宣伝では1803年創業の蒸留所について語るのでしょうが、1997年からこれを所有しているバハマ企業については語ろうとしないのです。マスター・ディスティラーについて語っても、彼が蒸留器を持っていないことは語りません。
150年の伝統について語っても、実際に彼らが20年にわたり活用している技術についてはぜんぜん語ろうともしないのです。
ブレンドされた47種のウイスキーについては語っても、安いものがその80%を占めていることなどは教えてくれもしません。石壁に囲まれたなだらかな大麦畑(誰もが使っているのと同じ会社からプレモルトを買っている畑)や被圧地下水(イオン除去とミネラル除去が施されている)、有名人にちなんだ名前(蒸留所が設立される80年前に亡くなっている)については語ってくれますが。
ブランドの問題はさておき、ウイスキーの産地はどこなのか—蒸留と熟成の原理は国境を超えたからといって変わらない—、価格はいくらかも含め、すべてのウイスキーが穀物、蒸留器、樽の三つの基本的要素から成り立っていることが分かることでしょう。
いずれの要素にも選択が必要と言えます。
その選択(法により義務付けられたものもある)が、ボトルに入っている実際のウイスキーを決めます。これらを組み合わせてウイスキーを製造するには、少なくとも異なる八つの方法がありますが、広く採用されているのはモルトウイスキー、グレーンウイスキー、ストレートウイスキー、ブレンデッドウイスキーを製造する四つの手法のみです。この4種のいずれかのみを製造している国はありません。ウイスキーを製造する国のほとんどは、少なくともこのうち3種を製造しているのです。
そこで「Esquire US」のエディターは、4種類のウィスキーについて詳しく紹介しました。あなたの好みの種類は、どちらのウイスキーでしょうか?
モルトウイスキー
- テイスティングノート: ハチミツやアプリコット。ダークチョコレートとスモーク。
- テクスチャー:リッチでクリーミー
- 飲み頃:10年から20年
でも、アイルランドや日本、フランス、インド、アメリカのウイスキーもあるのです。モルトには強いピート香が付いておらず、シェリーカスクが多用されていない場合は、グレンリベット(米39ドル)や日本の山崎12年(米65ドル)のように完全に熟成させたモルトウイスキーには、口に含むとアルコール発酵させた純粋ハチミツのような風味があるのです。
風味は甘く(しかし甘くはない)、柔らかくクリーミー。モルトウイスキーは、実に最もリッチなテクスチャーのウイスキーと言えることでしょう。
シェリーカスクの要素を高めると、蒸留所元詰めのカスクストレングスのスコッチ、「アベラワー・アブナック バッチ47」(米82ドル)のように、火のついていない葉巻のような香りがします。ピート香を高めると、ちょうどその葉巻に火を点したように感じらるのです。
同じくスコットランド製の「ラフロイグ18年」(米85ドル)のようなウイスキーが、これにあたります。まさに圧倒的―スモークの香りとヨードの香りが強く迫ってくる―ですが、その下に大麦の甘さも乗ることで、こもったような香りは相殺されるのでした。
リッチなテクスチャーはスコットランドのような寒冷地で、モルトウイスキーが独特の熟成を果たしたことを示しています。例えば、「グレンロセス1992」(米250ドル)は22年間樽で寝かせられ、今やっと飲み頃になっているわけです。まさに樽由来のダークチョコレートや革のような香りのもとに、はっきりとした大麦の香りが層をなしているのです。
アイリッシュウイスキーの「ナッポーグキャッスル12年」(42ドル)のような軽めのウイスキーは、(ブッシュミルズ蒸留所で)2度ではなく3度の蒸留(モルトウイスキーの世界標準は二回)を経ており、かなり早く飲み頃が訪れますが、飲み頃を過ぎると木の樽の香りが穀物の甘さを打ち消してしまいます。12年経過したころのウィスキーが、素晴らしいものです。
最後に「カバラン コンサートマスター」(米100ドル)、こちらは台湾で蒸留され熟成されています。こうした暑い気候では抽出と酸化が早く進むため、4年ほどで完全に熟成されるのです。
グレーン ウイスキー
- テイスティングノート:煙、ややスパイシー、滑らか
- テクスチャー:軽くクリーン
