2023年1月最後の土曜日。デイトナ24時間レース2023のスタートラインで振られたグリーンフラッグを合図に飛び出した61台のレーシングカーの中には、5台のランボルギーニ「ウラカンGT3 Evo2」の姿がありました。ステアリングを握るランボルギーニのファクトリードライバーをコースサイドからサポートするのは、同社のモータースポーツ部門「スクアドラ・コルセ」です。

ランボルギーニの歴史において、レースは常に最大の関心事というわけではありませんでした。フェルッチオ・ランボルギーニ氏が自らの名を冠したブランドを創立した1963年、彼が心血を注ぎ込んだのはロードカーの世界でした。同時代のフェラーリを「粗削りなレーシングカーに過ぎない」と見なしていたランボルギーニが誓ったのは、最高のロードスポーツカーを生み出すこと――ただその一点だけだったのです。

エンツォ・フェラーリ氏がモータースポーツに特化したロードカーを開発しようとしたのに対して、ランボルギーニはサーキットの外こそが主戦場であると頑なに信じ、オンロードでの走行性能を、そしてインテリアのクオリティをひたすら追求しました。

しかし、ランボルギーニが常にレースと無縁だったかと言えば、そんな話でもありません。1990年代初頭には、F1のエンジンサプライヤーに名乗りを上げたこともありました。その試みは失敗に終わりましたが、その後「ディアブロ」と「ムルシエラゴ」をGTレースに送り込んだこともあったのです。

image
CALEB MILLER//Car and Driver

しかし2009年、ランボルギーニが主催するワンメイクレース(※編集注:全参加者が同一仕様のエンジンを使用したり、同一仕様のレーシングマシンに搭乗したりして行われるレースのこと)である「スーパートロフェオ・シリーズ」を立ち上げて以来、ランボルギーニもついにレースの虜となったようです。

2024年にはデイトナとル・マンの完全制覇を目指し、LMDh(編集注:ル・マン・デイトナ・h:IMSA ウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPクラスで、2023年から使用されるスポーツプロトタイプカー規定のこと)のプロトタイプで耐久レース界のトップに名乗りを上げようとしているのです。

そのようなわけで今年、2023年のデイトナ24時間レースで行なわれたメディア向けラウンドテーブルの席にて、CEOのステファン・ヴィンケルマン氏と最高技術責任者(チーフテクニカルオフィサー)であるルーベン・モール氏に対してランボルギーニが懸けるモータースポーツへの情熱と、レースを通じて同ブランドにもたらされるであろう恩恵について質問を投じました。

「アヴェンタドール」の後継にPHEVという噂は…?

image
Lamborghini
2024年のLMDhに向けたマシンのティザー。さらなる詳細が明らかになるのが待ち遠しいばかりです。

プロトタイプカーによる耐久レースへの参戦について、ヴィンケルマン氏は「新たな時代が到来したということです」と話します。「私たちにとってLDMhは、技術をテストする最高の機会となるばかりではありません。ハイブリッドカーのレースであることが、わが社の戦略にも見事に合致するのです」

2024年にランボルギーニは、同社初となるプラグインハイブリッドをあの「アヴェンタドール」の後継車として投入する予定であることが伝えられています。V型12気筒エンジンを搭載した新型スーパーカーとなることが周知されていますが、モール氏によれば「昨今の小型化のトレンドに与(くみ)するつもりはない」とのこと。

さらに「ウラカン」を引き継ぐプラグインハイブリッドに加え、EV仕様の「ウルス」も遠からず投入されるとも噂されています。その一方で、2024年シーズンのFIA世界耐久選手権(WEC)とIMSAスポーツカー選手権に参戦するLMDhのレーシングカーについては、ツインターボV8エンジンに電動パワートレインを組み合わせたものとなる予定であることが判明しています。

LMDhのセッティングは、レース仕様の特別設計となります。ハイブリッドのレーシングカーによって蓄積された知見は、いずれランボルギーニのロードカーに還元されることになるでしょう。

「もちろん、そうなるかもしれませんが、今起きていることはむしろその逆です」と、モール氏は言います。「私たちはすでに、ロードカーのエネルギーマネジメントについて多くのことを学んできました。つまり流れは逆で、LDMhにそのロードカーの知見が活かされることになるのです」

技術がどちらの方向へ活用されるかは別として、同社のLMDhへの参戦と電動化推進の動きは連携しており、これは偶然のタイミングなどではありません。ランボルギーニがブランドとしてハイブリッドへの移行に乗り出している、その姿勢の表れであると言えるでしょう。

