不評の「岸田減税支持率」
支持率低下で最低に

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2021年12月21日の岸田内閣総理大臣記者会見より。

岸田文雄首相の内閣支持率が低下している。各所の調査で下落が目立つが、分かりやすいのは10月27〜29日にかけて行われた日本経済新聞社とテレビ東京による調査だろう。支持率は33%と岸田内閣が発足して以来最低となり、不支持率は59%にも及んだ。調査の対象日は岸田首相が減税案を打ち出してからのものであり、不支持の主な理由は「政策が悪い」(52%)である。

どうやら、彼が独自に打ち出すことにこだわった減税案が不評であるらしい。物価高対策としての所得税減税が「不適切」とする意見が65%にも上っている。

一方、日経新聞の同調査で、上ブレした税収の使い道について聞いたところ、「減税」が35%で最も多く、「防衛や少子化対策など政策の財源」が26%、「国の債務の返済」が20%、「給付金」が14%と続いたという。減税と給付金を合わせると49%になり、現金を国民に渡すことに関しては一定の支持があり、少なくとも一致した強い反対があるわけではない。

首相は何を読み違えているのだろうか?

期間「1年」に見えた
その場しのぎと後の増税

岸田案は、所得税3万円、住民税1万円の減税を骨子として、期間は1年、低所得者には増額した給付金を組み合わせる、などとしたものだ。

あれこれ配慮したとも言えるし、いささか複雑だとも言える。仮にこの方針でいくとした場合、今後の検討・議論・国会審議では、相当に複雑な話になりそうだ。

率直に言って、この案は、誰か悪意のある人がアドバイスしたのではないかと思うくらい多方面にダメなのだが、何が最もダメなのか。

一番ダメなのは、ずばり「期間1年」である。

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2022年3月3日、記者会見前に日の丸に向かう岸田文雄首相。日本政府はこの日未明にロシアのウクライナ侵攻を受けて、「ロシアの銀行4行の資産を凍結する」と発表した。

国民が求めているのは「物価高への対策としての生活支援」だ。税収の上ブレ部分の利用方法として、日経新聞の調査では「減税」を求めているが、これは一度限りではなく、将来も続く継続的なものであるべきだ。上がった物価は将来も継続するのだし、その後も上がる可能性がある。経済対策は、これに対応するものでなければ、生活の支援として有効な、安心のできるものではない。

そこを期間について1年と区切ってしまうと、単に税収の上ブレ分を一時的に返して人気取りをしようとしているとしか見えない。

手元の現金が増えるのが一度きりだと分かっていると、今後が不安だから安心して使えない。コロナ対策で支給された現金は、期待された消費と景気の浮揚効果がほとんどなかった。あの時の教訓を思い出すべきだ。人は安定的に将来の所得が増えると予想できると、その予想に応じて消費支出を増やす。

「将来また、必要があれば対策を考える」というのでは安心もできないし、信用もできない。「当面必要な間は減税するが、将来不要になれば対策は打ち切るかもしれない」というなら、どれだけ信用するかはともかくとして、話としてはリーズナブルなので、支持してもいいと考える向きが増えるのではないか。

「1年限り」とした段階で、「どうせ将来の増税で取り返すのだろう」と底意を見透かされている。

その他の比較でもダメ
「悪意ある愚案」を疑うレベル

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将来の経済環境にもよると多少は信じたいが、防衛費や少子化対策については、増税による財源が必要だと目されていて、岸田首相はその可能性を決して否定しない。仮にこうした増税を用意しているなら、今回の税収の上ブレ部分を手間とコストを掛けて配ったりせずに、これらの費用に充てる方がマトモだと見ている国民が、日経新聞の調査では相当数いる。これも当然の感覚だろう。

また、1回限りなら、減税よりも給付金の方が制度設計をシンプルにできる。行政に掛かるコストも安く済むはずだ。

これを、「形は減税にしたい」というのだから性が悪い。はっきり言って「増税メガネ」というあだ名を気にした岸田首相の幼稚なこだわりのせいなのではないか。

しかも、所得税と住民税とに分け、さらに低所得者には給付金を配るなど、たかだかこの程度の金額のメリット配布に対して、行政側で関わる人を増やしすぎだ。これは、もちろんコスト高にもつながる。

