前編[完全なる生まれ変わりを遂げた新型「ディフェンダー」―実用性から誕生したクルマの進化を追って―]から続きます。


前編では、「ランドローバー」の歴史やリニューアルされた新型「ディフェンダー」について見てきました。後編の今回は実際に「ディフェンダー」に乗り込み、アメリカ北東部メイン州の深い森に覆われたトレイルに挑んた感想をシェアしようと思います。

不動産業を営むブルース・ファウラー氏(自身も「ランドローバー」のオーナーです)が、私たちのような4WD愛好家のために保存してくれている邪悪な山道コースの走破を目指しますが、今回の旅は「ディフェンダー」にとって過酷を極めるものとなることは目に見えています。

ファウラー氏が所有するのは、9000エーカー(約36.4平方キロメートル)ほどの広大な用地。1934年の水害で橋が流され、陸の孤島と化した後、それまで200年以上にわたり土地を耕し続けてきた農民たちはこの地を去ってしまった土地です。整備されていない未舗装の道路が伸び、その先には段々畑を思わせる6段階の標高差にまたがる18マイル(約30キロ)の険しい山道が続いています。

私は、ファウラー氏がもし新型「ディフェンダー」の革新性をあざ笑うような伝統主義者だったらどうしよう…と、少しの不安と共にクルマに乗り込みました。

運転席に身を沈め、改めて感じる進化

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DW BURNETT
以前は、実用主義的な印象の強かったインテリアですが、新型「ディフェンダー」では無骨でありながらも豊かなデザインのインフォテイメントスクリーンを搭載しています。

鈍い輝きを放つ、シルバーとブラックの「ディフェンダー110SE」。そのLEDのヘッドライトは、まるで瞼(まぶた)につけまつ毛でもしているかのような顔つきです。700ワットのMERIDIAN™サラウンドサウンドシステムからは、イギリスのR&Bグループ、Sault(ソー)の深いビートが車内に響き渡っています。長らくジャガー・ランドローバーの泣き所だったインフォテインメントシステムも、今回新たに採用されたインフォテインメントシステム、Pivi Proの10インチタッチスクリーンによって新鮮な魅力を放っています。

むき出しの六角ボルト、ルーフの天窓、さっぱりとしたダッシュボード、個性的なパウダーコーティングが施されたマグネシウム製のドアハンドル…。機能的なインテリアにはインダストリアルテイストの味つけが光ります。テキスタイルのインサート(ひょっとしたら、汚れやすいかもしれません)があしらわれた革張りのシートは、ランドローバー伝統のキャンバストップのシートからインスピレーションを得たものでしょう。

「レンジローバー」とは異なりますが、ウィンザーレザーや目弾き仕上げの木製パーツも用いられ、非常に洒落た雰囲気です。私が乗り込んだ「ディフェンダー110SE」は、折りたたみ式の中央の補助シートは装備してはいません。私は育児中のサッカーパパなので、そのアイデンティティをこの森の中でも守るべく、三列目のシートは格納したままにしています(ウチの息子がこのクールなパドルランプに気づいたら、きっと大騒ぎすることでしょう)。

そうそう、当初の私の心配は杞憂に終わったこともお伝えしておきましょう。ファウラー氏もまた、この新型「ディフェンダー」をかなり気に入ってくれたようでした。

いざ厳かな森の中へ

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さて、いよいよ出発のときを迎えます。

ファウラー氏が乗り込んだ1956年式「ランドローバー シリーズI」が、先陣を切って進んでいきます。88インチのホイールベースに細めのタイヤを履き、フロントガラスは骨董の手鏡のようにひび割れ、運転席はまるで年季の入った桶と言ったところでしょうか。それでもしっかりと、よく走っています。

「こいつは林業の作業用車として手に入れた1台なんだが、一生この荒地で過ごすことになっちまったんだ。結局、このクルマで舗装した道路なんて一度も走ったことがなかったな」と、ファウラー氏は目を細めます

