名作の中の格好いい名車たち【最終章】― ヴィンテージからドリフト車まで
映画に登場するクルマが、生身の俳優を霞ませるほどのスーパースターとなるとき…それは最高のカー・ムービーであり、極上のムービー・カー、文字通り「スター車」となります。
前回ご紹介した『映画に登場した最高にクールなクルマ【Part7】』に続くシリーズは、今回で最終章を迎えます。そこでここに、そのラストにふさわしい名車をチョイスしてみました。
CGによる合成が当たり前となった近年の映画とは一線を画する、昔ならではの撮影方法で描かれたシークェンスも、そこに登場するクルマを名車へと格上げする良い演出になっています。
これまで紹介した名車の数々に対し、読者の皆さんからも思い出深いクルマとして多くのコメントをいただきました。ありがとうございます。
それでは男性諸氏の胸がワクワクする、最高にクールな名車たちをとくとご覧あれ。
【1】 『ラブ・バッグ』の1963年型フォルクスワーゲン「ビートル モデル117 デラックス サンルーフセダン」(ハービー)
80年代のアメリカの特撮テレビドラマ『ナイトライダー』にて、搭載された人工知能「K.I.T.T.(キット)」によって、主人公マイケルと物語を展開する名車「ナイト2000」をご存知ですか? まだ家庭のコンピュータなど普及されていなかったころ、子ども心に「よくぞ考えた」と感動した者も多かったでしょう。ですが、これより遥か以前に、感情を持つ「ハービー」というクルマがあったのです。
このシリーズの第1作では、ハービーがフォルクスワーゲン車であることは言及されず、あらゆるブランディングが排除されました。しかし、第2作『続 ラブ・バッグ』では、フォルクスワーゲンが正式に参加しています。
ハービーの見た目はシリーズの5作品の中で少しずつ異なっており、シリーズ全体でおよそ100台ほどの「ビートル」が使われたといいます。ウォルト・ディズニー・スタジオは第1作のために11台のハービーを製作し、このうち現存が確認されているのは3台のみです。この「ビートル」の通常モデルのインテリアは白でしたが、映画向けのものはスタジオのライトを反射しないようグレーにペイントされています。
【動画】1963 Volkswagen Beetle Model 117 Deluxe Sunroof Sedan, Herbie: The Love Bug
この映画に登場する「ビートル」の1台は、ポルシェの「スーパー90」エンジンで高性能化されています。ちなみに、ぜひともこのクルマを見たいというビートルマニアがいれば、「ハービー・ナンバー10」がペンシルバニア州ハーシーのAACAミュージアムに展示されています。
【2】『アイアンマン』の2008年型「アウディR8」
大富豪で天才科学者、プレイボーイで博愛主義者のトニー・スタークには、技術的にもふさわしいクルマが必要です。
この2008年型「R8」はトニーがプライベートで日常的に使っているもので、アルミニウムおよびマグネシウムを用いたスペースフレームを採用しているほか、最大420馬力の4.2リッターV8エンジンを搭載し、0-100km/h加速は4.6秒です。アウディはこのクルマを「アイアンマン」シリーズの第1作に登場させるようジョン・ファヴローを説得することに成功。この機会を真剣に捉えた同社は、この映画に使用されたクルマのためだけの専用サイトを作ったほどです。
【動画】2008 Audi R8, Iron Man
このクルマは大成功を収めたため、その後のシリーズではさらなるアウディが採用されました。
第1作の最後のバトルではもともと、アイアンマンスーツに身を包んだトニーが運転する「R8」が敵の脚に衝突してひっくり返り、アイアンマンがクルマを真っ二つにして出てくるというシーンの製作が予定されていました。しかし、このクルマの出来があまりに良かったため、ひっくり返すことができず、シーンの書き換えが必要になったとされています。
この映画の後、「アウディR8」は「アイアンマンが運転するクルマ」として知られるようになりましたが、トニーのガレージには「シェルビー・コブラ」や「サリーン・S7」、「テスラ・ロードスター」、1932年型のフォード「フラットヘッド・ロードスター」なども置かれていました。
【3】『ミニミニ大作戦』の1967年型オースチン「ミニクーパー1275S」
2003年のリメイク版『ミニミニ大作戦』に登場する「ミニ」も印象的ですが、1969年版のオリジナル映画のものと比べれば足元にも及びません。
