※アメリカのカーメディア「Road & Track」に掲載された記事の日本語訳です。


1925年に、イタリアの首相であり統帥権も得たムッソリーニが、ミラノとその北方のリゾート地である湖水地方(コモ周辺)を結ぶ有料高速道路を開通させました。その後ムッソリーニは、1935年までに「太陽道路」と呼ばれる500キロの高速道路を開通させます。これが「世界初の高速道路」と言われています…。

以来、この高速道路によって物流はさらなる活性化を生み、それとともに世界的な経済発展の大いなる起因となったことは否めません。そして現在、史上最大と呼ぶべき交通革命が起きています。

電気自動車(EV)の登場によって人々の生活様式だけでなく、地球の生態系の長期的軌道そのものが変わろうとしているのです。その変化は人々の予想よりも速く、そして画期的な影響となって現れています。

ここで、車メーカーにフォーカスしてみましょう。中でも注目したいのはホンダです。ホンダはいまだにその主力をなすのはハイブリッド車であり、ガソリンを消費する内燃機関とニッケル水素電池を積んだ小型車です。2004年当時に思い描いた未来予想図のままと受け取ることも、「これぞガラパゴス」と見ることも可能かもしれません。

いずれにせよホンダの経営陣が、その孤島での生命活動を続け、仕事に打ち込み、次なる計画を練っていたのは間違いのないこと…と、私は思っています。なにしろ、完全電動のEVの開発に同社が本腰を入れていたという事実が、つい最近になってやっと判明したのですから(とは言え、課題はまだまだ山積みのように見えますが…)。

なぜホンダがEVで後れを取ってしまったのか?

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HONDA
北米市場に出回った最初のハイブリッド市販車のひとつ、初代のホンダ「インサイト」。

「5年前までは、2030年を目標にハイブリッド技術を中心としたビジネスを確立するというのが、われわれホンダの戦略でした」と、アメリカのカーメディア「Road and Track」の取材に応じるのは、ホンダの三部敏社長です。「しかし、この5年間でEUやアメリカの規制がバッテリー式EV(BEV)へと大きく傾き、その姿勢がより積極的に、そしてより顕著になってきました」

排ガス対策の面で、日本の自動車メーカーはかつて成し遂げた成功により、自ら犠牲を被る立場に陥っていると言えるでしょう。アメリカ市場にハイブリッド車を持ち込んだのはホンダであり、それを普及させたのはトヨタでした。

他の国々の自動車メーカーは、いずれも従来どおりの内燃機関のみを使用した自動車にこだわり、中でもアメリカの自動車メーカーは車の大型化を押し進め、日本だけが排出ガスを抑えながら効率よく走る車に重点を置いてきたのです。ハイブリッド車が自動車市場に深く定着しているいう報告を、国際クリーン輸送協議会(ICCT=The International Council on CleanTransportation)がまとめたのが2014年のことでした。

報告書には以下のように記されています。

「現在販売されている普通乗用車290万台のうち30パーセント以上、軽自動車を含む乗用車450万台のうち約20パーセントがハイブリッド車となっている。現在の日本における新車のほぼ60パーセントがハイブリッド車もしくは軽自動車であり、上記のとおりの燃料経済性が示される結果となっている。世界的に見て日本に次いでハイブリッド車の普及率が高いのがカリフォルニア州であるが、年間170万台規模の自動車市場にあってハイブリッド車の占める割合は7パーセントである」

このことからも、トヨタやマツダ、スバル、ホンダといった日本企業が完全電動化への移行に、それほどの緊急性を感じていないという事実も理解できなくはありません。特にアメリカ市場におけるホンダは、車両排ガス平均値基準で最高の成績を誇っています。

しかし、世の潮流はあくまで「ゼロエミッション化」であり、「低エミッション化」ではありません。ホンダは「2030年までに自社販売台数の40パーセント、2035年までに80パーセント、2040年までには100パーセントをゼロエミッション化する」という目標を掲げていますが、これはヨーロッパの自動車メーカーが設定する目標と比べ、さほど積極的とは言えません。ホンダがいくらハイブリッド車の製造に長けているからと言って、それがすなわち“EVへの移行を容易にする”という単純な話ではないのです。

ホンダのEVの実績:現在までの失敗

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HONDA
ホンダ「クラリティ・エレクトリック」。

アメリカのEV市場においてホンダは、大きな存在感を示せずにいます。同社が市場投入した唯一のEVはほぼ無名のままであり、「EVを売り出していた」という事実にさえ気づかない人々が大半を占めています。しかしながら、それも無理からぬことでしょう。

ホンダが「クラリティ」のパワートレインとしてプラグインハイブリッド、水素燃料電池モデル、そして「クラリティ・エレクトリック」と名づけられたフルBEVをそろえ、ラインナップの刷新を図ったのが2017年のことでした。

