参考までに、「9.11」のときの犠牲者数は2753名。新型コロナウイルス感染よる死亡者はこれからも増えていくだろうから、これがテロよりどれだけ大きな犠牲かよくわかる。

 アメリカでは2020年3月13日(金)に「国家非常事態」が宣言され、ニューヨークでは同月12日(木)には500人以上の集会が禁止、カーネギー・ホールやメトロポリタン歌劇場、ブロードウェイが次々とクローズした。そしてレストランやバーが、一斉にクローズ。テイクアウトとデリバリーのみ業態として許されている。ヘアサロンも全面的にクローズした。

 ニューヨーク州のアンドリュー・マーク・クオモ知事は、3月22日(日)20時から不要不急の外出を禁止。「エッセンシャルワーク」と呼ばれる仕事以外は、全企業で社員100パーセントが自宅待機となった。「エッセンシャルワーク」に含まれるのは、食料品店、ドラッグストア、ガソリンスタンド、老人ホームなどの施設、そして運送配達、電気水道交通といった都市のライフラインに係わる仕事だ。

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Eri KUrobe
毎日のブリーフィングをするクオモ知事。看護師、消防隊、警官、交通警官といったエッセンシャルワーカーで、新型コロナの犠牲になって亡くなった人が少なくない。

 「ロックダウン」と言っても、なにも中国・武漢のようにNY州を全面封鎖しているわけではない。不要不急の外出は禁止であるものの、食料品の買い出しに行ったり、薬を買ったり、犬の散歩に行ったり、ウォーキングしたりすることもできる。

 商業地であるミッドタウンやブロードウェイはゴーストタウン化しているが、セントラルパークはジョギングする人の姿もかなり目につく。しかし、がらりと変わったのは、街のようすだ。

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無人となったバスケットボールコート。

 街ゆくアメリカ人がみなマスクをして、ゴム手袋をしている人が少なくない。マスクを使う習慣がないアメリカで、この異様な光景は、建国以来初のことだ。急激に増える新型コロナ患者のために、市内の病院では人工呼吸器も人員も足りず、医師や看護師の負担がたいへんなものとなっている。

 ニューヨークを代表するセントラルパークに野戦病院が設置され、またベルビュー病院には800~900体の遺体を安置するための冷蔵大型トラックも設置された。

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Kazushi DX
セントラルパークに設置された野外病院のテント。

 私(筆者)の周囲でも、新型コロナウイルス感染らしい高熱に寝込んでいる人もいれば、入院している人もいるし、知人の親が亡くなっているケースもあるが、彼らがなにも「三密」に関係していたわけではない。すでに劇場は閉まっていたし、レストランで会食していたわけでもない。それでも感染している。

 実際に「国家非常事態」が宣言されてから、ニューヨークでの「ロックダウン」までにはタイムラグがあった。その1週間の間が、今から思うと感染が爆発するか、しないかのカギではなかったかと思える。

 3月半ばまではやはり人々の意識もまだゆるくて、トイレットペーパーだの食糧だのを買いに走っていた。そのときに「感染症状が出ないキャリア」と接したという可能性が高い。

 では、3週間前に戻れるとして、「あのとき何をやっておくのが大切だったか?」ということをリストアップしてみよう。

感染爆発を防ぐため、
3週間前にしておきたかった
ポイントとは?

①現金をなるべく
使わない環境を整える

 これは3月の早い段階で、デブラジオ市長から「感染を防ぐために、現金はなるべく使わないように」という注意があって、早々に切りかえた。まず現金をある程度の額引き出して、札を塩素系除菌漂白剤で除菌。そしてなるべく現金ではなく、クレジットカードでの支払いに変えて、クレジットカードも家に戻るたびに除菌をしている。

 アメリカではVENMOという個人間送金アプリが広く利用されているので、このサービスを非常に多く使うようになった。

②エレベータのボタン、
ドアノブなど公共のモノには
素手で触らない

 現在では、電車のポール、エレベータのボタン、ドアノブなど、公共のモノに素手で触らなくなった。手袋をするか、除菌ウエットティッシュで拭いたり、それを使って触れたりするか、あるいはハンカチを常備して直接触れないようにする方法でもいいと思う。

 私自身はゴム手袋をするか、布製の手袋をして買い出しをしている。ゴム手袋であれば裏返して捨て、布製の手袋であれば塩素系漂白剤を薄めた水の中に漬けておいて、濯(すす)いでから洗濯している。

 手袋をしているのが異様であれば、前述のようにハンカチやティッシュでもまったくかまわないので、素手では触れなければいいし、あるいはすぐに手を洗うという方法でもいいだろう。

