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MATT CRISARA

アメリカのテック系メディア「POPULAR MECHANICS」による、フォードのピックアップEV(電気自動車)「F-150 ライトニング」の試乗レポートをお届けします。フォードの誇るピックアップトラックと言えば、「Fシリーズ」。そして「F-150 ライトニング」は、その「Fシリーズ」史上最重要の部類に加えるべきモデルと呼ぶことができます。アメリカ国内では、GMC「ハマーEV」やリヴィアン「R1T」などEVトラックの勃興期にあります。が、「F-150 ライトニング」こそ、歴史的にも性能的にもその真打ちと呼べる存在の車の一つと言っていいでしょう。

「ライトニング」の始まりと今後の展開

もし生粋のフォードファンが長い昏睡状態から2022年の今目覚めたならば、現在のラインナップを目にして驚きを禁じ得ないはずです。

フルEVとなった「マスタング(マッハE)」、さらには1991年にフォードの「スペシャル・ビークル・チーム」が立ち上げた社内で秘密裏に行われたプロジェクトにその起源を持ちながら、今やバッテリー駆動となった「F-150 ライトニング」などなど、かつては想像もしなかった車が次々とつくられているのです。

 
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2022年に入り、歴史ある自動車メーカーによるフルEVトラックとして先陣を切ったのがこの「F-150 ライトニング」です。確かにリヴィアン「R1T」やGMC「ハマーEV」など、EVピックアップトラックの分野で先行していたメーカーがなかったわけではありません。その中でもフォードは、新型EVトラックをゼロから開発するのではなく、すでにその豊かな歴史と共に偉大さが知れ渡っている「F150」を電動化してみせたのです。

新型車として設計された「R1T」や「ハマーEV」とは異なり、「F-150 ライトニング」は実績のないアーキテクチャをベースに生み出されたわけではありません。いや、それどころか、アメリカ国内で最大の人気を誇り、最もよく売れているピックアップトラック「F-150」の構造がほぼそのまま使われているのです。

ちなみにフォード史上初のトラックである「モデルTT」の誕生が1917年、その後「Fシリーズ」が生み出されたのが1948年のことでした。実に100年以上もの長きにわたり、優れたトラックをつくり続けてきたフォードがその内燃エンジン車のコンセプトをEVに流用しているのです。

上品さと圧倒的スピードとを兼ね備えています

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速さという点においても、「F-150 ライトニング」は間違いのない車です。なにせ426~563馬力(エクステンデッドレンジ・バッテリー搭載で更なる出力アップも可能)に775lb-ftのトルクを誇る全輪駆動と、目を見張るほどの性能が詰め込まれているのです。この驚異的な数字が示すとおり、「F-150 ライトニング」の0-100km/h加速はたったの約4秒。驚くほどの加速性能ですが、アクセルペダルの反応は正確で、踏めば踏むだけ良いレスポンスが返ってきます。

それゆえ、ピックアップトラックの付き物とも考えられてきた、ロデオの荒くれ牛に跨(またが)っているような感覚とは無縁です。「F-150 ライトニング」を街中で走らせれば、まるで“クライズデール(※編集注:大型馬の品種で、乗合馬車を引く馬として重用された歴史がある)”の如き力強い低速域の足回りを披露し、追い抜きや高速道路への合流の際には“マスタング(編集注:米国に存在する野生の馬。かつてスペイン人が放牧したものが野生化したもの)”のように気持ちよく疾走してくれるのです。

 
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ガソリンエンジンの「F-150」とほぼ同じアーキテクチャをベースにフル電動化された「F-150 ライトニング」もまた、安定して落ち着いた足回りが特徴です。シャシーの低い位置にバッテリーパックが設置されていることで、重心が低く保たれているのです。

今回の試乗において、ニュージャージー州マファまでの往復200マイル(約322キロ)のハイウェイを走らせた際にフォードの半自動運転システム「ブルークルーズ」を試し、強い感銘を受けました。ハンドルから一瞬でも手を離せば途端に警告音の鳴り響く他のシステムとは異なり、ドライバーの視線をチェックする「ブルークルーズ」なら安全と判断された場合に限り、よりリラックスした状態でハンドルから手を離すことができるのです。

このシステムの真骨頂と呼ぶべき点は、車が完全に停止した状態であっても作動し続けることです。これはまだ、どの自動車メーカーにも真似できることではありません。ペンシルバニア州イーストンにある「POPULAR MECHANICS」編集部までの100マイル(約166キロ)の復路では渋滞に巻き込まれ、しばしば停車を余儀なくされることになりました。が、「ブルークルーズ」はその1時間以上もの間、ずっと作動し続けてくれました。自分でブレーキを踏んだのはわずか2、3回ほど…。精神的な疲労も少なく、快適な道中となりました。

多機能でありながら、感覚的なインテリア!

 
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「F-150 ライトニング」のコックピットはまるで、「マスタング・マッハE」と「F-150」とを掛け合わせたかのような素晴らしさです。「マッハE」と同型の15.5インチのインフォテインメントスクリーンの使い勝手の良さは証明済み。

フォード自慢の「Sync 4」オペレーティングシステムには数多くの機能が備わっており、それがまた見事に配列されています。タッチスクリーンは見やすく、感度も上々です。ディスプレイとほぼシームレスに融合したボリュームツマミがスクリーン下部に設置されていますが、これがまた便利。オプションとして装備可能なバング&オルフセン製のステレオで好みの音楽を流せば、素晴らしい音色を楽しめます。

 
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TOM MESSINA
 
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スクリーンの真下にあるのは、「Fシリーズ」でおなじみの格納式のシフトレバーです。駐車後のボタン操作ひとつで、シフトレバーがセンターコンソールに格納される仕組みになっています。プラスチック製のふたを閉めればラップトップの台として、また車内で食事をする際の簡易テーブルとしてなど活用できます。ノートPCなどデバイス用の電源も充実していて、長時間の作業でも安心です。

後部座席はガソリンエンジンの「F-150」と同様の60/40分割シートとなっており、大きな荷物でも余裕を持って積み込めるだけのゆったりとした空間が確保されています。座席の下にも収納ボックスが設けられているため、人目に付かない場所にしまっておきたい物などを入れておくのに便利です。

まさに動く発電機

トラック内での作業、屋外の現場仕事、または家族でキャンプを楽しむ際など、電源があればとにかく安心です。「F-150 ライトニング」のバッテリーパックは停車中でも、大型の電源として使用することが可能です。

 
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スタンダードレンジ(96kWhバッテリー)及びエクステンデッドレンジ(131kWhバッテリー)のいずれにも、フランク(※編集注:車体前方にあるトランク)、キャビン、荷台にそれぞれ電源用コンセントが配備されているため、さまざまなデバイスや工具類、電化製品などを動かすことが可能です。

レビューの結論です

 
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正直に告白すれば、当初はこの「F-150 ライトニング」はこれまでの「Fシリーズ」とは全く異なる印象を受けることになるだろう…と思っていました。ところが物足りなさなど全くありませんでした。特に高速道路で「ブルークルーズ」を作動させての半自動運転による走行は、「至福」と呼べるほどの乗り心地。エンジン車から乗り換える人々にも親しみやすく、ありがたい存在となるに違いありません。

「アメリカ人たるもの、“EVの”ピックアップトラックなどに乗るものか」――そんな疑いを持つ人がいれば、考えを改めるべきでしょう。フォードにはすでに20万台に届こうかという注文が殺到しており、行列の最後尾は3年待ちの状態。これは良い兆候と言えるのではないでしょうか。

Source / POPULAR MECHANICS
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です