いま、会議室にはただならぬ気配が漂っています。

クルマに魅せられた3人の男たちが、中古車市場で手に入る「マニュアルトランスミッションの後輪駆動車のスポーツカーで、最高傑作はどのクルマか?」を決定しようとしているのです。

その3名とは、コミュニティサイト「クレイグスリスト」でクルマ探しをすれば、「右に出る者はいない」と評判の自動車ジャーナリストのブライアン・シルベストロ氏。そして、「マニュアル車への深い愛は誰にも負けない」と豪語するアメリカのカーメディア「ROAD & TRACK」のデジタル版エディターのアーロン・ブラウン氏。最後に、信頼性の高い定番車を乗り継ぐことにかけては自信があり、そして機械音痴でもある私(この記事の著者であるマック・ホーガン氏)の3名です。

このような面々が一堂に会した選考会でしたが、マツダ「ロードスター」の名が挙がりません。そこには、明確な理由がありました。低価格でコンディションの良い「ロードスター」など、アメリカ国内の中古車市場ではすでに見つからないのです。ここに挙げる3台は、もう少しパワフルな、知る人ぞ知るというクルマです。さしずめ「ロードスター」は別格。予選免除のシード選手といったところでしょうか…。

自信を持って推薦できる3台がそろいました

 
D.W. BURNETT

私が選んだのは、2001年式ポルシェ「ボクスター」です。ポルシェ特有の繊細さと遊び心を兼ね備えた、納得の1台ではないでしょうか? 私が中古車市場で見つけた1台は、コンディション良好で走行距離約11万キロ。そんなポルシェが8500ドル(約97万円)というお手頃価格で手に入るのですから、気になって仕方ありません。

シルベストロ氏が重視したのは、コストパフォーマンスとコンディションでした。彼の掲げる基準と予算5000ドル(約57万円)にかなった1台…。それは、サスペンションに難があり、走行距離も50万キロになろうかという、エンジンを乗せ換えた9000rpmのホンダ「S2000」でした。

「『S2000』と言えば、信頼性が極めて高い上に維持費もさほど掛からず、満足度の高いクルマです。さらにエクステリアのデザインの良さも好印象です」と、シルベストロ氏のコメントは強気そのものです。

実は私もかつて、「S2000」を所有していました。その魅力についてはよく承知しているつもりです。ですが、彼の選択には議論の余地があります。エディターのブラウン氏によれば、「スポーツカーに求められるのは、維持しやすさや手軽さ、消費者レビューの星の数などではない」と主張するのです。

そう語るブラウン氏が選んだのは、1999年式BMW「Z3 Mロードスター」。見事なトルクとゲルマン魂を兼ね備えたスリリングな1台です。ブラウン氏が見つけたモデルの値段は3300ドル(約38万円)、走行距離は30万キロ超という状態です。事故歴アリとのことですが、あのBMW「Z3」を特別な1台にせしめたのと同じ、スムーズな回転を誇るエンジンを搭載しています。「ボクスター」ほどには洗練されておらず、ホンダほどカルト的な評価もありません。ですがそれでもブラウン氏は、“このクルマの希少性こそが個性と成り得るのだ”と主張を曲げようとしません。

 
D.W. BURNETT

「まさに、特別なクルマです。乗ってみれば、スポーツカーとしての基本機能をすべて備えていることが実感できます。『S2000』のようなトップレベルの性能を備えているわけではありませんが、エキサイティングな乗り心地という意味においては遜色ありません」と、ブラウン氏も強気です。

われわれが選んだ3台はどれも、どこか無謀で、バカげたところもあり、突っ込みどころのあるクルマたちです、それは認めます。「ならば、実際に走行してみた上で決着をつけよう!」ということになりました。

なかなか順調な走りを見せる「ボクスター」

 
D.W. BURNETT

実は、この中古の「Z3 Mロードスター」のドアですが、一度内側に押し込んでからでないと開きません。急ブレーキを踏めばシートが少しスライドし、アイドリング時には油圧ランプが点滅します。おまけに、純正から取り換えたクラッチのペダルは遊びがなく固めです。

同じく中古の「S2000」には、最高クラスのKWサスペンションが装備されていますが、オーバーホールされたエンジンからは青白い煙が立ちのぼります。「ボクスター」の健康状態は(今のところ)上々に見えますが、純正のIMSベアリングにやや不安な兆候が見え始めており、ハードなコーナーリングではオイル漏れの心配もあります。

ところが、そういったわれわれの心配は、ライム・ロック・パーク(コネチカット州北西部・レイクヴィルにある、自然の地形を生かして設計されたサーキット)のバックストレートで3頭の老いた虎が咆哮(ほうこう)を上げた途端に消えてなくなりました。

