DW BURNETT AND WILLIAM MEMBANE

その日、私(米国カーメディア「Road & Track」の編集者で、この記事の著者であるラファエル・オーローブ氏)はカーメディア「Road & Track」が主催する、その年の優れた車を表彰する祭典「パフォーマンスカー・オブ・ザ・イヤー」の準備で多くの車に試乗する機会を得ていました。ふと、同僚の横に停めてある鮮やかなオレンジ色のランボルギーニ「ウラカン テクニカ」が目に入りました。

さまざまな車を試乗するのですが、そのキーを交換するたびに誰もが「絶対に乗っておきたい」と願う最新型の車へと吸い寄せられていく様子が見て取れました。新型のシボレー「Z06」から新型「シビックTYPE R」まで、よりどりみどりです。まだ誰も乗ったことのないトヨタの四輪駆動のターボハッチもあれば、乗り終えた後に誰もが動揺を隠そうとしないポルシェ「ケイマン GT4RS」もありました。試乗を心待ちにするわれわれにとって重要なのは、車の良し悪しよりもその新しさに他なりません。好奇心を満たすことが何よりの楽しみなのです。

「ウラカン」最初のモデル、「LP610-4 クーペ」がデビューしたのは2014年のジュネーブ モーターショーでのことでした。この記事の主役である「ウラカンテクニカ」は2022年のニューモデルでしたが、2021年にはもう誰もが試した「ウラカンSTO」を普及版としてリチューンしたものに過ぎません。他の多くのカーエディターを横目に、今だランボルギーニに乗ったことがなかった私は、好奇心の赴くまま、そのハンドルを握ったというわけです。

 
DW BURNETT

実際に走らせてみた印象をお伝えする前に、まずはこの車のスペックを紹介します。価格は24万5295ドル(約3260万円)から。乾燥重量は3040ポンド(約1379キロ)。5.2リッターV10エンジンは9000rpm、631馬力、565N・mのトルクを誇ります。シャシーはカーボンファイバーとアルミニウムをリベットで固定し、さらに接着剤で接合したものです。トランスミッションは7速デュアルクラッチオートマチック。未来感あふれるデザインは、カットしたチーズのようでもあります。

そんな前衛的な「ウラカンテクニカ」ですが、デジタル感あふれるルックスとは裏腹に、多くの点において旧来型のドライバーズカーを想起させる仕上がりでした。V10エンジンはターボではなく自然吸気。ステアリングは固定比率。あの「ウラカンSTO」のような大きなウイングやスクープは装着していません。サスペンションもサーキット仕様ではなく、公道向きの慎ましいものです。

ただし、それ以外の面については「ウラカンテクニカ」もやはり現代的な自動車でした。とにかく性能が充実しています。後輪駆動でありながら全輪操舵となっており、サスペンション、トラクションコントロール、トルクベクタリング、そしてペダルレスポンスなど、3種類のドライブモードで全てが切り替わります。

車を降りたときの私の喉はカラカラに乾き、息はすっかり切れていました。運転席ではひとり大絶叫していました。ストレートでの加速に雄叫びをあげ、路面の凹凸により激しく振動する車体を諫(いまし)めるのに悲鳴をあげ、車内に響き渡るV10エンジンの咆哮(ほうこう)に負けじと大声を振り絞っていたのです。

「ウラカンテクニカ」が「ウラカンSTO」と比べて、ゆとりある仕様になっているのは事実かもしれません。ですが、それでもアメリカ最高峰のドライブウェイのひび割れた舗装路を操縦するのに、ワイルドな車であることは疑いようもありません。タイヤのグリップとサスペンションのアグレッシブなセッティングによって、コーナーを軽々とクリアしていきます。

「ウラカンテクニカ」なら、ターンインするというより右から左へスイスイと飛び込んでいくような感覚です。水平方向よりも垂直方向の挙動がむしろ気になります。運転している間、前方の路面に小穴がないかなど目を皿のようにして注意しました。興奮と恐怖との狭間で気持ちが揺れ動きました。アクセルベダルはカーボン製の床に吸いつくようですが、霜が降る前にスピードを落とさなければガードレールにそのまま突っ込むことになるだろうという恐怖感に襲われるのです。

