ポルシェ 911、進化の爪痕― 男心を駆り立てる―
ポルシェは50年にわたって熱狂的な人気を集め、多くの人の憧れの存在となっています。なかでも、「911」の人気の高さそして深さは目覚ましいものです。そして、今では商業的に大きな成功をももたらしています。ここで、そんなアイコンの進化を一望してみましょう。
1963年に生まれ、1964年より本格生産が開始された「ポルシェ 911」は、少なからず運転免許を取得し、クルマのオーナーとなることを目指す男性(もちろん女性も)にとって、必ずや気になる存在であるはずです。それはもはや、伝説の領域と言ってもいいくらい、憧れの存在となっていることでしょう。
確かに、言葉では「911」と簡単に済ませることができますが、その背景には長い長くて深い道のりがありました。といはえ、その基本的なデザインは変わっていない…。…という表現よりも、「一貫性」のあるデザインと言うべきでしょう。そんなポルシェの気概を知るため、アイコンである「911」が最新もモデルに至るまでの変容ぶりを一緒にご堪能ください。それはもはや感動のレベルです。
ポルシェ 「911」の50年の歴史。それは、まさに動物の「進化」に似てるとも言えるのではないでしょうか。デザインや設計自体は、50年の間それほど大きく変わっていないのですから…。
ですが…。かつて、後輪駆動であるオリジナルの「911」は、ドライバーにとって運転しづらいものでした。しかし、ドイツ・ツフェンハウゼンにある工場のエンジニアたちは、そこを長年にわたって改良に改良を重ね、さらなる軽量化を進めていったのです。そしてターボチャージャーを搭載したり、また、大きなウィングを装着するなどなど…同車の象徴的なデザインを確立していったわけです。こうして同車が進化するにつれ、問題であった駆動方式の変更を求める声もどんどん小さくなっていった…。現在では、それはポルシェたる所以、プライドの一角を担うようになっているわけですね。
レースの世界でも、ポルシェはいま絶好調です。「F1モナコ・グランプリ」、「インディ500」と並んで、歴史ある世界3大レースのひとつに数えられる「ル・マン24時間耐久レース 」。2017年6月に行われた第85回「ル・マン24時間耐久レース 」では、ポルシェは見事優勝。2015年から振り返れば、なんと3連覇なのです。
そんな実績を支える哲学、そして姿勢が具現化したデザインと、すべての方向性から男たちの欲望を満たしてくれるクルマ、ポルシェ。ここで核となっている「911」の成長を確認することで、ポルシェの心に感じとっていただければ幸いです。もしかすると、我が子の成長の見るかのように愛おしい気持ちでいっぱいになるかもしれませんよ。たとえ、あなたがオーナーでなくとも…。いつしかオーナーになりたいと思っているのですから。
1963年 「901」
901
ここでなぜ「901?」とお思いの方も少なくないでしょう。「901」は、1963年に「356」の後継車としてフランクフルトモーターショーにてプロトタイプとしてデビューしました。本格生産は1964年から。当初は開発コードそのままに、「901」で展開しようとしていました。しかし、当時プジョーが中央に0の入った3桁数字をすべて商標登録していたため使用できないと判断し、「911」と改めることに。こうして「911」という伝説のモデル名が誕生したのでした。初代生産型は、開発コードの「901」からそのまま「901型」と称され、部品番号の冒頭にも「901」が入っています。通称「ナロー」。日本にはミツワ自動車によって、1965年より輸入されていました。「356」のファストバックデザインを継承し、130bhp(馬力)を搭載した空冷式フラット6になります。開発コード「901型」は、上の写真でもわかるようにクロームメッキのスチールホイルが特徴となってます。「901」は名称を変更する前まで、82台がすでに生産されていたという話です。
1965年 「911 Targa」
911 Targa
ポルシェは1965年、革新的な「911」をさらに革新をプラスした「911 Targa(タルガ)」を発表しました。 「タルガ」とは「盾」という意味で、最も歴史の古い公道レース 「Targa Florio(タルガ・フローリオ)」に由来しているそうです。このレースは1906年から1977年にかけて、イタリアシチリア島で行われた 国際的なスポーツカーレース大会として61回開催されました。このレースへの敬意とともに、ポルシェは「911」のセミコンバーチブル仕様に 「タルガ」と名付けたとのことです。ちなみにポルシェは、 このタルガ・フローリオ耐久レースで1966年から1970年まで、大会5連覇を飾っています。保護ロールバーが突き出るようにデザインされ、フロントガラスとの間の屋根パネルが取り外される仕様。それはまさに、空を飛んでいるような体験ができることでしょう。
1966年 「911 S」
911 S
