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「マスタング・マッハE(Mustang Mach-E)」は、フォード初のピュアEVとなる予定です。このクルマはSUVであり、何より最高にシャープなデザインが特徴となっています。 
 
 そんな「マスタング・マッハE」の誕生には、どのような背景があったのでしょうか? それは…一言で言えば「歴史は繰り返す」ということになるでしょう。 
 
 1960年代前半、“フォード”は世界でも最大の企業の1つでした。

 とは言え、若者たちはこのメーカーのクルマに対して、それほど夢中にはなってはいませんでした。フォード車には、何らかのセックスアピールが必要だったわけです。新作映画『フォードvsフェラーリ』(日本公開は2020年1月10日)の中で、まさに当時のフォードの実存的危機を端的に示したシーンが描かれています。

 この映画の中で、当時フォードのGMを務めていたリー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル)は、「ジェームズ・ボンドはなぜフォード車を運転しないんだ?」と疑問を呈します。これに対して当時のCEOであったヘンリー・フォード2世(トレイシー・レッツ)は、「ボンドは堕落者だから…」と答えます。

 最終的にはアイアコッカが、フォード2世を言い負かします。

 このシーンはハリウッド的な、極端なまでの単純化とも言えるでしょう。ですが、まさにこの瞬間から、“フォード”の歴史を変える2つの製品が生まれたわけです。1つは、ル・マン24時間耐久レースでフェラーリを打ち破ることになる伝説のレースカー「GT40」であり、もう1つは米国製自動車の代名詞となった「マスタング」です。

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Alex Bernstein

 オリジナルの「マスタング」は1964年のニューヨーク・ワールドフェアで披露され、フォードに同社が必要としていた若々しさをもたらす一助となりました。「マスタング」はスピードとスタイルを象徴するクルマでありながらも、当時のほとんどの人が入手可能な手頃な価格でした。実際、「堕落者」のジェームズ・ボンドも、最終的にはフォード車を運転したわけです(それは1971年の『007 ダイヤモンドは永遠に』。ボンドカーは「マスタング・マッハ1」だったのです)。 
 
 現在の実存的危機は、1960年代の危機とも大きな違いはありません。ですが、この危機を感じているのはフォードだけではありません。もはや、昔のようにクルマを購入する人はいないと言っていいでしょう。

 2018年4月、フォードは自社のセダンを段階的に廃止することさえ発表しています。これらのクルマはクロスオーバーやSUV、ライドシェアリングサービスに取って代わられてしまったわけです。さらに多くのドライバーにとって、ガソリンエンジンが繰り出す轟音は耳心地の良いものでもあります。ですがモビリティの未来は、最終的にEVに行き着くことがもうすでに見えています…。

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 では、この危機からフォードを救ってくれるものは何でしょうか?

 …その救世主は、またしても「マスタング」になりそうです。そして、1つだけ違いがあるとすれば、それは今回の「マスタング」はEVだということです。 
 
「単なるフォードではなく、『マスタング』の名をつけたのはなぜですか?」という質問にフォード・アイコンズのエンタープライズ製品ライン管理ディレクターを務めるデヴィッド・ペリキャク氏は、「できる限り燃費が良いクルマをつくろうとしたというだけではなかったのです」と答えています。

 またペリキャク氏は、フォード「GT」を復活させた重要な設計者でもあります。彼は、「フォードのエンジニアリングの腕前を、自社の象徴的なクルマで示そうとしたのです」と語っています。 
 
 写真で見る「マッハE」は、マッスルカーというよりクロスオーバー車に見えます。ですが、正式発表の数週間前に初めて目にしたこのクルマには、長いボンネットにパワフルな後ろ姿、特徴的な縦3灯のテールライトなど、明白な「マスタング」らしさが表現されているのです。「これは本物の『マスタング』ではない」、「このブランドの価値を薄めることになる」といった声もあるでしょう。この意見は、確かに共感できる部分もあります。ですが、この現代においては、それも説得力に欠ける年配者の主張に過ぎないでしょう。

 個人的には、ポルシェやその他あらゆるブランドは、「スポーティーさがクロスオーバーという車種でも十分に楽しめること」や「人々がこのようなクルマを実際に購入すること」を証明してきたと思っていますし…。 
 
 数カ月にわたってティーザー広告を展開した後、「マスタング・マッハE」はついに正式発表されました。今回は、このクルマについて知っておくべきことを解説します。


「マッハE」はSUV、あるいはクロスオーバー車なのか?