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Eri Kurobe
マウントサイナイ・クイーンズ病院(右手)の前には臨時テントが設置され、患者を乗せた救急車がひっきりなしに到着する。

③他人と一緒に
食事をしない

 会食は早い段階でストップして、私自身は1ヵ月以上、外食をしていない。誰かがしゃべっていて唾液が空中に飛んでいる中で食べ物を食べたら、どうしても感染しやすくなる。

 いまだに会社に行かざるを得ない人は、ひとりきりで食べるのをすすめたい。

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人が消えたマンハッタンの街並み。

④スーパーでは人と距離を保つ
ショッピングカートや
買い物カゴを素手で触らない

 今思えば、これは3週間前に真剣に実施しておくべきことだった。現在では、スーパーでも入り口に係員がいて、店内に入る人数を制限している。外で列をつくって待っている人たちも、距離を取って立っている。だが、3週間前には人々がスーパーに殺到して大量に買い込みをしていた。

 そのときにもっと注意して、距離を置いたり、あるいは商品を除菌していたりすれば、感染爆発しないで済んだかもしれない…。

 スーパーやコンビニのカートやカゴの取っ手には、素手で触れないようにするか、除菌ティッシュで拭って欲しい。

⑤取り分けられる
ビュッフェ形式の食や
個別包装していない
食べ物は避ける

 NYには、ビュッフェ式に料理が取れるデリが多いので、多くの人が利用していたとは思う。しかしながら、剥きだしで置きっぱなしの食品は、やはり感染ルートになり得る。避けたほうが賢明だろう。

⑥子どもの遊技場は
利用しない

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誰もいなくなったプレイグランド。

 NYでは外出禁止になってからも、子どものプレイグランドはとも「生活に不可欠」なものとしてオープンしていた。ところが1週間後に、「感染の場になっている」とデブラジオ市長がクローズした。ブランコや滑り台などの共有は、感染を増やす原因になるのがよくわかる。今ではプレイグランドも、バスケットボールコートも出入りできず、無人になっている。

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プレイグランドの中でも、子どもたちがいない場面などかつて見たこともないブランコも、誰一人いない。

 知人の家庭では幼児のために、「自宅用砂場」を購入したそうだが、それもグッドアイデアだと思う。

⑦共同で使うモノを
素手では触らない
クレジットカードで
サインするときは
必ず自分のペンでする

 会社や銀行、郵便局などの共有のペンは素手では触らないか、触ったら手を洗いたい。会社のデスクやデバイスでも同じことで、いちいち拭いてから使用したほうがよい。

⑧同じエレベータに人がいたら、
なるべく同乗しない

 これは今やNYでは広く行われている。

 3週間前は、いささか失礼な感じがしてそんなことはしなかったものの、今では同乗しないことのほうが多い。なるべく混みあったエレベータは避けたいものだ。

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人がいなくなったロックフェラーセンター前。

 私自身は3週間前はやっていなかったが、夫はせっせと拭きまくっていた。今では私も、買い物をしたら袋を拭いている。アルコールでも、塩素系漂白剤を薄めたものでもいいから、箱や外装のプラスチックは拭く。

 スーパーやコンビニに並ぶ食品も、並ぶまでは衛生管理をされているはずだが、棚に置いたあとは、誰かが「これにしようかな」と手に取り、「やっぱりあちらににしよう」と棚に戻して、違う商品を選ぶこともあり得る。買ってきたものは除菌しておくに越したことはない。

⑩スマホや財布など、
外で使ったものを拭く

 ニューヨーク在住者は今や皆していることだが、外から戻ったらアウターを除菌ワイプで拭き、スマホやサイフも拭く。靴底も拭いている。

 さらに外出から戻ると、シャワーを浴びている。

閉じこもりに
備えておきたい
重要ポイント

 また実際に、閉じこもり生活が始まってみると、意外なことが不便であることも判明した。以下のようなことがポイントになったので、シェアしてみたい。

●ネット環境を整えておく

 ニューヨークではリモートワークが始まってから、ZOOMの利用率が一気にアップした。同時にハッキングが多くなり、学校では「授業にZOOMを使わないように」という注意が勧告されたほどだ。ともあれリモートワークや遊びが増えるので、ネット回線の速さをぜひとも確保しておきたい。

 印刷用の紙、プリンター、さらにセミナーなどを打ちならウエブカム、マイクなどの周辺機器も用意したいものだ。

●食べ物はなくならないが
買い物回数を減らす工夫をする

 危機下のニューヨークですら、スーパーも食料品店も開いているし、食料品もちゃんと供給されている。ただし、買い物するたびにスーパーの入り口で待たされて時間がかかる、買ってきたものを除菌しなくてはならない、といった面倒がある。

