EV(電気自動車)化の波は、ここ数年で急激にその勢いを増しています。カーメディアの編集者も今や、最新型EVのハンドルを握り、何百キロもの試乗を行いながらその性能の優劣を評価することが日常となりました。ワシントン州の奥深い山道や、からっからに乾いたニューメキシコ州サンタフェ郊外の曲がりくねった山道でオフロードのEVを駆るようなことも珍しくありません。まだ試乗がかなわないものの、それでもこの場で取り上げ、将来性について議論してみたいEVもあります。さまざまな角度から検証を行い、本年度のEVベスト10を選出しました。ここでは前編に引き続き、後編として5台のEVを紹介します。

フォード「マスタング・マッハE」
(Ford Mustang Mach-E)

 
MARC URBANO / CAR AND DRIVER

■レビュワー:ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)編集部

このクルマをフォードが「マスタング」と名づけたことについては、賛否両論あるかもしれません。ですがその理由を知れば、一概に否定することはできません。最高にエキサイティングな新型車にこそ相応しい呼び名、それが「マスタング」というブランド名の矜持(きょうじ)なのですから…。

ただし、この「マスタング」の中にフォードらしさを見出そうとするなら、取扱説明書を隅々までめくってみる他ないでしょう。はっきりさせておきたいのは1つだけ。このクルマが「極めてエキサイティングな1台」であるということです。

われわれポピュラーメカニクス編集部が試乗したのは、フォードのエクステンデッド・バッテリー・オプションが装備された全輪駆動の2021年モデルでした。1回の充電で約270マイル(約434km)の連続航続距離です。とは言え、0-100km/h加速は5秒を切る性能ですから、操るにはそれ相応の腕が求められることになるでしょう。重量とスピードが共存するクルマにしては正確なハンドリング性能、そして驚くほどパワフルなブレーキを備えており、高いコントロール性能を実現しています。

“このクルマには、洗練された魅力がぎっしりと詰め込まれています”

車内は他のクロスオーバーと比べても遜色なく、実に広々としています。後部座席にもゆったりとした空間が確保されています。さらにプラスチック製のフロントトランクには排水口も設けられており、広い用途が想定されています。

フォードのうたう充電スピードは、最大150kw/hとのこと。ですが、われわれが試した高速充電スタンドでは、せいぜい50~60kw/hといったところでした。

15.5インチの大型タッチスクリーンを備えていて、各種モード設定やエンターテイメント用モニターとして活躍します。また、さまざまな機能のコントロールパネルとして使いやすさも追求されています。バックアップカメラ、パーキングカメラ、360度カメラなどを大画面で確認することも簡単です。設置場所がセンターコンソール前方というのは賛成できませんが、巨大な画面で見にくさを補っており大きな問題ではありません。

今回試乗を行ったプレミアム・エディションは、同クラスのテスラ「モデルS」と比較して、AWDなどの付属機能はあるものの高価格で、充電時間も長く、自動操縦機能もありません。しかし、そのような改善点はすぐにアップデートされるはずです。そして何より、このクルマには洗練された魅力がぎっしりと詰め込まれています。クオリティの高さ、ドライビングの総合的な満足度は、EV界の競争を激化させるに十分な実力と言えるでしょう。


日産「リーフ」
NissanLeaf

 
TREVOR RAAB

■レビュワー:ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)編集部

EV市場で圧倒的な強さを誇るのは、テスラで間違いありません。ですが、この世界で初めて手頃な価格のEVを世に送り出したのが2010年の日産であったことは、忘れてはならない事実です。2010年発売当時の「リーフ」のアメリカでの希望小売価格は3万2780ドル(現在のレートで約375万円)、EV減税適用で2万5280ドル(現在のレートで約289万円)と手の届きやすい設定でした。

その上、23kw/hのバッテリーを乗せて航続距離100マイル(約160km)というスペックは胸を張っても良いほどの実力です。「リーフ」の躍進によって、EVもまた一般市場で戦えることが証明されたことは紛れもない事実なのです。このクルマの登場が、他の自動車メーカーのEV参入を促した点は多いに評価すべきところです。

