2021年7月26日(月)に行われた男子シンクロ高飛び込みに、4度目の出場で金メダルに輝いたトーマス・デーリー(Thomas Robert Daley)選手(2021年現在で27歳)。そんなデーリー選手ですが、出場前から選手村のツアー動画をYouTubeにアップしたり、金メダルを入れる手編みの袋を披露していたり、競技後のインタビューでは今大会ビジョンの1つである「多様性と調和」を感じられるコメントを残したりと、世界的な話題となっています。

 そんなデーリー選手についての気になる話題を、ここにまとめてみました。


「私はゲイ(同性愛者)で、
金メダリスト。
それを誇りに思っている」

 デーリー選手の五輪初出場は、2008年北京五輪で当時14歳でした。イギリスではその若さや整った顔から、アイドルのような人気を得てきました。そして、2度目の出場となる2012年ロンドン五輪では銅メダルを獲得。3度目の2016年リオデジャネイロ五輪でも銅メダルを獲得し、今東京大会で悲願の金メダルに輝きました。

 メダル獲得と同時に注目されている理由は、彼がカッコいいというだけでなく、ゲイであることを公表していることにもあります。それはロンドン五輪の翌年となる2013年のこと、19歳のゲーリー選手は自身に男性の恋人がいることを公表。そして2017年の23歳のときに、アメリカの脚本家 ダスティン・ランス・ブラックさん(当時43歳)と同性婚。さらに2018年には、子どもを迎え入れ、現在は1児の親でもあるのです。

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 そんなデーリー選手が歩んできた道すじを振り返れば、そう順風満帆なものではありませんでした。

 デーリー選手を長年取材してきたBBCスポーツのニック・ホープ記者は、2021年7月26日に公開したBBC内の記事でデーリー選手のコメントを振り返っています。そこには、以下のように書かれていました。

 14歳で北京で五輪初出場を果たしたときには、メディアは即座に注目。「ベイビー・ベイリー」というニックネームも付けられ、国内ではアイドルのように愛される存在となったそうです。ですが、つらい目にもあったとデーリー選手は語ったということ。

 「学校では喜んでくれる人もいましたが、ひどいことをする人もいました。いじめられてましたね」と語っています。さらに、「いじめについては長いこと黙っていた」とのこと。ですが、次第に練習にも影響ができなくなり、ダイビングを話題にすることも恥ずかしいと思うほど精神をすり減らし、自信を無くした時期もあったといいます。その後のデーリー選手は、学校に通学せず自宅を拠点を置いて学習を行う「ホームスクーリング」を望んだそうですが、結局は転校することになったそうです。

トーマス・デーリー,diving day five   13th fina world championships
Clive Rose//Getty Images
2009年7月21日、イタリアのローマで開催された第13回FINA世界水泳選手権で、男子10メートル高飛び込みで金メダルを獲得したデーリー選手。

 その後の2009年世界選手権ローマ大会、15歳で初の世界選手権に臨んだデーリー選手は、その大会で優勝、ここでメダリストに昇格しました。そしてこの時の記者会見では、父親のロブさんとの仲睦まじいやりとりも話題に。ロブさんは会見時に登場し、満面の笑みと共に「私はロブ、トムの父親です。ぎゅっと抱きしめたいんだけど…」と言っていました。

 それからおよそ2年の月日が経とうとしている2011年5月27日、すでに脳腫瘍の手術を受けていた父ロブさんはロンドン五輪を前に亡くなってしまいます。するとマスコミは、ロンドン大会に向けてデーリー選手の精神状態をしきりに話題にするようになり、さらに当時の英ダイビング代表監督からも体重を落とせと公言されたり、注目がプレッシャーになったそうです。

 ですが、そんな雑音などに負けることなく、デーリー選手はロンドン五輪で銅メダルを獲得します。その翌2012年、19歳のデーリー選手は旅行先のロサンゼルスで後に夫となるブラックさんと出会ったということ。ちなみにブラックさんは、映画『ミルク』でアカデミー賞脚本賞を獲得しているほどの、名脚本家であり映画監督、テレビプロデューサーかつLGBT活動家でもあります。