BEVモデルの「クラリティ」が一度の充電で89マイル(約143キロ)の航続可能距離を実現した時点ですでに、GMやテスラは200マイル(約322キロ)を超える航続性能のEVを販売していました。さらに「クラリティ・エレクトリック」の販売地域はカリフォルニア州とオレゴン州に限定されていました。

一般的な情報サイトをいくら検索しても「クラリティ・エレクトリック」の試乗レポートやレビュー動画は皆無であり、マーケットの反応を調べるのは困難という他ありません。「クラリティ」に言及した記事さえほとんど存在しないという状況なのです。※「クラリティ」は、2021年9月に生産そして販売の終了しました。

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HONDA
ホンダ初となる量産フルEV「ホンダe」。

とは言え、アメリカにはまだ投入されていないにも関わらず、ホンダの次世代EVはすでにより大きなインパクトを持って受け止められています。それが、小さく愛らしい「ホンダe」。これが発表されるとたちまち、熱烈なホンダ愛好家たちがこの車のアメリカ展開を心待ちにするようになったのです。

ですが、ヨーロッパ市場はそれほどの反応を示していません。

EPAサイクル(※編集注:米国環境保護庁(EPA)による評価基準)と比べ、評価が甘いとされるWLTPサイクル(※編集注:WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)=国際統一試験による評価基準)でさえ、わずか125マイル(約201キロ)という航続可能距離の短さ。そして、より高い航続性能を持ち実用性に富んだEVに匹敵する価格設定とに、疑問の目が向けられているためです。

自動車市場に特化した情報サイト「CarSalesBase」の2021年度の集計によれば、EU市場における同年の「ホンダe」の販売台数はわずか3752台に留まりました。ちなみにその年、ルノー「ゾエ」は6万9136台を売り上げています。

GMとパートナーシップを結んだホンダの戦略

ホンダにとって必要なのは、EV市場が日本よりも大きなアメリカの購買層に「安価で長距離走行可能なEV」とアピールすること。ホンダはEV時代の幕開け当初から、アメリカ進出を速やかに行うためには、現地におけるパートナーシップが重要となることに気づいていたのです。そんなホンダにとって、GMの「スケール(規模)」が大きな魅力となったのです。

「さまざまな自動車会社とともに、パートナーシップについて協議を重ねました。なぜGMとの提携を進めたかと言えば、大きな理由としてグローバルベースで見たときに、われわれホンダと近い規模の企業であったからです」と、三部社長は打ち明けています。「また技術面においても、二社には相通じるものがありました。50:50のパートナーシップを結ぶには最適な相手だろうと思えたのです」

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DAICHI SAITO/HONDA
青山真二執行役専務(左)と三部敏宏 代表取締役社長(右)。

「規模においても技術面においても、両社は同等である」というのがホンダの主張ですが、現時点においてこの提携は、必ずしも50:50のものとは思えません。ホンダおよびアキュラが販売に踏み切ろうとしているのは、GMのプラットフォームをベースに用い、さらに同社の「アルティウム」バッテリーを搭載した大型の完全電動SUVです。

韓国のLGエナジーソリューション(LG ES)との共同事業となるバッテリー工場の完成を前に、大規模なEV展開を行うには良いソリューションかもしれません。そうした観点から再確認すると、ホンダがGMに依存しているように見えてしまうのも確かです。なにしろGMの2021年度の世界販売台数はホンダの1.5倍であり、特に北米におけるGMのEVの優位性は絶大なのです。

世界規模の売り上げという点で「GMと同等である」とするホンダは、さらに他の事業部門における研究開発でも、このパートナーシップが恩恵を及ぼすものと考えています。しかし、現実に目を向ければ、すでにEV用の生産工場を持ち、販売ルートも確立しているのはGMであり、現時点においては対等なパートナーシップと言えないことは明白ではないでしょうか。

ですが、この協力関係が熟していけば、手頃な価格帯のEVの共同開発が両者の間で進められることになり、その段になればホンダの貢献度もいよいよ増していくことになるでしょう。さらに、ホンダとGM--両社のアメリカ市場におけるビジネスが融合することで規模の拡大が図られることとなり、供給量の不足が恒常的な問題となっているレアアースの仕入れ価格について十分な競争力を持ち得ることも明らかです。

「私たちホンダが特に重要視している点について申し上げれば、それはどちらの社の技術力がより優れているとか、そのようなことではありません。GMとホンダが手を組むことで実現する、大量生産、コストダウン、販売力の強化が重要な意味を持つのであり、おそらくは、特にEV市場への参入段階、初期的段階において特にそのような関係が大きな競争力を生むものと考えているのです。それが今回のパートナーシップの最大の理由です」と、三部社長は念を押します。

後編へつづく

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です