運転中、信号待ちで止まったお店のショーウインドウに映る姿を見て、名作映画や写真集の中に入ったような錯覚を起こし、なんだか特別な気持ちになる――。決してロマンチストではなかったとしても、そう思わせてくれるのはデザインが美しい車に与えられた特権。走りの良さも大切ですが、良質なデザインを求めることも、それと同じくらい大事なことのはず。

今回、特にそんなことを改めて思ったのは、繰り返し観てきた映画『卒業』やジャン=リュック・ゴダールの映画などでたびたび登場するアルファ ロメオだったからかもしれません。何の話かというと、アルファ ロメオが2023年8月26日(土)から発売開始する新型「トナーレ(Tonale)」について。

今回、8月3日の発表日にいちはやく試乗してきました。日ごろからニューモデルの情報をチェックしている人はお気づきかもしれませんが、実は「トナーレ」、日本では2023年1月にアルファ ロメオ初の電動化(モーター搭載)モデルとして華々しく登場したばかり。マイルドハイブリッドテクノロジー搭載車として、アルファ ロメオが電動化の扉をこじ開けた記念碑的なモデルでした。

この日発表されたのは、プラグインハイブリッド(PHEV)版に当たる「Tonale Plug-in Hybrid Q4(トナーレ プラグインハイブリッド Q4)」であり、試乗したグレードは「VELOCE(ヴェローチェ)」です。

美しいデザインが
時を超えて街中に映える

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui

まずは外観ですが、今回そのデザインの美しさを改めて感じさせられました。車体側面の基本的形状を構成するキャラクターラインをバキバキに入れることで、シャープかつエッジの効いたデザインに仕上げるモデルが多い中(それはそれで美しいのですが)、どちらかと言えばシンプルな面で構成されたエクステリア。優美な曲線が際立つ塊感が美しい隆起を生み出し、全体的に躍動感とエレガントな印象が車全体を支配しているようです。

そして、3連のヘッドライトに逆三角形のアッパーグリル、それを支えるように左右に伸びるダウングリル。その組み合わせに新旧のアルファ ロメオらしさが組み合わさり、ドラマチックな印象です。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
アルファ ロメオの象徴と言えば、蛇(ビショーネ)。チャージポート側のリアドアガラスには「エレクトロ・ビショーネ」のアイコンが 施され、電動化への変革をさりげなくアピールしています。

カラーについても触れておきましょう。アルファ ロメオによると、今回の注目色はコミュニケーションカラーにも使用されている「モントリオールグリーン」なのだとか。もともとはトナーレ マイルドハイブリッドの導入記念モデル「Tonale “Edizione Speciale”(エディツィオーネ・スペチアーレ)」の限定色として登場しましたが、あまりのオーダー人気の高さから「トナーレ プラグインハイブリッド Q4」では標準仕様としてラインナップされています。

やや攻めた色味に感じられるかもしれませんが、実際間近で観てみると、品があって、これみよがしな感じやいやらしさとは無縁。優美なデザインのボディとの相乗効果で互いの魅力が溶け合っています。

車内に乗り込むと、12.3インチの大型デジタルクラスターメーターが迎えてくれます。その表示は3種類(「Heritage」「Evolved」「Relax」)の異なるレイアウトから選択が可能です。全てデジタル表示ですが、スピードメーターとレブカウンターの大型2連メーターというアルファ ロメオならではの配置は健在。こんな所にもブランドが育んできた伝統が感じられ、思わず頰がゆるんでしまいます。中央には10.25インチのタッチスクリーン。直感的でスマホライクな操作が可能です。

室内はほぼオールブラックの洗練された空間ですが、無用な緊張感をかき立てるようなストイック過ぎるスポーティさは感じられません。車の中は、シリアスな話や普段話しにくいこともなんとなく話しやすいもの。シックで上質な雰囲気のこんな空間なら、車内で楽しむ会話もどこかドラマチックに変えてくれそうな予感も。ちなみに試乗した「ヴェローチェ」のレザーシートには、ヒーターとベンチレーションが搭載され、車内の居心地の良さはさらに格別です。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
コクピットはブラックを基調に、洗練された印象。
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
12.3インチの大型デジタルクラスターメーターには、スピードメーターとレブカウンターの大型2連メーターという構成です。
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
左側の「e-Save」ボタンを押すことで、バッテリーの充電レベルを上げるモードに。
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」」
Hiromitsu Yasui
センタースクリーンに新たに追加されたハイブリッド専用ページ。エネルギーフローの確認や充電設定などはこの画面から設定が可能。
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
すっきりと仕上げられたフロントシート周り。インパネはタッチスクリーンに加えて、空調管理などを司る物理的なボタンも採用。

走りの楽しさは毎日に
特別な時間をもたらす

さて、見た目のおしゃれさや、高い快適性をうたう車なら数多くあるわけですが、毎日の暮らしの相棒にするなら、走りの良さも欲しいところ。その点、「トナーレ プラグインハイブリッド Q4」はEVならではの力強さのサポートを受けて、走りの良さが底上げされていました。これは個人的な感想となりますが、MHEVから数段クオリティを上げてきたような印象を強く持ちました。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui

パワートレインを見てみると、フロントに1.3L直列4気筒マルチエアーターボガソリンエンジン(180ps / 270Nm)とフロント電気モーター(33kw / 53Nm)という布陣です。リアには最大出力94kw、250Nmを生み出す電気モーターを搭載。総出力280hpという力強い走りを生み出しています。0から100km/hへの加速は欧州値で6.2秒。ドライブモードは、Advanced Efficiency(モーターのみで走行する省燃費性能重視)、Natural(最も効率的なバランスで日常運転に最適)、Dynamic(エンジンとモーターを併用するスポーティなドライブモード)の3つをラインナップしています。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
搭載エンジンは1.3L直列4気筒マルチエアーターボガソリンエンジン(180ps / 270Nm)

アクセルを踏み込むと伸びやかなパワーが感じられ、体感するのは俊敏で軽快な走り。たくましさと安定感がみなぎっています。これは車体前後の重量配分の最適化(53%:47%)、さらには同クラスの最量販モデルと比べ、3%の低下に成功した低重心化による恩恵とも言えそうです。

MHEVに比べてバッテリー容量が増加したこともあって、車の重量は1880kg。これはMHEVの「トナーレ」と比べて250kgの増加となりますが、むしろ重量による安定感が生まれ、軽やかな走りがより際立っているようです。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
テレフォンダイヤルデザインのホイールはアルファ ロメオならでは。タイヤサイズは235/40R20。
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
2列目を倒した状態で500L以上の容量を誇るラゲッジルーム。60:40の分割可倒式です。

旋回中に車が横に傾くロールは、わずかながら感じられました。が、そこにストレスや不快な感じはなく、個人的にはむしろ好印象を受けました。ほどよく柔らかい乗り心地で、車が走行する路面の感じやその変化が刻々と伝わってきます。そしてハンドルを切ると、車も気持ちよくついてきてくれる。

つまり、ドライバー(私)が望む走りや加速、描こうとするカーブに合わせて「車が一緒に走ってくれる感覚」に、走りの楽しさを思わずにはいられません。以前、カーレースを中心に追いかけているカメラマンさんが、「自分が思う走りと、車が走ろうとする呼吸が合うと、とっても気持ちがいいんだよ。その出合いはそう多くないけどね」と話していましたが、この日「トナーレ プラグインハイブリッド Q4」に乗って、その言葉の意味を改めて思い知らされた気がしました。

ちなみに搭載するバッテリーは15.5kWhのリチウムインバッテリーで、WLTCモードで72kmのEV走行が可能。ガソリン+電気のトータル走行可能距離はおよそ600km超にも達するロングレンジ。日常生活はEV走行でエコに走り、週末のサーフィンやショートトリップにはガソリンエンジン走行を楽しむなど、自分に合った走り分けも楽しめます。

この完成度は次なる
BEVにも期待したくなる

アルファ ロメオが描く電動化のロードマップは、欧州で2022年に発表された「トナーレMHEV」から開始されています。他の欧米メーカーと比べて若干の出遅れを指摘するモータージャーナリストがいたことも確かです。それが、2023年発表の「トナーレ プラグインハイブリッド Q4」でここまでの完成度に仕上げてきたことは、前モデルに試乗した自分にも新鮮な驚きでした。そして2024年にはBEV(バッテリー式EV)の発表を控えるなど、ここにきて電動化へのピッチを上げてきたアルファ ロメオ。今後注目の存在へと一気に躍り出てきた印象です。

アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
アルファロメオ「トナーレプラグインハイブリッドq4」
Hiromitsu Yasui
【主要諸元】グレード:VELOCE、種別:PHEV(プラグインハイブリッド)、全長 × 全幅 × 全高:4530 × 1835 × 160mm、ホイールベース:2635mm、車両重量:1880kg、荷室容量:385L、乗車定員:5名、駆動方式:4輪駆動、最高出力:[エンジン]180ps/5750rpm、[モーター]前45ps/8000rpm・後128ps/5000rpm、最大トルク:[エンジン]270Nm/1850rpm・[モーター]前53Nm/8000rpm・後250Nm/2000、0-100km/h 加速:6.2秒、価格:740万円

受注生産モデルの「Ti」は675万円から、今回試乗した「VELOCE」は740万円から。そして「VELOCE」をベースに、サンルーフと電動テールゲート(ハンズフリー機能つき)を採用した限定モデル「SUNROOF EDITION」は755万円から。

余談ですが、試乗したこの日、私はお台場を抜けて東京ゲートブリッジを走らせてみました。真っ青な空に入道雲が浮かぶ夏らしい空の下、右手にダイナミックな東京湾が広がり、左手にはレインボーブリッジをはじめとする都内湾岸エリア。上空には、羽田空港に向けて着陸態勢に入った飛行機の白く大きな機体が浮かびます。その下をモントリオールグリーンの「トナーレ プラグインハイブリッド Q4」がすーっと音もなく駆け抜けていく様は、まさに爽快な夏のクルージング。日々の暮らしの中で、運転するだけで幸福な気分にしてくれる――この車にはそんな期待が高まります。

アルファ ロメオ 公式サイト