メルセデスが開発した新型自動運転システム「DRIVE PILOT(ドライブパイロット)」。この機能を搭載した「Sクラス」や「EQS」であるなら、時速40マイル(約64キロ)以下で特定の高速道路を走行する際、アクセルやステアリング、ブレーキを自動制御に切り替えることが可能となっています。

これに対して、すでに市販されている渋滞回避を目的としたシステムと「何が違うのか?」と思う人は少なくないかもしれません。ですが、他のシステムとは一線を画す重大な違いがあることを見逃してはなりません。

ドライバーの法的責任が免除!?

このドライブパイロットが作動している間の走行時、例えそこで事故が生じたとしても、搭乗しているドライバーに法的責任は一切ないことになったのです。よって、よそ見をするのも映画を楽しむのも、ただぼんやりと過ごすのも自由というわけです。では、その責任はどこに? それはこのクルマを製造したメルセデス側にあり、ドライバーの過失が問われることにはならないのです。

つまり、メルセデスの半自動運転システムは現時点では、テスラの「オートパイロット」やゼネラルモーターズの「スーパークルーズ」をはるかに凌ぐ価値を有している…と結論づけることもできます。ドイツ国内ではすでに、全ての高速道路でのドライブパイロットの使用が承認されており、メルセデスはさらに2022年内にアメリカ国内で展開することも視野に入れています。

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「少なくとも2021年末の時点で、レベル3(条件付運転自動化:下記参照を)のシステムとして国際承認を取得した唯一の自動車メーカーがメルセデスです」と、この「ドライブパイロット」開発責任者であるグレゴール・クーゲルマン氏は胸を張ります。そして、「まずは年内に、カリフォルニア州およびネバダ州で承認を得ることを目指していて、他州についても調整を進めています」と続けます。


自動運転のレベル分けについて

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「自動運転のレベル」について(2020年12月公表国土交通省資料もとに作成)

  • レベル0:運転者が全ての運転操作を実行。運転操作の主体は運転者。
  • レベル1~2: システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方を条件下で部分的に実行。運転操作の主体は運転者。
  • レベル3:システムが全ての運転操作を一定の条件下で実行。作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に運転者が適切に対応。運転操作の主体はシステム(作動継続が困難な場合は運転者)。
  • レベル4:システムが全ての運転操作及び作動継続が困難な場合への対応を一定の条件下で実行。運転操作の主体はシステム。
  • レベル5:システムが全ての運転操作及び作動継続が困難な場合への対応を条件なしで実行。運転操作の主体はシステム。

自動運転に関わる連邦政府による規制がほとんど行なわれていないアメリカでは、各州が独自に自動運転車に関する法規制を制定し、半自動運転車の公道における走行についての認可を企業ごとに付与しています。しかし実際のところ、大半の州においてはいまだ自動運転車をめぐる規制や枠組みは確定していません。さまざまな困難が待ち構えている状況ですが、この新技術を普及させるためには行政との連携を強め、多くの手続きを踏まなければならないことをメルセデスもよく理解しています。

「アメリカでは、カリフォルニア州やネバダ州が先陣を切って自動運転に関する規制を取り入れています。『他の州も、それに続くことになるだろう』というのが私たちの認識です」と、メルセデスで自動運転部門の舵を取るジョージ・マッシング副社長は見通しを語ります。さらに、「地域によって、固有の規制がいくつか設けられる可能性はあります。州ごとに話を進めていかなければならないのがアメリカなのです」と言います。

頭一つ抜け出した感のあるメルセデス

自動運転システムのレベル化については、厳しすぎると見る声もあります。が、ドライバーを免責するにあたっては、すでに出回っているレベル2のシステムからの大規模な技術革新が必要です(テスラのオートパイロットやGMのスーパークルーズなど、アメリカ国内で普及が進みつつある半自動運転システムは、いまだレベル2に分類されます。ドライバーは常にシステムの監視を怠らず、その解除の際は即座にさまざまな対応を求められます)。

メルセデスのドライブパイロットは高い冗長性を備え、システム専用電源も装備しています。高度な画像解析能力と高性能のLiDARスキャナを武器に、GPSやガリレオ、グロナスなどの衛星測位システムからのデータを照合しながら自動運転を行います。

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ドライブパイロットの準備が完了すると、ボタンが点灯。そのボタンを押すと、ドライブパイロットがアクティブであることを示す緑色のインジケーターが点灯します。

また、ドライブパイロットは他の運転補助システムとは異なり、機能停止前の10秒間をドライバーの切り替えのためのインターバル所要時間とすることで、あらゆるシチュエーションにおける誤操作の可能性を排除するように設計されています。