レースは最新技術の開発のみならず、公道走行可能なスーパーカーのためのサスペンションやステアリングのチューニングの向上のために欠かすことのできない機会となっています。「もしハンドリングや車の挙動を向上させたいのであれば、モータースポーツの現場ほどそれを試すのに適した場所はありません」と、モール氏は言います。

同社のモータースポーツ部門であるスクアドラ・コルセと、ランボルギーニの研究開発部門は密接に連携しており、「その両部門を行き来するスタッフも少なくない…」とモール氏は続けます。例えば「ウラカンSTO」はレース用につくられた「ウラカンGT3」を公道用にアレンジしたものであることは広く知られています。特徴あるカーボンファイバー製のボディワークに付随するウイングやディフューザーフィンなどは、そのまま踏襲されているのです。この先に登場するハイブリッドカーも、やはりレース仕様車から多くの要素を引き継ぐことが予想されていますが、ヴィンケルマン氏はまだそれらについて口を開こうとはしません。

ブランドの構築

 
Caleb Miller//Car and Driver

レースによって高められるのは、ランボルギーニのラインナップの性能だけではありません。デイトナのコースを疾走するレーシングカーのボディに貼られた何百ものロゴマークが示す通り、モータースポーツにおいてはその競技性と等しく、マーケティングにも重点が置かれているのです。ランボルギーニについて言えば、過去10年に及ぶモータースポーツへの取り組みを通じて、ブランドイメージの転換も進められてきたと言えるでしょう。

「私たちが『スーパートロフェオ』で正式にモータースポーツの世界に参入を果たしたのは、そうすることで顧客とのつながりが構築されると考えたからです」と、ヴィンケルマン氏は述べています。「スーパートロフェオ」もまた「フェラーリ・チャレンジ」と同様に、いわゆる「ジェントルマンドライバー」…すなわち資金的余裕があり、自らレースを走りたいという超富裕層(アマチュア)のために設けられたシリーズです。

レースに参戦することで、ランボルギーニのオーナーたちは自らの「ウラカン」や、以前であれば「ガヤルド」といったスーパーカーの限界を引き出し、極限のパフォーマンスを体験することができるのです。このようなシリーズが、ブランド顧客のトレーニングの場としての役割を果たしていることは間違いありません。

「つまり、ドライバーの運転技術の向上に役立つ機会でもあるのです」と、ヴィンケルマン氏は言います。「スーパートロフェオ」への参加を通じてランボルギーニのパワフルなマシンの操縦を身に着けたオーナーたちが、サーキットの外でもその技術を活かすことができるというわけです。そしてヴィンケルマン氏はこう続けます。

「なにしろオーナーの多くが、毎日のようにランボルギーニを走らせているのですから」と。

そうしてスーパー トロフェオによってブランドの認知度をさらに高まり、「コーナリングの魔術師」としての確固たる地位も築き上げることができたのです。

「『ランボルギーニ』というブランドばかりでなく、『スクアドラ・コルセ』にも非常に多くのフォロワーがいます」と、ヴィンケルマン氏は眉を細めながら言います。そうしてスーパー トロフェオ プログラムの効果も加わり、スクアドラ・コルセは2022年5月17日に新たなLMDh車両を開発し、2024年に世界耐久選手権(WEC)とIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に参戦することを発表するに至ったというわけです。

また2023年には、GT3レーシングカーの最新仕様の「ウラカン GT3 EVO2」でデイトナ24時間レースに参戦します。このマシンは、ナンバープレートを装着したランボルギーニとシルエットを共有する第3世代のGT3 レースカーであり、市販車のスペックとトラック上のパフォーマンスとの間のリンクをさらに確立することでしょう。

一方でランボルギーニを純粋に愛する熱狂者たちの中には、ランボルギーニがハイブリッドへとシフトするという考えに嫌悪感を抱く人もいることでしょう。ですが、ランボルギーニから電化されたスーパーカーが登場し、さらに最終的にブランド全体が完全なる EV化となった暁にも、ランボルギーニは皆さんの期待を忠実にかなえてくれてくれるに違いありません。

ランボルギーニとその顧客たちとの感情的なつながり、つまりランボルギーニが擁するカリスマ性はそのまま継続することを約束します。何十年にもわたる設計とエンジン―― そして、モータースポーツへの継続的な情熱とLMDh への新たな参入によって、ランボルギーニの魂は電気時代にも生き続け、さらに健やかかつポジティブなマシンを誕生させてくれることを確信しています。

Source / CAR & DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です