1963年、ブルース・マクラーレンによって設立されたレーシングチームから始まったマクラーレンの輝かしい歴史。ひも解いてみると、最高峰のカテゴリーに参戦するレーシングチームから始まり、その功績から市販車部門が設立されました。言わずと知れたF1チーム/コンストラクター(レースカーの製造者)の「マクラーレン・レーシング」、市販車を製造する部門が「マクラーレン・オートモーティブ」となります。レース界で、また、エクスクルーシブなスーパーカー市場で多くのファンをもつビッグブランドであることは、広く知られているところです。

マクラーレンの市販プロダクトは四つのカテゴリーに分かれます。ナンバーを取得し合法的に一般道を走れるロードカーは、快適性を求めた「GT」(グランドツーリング)、スポーツ性能を追求した「スーパーカー」、そのスポーツ性能をレーストラック寄りにスパルタンに仕上げた「アルティメット」という三つのシリーズで構成されます。

残るカテゴリーは「モータースポーツ」です。こちらはレースに参戦する各ユーザーへのカテゴリーに対応した、レースカーの開発・供給が主な業務です。いずれにせよ、特別なスポーツカーをつくることが可能なブランドであることに間違いありません。

詰め込まれているのは
レースカーと同じ技術

マクラーレン「750s」
McLaren
マクラーレン750s
McLaren

マクラーレンの最新モデルは先日、日本でも発表された「スーパーカー」シリーズの「750S」です。このカテゴリーはライバルがひしめく市場であり、各メーカーによるクルマづくりの個性が表わる領域です。

マクラーレン最大の特徴は、ロードカーの第1作目となる1992年の「マクラーレンF1」から終始一貫、全てのプロダクトが「カーボンファイバー製のシャシー」でつくられていることにあります。シャシーとは乗員を包むキャビンであり、その空間は宇宙船のように強靱(きょうじん)で軽量なカプセルで守られているのです。

他社では、フラッグシップカーや限定車のような特別モデルだけに採用する骨格ですが、マクラーレンは一切の妥協を許しません。同社は他メーカーに先駆けてF1のレースカーにカーボンファイバー製モノコックを採用した歴史的経緯がありますが、それは1981年の「マクラーレンMP4/1」に始まり、現代F1の主流となっています。

車名に入る3桁の数字は、各モデルの最高出力に由来します。つまり「750S」は750psの最高出力を発生する総排気量4LのV8ツインターボエンジンを採用。搭載位置は乗員の後ろにエンジンを搭載する、ミッドシップのレイアウトを採用しています。

将来的にはいずれ、BEV(バッテリー式EV)しかつくれない時代が到来するかもしれませんが、ステアリングにパワートレインの振動を理論的には、ほぼ伝えないミッドシップカーの乗り味は格別です。無論、最新スポーツBEVのパフォーマンスは侮れないのですが、現時点ではいくら低重心化に腐心してもバッテリーの絶対的重量を打ち消すことはできません。

マクラーレン「750s」
McLaren
マクラーレン「750s」
McLaren

「750S」は純内燃機関であるエンジンを採用する「スーパーカー」として、同社で最後のモデルとなる可能性があります。というのも、このシリーズにはマクラーレン初の電動化モデルとなるPHEVの「アルトゥーラ」が2021年に誕生しており、既にローンチ済みです。規制が強化されるなか、スポーツカーと言えども電動化は既定路線と言えるでしょう。

マクラーレン「750S」を愛車候補にすべき点はまだまだあります。まず、先代モデルにあたるのが最高出力720psを発生する「720S」というモデルなのですが、「750S」はパワートレインやサスペンション、空力特性まで、あらゆる点でブラッシュアップされています。

基本デザインはスーパーカーらしく、また、機能性に特化したレーシングカーの風情も漂います。「日本でのローンチは年内には始まる」と言いますから、正規ディーラーで「750S」に試乗することが可能となる日はそう遠くありません。

多くの工程は今も
職人がハンドメイド

注意したい点もあります。マクラーレン各車の製造工程はYouTubeなどで見ることも可能ですが、そのほとんどが量産車にほど遠く、他車のスーパーカーの生産ラインさえオートメーションに見えるほどハンドメイドでつくられます。

ちなみに塗装工程は、ガラス張りの専用ブースで熟練のクラフトマンがハンドガンで塗装します。その仕上がりは素晴らしいのですが、手づくりということはそれなりの時間を要することを意味します。

マクラーレン「750s」
McLaren
マクラーレン「750s」
McLaren

昨年、マクラーレン・オートモーティブの生産数は全モデルを合わせて2188台でした。パンデミック前は年間生産台数5000台に届く勢いでしたが、幸か不幸か、世界情勢の変化はあらゆるところに影響を及ぼしています。

2023年、マクラーレンはF1チーム設立から60周年を迎えました。最高峰に位置づけられるモーターレーシングのテクノロジーを、完全にフィードバックしたクルマづくり。その高度な機能性の集合体は、見た目だけで理解できるものではないでしょう。

それはある種の英国流の謙虚さなのでしょうが、逆にそれが「マクラーレンのじれったいほどの魅力を生んでいる」とも言えます。いま、希少なスーパーカーのステアリングを握る最後のチャンスが訪れ、やがて過ぎ去ろうとしています。

マクラーレン「750s」
McLaren