この辺まで考えてみると、岸田首相にこの政策をアドバイスした人物は、何か悪意があってあえて愚案をアドバイスしたのではないかと勘ぐりたくなる。

また、所得税の減税という選択も政治的センスが良くない。制度設計や手続きが複雑であり、しかも一時限りなのだから、効果に注意が向きにくい。

減税の対象を消費税にして「必要性が認められなくなるまで続ける」とするなら、実は家計に対する効果が表れるのはゆっくりなのだが、減税実施の初日から買い物の際の価格が下がったと実感できる。

生活者にとって、「岸田さんが、物価対策のために消費税を下げてくれた」と納得しやすい。これだけ多面的かつ総合的にダメな政策で、名だけ「減税」を強調する一方で、ごく近い将来の増税をちらつかせているのだから、支持率が下がるのは当然だ。

財務省に言いたい
岸田内閣を
無様にし過ぎていいのか

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2023年6月13日、首相官邸で記者会見する岸田文雄首相。そこで閣議決定した「こども未来戦略方針」の方針のポイントとともに、支援策の内容に関しての報告がなされた。

推測するに、財務省は、そもそも税収の還元などしたくないのだろう。ごく近い将来に増税するなら、もっともだ。加えて、何よりも将来に及ぶ恒久的な形での増税を実現させて、税収の拡大と安定を図りたいのだろう。

タイミングの判断が重要であることが前提だが、長期的に税収の安定を図ること自体は悪くない。

増税するのは「ごく近い将来」ではない方がいいと筆者は思うが、将来増税が必要だとしよう。しかし、岸田首相に今回のような誰が見てもあまりにダメな経済対策を振り付けていると、岸田内閣下の税制や関係者に対する信頼感が低下してしまう。岸田内閣は短命だと既に見切っているのかもしれないが、あまりに無様なことはさせない方がいいのではないかと、一言忠告したい。

ダメな減税案の他にもある
岸田政権を見切るべき理由

さて、岸田首相自身が増税を指向しているのだとしよう。歳出の合理化を行わない、あるいは経済政策として適切なタイミングを考えない増税には賛成しかねるが、それ自体は、政治家としての信念や意見として尊重してもいい。

しかし、国会の代表質問でも首相の資質が問われているが、今回のダメな減税案に加えて、岸田氏を首相の器ではないと見切っていい理由が他にもあるように思われる。

一つは、結局世間を騒がせただけで、適切な人事であったことは何一つ証明されずに本人の辞任に至った、長男の首相秘書官(政務担当)への起用だ。地位を与えて、息子を育てようと思ったのかもしれないが、身内に対して甘すぎる。

こうしたことを行う人物は、物事をそれ自体の論理や大義によってではなく、人間関係やその時の感情に影響されて判断するので信用できない。首相の立場にはいない方がいい。

もう一つは、本人が中身を語ることができないまま、キャッチフレーズを振り回して、中身を考えるための有識者会議を作った「新しい資本主義」を巡るぐずぐず具合だ。この様子を見て筆者は、岸田氏が自分でものを考えていない人物であることを確信した。

それを「いい」とおだてる側近のレベルも低いのだろうが、「聞く力」「異次元の少子化対策」など、中身のない見出しの言葉を発して得意になる様も見苦しい。今回の「減税」へのこだわりも、何ともくだらない。

誰かが倒閣を始めたらいい
自民党は
政治的活力を取り戻せ

全くその器ではない岸田氏が首相にとどまっている理由は、野党に全くパワーがないことの他に、自由民主党内でのけん制の均衡が出来上がっているからだろう。誰かが、「岸田氏に総裁・首相は任せられない。私が総裁になる」と手を挙げた瞬間に、ライバルたちがつぶしに来ると期待されるような、抑止力が働いている。

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しかし、このつまらない均衡は崩すことができるはずだ。

例えば、今回の減税案は政策としてダメなことが誰の目にもはっきりしている。閣僚の中にも、「ばかばかしい」と思う人物は少なくあるまい。閣議決定の際に批判を唱えて、閣僚を辞任してしまうといい。国民は大いに支持するだろう。

そこで、閣僚からも閣僚以外からも、もう2~3人が批判の声を上げたら、政局は一気に流動化するのではないか。岸田内閣の退陣と、自民党総裁選挙の前倒しを求める声が大きくなることが期待できるのではないだろうか。

第2次安倍政権があまりに無風であったせいか、自民党内の政治的活力がひどく低下している。しかし、岸田政権を長続きさせることがいいとはとても思えない。

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