 フォードは「マッハE」を公式にSUVと呼んでおり、このクルマは間違いなくクロスオーバーに見えます。ですが同時に、確実に「マスタング」でもあるのです。では、なぜ「スポーツEVクーペ」にしなかったのでしょうか? 

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 ペリキャク氏によれば、「スポーツEVクーペであっても十分に面白く、一部の顧客の好奇心を刺激するものはつくれた」と言ったあと、こう続けます。

 「ファミリーの拡大を目指すのであれば、顧客が求めるものに目を向けなければなりません。彼らは1年中運転できたり、友人をドライブに連れて行けるようなマスタングを求めているのです。あるいは、子どもを持って人生の新たなフェイズに入ってからも乗ることができる『マスタング』を求めているのではないでしょうか。なので、こういったことをすべて鑑みると、4ドアのSUVが非常に理にかなったものになるわけです」と、ペリキャク氏は「スポーツEVクーペ」をつくらなかった理由を明かしてくれました。 

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「マッハE」のスペック

 トップエンドモデルの「GTパフォーマンスエディション」は、0~100km/h加速が3秒半ば。最大出力342kw(459hp)、最大トルク830nm(612lb-ft)です。このモデルには、マグネティックライド・ダンピングシステムやアダプティブ・サスペンション技術などが搭載される予定で、航続距離は約370kmです。また、0~100km/h加速が4秒未満の「GT」モデルもあり、後輪駆動に大容量バッテリーを組み合わせたものでは航続距離は約482kmにも及びます。 
 
 いずれのモデルも、スマートフォンやテスラ車同様の無線ソフトウェアアップデートに対応します。

ドアハンドルはどこにあるのか?

 従来のドアハンドルはなく、ボタンを押す仕組みを取り入れています。

 フォードのブランドディレクターを務めるジェイソン・カストリオタ氏は、「我々はどうしてもドアハンドルをなくしたかったんです」とし、「ボディー側には非常に美しいラインがあるのに、そこに大きく不格好なドアハンドルをつけなければならないのですから、残念でなりませんでした。ですがその後、開発チームが新たなドアシステムを考案すると、我々は『これを導入するしかない』という意見でまとまったのです」と語っています。

 ちょっとしたディテールではありますが、「マッハE」にコンセプトカーをそのまま具現化したかのように、すっきりとして未来的なルックスをもたらしています。

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走行性能

 試乗はまだできていませんが、現時点でわかっているのは次の点です。このクルマでは「ウィスパー(Whisper)」、「エンゲージ(Engage)」、「アンブライドルド(Unbridled)」の3つのユニークなドライブ体験が提供され、モードによってステアリング制御やアンビエント照明、サウンド、ダイナミッククラスタのアニメーションなどが変化する見込みです。

内装デザイン

 インテリアは、フォードがこれまでにつくった中でも最も洗練されており、その中心となるのがテスラ「モデル3」を思わせる15.5インチの大型タッチスクリーンを搭載しています。 
 
 また、ハンドルの側の計器類もスマートなスクリーンに表示されます。オプションの全面グラスルーフと「バング&オルフセン」のサウンドシステムを選択すれば、マッスルカーというよりリビングルームのような上品ですっきりした空間を楽しむことができます。外見はとにかく速そうなクルマかもしれません。ですが、内側は驚くほど広々としているわけです。 

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

充電時間

 フォードによれば、スタンダードレンジの「マスタング・マッハE」の場合、DC急速充電器の使用でバッテリー容量10%から80%まで約38分で充電できるとのこと。なお、ピーク時の充電出力は150kWです。

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ラゲッジスペース

 後方には約821リットルのラゲッジスペースがあり、後席を倒せば、約1687リットルまで拡大できます。またフロントにも、約136リットルのラゲッジスペースがあり、こちらは排水可能になっています(このクルマの最もクールな機能かもしれません)。というわけで、後部ドアを開け放ってパーティーをするのも楽しいかもしれません。

販売価格と発売予定日

 「マスタング・マッハE」の価格は約4万3000ドル(約470万円)からで、「GT」モデルは約6万ドル(約650万円)からになる見込みです。発売は2020年後半の予定で、500ドル(約5万4000円)のデポジット(預り金)で予約が開始されています。 

 

  
 

From / Esquire US
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。