「ボクスター」の2.7リッター並列6気筒エンジンは、高回転域で魔力を発揮します。回転数6500rpmで217馬力がフルで解放されますが、トルクがピークに達するのは4500rpm。懸命なアクセル操作とシフトチェンジは求められますが、ポルシェに吹き込まれた生命が活気を帯び、タコメーターの針がレッドゾーンに触れようとするたびにエンジンが奏でるハーモニーが最高潮へと達します。

「正直なところ、このクルマのギアには満足していません。限られたパワーを最大限に活用するのは非常に困難です」というのが、シルベストロ氏の率直な感想です。3速ギアでもサーキットを走ることは可能ですが、そうするにはこの並列6気筒エンジンは重すぎます。

そのシフト操作自体にも難があるようです。ポルシェの技術が最高峰であることに間違いはありませんが、「ボクスター」のギアボックスの反応はホンダと比較すれば曖昧さが残ります。ペダルトラベル(編集注:ペダルが動く幅)が長いため、クラッチを深く踏み込む必要があり、スムーズに嚙み合わせるのにも苦労します。

と、ここまでダラダラと述べてきたことは、どれも些末なことに過ぎません。

「ボクスター」の真価は、何と言ってもコーナーリング性能の高さです。このクルマが生まれたのは、ポルシェの近代的かつラグジュアリーな水冷エンジンの黎明期に当たります。アダプティブ・サスペンションも、複雑なエンジンモードもこのクルマにはありません。

始動時に忘れてはいけない操作はただ1つ、PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステムの略で、ポルシェにおける、横滑り防止装置の名称)をオフに切り替えることのみです。このスイッチをひと押しするだけで電子制御のバンパーが低下し、スタビリティ・マネジメントシステムが無効化されます。後に残るのは油圧式ステアリングラック、そして自然吸気エンジン、複数のモードなど必要としないシャシーのみです。

そして、堅実さはご存じの通り。周囲への遠慮など皆無に思える排気音も、はったりではありません。バランス良くセットアップされたミッドシップ・エンジンと、つま先立ちで軽々と踊るかのようなサスペンションも「ボクスター」の魅力を高めています。

コーナーに差し掛かれば、フロントタイヤが路面を捉えているのを確かめるように、ステアリングが慎重に食いついていきます。リミテッド・スリップ・ディファレンシャル(LSD:コーナリング時のタイヤの左右回転差を調整する「デフ」の作動を制限する装置)は装備されていないため、ドリフトには不向きかもしれません。また、その強大なパワーを操り損なえば、クルマは簡単にスピンしてしまうでしょう。

それでも、アクセルに乗せた右足を踏み込めば、滑らかで期待通りのコーナーリングと無理のないパワーバンドを得ることができ、いかなるコーナーからもたやすく抜け出すことが可能でした。

ブレーキ性能も素晴らしいのひと言。直進のコースで、アクセルを踏み込む勇気を与えてくれることでしょう。ミッドシップ特有のシャープなバランス感覚が、より高次元のスリルを提供してくれます。ブラウン氏とシルベストロ氏の両人共、「この仔犬のようにフレンドリーな『ボクスター』の誘いに応じさえすれば、安心して走らせることができるよ」と言っています。

集中力さえ忘れなければ、急激なオーバーステアや不安定な挙動など恐れるに足りません。むしろ、落ち着き払った滑り出しから足元を確実に捉えてくれるのです。このクルマに羽目を外させることなど、不可能とも思えるほどの優等生です。

「Z3 Mロードスター」がもたらす昔ながらの喜び

 
D.W. BURNETT

さて、長いノーズが印象的なBMW「Z3 Mロードスター」を見てみましょう。ドイツで設計され、アメリカで組み立てられた「Z3」に積まれた3.2リッターの直列6気筒エンジンの力で、ストレートを気持ちよく駆け抜けて行くことができます。後発型のモデルには、より強力な315馬力のS54エンジンが搭載されていますが、だからと言って、この「Z3 Mロードスター」のパワーが足りないということではありません。「これもまたBMWが誇る美しき直列エンジンであり、あらゆる次元において興奮を提供してくれます」と、ブラウン氏は目を細めます。

5速マニュアルの操作には、スリルが伴います。ひと癖あるシフトチェンジと非純正のクラッチは、この「Z3 Mロードスター」のシャシーが「拒否反応を起こすのではないか!?」と心配になるほどです。ステアリングは比較的緩く、そのダイナミズムはスポーツカーというよりむしろスポーツセダンに近いものですが、鞭(むち)を打てば見事に実力を発揮してくれます。「Z3 Mロードスター」は昔ながらの歓びを与えてくれる、昔ながらの「ロードスター」なのです。

「『S2000』からこのクルマに乗り換えて気づかされるのは、フロントの重さに比例して増えるハンドル操作の回数です。ずっと走らせているうちにフロントの重心の偏(かたよ)りと落ち着きのないステアリングラックにも慣れ、スライドさせつつコントロールできるようになりました」というのが、シルベストロ氏による結論です。