以上に挙げたあれこれは、紛れもなく「スーパーカー的な資質」と言えます。危険と終焉を招くオレンジ色の呪いです。背後で鳴り響く10個の鐘が、運命を告げる音色を響かせます。

ランボルギーニの速さは確かに本物です。しかし、「路面の冷えた視界の悪い裏道では、価格も馬力も遥かに劣るコンパクトなスポーツカーよりも速かった」とは決して言えません。ホンダの「シビックTYPE R」やトヨタの「GRカローラ」は言うに及ばず、ヒョンデの「エラントラN」でさえ、グループ試乗の後尾について行くのにそれほどの苦労はありませんでした。つまり、スーパーカーに求められているのは、公道において最速であることではないのです。ただワイルドでありさえすれば、それで良いのかもしれません。

華やかなカーボンファイバーの奥にはスポーツカーとしての真価が隠されていました

 
DW BURNETT AND WILLIAM MEMBANE

「ウラカンテクニカ」は、いかにもランボルギーニらしい働きを見せてくれる車でもありました。道路に面したレストランに昼食に立ち寄るべく駐車場に並べた私たちの車に、母親に手を引かれた少年の目は釘づけです。少年が写真を欲しがったのは他でもない、オレンジ色の「ウラカンテクニカ」でした。道幅のない2車線の道路でホットハッチより速いかどうかなど、この際どうでも良い問題なのです。目を引くビジュアル、見事な音色、あふれ出すロマンこそが物を言うのです。

ただし「ウラカンテクニカ」については、いかにスーパーカーらしいマニアックさと欠点が備わっているにせよ、それ以上の存在であるという印象を私は持つに至りました。

スーパーカーとは、その性能を極限まで高めた車です。6気筒で十分なところに8気筒を積み、8気筒で足りるのに12気筒に積み替える。増やせるのなら16気筒まで増やそうというブガッティのような車だってあるのです。つまり、最大化こそが鍵なのです。ランボルギーニの「アヴェンタドール」を見てください。低く傾斜したフロントガラスからは、その辺のミニバンよりもダッシュボードが丸見えです。シャシーの表面積の8割が、タイヤとV12エンジンとで占められているのです。そんな車内に潜り込んだドライバーなど、ただの車のオマケのような存在に過ぎません。

「ウラカンテクニカ」にも、確かに過剰なところがあるかもしれません。ですが、より人間的、もしくは人道的な車であると言えるでしょう。この車が目指すのはドライビングエクスペリエンスそのものであり、耳をつんざく轟音に酔いしれる観客を魅了することは二の次です。また「ウラカン」は、車線のすべてを占有してしまうほどの巨体でもありません。4点ハーネス式のシートベルトで床に直接押さえつけられるかのような低いシートの「ウラカン」ですが、「コルベットZ06」と比べても遥かに整った設計であると感じました。「テクニカ」は恐怖よりもスリルを与えてくれるのです。

 
DW BURNETT AND WILLIAM MEMBANE

終着点の車寄せまでランボルギーニを走らせ、他の「パフォーマンスカー・オブ・ザ・イヤー」の参加者たちの車の列に並べます。背後には、キャノンズビルの貯水池がキラキラと光を反射しています。

「皆、この車を過小評価しているのではないか?」と憤る私に対し、「ウラカンが素晴らしい車であることはもちろん知っているよ」と私を嗜めるかのような笑い声が周囲から漏れていました。「ウラカン」に乗ったことがある人にとって、そんなことはもうわかり切ったことなのです。

知らなかったのは私のみ。つまり、これは必要な経験だったのです。「華やかなカーボンファイバーの奥に隠されていたのは、スポーツカーとしての真の実力であった」と、私はしみじみとした感動を覚えたのでした。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です