アメリカのカーメディア「CAR AND DRIVER」は、これまで数多くのアメリカン・マッスルカーのテスト走行を重ねてきました。それはつまり、1960年以降に起きたクルマの劇的な進化の現場に立ち会ってきたことを意味しています。

現在、直進走行時のスピードが上がり続けていることは疑いようのない事実です。さらに、10年前には想像もつかなかったほどにコーナーリング性能を備えるようになったマッスルカーも多く登場しています。

そんなクルマたちを「直進性能だけに特化したポニーカー(編集注:スポーティさやパフォーマンス志向のイメージを備えた、手頃な価格のコンパクトで高度なスタイルのクーペまたはコンバーチブルのアメリカ車の分類のこと)」と評するのは、もはやフェアとは言えないでしょう。さらに現在では、完全に電動化されたマッスルカーまで登場しているのですから…。

「クルマがどれだけの進化を遂げてきたか?」を正確に把握しようと考えるのであれば、例えばフォード「マスタング」をベンチマークに、古くから行われてきた「0-100km/h加速」の結果を比較してみるのは間違った方法ではないはずです。

「Car and Driver」編集部が独自に集積してきた過去数十年分の性能データは、クルマの進化を示すばかりでなく、それぞれの時代におけるパフォーマンスがいかなるのもであったかを知るためのバロメーターにもなり得ます。

そこで今回は、「CAR AND DRIVER」が計測してきた最もホットな(もしくは顕著な)「マスタング」の加速データを振り返ってみたいと思います。


1964/65年
「マスタング・コンバーチブル」― 8.2秒

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Car and Driver

1932年に誕生したV8エンジンの「モデルBロードスター」以来、フォードのお膝元・ミシガン州ディアボーンから誕生した最高傑作と呼んで間違いない1台です。

フォードの示すトータルパフォーマンス性能は注視すべきものですが、「マスタング」が求めやすさに応じた価格の範囲内で設計・製造されている点も頭に入れておくべきでしょう。限られた設定予算での開発のため、可能な限りフォードの他車種との部品の共用が行われています。そのことで「ファルコン」や「フェアレーン」、「ギャラクシー」などから、「マスタング」用のオプションパーツが多数提供されるという利点が生まれたのです。

1967年
「マスタングGT」― 7.3秒

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M. BRADY//Car and Driver

重量感のある390ci(6390cc)エンジンを「マスタング」に搭載すれば、フロントエンドの過重によって、暴れ犬のようなハンドリングになるはずと考える方もいるのではないでしょうか? 「60.3:39.7」という前後の重量配分を目にすれば、こんなクルマがまともに走るわけがないと苦笑いする人もいることでしょう。

実は当時の「CAR AND DRIVER」編集部も、「この『マスタングGT』ってやつは、きっと農場の耕運機のような代物に過ぎないのでは…」と疑っていました。

ですが、実際は違いました。271馬力の「マスタング289」と比べ、181kgもフロント荷重のある「マスタングGT」のテスト走行の結果、バランスの良いハンドリング性能であることが証明されることになったのです。ちなみにサスペンションは、「ファルコン」に用いられていたものが流用されています。

1968年
「マスタング・クーペ」― 5.4秒

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Car and Driver

当時、フォードが総力を挙げて取り組んだのが、エンジンの開発でした。クロームメッキのエアクリーナーやバルブカバーなどは二の次です。テストに用いられたのは、青いボディの無骨な1台。フロントヘッダーも、ぼんやりとしたブルーに塗装されているだけでした。高さのあるアルミニウム製のインテークマニホールド(エンジンに空気を送り込むパイプおよび補機類の総称)を2機、そしてエアクリーナーには、当時懐かしい紙製フィルターが用いられていました。

1969
「マスタング・マッハ1」― 5.7秒

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BOB BENYAS//Car and Driver

「デザイナーの仕事の良さが光るモデル」と言えるかもしれません…。つまり、この「マスタング・マッハ1」に奇跡を期待して実際に走らせてみれば、奇跡などやはり起きないのだと気づかされることになりました。各パーツには不満などありませんが、全体としては不満が残る仕上がりでした。

1971年
「マスタング・ボス351」― 5.8秒

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HUMPHREY SUTTON//Car and Driver

レースに参入するか否か、フォードが大きな決断を迫られていた時代です。結局は、「レースはしない」というのがフォードの下した結論でした。世間のエコロジー熱の高まりや、自動車の危険性を問題視する世論の高まりは、自動車業界にとって大きなプレッシャーとなっていたのです。そのような世相にあって、「莫大な予算をサーキットに投下することを正当化するのは不可能である」とフォードは考えたのです。

つまりこの「マスタング・ボス351」は、手足をもがれた状態となってしまったのです。もともと、このモデルはスポーツカー・クラブ・オブ・アメリカ(SCCA:アメリカの自動車レース統括組織)の基準を満たし、ライバルである「ポンティアック・トランザム」に対抗するレーシングカーを目指して開発されていました。レースに参入しないというのであれば、その存在意義をどこに求めれば良いのか? 迷走することになってしまったのです。

