準備不足の不安があったとは言え、2021年にF1参戦を果たした日本人ドライバー・角田裕毅選手は有望株として注目を集めていました。F3とF2でわずか2年間を過ごした後、そのままレッドブルグループを親会社に持つスクーデリア・アルファタウリ(以下、アルファタウリ)からF1デビューを飾りました。

2021年シーズンには苦戦しながらも底力を見せた角田選手でしたが、翌年も苦しいシーズンとなったと言えるでしょう。そんな中、角田選手の所属するアルファタウリでは、2023年シーズンを託すドライバー最有力候補として期待していたコルトン・ハータ選手との契約において、F1スーパーライセンス規則が障壁となって実現しませんでした。そのため、次善策としてウィリアムズのリザーブドライバーだったニック・デ・フリース選手と契約…。その時点で既に角田選手の同僚だったピエール・ガスリー選手に関しては、アルピーヌへの移籍が決定していました。

これが何を意味するのかと言えば、角田選手にとって3シーズン目となる来シーズンの参戦が、現実的なものとなったということです。レッドブルと言えば、過去にはF2からトロ・ロッソに移籍したばかりのアレックス・アルボン選手に対して…その半年後には、トップチームのセカンドシートを与えたにも関わらず、わずか2シーズンで放出した逸話も残る「短気なチーム」です。今回だけは、「珍しいほどの忍耐強さを示した」ということになるのでしょうか。

ヨーロッパでの経験がまだ浅い角田選手にとって、3度目となる今回のチャンスは自身がレッドブルという組織にとって必要な存在であることを証明してみせる重要な機会となるでしょう。うがった見方をすれば、今のレッドブルは他にめぼしい選択肢を持っておらず、また契約上参戦せざるを得ないという現実的な事情もあります。そんな事情はさておき、角田選手がF1ドライバーとして2023年シーズンを迎えるチャンスをつかんだということは確かな事実と言えるのです。

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角田選手のこれまでのキャリア

角田選手にとってフォーミュラでのキャリアが幕を開けたのは2016年、日本国内で開催されているFIA-F4シリーズへの参戦でした。翌年、初めてフル参戦を果たし総合3位でシーズンを終えると、2018年のFIA-F4ではシーズン7勝を挙げ、自身初となるチャンピオンの栄冠を手にします。ここから、F1への道を一気に駆け上がることとなったのです。

F1におけるホンダとレッドブルの強い関係から、2019年にはレッドブルのファームシステムに参加し、FIAフォーミュラ3選手権(FIA-F3)で総合9位という見事な成績を収め、1年間の活躍を終えました。2020年には若さよりも経験が活きるとされるF2に昇格し、ルーキーでありながら総合3位という好成績を収めています。12回のレースで4回のポールポジションを獲得し、最終戦までチャンピオン争いに絡んだものの、最後は同じく2021年にF1デビューを飾ることになるミック・シューマッハ選手にタイトルを奪われシーズンを終えることになりました。

その後、まもなくホンダとレッドブルとの関係が決裂。共同で行っていたドライバー育成も中途半端な幕切れを迎えることとなります。そこでレッドブルは2021年シーズンのドライバーとして、F3とF2をそれぞれ1年ずつしか経験していない20歳のルーキー、角田選手をアルファタウリに移籍させるという決断を下したのです。つまり、翌2023年シーズンは自身にとって移籍3シーズン目ということになります。

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2022年シーズンのパフォーマンス

2021年シーズンにはチームメイトのピエール・ガスリー選手に水を開けられた格好の角田でしたが、2022年になるとその差も大きく縮まりました。ですが、残念なことにアルファタウリのマシンは競争力に乏しく、結果として前年以下の総合成績でこのシーズンを終えることとなりました。

これまでの全成績は、決して華々しいものではないかもしれません。ルーキーイヤーとなった2021年シーズンに角田がポイントを獲得したレースは7回。翌2022年はわずか4回に終わっており、前年の32ポイントに遠く及ばず、わずか12ポイントにとどまりました。それでも低迷したガスリー選手と比較すれば、遥かに期待の持てる成績であったと言えるでしょう。

2021年シーズンは22レースのうち、21レースでガスリー選手が角田選手を上回る成績を残しました。それが2022年には、21レース中13回と接近したのです。2021年の獲得ポイントはガスリー選手が110ポイントで、角田選手の3倍以上の成績を収めました。しかし2022年にはガスリー選手も23点に留まり、角田選手はその半分以上となる12ポイントを挙げています。

これは今だ、「ガスリー選手のほうが優れたドライバーである」ということを明示する数字ではあります。ですが、角田がその差をレースと予選の両方で大きく詰め、より安定した指標に近づきつつあることを示してもいるのです。つまり…これは“進歩”と捉えることのできる成績であり、競争力の不十分なチームで不振の1年を過ごした有望な若手をこのまま見捨てることは得策ではないと決断するには説得力を持ったものと言えるのです。

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2023年シーズンの目標

しかしながら、その進歩はまだ十分ではありません。角田選手がこのままF1に留まることを望むのであれば、単なる有望株として3年目となるシーズンを終えることは許されないはずです。フェルナンド・アロンソ選手の後釜としてアルピーヌから声のかかったガスリー選手のように、角田自身も強いドライバーであることを証明しなければならないのです。必要なのは、より安定したポイントの獲得とQ3進出。そして、なにより重要なのはルーキーとしてチームに加わったニック・デ・フリース選手と、少なくとも同レベルのパフォーマンスを確実に見せつけることです。

これは、決して簡単なことではありません。デ・フリース選手はF1においてはルーキーですが、角田選手と同様に国際的なレベルのレースで経験を積み上げてきたドライバーです。昨シーズンはアルボン選手の代役としてウィリアムズからデビューを飾ると、その唯一のレースで見事ポイントを勝ち取って見せました。F1での経験で劣るものの、確かな実力を秘めたチームメイトを角田選手が打ち負かすことができれば、2024年シーズンにはもっと良いポジションを得ることも夢ではありません。しかしながら、ここで競争力を発揮できずに終わるようなことがあれば、そのまま今後のF1の道が断たれてしまう可能性もある…ということも忘れてはないらないでしょう。

理想的なシーズンの展望

現在の角田選手にとって成功とは、「グリッドを確保し続けること」にほかなりません。新たな若手ドライバーを獲得するよりも自分のほうが優れているとレッドブルを納得させるだけの走りを見せるか、もしくは、レッドブルの育成ドライバー以上の価値を持つ存在であることを他チームに示すことができるか…そのいずれかが必要になるのです。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です