1966年に新しい「911」が発表され、130bhp(馬力)から160bhp(馬力)までパワーアップしました。「S」は、スポーツを意味します。軽合金鍛造ピストンが採用され、バルブ大径化とオーバーラップ引き上げなどの改善が加わり、30bhp(馬力)パワーアップを実現したのでした。トランスミッションは5速のみ高くしたカタチで、「911」用のものを流用しています。しかしながら、「911」のリア・エンジンの特性によって、限界まで走行するのは困難だったとされています。また、新型のヒートエクスチェンジャーを使用することで、暖房の効きが改善されたとの記録もあります。
1973年 「Carrera RS 2.7」
Carrera RS 2.7
ポルシェが「911」モデルを発表してから10年が経過した1973年に、いまでは伝説の名車として君臨する「911 Carrera RS」が発表されたのでした。こちらは「901(911)型」のなかでも、コストと使い勝手の面からエンジンオイルタンクが右後輪後部に戻された「Fシリーズ」を採用したモデルになります。FIAグループ4クラスのためにレースカーのようにデザインされ、フラット6は2.7リッターまで引き上げられました。210bhp(馬力)を繰り出す機械的な燃料の噴射と、有名なダックテール・スポイラーを搭載しています。「Carrera」という名前は、1950年代初期のメキシコのカレラ・パナメリカーナ・レースに由来するもの。日本に正規輸入されたのは、スポーツグレードのみで14台。「73カレラ」と俗称され、名車として現在まで語り継がれています。
1975年 「911(930) Turbo」
911(930) Turbo
1975年に発売された「911 ターボ」は、「930 ターボ」とも称されています。それはモデルの開発コードネームが、それまでの「901型」から「930型」に進化したモデルゆえに…。しかしながらビッグバンパーが特徴の「930型」は、本来ターボモデルを指すものであり、「ビッグバンパー」であってもNA(ノンターボ、自然吸気)モデルは、1977年モデルまで「901(911)型」のままだったとのこと。1978年からは、NAモデルも「930型」となりました。ポルシェがターボチャージャーの「911」を開発し始めたのは、1972年頃。そして1975年に、初の「911 ターボ」を披露したというわけです。そして、このモデルはすぐにヒットモデルとなりました。ターボは3.0リットルのターボチャージエンジンから、260bhp(馬力)を繰り出すパワーへとアップしています。そして人々は、車の幅広い車体後部と大きなリア・ウィングに男心をそそられたわけです。そして、当時のドイツ車の中でも最速のモデルでした。
ここで整理しますと、ポルシェが1963年に「356」シリーズの後継者として発表した開発コード「901型」、のちにすぐ「911」と変更するので「911型」と称する方もいるかと思いますが、ここでは1964年生産開始~1974年のモデルは「901型」と呼んでいます。そのモデルが通称「ナローポルシェ」になります。「ナロー」の起源は諸説ありますが、1968年にホイールベースがそれまでの2,211mmから2,271mmに延長され、よりワイドなタイヤとホイールを収めるためにフェンダーのホイール・アーチが僅かに膨らむことに…。そのため、これ以前のモデルのみを「ナロー」と呼んで区別する人もいます。が、そもそも 「ナロー」 とは、「911」の登場以前からポルシェが販売していた「356」よりも全幅が狭いため、当初の911を「ナローポルシェ」と俗称していた。その名残りだという説もあるようです。参考までに…。そして、この「930型」の俗称は「ビッグバンパー」になります。
1978年 「911 SCS」
911 SCS
「901型」のままだったノンターボであるNA車も、ここで「930型」へ移行して1978年の販売された「911 SCS」。この年の日本では、新潟県警察がこのクルマをパトロールカーとして配備。その後、20年近く活躍したことも有名な話になっています。ポルシェは1976年に開発された2.7リットルのエンジンを改良し、搭載場所を移動し3.0リットルへとアップグレード。そのことにより、安定性とチューニングの幅を高める結果へと結びつきました。 さらにトルクもアップし、運転がより楽しいものになりました。1980年には、すべてのモデル(アメリカ仕様のものを除く)が204bhp(馬力)になっています。
1984年 「911 Carrera 3.2」
911 Carrera 3.2
1984年のフランクフルトモーターショーで、「カレラ」の名称が復活しました。開発コードは「930型」の1984年モデルになります。エンジンは3.0リットルから3.2リットルのエンジンに置き換えられ、よりパワーアップを果たした上に、優れたブレーキ性能を装備しました。 内径φ95 mm×行程74.4 mm、圧縮比10.3、排気量3,164 ccエンジンになります。ここで馬力も1973年の「カレラ RS」を超えたことにより、かつてレーシングモデルにのみ与えられていた「カレラ」の名称を、以降ノンターボモデルの名称として使用するようになりました。