1974年
「マスタングII マッハ1」― 12.2秒

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GENE BUTERA//Car and Driver

フォード「ピント」との共有パーツが多く用いられることになった「マスタングII」ですが、「ファルコン」をベースとしたエコノミーセダンというコンセプトで開発された初代「マスタング」とは異なります。

スーパークーペとして市場に投下する目的でつくられ、フィーリングという点では成功したと言えるのかもしれません。少なくとも、当時のアメリカ製エコノミーカーに見られた徹底したコスト削減の悲しい影響を感じさせない、格調ある1台に仕上がっているのは確かです。

1976
マスタングII コブラII」― 12.2秒

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AL SATTERWHITE //Car and Driver

伝説のレーサーであり、スポーツカーマニュファクチャラーとして活躍したキャロル・シェルビー氏。その影響を色濃く残すボディペイント、スクープ、スポイラー、白抜き文字の光るタイヤ、V8エンジン、4人乗り…。素晴らしい第一印象を与えるモデルであることに否定の余地などありません。

とは言え、その実態はパフォーマンスカー風に飾られたフォード「GTマークIV」の小型版とでも呼ぶべきもので、実力不足は否めませんでした。エンジンの出力はわずか134馬力と低く、なぜこれほどのお粗末な事態が発生したのか? 理解に苦しむほどです。

1980
「マ
スタング・コブラ」― 10.8秒

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AL SATTERWHITE //Car and Driver

当時、大型エンジン(ビッグモーター)の時代は終焉(しゅうえん)を迎えていました。とは言え、1979年に登場した302立方インチのV8エンジンがたったの2バレル(約316L)の、いわばストロー並みの吸気だったことを思えば、この「大型(ビッグ)」という概念を真面目に捉えるべきか、そこは議論をする必要があるかもしれません。

それはさておき、この1980年の命題はシリンダーボアを小型化することで排気量を削減し、貴重なガソリンを一滴たりとも無駄にしないようなクルマの開発でした。新型の255立方インチのV8エンジンによって、フロントエンドの11.3kgの軽量化を果たしています。その代償として302立方インチV8の140馬力と比較して、約10馬力の出力低下も生じています。それでもフォードは、この仕様変更により1.2mpg(マイル・パー・ガロン)の燃費の向上を実現したと胸を張りました。

1982
「マスタングGT」― 8.1秒

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AARON KILEY//Car and Driver

「マスタング」のアクセルを踏めば、そこには何か素晴らしいことが起こるものです。ボンネットの内側から響き渡る威厳に満ちた唸(うな)り声、後輪のゴムタイヤの悲鳴が聞こえてきます。フォード社の内部情報によれば、この「マスタングGT」の高速性を維持するために、惜しみない努力が行われていたことがわかっています。

1983年
「マスタングGT」― 7.0秒

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GREG PAJO//Car and Driver


第三世代の「マスタングGT」こそ、アメリカの自動車産業がその暗黒時代から抜け出そうとする、長い道のりの先陣を切ったクルマでした。過去10年間に起きた2度の石油危機と排ガス規制の強化により、この時代の技術的リソースはより小型で、より効率的なクルマの開発に向けられていたのです。

しかし1983年になると、「カマロ」と「マスタング」の性能競争が再開されました。フォードは83年式の「GT」のサスペンションを強化して、ハンドリング性能を向上させることに成功します。ミシュラン製のTRXラバーの幅を広げることで、グリップ力も高まりました。

1996
マスタングGT」― 6.6秒

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AARON KILEY//Car and Driver

デザインを含む「マスタング」の仕様変更から1年が経過し、走行実績が可視化され、いくつかの重要な改良を進める準備が整ったのが1996年でした。

300馬力を超える「マスタング・コブラ」は大喝采で迎え入れらる一方で、この96年式「マスタングGT」からは伝統のオーバーヘッドバルブ4.9リッターV8が姿を消すことになりました。このエンジンは、「マスタング」の誕生以来、カタチを変えながらずっと搭載されてきた代物でした。喪失感に包まれる「マスタング」ファンも、そう少なくはありませんでした。

1999
「マスタングSVTコブラ」― 5.5秒

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DAVID DEWHURST//Car and Driver

ファクトリー製の「マスタング」を2万8000ドル(現在のレートで約320万円)という価格で買える日がやって来るなど、誰が想像したでしょうか? さらに、独立式のリアサスペンションが「マスタング」に搭載されることになると予想できた人など、果たしていたのでしょうか? 

1999年式「マスタングSVTコブラ」は、これら2つの驚異を現実のものとして示しました。バージョンアップされた4カム・アルミブロックの4.6リッターV型8気筒エンジンは320馬力を誇り、その存在を自ら肯定して見せました。

Source / CAR & DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。