 そしてなにより、出かけること自体が感染の危険度を増してしまうのだから、いかに外に出る回数を減らして調達するかがカギとなる。多くの人がフレッシュダイレクトやAmazonフレッシュといった食材宅配サービスを利用しているが、注文が殺到して、予約が入れにくいという状況になってしまっている。

 しかも、肉や魚は冷凍庫で保存が効くが、困るのが新鮮な野菜の調達方法だ。ネギ1本のため、キャベツ1個のために、リスクをおかして買いに出かけたくはないもの。早めに生協の宅配なり、産地直送の野菜配送を頼んでおくのも手だろう。

●ワインはボックスから
なくなっていく

 当然ながら家飲みになるので、酒屋に人々が殺到した。そのときに飛ぶように売れて品薄になったのが、ボックス入りのワインだ。保存が効く上に、場所も取らない。

 こうした人気商品からなくなることも、覚えておこう。

●重要な連絡先を
シェアしておく

 私たちニューヨーク在住者たちの間でも、万が一のことを考えて、必要な連絡先を友達と共有している。ことにひとり暮らしの人は不可欠だ。

1)親や親戚の連絡先

2)仕事関係や、連絡しておかなくてはいけない必要事項

 これらを友達とシェアしている。

 発熱だけでは検査テストを受けられないのが現状であって、かなり症状が悪化したりしてから病院に行き、いろいろそろえる余裕もなく入院することになる。そうなれば、感染を防ぐために誰とも面会できなくなる。

 そのときのために、自分でセーフティネットワークをつくっておくのは大事であり、何人かで情報をシェアしておきたい。

●ペットのことを考えておく

 これは実際に身近で起きたケースだが、ある知人女性が新型コロナウイルスに感染して緊急入院することになったときに、アパートに猫が取り残されてしまうという事件が起きた。

 では、その猫を誰がレスキューするのか? 入院してしまった彼女から、アパートの鍵をどうやって手に入れるのか? 非常に大きな問題となった。きっとアメリカ全土で似たようなケースが多発しているだろう。このケースでは幸いレスキューに行ってくれた人がいたのだが、事態が逼迫(ひっぱく)すれば、友人とはいえペット・レスキューがしにくくなる。

 これは家族で暮らしていても同じことで、家族みんなが入院したら、ペットはどうなるかという問題がある。家やアパートの鍵をどうするか? 合い鍵をつくって友だちに預けておくかなど…。または、自動給餌器や水を用意しておいたほうがいいのか? など、具体的にシミュレーションしておくと良いかもしれない。

 ちなみに私自身が間に合わなくて「しまった」と思ったのは、ヘアサロンで髪を切っておくことだ。これから3カ月くらいはヘアカットもできないだろう。もちろん、ヘアダイも自分でしなくてはいけないから、そのためのヘアダイも用意してある。

 閉じこもり生活は、精神的にもきつくなってくるので、友だちとの絆を保っておくのは、大きな救いになっている。

失業保険申請が全米で1700万人!
それでも絆を見せるニューヨーク

 経済的なダメージも深刻だ。アメリカでの失業者の数はうなぎのぼりで、過去3週間に失業保険の申請をした数は、1700万人におよぶ。リーマンショックとは比べようにならない、桁違いの経済的ダメージだ。

 暗いニュースが続くニューヨークだが、一方、新しい入院患者数がほぼ横ばいになってきていて、感染ピークを迎えつつあるとされる。つまり街をシャットダウンして、3週間くらい経つと、ようやく効果が現れるということらしい。まだまだ死亡者の数は増えつづけるとされ、4月末までは外出禁止が続き、おそらく5月までも延長されそうだ。

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 そんな中、夜7時には医療従事者を始め、この状況下で働きつづけるエッセンシャルワーカーたちの貢献を褒めたたえるために、一斉に拍手をするというムーブメントが起きている。このときだけは、ニューヨークの活気がよみがえる。

 9.11のときは消防隊員がヒーローだったが、今回は医療従事者を始め、エッセンシャルワーカーたちがヒーローだ。

 このトンネルを抜けられる日が来ることを、切に願っている。日本の大都市がNYのようなことにならないよう、ぜひとも用心すぎるほど、用心して欲しい。 


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写真提供:黒部エリ

黒部エリ
Ellie Kurobe-Rozie

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。「Hot-Dog-Express」で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYに移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続けている。著書に『生にゅー! 生で伝えるニューヨーク通信』など。