このクルマの製造元であるブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)は、映画のために1台たりとも「ミニ」を提供することを拒否し、製作チームは6台の「ミニ」を卸売価格で購入することになりました(その後さらに30台が小売価格で購入されました)。
BMCも非協力的でしたが、脚本家のトロイ・ケネディ・マーティンも頑固で、主役のクルマを「ミニ」から変えることを断固として拒否しました。こうして、世界で最も有名なカーチェイスシーンの1つが生まれたのです。
【動画】1967 Austin Mini Cooper S 1275, The Italian Job
当時のフィアットのジャンニ・アニェッリ会長はこの映画に協力的で、必要なクルマをすべて寄付することを申し出ました。彼は「ミニ」の代わりに「フィアット500」を使うことを望みつつも、喜んで製作をサポートし、製作チームが同社の施設で練習や撮影を行うことを許可し、マフィアが運転する3台の「フェラーリ・ディーノ」も提供しました。レッドとホワイト、ブルーの「ミニ」は最大出力75馬力の4気筒エンジンを搭載し、最高速は約156kmに達しましたが、重さ300ポンド(約136kg)以上の金を運ぶのはさすがに無理そうです。
ちなみに、ほとんどのシーンにクルマや運転が登場するこの映画ですが、主役のマイケル・ケインは当時運転ができなかったといい、映画の中で運転するシーンはありません。
【4】『トランスフォーマー』の2007年型シボレー「カマロ」(レプリカ版)
『トランスフォーマー』シリーズの第1作で、バンブルビーは1977年型の古いシボレー「カマロ」として紹介されました。彼はその後第5世代の「カマロ」にコンバートされましたが、この映画が上映された2007年は、この第5世代モデルが生産開始される2年も前でした。
そこで、観客の目を欺き、玩具のラインを忠実に再現するための洗練されたレプリカカーが必要でした。このクルマは、マイケル・ベイ映画のハードな撮影に耐える必要があったため、ボディパネルには2006年の「カマロ」のコンセプトカーが使ったものと同じ金型が使われました。
【動画】2007 Chevrolet Camaro Replica, Transformers
2台のバンブルビーは、『トリプルX ネクスト・レベル』の「シェルビー・コブラ」を作ったサリーンが製造したもので、5.7リッターのLS-1エンジンを搭載する「ポンティアック・GTO」がベースになっています。こうして、次世代の「カマロ」が大きな話題になったのです。
【5】チキ・チキ・バン・バン
007の生みの親である小説家イアン・フレミングの童話『チキチキバンバンはまほうの車 』をロアルド・ダールが脚本化して生まれたこの映画は、失敗するはずなどありませんでした。
このクルマやストーリーは、実在したレーシングドライバーのカウント・ルイ・ズボロウスキー(旧型メルセデスに4つの航空機用エンジンを積んだ改造車を設計・製作した人物です)からインスピレーションを得たものです。「チキ・チキ・バン・バン」という車名は、アイドリング中のクルマの音に由来します。
この映画のためには6台のクルマが製作され、このうち1台は完全に動作する公道走行可能なもので、英国で「GEN 11」という名で登録されました。このクルマは、この映画の美術監督であったケン・アダムが1967年に設計し、フォード・レーシング・チーム(あるいはアラン・マン・レーシング)が製作したもので、フォード3000V6エンジンや自動変速装置を搭載していました。
【動画】Chitty Chitty Bang Bang
スタジオはさらに5台の劇用車を製作し、より小型で公道走行可能なモデルや変形するモデル、ホバーモデル、飛行モデルのほか、予告編用にエンジンなしのモデルも作りました。このうちの数台には、プロモーションに使うために映画の完成後にエンジンが積まれました。
「GEN11」は2011年にオークションに出品され、劇用車として過去最高額ともされる80万5000ドル(約9000万円)もの値がつきました。ちなみに、このオークションでは、『オズの魔法使』で悪い魔女が使った水晶玉や『理由なき反抗』でジェームズ・ディーンが着用したツイードジャケット、ジョン・レノンが手書きしたオリジナルの『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』の歌詞なども出品されていました。