1989年 「911(964) Carrera」
911(964) Carrera
1964年~1974年までは、通称「ナローポルシェ」の開発コード「901(911)」が生産され、続く1974年~1986年までは通称「ビッグバンパー」の「930型」が生産されました。そして3代目となる「964型」の販売が開始されたのが1989年になります。この3代目の「911」には、四輪駆動のカレラ4も登場しています。特長としては、ポルシェ専用ATシステム「ティプトロニック」も964型から採用されています。こうして「964型」から、ポルシェはハイテク技術を搭載した近代的「911」を展開し始めます。写真のこちらは、3.6リットルの「911(964) Carrera」で、フロアヒンジ式のペダルがあり、フラット6の空冷式はうなりをあげるほど素晴らしかったのです。
1992年 「911(964) Turbo S」
911(964) Turbo S
1992年に、ポルシェは最初の「Turbo S」を発表しました。その前に、ポルシェは新しいシャーシを用いて開発した「964型」の「911ターボ」を発表。しかしながら、市場からの反応はあまり良いとはいえませんでした。そこには「ちょっと洗練されすぎている」などという、ポルシェファン特有のものだったそうです。それを受け、ポルシェがさらなる改良モデルの開発が行ったそうです。そして1992年に登場させた、こちらの「964型」の「911 ターボS」がその回答とのこと。このモデルはIMSAでスーパーカーチャンピオンシップを獲得し、それを記念して発表したものになります。エンジンはM30/69SL型へと進化し、出力は381馬力に向上。この数値は、後に登場するターボ3.6よりも高いものになります。
1994年 「911(964) Turbo 3.6」
911(964) Turbo 3.6
1993年にポルシェは360 bhp(馬力)と新しい3.6リッターのターボ付エンジンを生産し、新型の「911(964) ターボ3.6」を発売しました。エンジンはM64/50型と、ついにM64ベースのものに変更されました。燃料供給機構として引き続きKEジェトロニックを組み合わせながら、出力は360馬力に向上させています。発売当初は、「911(964) ターボ」との違いも感じさせていたようですが、今となってはそれほど大きな違いは感じないとのこと。エンジンの出力特性も、現代のターボ車と比較すれば似たようなものとのこと。ただし乗り心地は、明確に硬めのようです。
1995年 「911(993) Carrera」
911(993) Carrera
1993年から生産の始る4代目911である「993型」は、ポルシェ伝統の空冷エンジン最後のモデルとなっています。騒音と排ガス、それに冷却装置としても…多方面から空冷という方式は不利なのですが、ポルシェファンはあくまで空冷にこだわりをもっている人も多い。それゆえこの「993型」は、「911」の最高峰として崇め奉るファンも多く、中古車市場では人気となっているようです。「993型」には新しいフロントエンドとリアエンドが採用され、より滑らかで空力的な外観になっています。 マルチリンクリアシステムの使用により、サスペンションも改善。この「911(933) カレラ」のエンジンは、268bhp(馬力)を繰り出す3.6リットルのフラット6で、6速マニュアルトランスミッションを提供する最初の「911」だったのです。
1995年 「911(993) Turbo」
911(993) Turbo
これはポルシェがツインターボを使う、初めての標準的なモデルになります。パワーは3.6リットルエンジンから400bhp(馬力)へとアップし、多くの人々が伝説の「ポルシェ 959」(1986年に「世界最速のスーパーカー」として登場したポルシェのスーパーカー)と比較しました。この「993型」の「911 ターボ」では、リアフェンダーの張り出し量が大きくなったことから、それまでのターボと比較してターボフェンダーの存在感が見た目の上では多少、低まったように見えることでしょう。全体に、荒々しさはスポイルされた雰囲気に仕上がっています。
1999年 「911(996) GT3」
911(996) GT3
「996型」の「911 GT3」は1999年の発売。ポルシェカップへの参戦を希望するユーザやGTレース向けに1,400台限定生産の予定で発表されました。ですが、予想外に人気となり、1,889台が前期モデルとして生産されました。また、後期モデルはカタログモデル化されたという結果となりました。こちらは「911(996) カレラ4」をベースに製作されており、1998年にル・マン24時間レースで優勝した「911 GT1」のクランクケースを採用したエンジンを搭載しています。この「911(996) GT3」は、3.6リットルの自然吸気のフラット6で、355bhp(馬力)となっています。 このエンジンは「911(996) ターボ」と共有された同じエンジンで、ル・マン24時間レースで優勝した「911 GT1」のエンジンに由来しています。