まず、はっきりと伝えよう。ホンダ「Honda e」は、誰にでもおすすめできる仕上がりではない。とても格好よく人目を引くのだが、いささか個性的なつくりをしていて、例えるなら、着ていく場所や着たときの動きに制限があるなど、“着る人を選ぶ服”と捉えるとよい。逆を言えば、その個性的なつくりがライフスタイルと調和する方には、奥深くまで刺さる魅力を備えている。
それが、ホンダがグローバル戦略のもとに初めて世に送り出したこの電気自動車「Honda e」である。
ホンダ初の電気自動車というだけで話題性は十分だが、チャレンジ精神あふれるホンダらしく普通の電気自動車には仕上げてこなかった。電気自動車の普及を妨げているのは充電の手間に尽きるので、近年多くの自動車メーカーは大きなバッテリーを積んで航続距離を伸ばし、充電回数を減らすことに力を注いできた。しかしホンダは、その真逆を行ったのだ。
搭載するエネルギー源のバッテリーは、普通の電気自動車から見たら半分にも満たない35.5kWh。航続距離も約280kmでとても短い。あからさまに長距離移動では不便を強いられそうだ。その狙いは、まずどんなに航続距離を伸ばそうとも充電という“足かせ”は付くのだから、いっそ充電に不便のない自宅充電を基本とする。その代わり、電気自動車の魅力である静かさや速度コントロールのよさなどにすべてを注ぎ込み、自宅からの近距離移動をどのモデルよりも使い勝手よく、快適におこなえる究極のシティコミューターをつくり上げたのだ。
Q. 見た目は愛らしいけど、電気自動車としての使い勝手はどう?
A. ラウンジのような空間、大型タッチパネルモニターなど、テレワークできるほど心地よい一台です
もちろん、長距離移動も途中で急速充電などを使えば可能だが、想像しただけで不便そうだ。しかしバッテリーが小さい分、ボディーはコンパクト。いや、正確には全幅は1750mmあるので十分な室内空間は確保されているが、運転するとサイズ以上にコンパクトに感じる。その理由は、電気自動車のパッケージ自由度を生かしてリアにモーターを搭載し、フロント部は最強レベルの4.3mという最小回転半径を実現することができたから。
さらにドアハンドルは、ドアパネルに内蔵された可動式としてサイドミラーは超小型カメラに置き換えられ、そのカメラフレーム突起をボディ全幅よりも内側に収めることで、狭い道では軽自動車並みの走りやすさを実現した。
個性的なつくりはそれだけでない。携帯電話がキー代わりになるデジタルキー機能。座った前面の端から端まですべてモニターという、革新的で圧倒的な未来感を与えてくれる5連モニター。
また、クラウドAIのスマートスピーカーが搭載されていると思うと理解しやすいが、「近くのレストランで駐車場のあるところを探して」など、語りかけるだけでナビの設定からカーライフに必要な情報まで引き出せる。
改めて言うが、すべての人におすすめはできない。しかし、クルマを複数台所有している方や近距離でしかクルマを利用しない方、充電施設をつくれる戸建て住居にお住まいの方は、注目して損のない超個性的モデルだ。
ホンダ「Honda e」
ホンダがグローバルに展開する初の電気自動車。5ドアハッチバックスタイルで、都市型特化のコミューターというコンセプトが与えられています。
後端に搭載したモーターで、後輪を駆動するRRレイアウトを採用。運動性能に優れるだけでなく、最小回転半径4.3mという驚異的な小回り性能を誇ります。搭載されるリチウムイオンバッテリーは35.5kWhで、WLTCモードでの走行可能距離は283kmとされています。
グレードは2モデルで、ベース仕様は451万円、上級のアドバンスが495万円。
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Hondaお客様相談センター
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公式サイト
【PROFILE】五味康隆(自動車ジャーナリスト)
自転車トライアル世界選手権、4輪レースの全日本F3でも活躍した、ジャーナリスト。優れた運転技術と理論に基づく分かりやすい解説に定評あり。先進技術にも詳しい。YouTube「E‑CarLife」チャンネルにてクルマ情報を発信中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。