ストイックなほどに走りに忠実な「S2000」

 
D.W BURNETT

最後は、庶民の最高の味方ホンダ「S2000」の登場です。徹底的に無駄を省いた初期型の「S2000」には、トラクションコントロールなど装備されていません。この時代のホンダであれば、ポルシェやBMW とは異なり、2000年代のハイテク指向に侵されていないのです。まるで、「走ること以外には興味がない」とでも言わんばかりに、ラジオはのっぺらぼうのカバーパネルに隠されています。

「平和と静寂を好む『S2000』のオーナーなどいるはずがない」というのが、ホンダの信念だったのかもしれません。が、トップギアは極めて繊細に仕上がっています。6速で回転数を4500rpm程度に上げれば、時速80マイル(約129キロ)でエンジンから叫び声が放たれます。地球上でこれ以上の6速マニュアルとお目にかかる機会など、そうはないのではないでしょうか。

夢にまで見たビンテージスポーツカーのドライビングエクスペリエンスが、このハンドルを握るだけで現実のものとして手に入るのです。「S2000」は極めてシャープなターンイン(編集注:直線から旋回へと移行すること)と、その絶対的な精度には目を見張るものがあります。このクルマがつくられた当時のパワーステアリングだからこそ、すべての負荷をそのまま手元に感じることが可能です。これは、文句なしに「素晴らしい体験」と言えるでしょう。

その後、ステアリングリモコンを採用したことで、「S2000」も近代的なスポーツカーとして生まれ変わりました。最大馬力240hpという数字は8300rpmに達して初めて発揮されるもので、BMWやポルシェと比べてかなりの時間を要します。9000rpmからがレッドゾーンですが、ここまで引っ張れば神々しいほどのクレッシェンドに包まれます。この「S2000」に未来的な要素など一切見受けられませんが、サーキットではドイツ車の2台より何年も先を行くクルマではないかと感じられ、思わず顔がほころびます。

 
D.W. BURNETT

しかしながら公道では、弱点が気になることも確かです。純正サスペンションやKWコイルオーバーキットを装備したこの「S2000」ですが、「ボクスター」や「Z3 Mロードスター」と比べ、はるかに硬い足回りなのです。卓越したバランスと滑らかな走行性能は姿を隠し、コーナーリングでは腰砕けとなってしまいます。

「S2000」の限界性能の高さは、他のライバルをはるかに凌駕するもの…。ですが、それを見せつけるためには、かなりの勇気が求められることになります。「S2000」の最大トルクは7500rpmにならないと発揮されず、シフトレバーから手を放す暇がありません。タコメーターの針が上がらないままではガッツが感じられず、遅く、面白味が伝わってきません。とは言え軌道に乗せさえすれば、3台のクルマの中で最も刺激的なものであることに疑いの余地はないのです。

そして、私たちがたどり着いた結論は?

最後に、それぞれのクルマのパフォーマンスをまとめてみましょう。

今回の「Z3 Mロードスター」に関して言えば、公道においても特別感がありました。どの程度の速度であっても淡々と仕事をこなすその姿には、たくましさと威厳が備わってさえいるようです。街中のストリートを流しても、その魅力は尽きることがありません。

サーキットではややぼんやりした印象を受ける柔軟さが、公道では確実性と快適さとして示されます。十分な余力を持って走らせたときの「Z3 Mロードスター」は、まさにBMWが誇る最高のスポーツセダンに匹敵するドライビング・エクスペリエンスを感じさせてくれるものでした。

「この中では、“最高のスポーツカー”とは言い切れないかもしれませんが、『Z3 Mロードスター』が最も特殊な1台であることは間違いないと思います」と、ブラウン氏は胸を張ります。

私が推した「ボクスター」ですが、柔らかめのセットアップがどんな路面でもスムーズに駆け抜け、サーキットでの安定した走行性能が一般道でも損なわれることはありませんでした。正確かつ滑らかで、他の2台と比べて大人しい印象の拭(ぬぐ)えない「ボクスター」ですが、問題点は皆無と言えるでしょう。強いて言えば、あまりにも上手くまとまり過ぎているために、個性を感じられない点にあるかもしれません。

 
D.W. BURNETT

しかし、実際にクルマを走らせた今となっては、いかなる議論も不毛かもしれません。すでにどのクルマが勝者であるか、誰もが気づいていたのです。

私たち3人が求めたのは、有無を言わさぬ特別な魅力を備えた1台でした。今回の3台の中でマツダ「ロードスター」の基準を上回ったのは1台だけ。自分の手元に置いておきたいと思えるほどの魅力を備えたクルマは、「S2000」という結論に至ったのです。

Source / ROAD & TRACK
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。