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  • 2024年2月、スパイダーも加わる
  • アートと未来で「アルトゥーラ」
  • エンジンは3リッターV6ツインターボ
  • バッテリーは異例の6年保証
  • 電動化をポジティブに変換

2024年2月、スパイダーも加わる

音もなく待ち合わせに現れたのは、誰もが振り返る美しく官能的なスーパーカー。通常、この手の車に乗るオーナーを悩ませるのは好奇心に満ちた人々の目。多少の悪目立ちもド級のスポーツ性能を有する対価だと自身を納得させることも可能でしょうが、もう少しスマートな振る舞いも今の時代には必要不可欠な要素。

マクラーレン「アルトゥーラ」は走行用のバッテリーと電気モーター、そして内燃機関であるエンジンを併用するハイブリッドパワートレインを搭載。一般的に区分すると、外部電源からバッテリーへ充電することも可能なPHEV(プラグインハイブリッド車)になります。

マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren
マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
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マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren
マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
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実用的なEVモードに切り替えれば、学校へのお迎えだって気兼ねはありません。その身のこなしは上質なサルーンのたたずまい…といったら大げさでしょうか。しかし、ある種のオーラを発する機能美にあふれたそのフォルムに惑わされてはいけません。

絶対的に生産数の少ないエクスクルーシブなスーパーカーの世界にも、電動化の波が押し寄せています。マーケットを見渡せばごく少数のBEV(バッテリー式EV)も存在しますが、まだまだ制約も多く、実質的な選択肢としてはPHEVという声も多く聞こえてきます。

マクラーレンが満を持して量産型PHEVである「アルトゥーラ」を発表したのは、2021年2月17日のことでした。ローンチ時の設定モデルはハードトップの屋根がある流麗なクーペでした。そして2024年2月27日。待望のオープントップモデル「アルトゥーラ スパイダー」を追加発表。実際に発表会に足を運びましたが、会心の出来を予感させます。

現在、日本でも2025年生産分として受注がスタートしていますが、その感触は上々なのだとか。電動化モデルへの関心が高まるなか、モータースポーツの分野とも深いつながりを持つ「マクラーレン」ブランドの今を分析してみましょう。

アートと未来で「アルトゥーラ」

「Artura(アルトゥーラ)」という車名の由来は、ブランドの方向性を示すかのような「Art and Future」を組み合わせた造語です。同社が掲げるプロダクトデザインの方向性を意訳すれば、「機能的な形は美しくエモーショナル」ですから「アルトゥーラ」はまさに「マクラーレン・オートモーティブの新章の始まりを告げるモデル」と言えます。

技術的トピックはまず、新設計のカーボンコンポジットのモノコックシェル「MCLA(マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャーの略)」が挙げられます。完全自社開発、さらに生産自体も新設した自社工場で行われています。

マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren

バッテリーは相応の重量物ですので、スーパースポーツカーでなくとも車の運動性能を大きく左右します。エンジニアであれば当然、可能な限り低く、重心に近い位置にこのバッテリーを搭載することを目標とします。よってマクラーレンは、この「アルトゥーラ」を開発するにあたり既存のアーキテクチャーを使うことなく、ゼロベースの新開発に挑みました。

一般的にPHEVというと燃費性能に優れ、CO2排出量を低減した車と解釈されます。電気でモーターを駆動し電気自動車として走らせることもできれば、エンジンの出力と組み合わせることで走行シーンに応じて効率よく走らせることができます。

無論、「アルトゥーラ」にもそれは該当します。搭載する容量7.4kWhバッテリーと最高出力95psの軽量アキシャルモーターを用いたEVモードの走りは、最高速度130km/h、WLTCモードでの航続距離はおよそ30km、メーター内に走行可能な距離を表示させることもできます。しかし「アルトゥーラ」の本質は、それだけではありません。

エンジンは3リッターV6ツインターボ

マクラーレンは車体のみならず、エンジンも新規に開発を行いました。アキシャルモーターと組み合わされるエンジンは、120度のバンク角をもつ3リッターのV型6気筒ツインターボエンジン。最高出力585ps(システム総合680ps)を発生させます。V字というには随分と広い開き角度ですが、このバンク角120度を採用することで極めて振動の少ない低重心のエンジンが完成します。

マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren
マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren

「M630」のコードネームを持つこのエンジンは、完全等間隔で爆発・燃焼します。時計の盤面をイメージしていただくと、12-2-4-6-8-10と60度ごとに爆発・燃焼が起こります。よって、トルク変動も偏ることなく、とてもスムーズに回ります。

難点があるとすれば、広く普及した60度や90度のバンク角をもつV型エンジンと比較して、エンジン本体の幅は広く、相応の搭載スペースが必要となる点でしょう。しかし「アルトゥーラ」は、エンジンを乗員の後方に搭載するミッドシップカーなので、そのウイークポイントは該当しません。

バッテリーは異例の6年保証

さて、PHEVというと充電時間も気になる所でしょう。この「アルトゥーラ」は、200Vの普通充電器でおよそ5~6時間で賞味電力の100%までエネルギーが回復します。ただし、一般的に充電器の特性として60~70%近くなるとバッテリー保護(寿命)の観点からゆっくりと充電を行うので、実用上は5~6時間の半分ほどの時間で大丈夫かと思います。しかも「アルトゥーラ」のバッテリーは、異色の6年間保証が付帯しています。

マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
McLaren

走行中の充電は駆動用モーターを併用して発電・充電が行われ、最大100%までバッテリーが満たされます。これは一般的なPHEVでは難易度が高く、どんなに効率が良くても「最大80%程度」と言われています。さらに「アルトゥーラ」の場合、スポーツドライブではネガティブな要素になると判断し、(減速時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換して再利用する機能である)回生ブレーキすら使いません。

ちなみにもっとも充電効率がいいドライブモードは、サーキット走行などをターゲットとした走りの「トラックモード」なのだそうです。そんなところも実に「マクラーレン」らしく、本質的にモータースポーツのDNAを感じさせてくれます。

電動化をポジティブに変換

技術的トピックだけでも相当な文章量になるので割愛しますが、バッテリーパック88kgとアキシャルモーター15.4kgを含むハイブリッド(電動化)コンポーネントの総重量は、わずか130kgしかありません(クーペで乾燥重量1395kg。スパイダーは+62kgの1457kg)。「アルトゥーラ」のデビュー時を振り返れば、純エンジン車の「720S」と比較してもクーペ比で+110kgに収まってしまいます。この軽量化技術は脱帽ものです。

電動化の影響はネガティブではなく、むしろポジティブ。エンジンの出力特性をベースにドライブモードに応じモーターのアウトプットで走りを演出する「アルトゥーラ」。このようなマクラーレンの先進的な取り組みが、この車が英国ブランドであることを改めて強く意識させます。

マクラーレン「アルトゥーラ スパイダー」
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