- 飲み頃:4年から10年
ウイスキーのジャンルにおいてモルトウイスキーの対極にあるのが、このグレーンウイスキーです。多くの場合、コラムスティルの中で生の穀物(決して純粋なモルトは使用しない)から蒸留され、アルコール度数は94度まで高められており、ほぼ例外なく使用済みの樽の中で熟成されています。
こうした軽いウイスキーは、ほぼすべてブレンド用に製造されるのです。これらの特性から、主張の強いモルトウイスキーやストレートウイスキーの大きいながらも静かなパートナーを務めているのです。
しかし、ブレンド用の混ぜ物と評価されているにも関わらず、時に単独で瓶詰されることもあり、飲んでみると驚くほど美味しいと言えることでしょう。「グリーノア」の8年(米50ドル)を見てみましょう。
これはアイルランドのシングル(すなわち、一蒸留所のもの)グレーンウイスキーです。やや鼻をつんと刺しますが、グレーンウイスキーによくあるように甘くクリーンで、のど越しも非常に滑らかなのです。
コンパスボックスの「ヘドニズム」(米115ドル)は、スコティッシュグレーンのブレンドですが、魅力的なハーブの香りが漂い、やや主張が強いものの、グリーノアの心地よいバランスとクリーミーなテクスチャーも備えています。
そしてそれにも関わらず、他のものに比べ、グレーンウイスキーの個性をかなり強く備えています。実際に穀物が軽く腐ったような匂いの元になっているとすると、他の多くのミレットウイスキーとは比較になりません。
あまりに長い歳月の間、オーク樽に寝かされていると、ウイスキーに木の香りがつき、口をすぼめてしまうような渋みすらついてしまいます。
ケンタッキーのような暑い気候では、熟成にたった10年しかかかりません。スコットランドやアイルランドでは、(使用済みの樽に頼っても)熟成するのに、20年以上かかると伝えられています。それ以上経過したウイスキーが、必ずしも劣化しているわけではありません。
スコティッシュモルトの25年ものの「タリスカー」(米575ドル)やアイリッシュブレンドの21年ものの「レッドブレスト」(米250ドル)は、私がこれまでに飲んだなかで最高のウイスキーです。しかし、これは例外といえるでしょう。その他の二つを挙げるならば、8年ものの「ジムビームブラック」(米23ドル)や10年ものの「ブッシュミルズアイリッシュモルト」(米46ドル)があります。
▼「エスクァイア」によるウイスキーの虹 【ウイスキーの色を表す新用語】
ブレンデッド ウイスキー
- テイスティングノート:変化しやすいがバランスが良い。価格の高いものになると、劇的に滑らかさが増す
- テクスチャー:ミディアム
- 飲み頃:6年から18年
ブレンデッドウイスキーは、それほど長い歳月を要しません。アメリカ以外のどのウイスキー生産国でも、ブレンデッドウイスキーは複数のフレーバーの豊かなウイスキーに熟成されたグレーンウイスキーを一定量混合すると得られるものです。
値段が高くなればなるほど、グレーンウイスキーの量は少なくなります(アメリカでは、原則的にストレートウイスキーをウォッカで割ることも認められている。アメリカンブレンデッドはおすすめしません)。
しかし、お手頃なブランドを手に入れたら、話は早いです。風味づけにストレートウイスキーを使用しているカナダは、ブレンド天国です。
それは「クラウンロイヤルXO」(米50ドル)を飲めば、理由が分かります。角がなく丸みを帯びた滑らかな口当たりながら、十分にスパイスが効いているのが面白いのです。
スコットランドやアイルランド、日本では、風味づけにモルトウイスキーを使用しています。例えば、ブッシュ・ミルズ・ブラック・ブッシュ(米39ドル)は、ちびちび飲むにはうってつけなのです。滑らかかつフルーティで、非常に美味しいウイスキーです。
もっと複雑(そして高い)なのは、日本の17年ものの「響」(米150ドル)です。グレーンウイスキーのおかげで、これだけの歳月を経た純粋なモルトウイスキーのもつ重苦しいリッチさがありません。
「ジョニー・ウォーカー ブルーラベル」(米225ドル)も、同様に重苦しさを免れています。いずれにしろ、この重さのせいで嫌いになってしまうかもしれないのですから。ブレンドは、最高の状態でバランスを取る試みなのです。「ジョニー・ウォーカー ブルーラベル」は、まさに最高の状態でブレンドされているのです。
