1960年以降から、クルマは劇的な進化をとげています。その進化の過程をより詳細に把握するために、フォード「マスタング」の0-100km/h加速の結果をモデルごとに比較するこの企画。半世紀以上にわたって、アメリカのカーメディア「CAR AND DRIVER」が計測してきた「マスタング」の加速データを振り返ります。前編に引き続き後編の今回は、2003年のモデルから2021年に登場したピュアEVの最新モデルまで紹介します。

2003年
「マスタング・マッハ1」― 5.2秒

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Car and Driver

「マスタング・マッハ1」は、「マスタングSVTコブラ」から遅れることわずか0.7秒という堂々たる加速性能を示しました。0.5秒単位の分類では、最速タイムのグループに分類されます。低速ギアの見事な連携によって、路面には見事なスリップ痕が刻まれます。そして4回目のシフトチェンジで、時速243キロに到達します。

2005年
「マスタングGT」― 5.2秒

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AARON KILEY//Car and Driver

「マスタングGT」の4.6リッターSOHCモジュラーV8エンジンは、バルブ数を従来の16から24に増やし、3バルブヘッドを採用しました。その恩恵を受けて出力は40馬力、トルクは18lb-ft(約24.41Nm)ほど向上しています。いずれも高回転域での数値です。

2010年
「マスタング・シェルビーGT500」― 4.6秒

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Car and Driver

インディカー・シリーズで優勝をさらうには540馬力が必要である。そう信じられていた時代が確かにありました。さて、この「マスタング・シェルビーGT500」ですが、アクセルを踏めばたちまち恐ろしい轟音と共に猛進し、その加速力たるやドライバーの身体がシートに貼り付いてしまう程でした。

しかし、それでもなおフォードにとって、12.9秒というゼロヨン(クオーターマイル:約402m)の数字は目標より0.5秒ほど足りず、「悔しい結果であった」と言います。諸条件さえ整えば、ゼロヨン12.5秒もしくはそれより速いタイムも可能であるというのがフォード側の主張でした。その一方で、より低価格のライバルであるシボレー「カマロSS」は、さらなる好記録を叩き出していたのです。

2011年
「マスタングGT」― 4.6秒

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JIM FETS//Car and Driver

412馬力のパワー、390lb-ft(約529Nm)のトルクを備え、性能は4250rpmでピークに達します。0-100km/h加速は4.6秒、ゼロヨンを13.2秒で駆け抜けますが、その際の到達スピードは時速175キロに。いずれもシボレー「カマロSS」と同等の数字を実現したということ。微妙な路面の汚れに影響されない「マスタング」エンジンが誕生したと言えるでしょう。

2013年
「マスタング・ボス302ラグナセカ」― 4.2秒

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PATRICK M. HOEY//Car and Driver

この2013年式の「マスタング・ボス302ラグナセカ」のあまりの走りの良さに、「クルマの車両底部に潜りこみ、誰かが純正アクスルを派手な独立式リアサスペンション用セットアップに変更していないか?」と、確認しようかと思ったほどでした(もちろん、不正などはありませんでしたが…)。フォードはドライバーから楽しい時間を無駄に奪うことのないよう、スティックアクスルの微調整などを行ない、細かな改良を重ねていたのです。

2013年
「マスタング・シェルビーGT500」― 3.5秒

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こんなクルマを目にすれば、あれこれ数字に注意が向くのは自然な反応と言えるでしょう。0-100km/h加速は驚きの3.5秒。独特のギア設定を採用し、3速ギアで時速225キロ、1速ギアで高速道路を走ることも可能です。ゼロヨンのタイムについては11.8秒。2速から3速へのレッドラインのシフトチェンジで、リアタイヤの悲鳴が響き渡ります。

2015年
「マスタングGT」― 4.5秒

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MICHAEL SIMARI

0-100km/h加速は4.5秒。クオーターマイル(ゼロヨン)は13秒台、240キロ台への加速も30秒を切る実力です。エンジン音の響きはデイトナ500のモノマネではなく、紛れもない本物です。やや控えめな印象のある「マスタングGT」のV8エンジンのサウンドですが、純然たる燃費現象によって生じるもので、決してフェイクではありません。幾分静かかもしれませんが、洗練された音色と評すべきサウンドです。

2016年
「マスタング・シェルビーGT350」― 4.3秒 / 「マスタング・シェルビーGT350R」― 3.9秒

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MICHAEL SIMARI//Car and Driver

新型「マスタング・シェルビー」が速くないと言うつもりは毛頭ありません。ですが、クオーターマイル(ゼロヨン)に特化しているとも言えません。ベースモデルとなった「マスタング・シェルビーGT350」については、発進にやや難ありと言うところですが、0-100km/h加速を4.3秒、クオーターマイル到達時の時速は188.3キロで12.5秒という性能です。今となっては驚くような数字とは言えませんが、テストカーの重量が1722kgであったことを考慮に入れておきたいところです。