今では、EVが加速性能の未来を示すベンチマークの役割を担っていると考えられています。電気モーターは低速時でも大きなトルクを生むことができるため、0-100km/h加速のタイムは短縮されます。

“「リーフ」の躍進によって、EVもまた一般市場で戦えることが証明されたことは紛れもない事実です”

しかしながら、160kwのモーター1つで前輪を駆動させ、エコタイヤ「ミシュラン・エナジーセイバー」を履いた「リーフ」の0-100km/h加速は、6.7秒と控え目な数字です。同じカテゴリーの他のクルマと比較してみると、フォルクスワーゲン「ID.4」が7.6秒と最も遅く、「リーフ」を挟んでキア「ニロ」が6.2秒、テスラ「モデル3」が5.3秒と続きます。

その「リーフ」が積んだ電気モーターですが、時速30~50マイル(約50~80km/h)で真の実力が発揮されます。日頃マニュアル仕様のフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」に乗る人であっても、高速道路の合流や街乗りでの加速の際にはパンチの効いた「リーフ」の中速域の性能には思わず笑みがこぼれることでしょう。

外観も見てみましょう。EVの多くは自らが「電気で動いているクルマ」であることのアピールに終始しています。フロントグリルをなくし、奇抜なネーミングを採用し、華美なデザインのホイールで飾りつけ、特別なクルマであることを強調して印象づけようと必死です。しかし日産が「リーフプラス」で目指したものは、何よりもまず、優れた自動車であるという一点だったように思えてなりません。


テスラ「モデル3 ロングレンジ」
Tesla Model 3 Long Range

  
COURTESY TESLA

■レビュワー:ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)編集部

テスラを好むか好まないかに関わらず、同社がEV業界のリーダーとしての立場を確立していることについては、誰もが認めなければなりません。「モデル3」の話を始める前に触れておくべきこととして、テスラの構築した業界随一の充実度を誇る充電インフラを忘れてはならないでしょう。全世界に2万5000基以上のスーパーチャージャーを設置しており、その約半数がアメリカ国内に存在します。

「モデル3」はそのような点においても、ゲームをリードする1台であると言えるでしょう。当然のこととして、他の自動車メーカー各社もスーパーチャージャーのパイを狙って目を光らせています。ですがテスラは、独自のネットワークを簡単に手放すわけもありません。

前置きが長くなりましたが、今回は「モデル3」についてです。これは、EVを所有したことのない人々にとっても、実に親しみ易いクルマです。353マイル(約568km)という航続距離は、同クラスにおけるトップレベルの数値です。もちろん、航続距離の長さが何もかもを保証してくれるわけではありません。ですが、フォード「F-150ライトニング」とリヴィアン「R1T」を除き、航続距離300マイル(約483km)以下の他のEVにつきまとう電池の不安を軽減してくれることに違いはありません。

“EVを所有したことのない人々にとっても、実に親しみやすいクルマです”

例えばタブレット型インフォテイメントなど、テスラがEVのインテリアのスタンダードを確立してきた点について、異論を挟む余地などないはずです。操作画面やコントロールパネルを除けば、コックピットはミニマリズムの極致と言えます。この傾向がどこまで進むのかはわかりませんが、最新モデルにはなんと邪魔なシフトレバーさえありません。ステアリングの右手のワイパーストークスイッチで、ギアを選択するのです。上げればバック、下げればドライブ…実にシンプルです。


アウディ「RS E-Tron GT」
Audi RS E-Tron GT

 
COURTESY AUDI

■レビュワー:ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)編集部

「RS E-Tron GT」は、ポルシェ「タイカン」と同じエンジンをベースにしていることからも想像できる通り、とてつもないスピードを誇るEVです。標準モードで最高出力590馬力、最大トルク612.2lb-ft(約830.3)を発揮し、ブーストモードでは最高出力637馬力を発揮するまでの所要時間はわずか2.5秒。実に3.1秒で、時速100km/hに達してしまうほどの加速力を有しています。さらに、コーナーリング性能についても素晴らしいの一言。