ストレート ウイスキー
- テイスティングノート:ウッディ、スパイシー。スイート、歳月を経ると炙ったココナツの香り
- テクスチャー:若いときは辛味がある。歳月とともに濃厚かつオイリーになる
- 飲み頃:4年から12年
1700年代後半、イギリス政府が蒸留所に対し、麦芽使用量に従って課税するようになると、アイルランドの蒸留所は麦芽をわずか15%しか使用していない麦芽汁からウイスキーを製造できるようになりました。
その残りを生の大麦やライ、オーツ、小麦で補うようになったのです。
生の穀類によって生まれる極端な刺激を抑えるため、彼らは3度目の蒸留を加え、可能な限りポットスティルを大型にして効率を高めました。こうして蒸留器の中でアルコール度数を85度あたりまで高めたスピリットができ上がったのです。これはスコティッシュモルトよりも軽いのですが、豊かなフレーバーに満ちていました。
1950年代になると、彼らはライやオーツ、小麦を使用しなくなりましたが、使用済みの樽の中で熟成させるなどのそれまでの工程を残しました。
「グリーンスポット」(米50ドル)のシングルポットスティルウイスキーは、この伝統の優れた証です。軽いムスクのような心地よい香りが、鼻腔をくすぐるのです。これはモルトウイスキーでは得られない感覚なのです。口に含むと、まずピリッとした辛味があり、シナモンや穀物の良い香りがします。
テクスチャーは強烈なモルトウイスキーと羽のように軽い、グレーンウイスキーの間の程よいテクスチャーなのです。
穀類をミックスしたものから造られた北米のストレート(すなわちブレンドされていない)ウイスキーにも、このテクスチャーがあります。アルコール度数が86度の「オールドフォレスター」(米21ドル)などのスタンダードグレードのバーボンは、このプロセスの好例といえます。嗅いでみると切ったばかりの丸太のような軽いウッディな香りがするのです。
10年ものの「ブレット」(米50ドル)のように、さらに6年ほど樽の中でこのバーボンを寝かせておくと、ペカンパイ(コーンシロップとペカンナッツで作る甘いパイ)のような香りになります。これ以上古いバーボンとなると、木の香りが増して飲みにくくなるのですが、例外もあります。「エライジャ・クレイグ」(200ドル)の23年もののシングルバレルは、ココナッツとディルの強い香りがします。
バーボンが主としてトウモロコシを使用しているのに対し、ライは主としてライ麦を使用しています。ライはバーボンよりもスパイシーかつドライで、フレーバーも濃いです。
若すぎるライは腐ったような匂いがします。4年程度のものなら、軽くパンチの効いたカクテルができ、6年もすると、「ワイルド・ターキー・ラッセル・リザーブライ」(米42ドル)のように、より一層飲みやすくなります。そして、草の香りがしてスパイシーになるのです。
アメリカで瓶詰されたカナディアン・ポットスティルライの「ロックストック&バレル」(米120ドル)のような13年を経たものは、ダークチョコレートのような香りがして、いつまでも舌に残るのです。
◇まとめ
このところ、ウイスキー人気が高まっていますが、20年前には人気もなく、誰も人気が出るなどと考えもしませんでした。
10年前には、人気が高まると予想した人も僅かならがいたのです。 5年前に需要が上向き始めたのですが、現在ほどではありませんでした。残念なことにウイスキーには、森でまどろむリップ・ヴァン・ウィンクルのような歳月が必要なのです。
すなわち需要の高まった今日では、歳月を経たウイスキーほど入手が困難になり値段も高くなっています。そのため、コレクタータイプの人々は狂喜し、さらに価格が上昇することになっているのです。
ですが、原料が割り当てられているわけではありません。こうした珍しいボトルを追い求めない限り、美味しく飲めるウイスキーはまだまだまだ存在するのです。最終的に供給が需要に追いつきますし、その後は必然的に需要を上回ることでしょう。そういう時に、オールドウイスキーを買えばいいのです。
Source / ESQUIRE US
Translation / Spring Hill, MEN'S +
※この翻訳は抄訳です。