一方、8.2kgのカーボンファイバー製ホイールと、ミシュランのパイロット・スポーツカップ2タイヤを装着した「マスタング・シェルビーGT350R」(車重量は1683kg)の0-100km/h加速は3.9秒、クオーターマイル到達時の時速は191.5キロで12.2秒という数値で駆け抜けています。

ご存知かもしれませんが、ポルシェ「911 GT3」のドライバーがドラッグレースのタイムを気にすることなどありません。彼らがより重視するのは、スキッドパッドにおけるグリップ性能、そして制動距離です。「マスタング・シェルビーGT350」は0.98g、「マスタング・シェルビーGT350R」は1.10gという驚異的な数値を叩き出し、時速113キロからの停止時間についてはそれぞれ46.3m、44.5mという性能です。フォードが開発する際なにを重点に置いているのかは、トラックシートのデータを見れば明らかです。

2018年
「マスタング・エコブースト」― 5.0秒

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CHRIS DOANE//Car and Driver

パンチの効いたターボチャージャー仕様の2.3リッター直列4気筒エンジン「エコブースト」には、2018年式「マスタング」のために独自のパフォーマンスパックが用意され、そこには現行モデルと同様の10速オートマチックが搭載されています。0-100km/h加速は5.0秒。これは2015年モデルより、0.2秒の向上です。

2019年
「マスタング・ブリット」― 4.4秒

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BRAD FICK//Car and Driver

1968年公開の映画『ブリット』の中で、「ブリット」を駆るスティーヴ・マックイーンの雄姿を映画館で目にしたあの日以来、私たちにとってフォード「マスタング・ブリット」はずっと特別な存在です。そんな私たちのもとに、4万マイル(約6万4274km)の長距離テスト用の1台がフォードから提供されました。480馬力のパワーを駆使すれば、0-100km/h加速は4.4秒。パワーの劣る「GT」よりも若干低い数字ですが、これは「ブリット」に搭載されているキューボール型シフトレバーのトランスミッションの操作が若干甘めであるためです。わずか0.5秒のロスに過ぎないということであれば、納得のいく数字です。

2020年
「マスタング・シェルビーGT500」― 3.4秒

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GREG PAJO//Car and Driver

マッスルカーにも繊維質が求められる、そんな時代になりました。つまり、カーボンファイバーのことです。歴代最速を誇る新型「マスタングGT500」は、馬力の面ではシボレー「カマロZL1」を凌駕しつつも、0-100km/h加速は3.4秒とやや後塵を拝しています。しかし、クオーターマイル(ゼロヨン)のタイムを比べてみれば、このモデルの叩き出すタイムは「ZL1」やダッジ「チャレンジャー・ヘルキャット・レッドアイ」より上を行っています。

2021年
「マスタング・マッハ1」― 4.3秒

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MARC URBANO//Car and Driver

「ブリット」、そして「シェルビーGT350」が生産中止となってしまった今、480馬力を誇る「マスタング・マッハ1」こそが最後の砦と呼ぶべき存在です。標準仕様の「マスタングGT」と比べて20馬力高く、トランスミッションには「GT350」の6速マニュアルと同じものを採用しており、さらに10速オートマチックも用意される予定です。

今回のテスト走行に用いられたのは、6速マニュアルトランスミッションにミシュラン・パイロット・スポーツカップ2を装備した1台です。0-100km/h加速は、4.3秒という成績でした。「GTパフォーマンスパッケージ2」や「GT350」には若干及ばなかったものの、その差はわずかコンマ数秒に過ぎません。

2021年
「マスタング・マッハE」― 5.1秒

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MARC URBANO//Car and Driver

完全電動のクロスオーバーのモデルに、「マスタング」の名を冠することの是非については、賛否両論、激しい論争が巻き起こったほどです。「CAR AND DRIVER」が試乗テストを行ったデュアルモーターの「マスタング・マッハE」の出力は、346馬力を誇ります。ですが、従来のマスタングと異なるのは、全くの無音であるという点です。

車重は2203kgと、歴代のマスタングの中で最も重量のある1台です。5.1秒という0-100km/h加速の数値は第5世代の「マスタングGT」を上回るもので、特に時速80.5キロから時速112.6キロの加速はわずかに2.8秒という性能です。そして、全輪駆動のこのマスタングの高速道路での航続距離は160kmに達します。

「マスタング」の名を引き継ぐことに反対という人も、このクルマのハンドルを握る心構えをしておくべきかもしれません。先日「エスクァイア日本版」でも紹介したように、アメリカのカーメディアの中には「2021年のEVオブ・ザ・イヤー」の1台に選出したところも多く、「CAR AND DRIVER」もそのメディアの中の1つなのです。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。