5139ポンド(約2331kg)という車重にも関わらず、「RS E-Tron GT」はスマートなテクノロジーの力を駆使することで、その重量を感じさせずにカーブに侵入していきます。ちなみに時速30マイル(約50km/h)以下の速度では、後輪の可動角度は狭まります。その速度を超えると、今度は前輪と後輪がそろって動作するようになり、高速安定性を向上させているのです。また、「タイカン」と同じくダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを採用しており、これもコーナーリング時の安定性の向上に大きく貢献しています。

時速30マイル(約50km/h)を超えると、前輪と後輪が同じ方向に回転し、高速安定性が向上します。また、「タイカン」と同様にダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを採用し、コーナーリング時の安定性を向上させています。

“「タイカン」と同じエンジンがベースで、とてつもないスピードを誇るEV”

数値化できるパフォーマンス性能やサスペンションの構造は異彩を放つアウディですが、インテリアについては他のパフォーマンスEVと比べて特に変わった点はありません。これは歓迎すべきことです。派手なエクステリアとは対照的に、コックピット内部はさっぱりとまとまっており、高度なテクノロジーを備えたEVであることを忘れさせてくれるほどです。

確かに大型の10.1インチのインフォテイメントスクリーンは存在感がありますが、手触りが良く、操作しやすい仕様となっています。「ポールスター2」同様に、標準仕様のアウディにも100%非動物性の内装が用いられていますが、所有者が希望すればレザーパーツに付け替えることも可能です。


MINI「クーパーSE」
Mini Cooper SE

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COURTESY BMW GROUP

■レビュワー:ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)編集部

わずか114マイル(約183km)と短い航続距離が問題視されることのあるMINI「クーパーSE」ですが、航続距離がEVのすべてではないということを覚えておくとよいでしょう。この物静かなクルマを購入する理由となるのは「環境意識を示したい」、「地球に優しくありたい」、「お金を節約したい」など、さまざまな社会的問題意識です。最低価格2万9990ドル(約343万円)から購入可能ということで、極めて手頃なEVと言えます。

“MINI伝統の美観を引き継いだ、見事なEVと言えます”

MINI「クーパーSE」が世間にお披露目されたのは2019年のことでしたが、電動のMINIはそれよりも以前から存在しています。2003年にリメイクされた映画『ミニミニ大作戦(The Italian Job)』の地下のあのシーンで撮影に使われていたMINI「クーパー」は、電気を動力としたものでした。ロサンゼルス市が地下鉄トンネル内での一酸化炭素の充満を嫌ったために、俳優のマーク・ウォールバーグ、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ステイサムが運転するスターカーを全て電動化しなければならなかったのです。

銀幕で疾走したくらいでは心が動かされないという人であっても、このEVを実際に街中で目にすれば、そのお洒落なスタイルに思わず目を奪われることでしょう。ミニマルなデザインのMINIですが、4本スポークのホイールがエクステリアを飾る効果的なアクセントとして光っています。

正面に目を向ければ、ガソリン車の同クラスのMINIにも採用されている新型デザインが「クーパーSE」にも用いられていることに気づくはずです。EVであるにも関わらずフェイスグリルは見事に調和していて、MINI伝統の美観を引き継いでいます。

インテリアもまた、外観と同様に実に楽しいデザインとなっているのもうれしいところです。インフォテイメントスクリーンの周囲はきらびやかなディテールで飾られ、まるで宇宙旅行にでも出たかのような気分を演出してくれます。切り替え可能な6色の車内照明について言えば、MINI「クーパーSE」の遊び心を意識し過ぎたパーティーグッズのようだと感じる人もいるかもしれません。

Source / Popular Mechanics
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。