65年前に購入してからずっと、ファウラー氏はこのメイン州の深い森の中をまるでおとぎ話に登場する狩人のように走り回ってきたのです。その走行距離はなんと、70万マイル(約112万6540キロ)に達します。

デジタル技術で強化されたワイドボディの「ディフェンダー」は、ローレンジの設定では深い轍(わだち)など物ともしないストイックな走りで、沼地も臆せず水を跳ね上げて果敢に進んでいきます。エクステリアのミラーにはカメラが装備され、前輪が障害物に接近すると、その対象を車内のスクリーンに映し出してくれます。

しばしの間、オールテレイン・プログレスコントロール(編集注:過酷な走行状況でも設定した速度を維持してくれるランドローバーのテクノロジーのこと。ブレーキやアクセル操作の負担から軽減されることで、ドライバーは障害物の回避などステアリング操作に集中できる。時速1.8キロから30キロの低速時に作動)を作動させ、時速10キロ未満に設定した上でテスラの半自動操縦のように、クルマの意思の赴くままにトレイルを進ませてみることにしました。

「ディフェンダー」はまるで、ウッドストック'94で圧巻のパフォーマンスを見せたオルタナティブバンド、ナイン・インチ・ネイルズのフロントマン、トレント・レズナーのようにすでに泥まみれです。そんなことを思いながら、私はスクリーミング・イーグルというトレイルを通過。さらに、その先へと突き進んでいきます。

続出するアクシデント

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逆バンクのセクションが目の前に迫ってきます。傍目(はため)には、難なく越えられそうに見える斜面ですが、見るのと実際にやるのとでは大違いです。巨大なパフェの中を走らされているのかと思うほど、まるでソフトクリームのような柔らかな泥の所々に凍土の筋ができており、さらにその上をシャリシャリしたフレーク状の氷が覆っているのです。

フローズンスイーツさながらの斜面では、さすがの「ディフェンダー」もトラクションのコントロールを維持することが困難でした…。路面との相性が良くない20インチのグッドイヤー・ラングラータイヤを履いてきたことで、その過酷さが増しているのかもしれない…と気づいたときにはもはや手遅れでした。

私が運転する「ディフェンダー」はコースを外れて横滑りし、木にぶつかって停止。辛くも横転せずにすみました。どうにかコースに戻ろうと頑張りますが、無茶をした結果、ドアハンドルを壊しただけでした。ああ…、クルマを降りて状況を確認しなくては。

牽引フックは「ディフェンダー」の端正なパネルの背後に、目立たぬように隠されていたのだと、後になってからわかりました。4本のパンヘッドネジを外し、グリル下側のパネルを開くと、上部のパネルを取り外すこができます。

私たちは仕方なくリアのヒッチレシーバーにロープを結びつけ、手頃な木を見つけて応急のスナッチブロック代わりに使うことにしました。ファウラー氏はまるでボーイスカウトのように手際よくチェーンソーを操り、周囲の邪魔な枝などをカットし、車体へのダメージを最小限に抑えます。そして同行したカメラマンの乗るシボレー「コロラドZR2」に「ディフェンダー」を連結して、事なきを得ました。針のように細いトレイルの道では、これが唯一望み得る脱出方法と言えるはずです。

再び前に進み始めた私たちですが、すぐにまた足止めをくらうことになりました。今度は過酷な任務に耐え抜いてきたファウラー氏の「ランドローバー シリーズI」が、立ち往生してしまったのです。さらにその後、私を助けてくれたシボレー「コロラドZR2」も切り株に乗り上げてしまいました。

結局、新型「ディフェンダー」はこの不毛な冬の山道を自力で走り抜け、大きな被害はドアハンドルのみで済んだのです。スパイクタイヤもチェーンも履かないラグジュアリーなSUVで、これをやり遂げることができたことは、偉業と呼ばずに何と呼べば良いのでしょうか?

