖った石灰岩の侵食地形で覆われていて、約1000年前に絶滅した「ヒロベソカタマイマイ」の半化石も見つかっています。
父島の南には断崖絶壁が広がり、雨で洗い流されて赤い肌色になった、ハート型に見えるハートロックなどの面白い地形も。これらの地形をバッグに、ザトウクジラやマッコウクジラなどが雄大に泳ぐ姿は圧巻です。
ハシナガイルカやミナミハンドウイルカなど、島周辺の海には、野生のイルカたちも暮らしています。また固有種では、オガサワラゼミやオガサワラトンボといった昆虫、パイナップルのような実をつけるタコノキといった樹木などが見られ、バラエティに富んだ「生き物たちの楽園」が小笠原には広がっています。
このように、太平洋の直中にある小笠原諸島の島民にとって、海は最も身近な資源であってとても大切な存在です。ですが、そうした小笠原の海は海洋ごみを漂着させてもいます。特にマイクロプラスチックを含むプラスチックごみの量は、2020年の4月から12月の期間で30キロほどだったということです。
屋久島(鹿児島県)/自然遺産登録1993年
白神山地と共に1993年、日本初の自然遺産となった屋久島。島の9割が山岳地帯で、中心には九州最高峰の宮之浦岳(標高1936m)があり、島全体に湿潤な気候をもたらしています。
深い森が豊かな生態系や自然美を生み、ジブリ映画「もののけ姫」の舞台になった太古の森「白谷雲水峡」などが見られます。
標高500mを超える山地には数多くの杉が自生し、特に樹齢1000年を超えると屋久杉と呼ばれます。普通の杉の寿命は500年ほどと言われている中、2000年を超える屋久杉も…。
花崗岩の山地でゆっくりと成長するため腐りにくく、長生きできるので巨木になるそうです。有名な縄文杉も樹齢2000年以上と推定されています(7200年と言われていましたが最新の研究で正確な樹齢が判明)。
中から見ると、ハート形に見えるウィルソン株など、たくさんの巨大な切り株も残されています。ウィルソン株は推定樹齢2000年、豊臣秀吉が大阪城を建築する際に伐採されたと言われています。
木が歩んできた歴史に思いをはせると、ロマンを感じませんか?
屋久島固有のヤクシカやヤクシマザルなどが暮らし、その数は屋久島の人口約1万2000人よりも多いと言われています。また、ウミガメの日本有数の産卵地としても知られ、生き物たちは陸でも海でも人間と共存しながら、素晴らしい生態系を保っています。
1993年に白神山地と共に日本で最初の世界遺産に登録されて以来、最近では観光客の過度な登山道利用による土壌侵食や、ヤクシカによる食害の影響、タヌキなど外来種の影響だけでなく酸性雨、黄砂、温暖化の影響など地球規模での気候変動の影響も指摘されています。
奄美・沖縄(鹿児島県・沖縄県)/自然遺産登録2021年
そしてこのたび、新たに世界自然遺産に登録されたのが、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」です。世界遺産でもある一方、その美しい自然と海を目的に、コロナ禍でなければ国内外から数多くの観光客が訪れる、日本屈指のリゾート地域でもあります。
奄美や沖縄は温暖な亜熱帯気候で、比較的降雨量が多く、たくさんの森が分布。特にマングローブの森は、海と陸両方の生き物たちの住処になっています。
古い時代に海に囲まれたことや、それぞれの島が小さく捕食動物が少なかったことなどの歴史的要因から、世界中でこの地域にしか生息していない「固有種」が数多く存在しています。
サンゴ礁も数多くの生き物たちにとって、重要な役割を担っています。世界の海には600~800種類のサンゴが生息していると言われていますが、これらの地域、特に沖縄の海にはその半数以上がいるそうです。1つの場所としては世界一の種類数として有名です。
これらの地域では、アマミノクロウサギ(奄美大島、徳之島)やヤンバルクイナ(沖縄県北部)、イリオモテヤマネコ(西表島)などの、この地域にしか存在しない動植物たちが独自の生態系の中で暮らしています。これらの生き物たちの種を途絶えさせないよう、守っていく義務が私たちにはあります。
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以上、5つの自然遺産すべてにおいて、豊かな自然によって生態系と生物多様性が生み出され、それが評価されてきました。この美しく雄大な「日本の宝」を、未来にしっかりと残していくことが求められています。
皆さん、足を運ぶ際には①植物や石は持ち帰らない、②ゴミを捨てない、③歩道がある場合は道を外れないで歩く④写真撮影は撮影可能スポットのみで行う…など、ルールを順守したマナーある行動を大切にしてください。もちろん、感染対策も万全に。