これはつまり、一般的なレベル2段階のソフトでは対処できない状況を、メルセデスがすでに乗り越えたことを示していると言えます。例えば現在の半自動運転システムは、緊急車両の接近を感知することができません。ドライバーがサイレンの音や警告灯の光を察知すれば、進路変更などは人間の責任において行われなければならないのが現状です。

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ですが、搭載車両の運行に法的な責任を負うドライブパイロットの場合には、ソフトウェアによる対応がなされます。救急車や消防車、警察車両などの進路の確保には複雑な操作が求められますが、マイクやカメラで非常灯やサイレンを感知すれば即座にドライバーに対し10秒間の警告を発し、その間に手動の運転に切り替える仕組みとなっているのです。

この10秒間のインターバルがあることによって、ドライブパイロットによる自動運転状態の間にドライバーは完全に他の作業に集中することが可能となっていると言えるでしょう。メルセデス側は、「当社のシステムであれば、攻撃的に割り込んでくる他のクルマや不測の事態による急停止、路上に転がる廃棄物などにも対応する能力もある」と自負しています。

ドイツ国内ではすでに、半自動運転車としては初となる自律走行中の携帯電話の使用が、ドライブパイロットにおいては法的に認められているのです。「アメリカの各州が居眠り運転や脇見運転などに関する法規制を、自動運転車の利用に適した内容に改定する未来もそう遠くない間に訪れる」というのが、メルセデスの予想です。

適用条件には注意も必要

当然のことですが「運転責任を負う」というのは、(多少デフォルメされた)宣伝文句の一つと捉えておくべきでしょう。その条件を満たすには、かなり厳密な状況が求められています。

現時点においては、時速40マイル以下(ドイツ国内では時速60キロ以下)の走行、信号のある交差点やロータリーなど交通規制のある場所は適用外、工事現場も除外されていますので…。ドライブパイロットを作動させることができるのは、交通制限のある自動車専用道路のみとなっているというわけです。

メルセデスはすでに、ドイツ国内の全高速道路、さらにはカリフォルニア州とネバダ州の高速道路のほぼ全域のマッピングを完成させています。つまり要は、そのマッピング済みの道路でなければドライブパイロットが作動することはありません。

さらにこのシステムが有効化されるためには、「ある程度の晴天の日中」といった気候条件、そして「頭上に障害物がない場合」に限られています。つまり悪天候、工事現場付近、トンネルといった場所や緊急車両が接近した場合などには、常にドライバーへの運転の切り替えの警告が発せられる仕様となっているのです。また、自動運転中の睡眠も認められていません。

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4月上旬にメルセデスはロサンゼルスにジャーナリストを招き、ドライブパイロットのデモンストレーションを行いました。そこでは訓練を重ね、ドライブパイロットを熟知したドライバーによる走行に同乗するカタチの試乗会でした。筆者(マック・ホーガン氏)も「Sクラス」の試乗体験に参加しましたが、驚くほど自然な乗り心地でした。

搭載されているコンピューターの視覚を示すディスプレイ(視界に入る全ての車両をラベルによって分類し、その推定重量を表示する)があることを除けば、運転手付きのセダンに乗っているのと全く同じ感覚と言っていいでしょう。

前方に割り込んでくるクルマへの反応も、実にスムーズ。ドライバーの介入を求められるレベル2の半自動運転システムを搭載したどんなクルマよりも、明らかに優秀な走りだと感じました。唯一問題となったのは、道路標識による点滅を感知したシステムがそれを緊急車両の非常灯と誤認し、10秒間の警告が発せられた場面だけでした…。

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ドライブパイロットの試作車には、1秒間に30GB以上のデータを記録し、後ほど解析するための開発機器が搭載されています。

テスラのオートパイロットについては、走行に障害のある状況で突然何の警告もないまま作動をストップしてしまう(しかも、ドライバーが状況を認識しているか否かなどお構いなしに…)点に不満の声が聞こえてくることもあります。

そのような状況を考えれば、このドライブパイロットこそは未来ある自動運転車業界にとって革新的な大きな一歩…とも言えそうです。

このように「ドライブパイロット」は市販される半自動運転システムの中で初めて、テスト版の段階で不安を引き起こすことのないレベルにまで仕上がっているのです。さらに、常時人間による監視を必要としない完成度にまで達しています。それはまるで、「自信にあふれた優秀な運転ロボット」と表現してもいいかもしれません。

そうです、このようなシステムが正式に合法化される…そんな日が近づいていることは確かなのです。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。