新型コロナウイルスに感染した際の症状のひとつに、味覚やにおいの感覚への影響があげられています。もしもこのような症状が出た場合、それが新型コロナウイルスによる可能性の度合いを自覚するためにも、実例的に一体どのような感覚に陥り、再び正常に機能するようになるのか知っておくほうが良いでしょう。そこで、いくつかの例をご紹介しましょう。

 「ワシントン・ポスト」紙によると、ある女性患者は発熱と疲労感に襲われてからしばらくして、臭覚と味覚の喪失に陥ったと言います。他にもいくつかのケースが報告されており、全てが上手く元通りになったということはないようですが、一生美味しいものが食べられないというわけでもないようです。

 「回復したと思います」と話すのは、新型コロナウイルス感染症の患者からウイルスに感染してしまった…いわゆる院内感染してしまったアトランタのエモリー大学医学部感染症医師 Jennifer Spicer(ジェニファー・スパイサー)さん(35歳)です。

 2020年10月末のある晩、彼女はいつものように自分で注いだ赤ワインを飲んだところ、いつもとは異なる感覚を覚えたと言います。

 「それは、ガソリンのようでした…心地良さなど皆無で耐え難いにおいと味だったので、そのまま流しに捨ててしまいました」とのこと。おそらくそれは、ワイン自体の問題ではありません。さまざまな報告にならって彼女は、「Covid-19の影響による臭覚および味覚の変化であったのではないでしょうか」と、振り返っています。

 スパイサーさんのこの経験は、嗅覚に症状が表れたものの現在は回復したと言える元患者の経験と類似しています。本来と異なるにおいを感じてしまう嗅覚障害は、錯嗅(さくきゅう=parosmia〈パロスミア〉)と呼ばれ、一時的ににおいの歪みを感じてしまうと言われています。それは不快に感じることのほうが多く、特に強く不快なにおいである…例えば腐った卵や硫黄、ガソリンといったにおいの感じ方に似ているということです。

救急患者を乗せた救急車が病院に到着
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 「においの障害により、衰弱する可能性もあります」と話すのは、ペンシルベニア大学の「Smell and Taste Center(臭覚・味覚センター)」のディレクターであるDr. Richard Doty(リチャード・ドーティ博士)です。そして、嗅覚と味覚の関連性も語ってくれました。博士によれば、嗅覚と味覚は連携されているため場合によっては、においを不快に感じる食べ物や飲み物に直面したとき、すかさず拒否反応を起こすこともあるとのこと。「水でさえ不快に感じる方もいます」と、ドーティ博士は話しています。

 「ワシントン・ポスト」紙に掲載された一例では、「ニンニクと玉ねぎは耐えられず、肉は腐った味がし、ミントの歯磨き粉は気分が悪くなったので、チューイングガムのような味がするものを使用していました」と書かれていました。そこにはスパイサーさんが体験したものと限りなく類似する、「ワインやコーヒーが、ガソリンのようなにおいになった」という事例も挙げられていました。

 この 嗅覚が錯誤してしまう錯嗅(パロスミア)は、ファントスミア(嗅覚幻覚)として知られる別の現象とも関連しています。

 これらの例は、ソーシャルネットワーク上での証言や共有にもとづいて確認されるようになり、さらに感染者の間でもその例が頻繁に再発見されるようになりました。しかしその度合いは、人により異なります。継続的に悪臭ばかりを感じてしまう方もいれば、あるタイミングのときだけに感じる方もいるようです。

 学術誌『Chemical Senses』がここ数カ月間行っている調査によると、調査に回答した約4000人のうち約7%が、「嗅覚の歪みを経験していた」との報告が入っています。

 専門家によれば、「パロスミアに苦しんでも、嗅覚システムは再起動するかのように何らかの方法で嗅覚組織を再生し、感覚刺激を正しく機能させることを身体が再び学ぶことが証明されている」と言います。つまり、それが苛立たしく、時には耐えられないにおいだったとしても、通常に戻る道へと歩んでいく…ということになります。

close up portrait of a man using pm 25 pollution mask in the street of a big city
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 そのプロセスは長く感じられるかもしれません。ですが、においが再び正常に知覚されるようになるとのこと。しかしながら、もしいち早く正常な機能を取り戻したいのであれば、トレーニングという手段もあるそうです。

 それは、ローズ・レモン・ユーカリエッセンシャルオイルなどのさまざまな香りを1日2回、10〜15秒間隔で嗅ぐというトレーニングになります。これは、すべての人に役立つと保障されているわけではありませんが、「少なくとも副作用はないだろう」と考えられています。

 さらにある方は、「歪んだにおいによって味覚まで影響されないよう、鼻を塞いで食べている」とも証言しています。また、食事のにおいをあまり感じることのないスムージーを摂取するなど、においを感じることが少ない食材を選ぶ方もいるようです。

 しかしながら一番肝心なことは、感染しないための予防に徹すること。信頼できるマスクは鼻までしっかりと覆い、むやみに指で顔に触らないようにしましょう。そして、外出後や食事の前後は必ず手洗い・うがいをする心がけを再度徹底してください。

 それでももし、「感染してしまったのでは?」と不安が募ったときのための予備知識として、これらのことを頭の片隅に入れておくといいのではないでしょうか。

Source / ESQUIRE IT