 「ランスと出会って2013年にカミングアウトしたおかげで、何もかもが変わりました…」「肩の荷が下りました」とデーリー選手はコメントしています。

 そうして挑んだ東京五輪。

 競技後には、かつて自分が感じていたことを振り返り、LGBTSの人々へエールを送るコメントをしています。

「今ひとりぼっちだと感じている若いLGBTの人たちへ、きみには仲間がいる。決して孤独じゃないんだ。『きみは何にでもなれる』って言いたい。世の中には、あなたを支えようとしてくれる家族がたくさんいるんです」「私はゲイ(同性愛者)で、金メダリスト。それを誇りに思っています」
これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

金メダルはお手製の編み物袋に

 デーリー選手への注目は、競技後のコメントだけではありません。その後、選手村へ戻ったデーリー選手は、趣味の編み物用サブアカウント@madewithlovebytomdaleyに、「メダルケースをつくった」「これでメダルに傷をつけずに持ち歩ける」と、お手製の袋を披露。その袋には、片面に英国旗ユニオンジャックが編まれており、もう片面には日の丸が編まれていました。

選手村のツアー動画を公開

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
OLYMPIC VILLAGE TOUR! I Tom Daley
OLYMPIC VILLAGE TOUR! I Tom Daley thumnail
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 動画で紹介している内容について、ここで簡単に説明していきます。

部屋は6人でルームシェア

 金メダル選手と言えど、豪華な部屋が用意されるというわけではないようです。6人で1部屋の滞在で、なんとベッドは4つで、2つのベッドは共同とのこと。大会期間中はここでのみ滞在することができ、閉会式の翌日2021年8月9日(月)に帰国予定だと話しています。

巨大なフードコート

olympic and paralympic village media tour
Takashi Aoyama//Getty Images

 24時間営業しているフードコートでは、「日本食」「ピザ」「麺類」など、多種多様な料理が楽しめるようになっているようです。ドリンクについては、大会関係者だけが持てるカードを自動販売機にかざすだけで購入できるということ。

 フードコート内の座席には、それぞれ仕切り版が置かれており、食事中はビニール手袋をする必要があるそうです。

さまざまなショップが立ち並ぶビレッジプラザ

 ヘアサロンやギフトショップ、オリンピック限定切手が買える郵便局や、携帯の修理・販売をしているお店、ATMなど、日常生活をおくるのに必要なショップがそろっているそう。また、西矢 椛(にしや もみじ)選手が大会後のインタビューで、「選手村の中にあるネイルサロンでネイルをしてもらった」と話していたので、ネイルサロンもあるようです。

選手村内は、自動運転のバスで回遊

 東京都中央区の晴海ふ頭公園周辺に建設された選手村は、約44ヘクタール(東京ドーム約9個分)もの広さがあります。敷地内には宿泊施設だけでなく、ジムやフードコート、ショップなどさまざまな施設があるので、その広大な敷地内を移動するために用意されているのが完全自動の電気バスです。バス停は村内に9箇所設置されており、乗車人数はオペレーターを含めて20名まで乗ることができます。車椅子の場合は、4名が車椅子にのったまま乗車することができるそうです。

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 これに関しては、オーストリアのカヌー女子代表ビクトリア・ウォルフハルト選手もご満悦の様子で動画をTikTokで公開しています。

給水ステーションの設置

 デーリー選手の動画で注目されたのが、ボトルに水を注いでいるシーン。「Tokyo Tap Water(東京の水道水)」と書かれた給水所を紹介しており、「東京の水道水は綺麗だからね」と説明しています。

 動画内では、他にも毎日唾液によるPRC検査を行っていることや、選手村で行われている厳密なコロナ対策についても言及。そして最後には、「選手村は、とってもかっこいい場所。ここに居られて幸運だと思う」と締めくくっており、開催国日本に対する敬意が感じられる内容となっていました。

トーマスデイリー,diving   olympics day 3
Jean Catuffe//Getty Images
2021年7月26日(月)、東京・江東区辰巳にある東京アクアティクスセンターにて行われた男子シンクロ高飛び込みで金メダルを獲得し、メダルセレモニー時に涙するデーリー選手(左)とペアのマシュー・リー選手(右)。
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