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この日挑んだ魔のコースでは、かなりの改造を加えられた4WDを駆る経験豊富なベテランドライバーでさえ必ず何らかの罠に落ち、クルマを壊したり、何マイルもの道のりを引きずり出してもらわねばならなくなるそうです。つまり、私が何が言いたいのかと言うと、この新型「ディフェンダー」のお陰で、ぬるま湯育ちの私のようなドライバーでさえ過酷な地形への挑戦を果たせた…ということです。

その夜には、「ディフェンダー」のルーフトップテントで凍える夜が待っていましたが、キャンプファイヤーとロワールの巨匠ベルナール・ボードリー氏による美味しいワインに救われました。夜明けを待ち、急ぎでメイン州最大の都市ポートランドへと引き返したのです。「ディフェンダー」も、文明社会への復帰を待ち詫びていたのでしょうか? 早朝から爆音を轟かせて道を流していくヤンチャなSUVのドライバーたちを、次々と追い抜いて行きます。

気になった点も…

気になる点がなかったわけではありません。

これはあくまで個人の意見として聞いてください。ジャガー「Fタイプ」でも問題視された電子コンソールシフターですが、これはスタイルとしても「ディフェンダー」に釣り合っていないように感じました。

燃費もまた問題でしょう。

まるで、ただ酒でも煽(あお)る腐れ縁の友人のようにガソリンを飲み干してしまいます。ちなみにハイウェイ走行時では平均時速115キロ、燃費は13mpg(マイル・パー・ガロン/1リッター当たり約5.5キロ)でした。

そして2021年の夏には、より低燃費のモデルも登場しています。2022年モデルの「ディフェンダーV8」はランドローバー社製の5.0リッター・スーパーチャージャーを搭載し、最高出力は518馬力、0~100キロ加速は5秒を切る怪物です(編集注:V8エンジンモデルは日本未発売となります)。

アメリカ国内では、2ドアモデルで9万8550ドル(約1124万円)というプライスタグが付けられています。これはメルセデス・ベンツ「G550」を下回る額ですが、パワーを見れば102馬力も上回っています。10万ドル(約1150万円)を費やさなくてもV8モデルが手に入るというのは、長年の「ディフェンダー」ファンにとっては朗報ではないでしょうか。

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正直なところ、4000ドル(約46万円)もするルーフトップテントを一体誰が必要とするのか? それは私の理解の及ぶところではありません。高い所が大好きな子どもたちなら、間違いなく目の色を変えることは確かです。「テントを組み立てるのが面倒だ」という人々にも、好まれるかもしれません(編集注:ルーフトップテントの日本展開はありません)。

イタリアのオートホーム社によって開発された「ランドローバー・コロンブス・ルーフトップテント」には、ガススプリング(編集注:圧縮ガスの反力を利用したスプリング)が用いられており、そのテントは瞬時に完成します。私自身、メイン州ではこのテントの世話になりました。

三角形のテントはオプション装備のルーフラックに固定され、空気マットレス、枕、LEDの読書灯が付属されています。唯一の面倒だったことと言えば、ローバーの側面に取りつけた折り畳み式のはしごを、夜中にもよおした際に上り下りしたことくらいでしょうか。とは言え子どもたちにとっては、それもまた楽しみとなるでしょう。

さてそろそろ、この2日間の特別な小さな冒険の感想をまとめることにしましょう。

新型「ディフェンダー」は、言うなればその名を冠したパラダイムシフト(規範からの劇的変化)の到来です。70年という歴史の中で繰り返されてきたアップデートというものは、そのたびごとに「ディフェンダー」の次元を超えた再定義がなされてきたと言っても良いかもしれません。展示場ばかりでなく本来あるべきオフロード上において、ますます多くの新型「ディフェンダー」の姿が見られるようになることを心から期待して止みません。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。