当初は私は別の車で
伴走的支援をする計画でした

カレンダーを2022年2月に戻しましょう。そこで私は、まずはテキサス州ヒューストンまで飛行機で行き、そこで親友に会ったのちに同州の街オースティンで開催される「RADWOOD(ラドウッド)」へ顔を出す計画でいたのです。「ラドウッド」とは、1980~90年代の旧車の集まる自動車イベントです。

そこでカーメディア「R&T」のカメラマンであるケヴィン・マコーリーは、カーコレクターである友人(そのコレクションの数々はこちら)に彼のコレクションの中の一台、フィアット「パンダ4x4」を授かり(もちろん一時的に)、私(この記事の筆者である「Road & Track」編集部のクリス・パーキンス)と一緒にヒューストンからオースティンまのでおよそ180マイル(約290km)のドライブをするという想定でした。

とは言え、非力で小さな「パンダ」です。大型トラックばかりが走るテキサスの道を行くのはあまりに心細い…。そこで私のほうは、その友人のコレクションの中からの一台、メルセデス「Sクラス」を借りて盾になるよう伴走することにしていました。

するとコロナ禍の影響でしょうか、お目当ての「ラドウッド」は2カ月も延期されることになります。さらに、その空白に2カ月の間に、カーコレクターの友人は私が乗るはずであったメルセデス「Sクラス」を、なんと売却していたのでした…。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Fiat Panda 4x4 Radwood Road Trip (2022: A Panda Odyssey)
Fiat Panda 4x4 Radwood Road Trip (2022: A Panda Odyssey) thumnail
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計画の見直しを迫られることに…

というわけで結局マコーリーと私は「パンダ」に同乗し、交代制で運転席に座ることになったわけです。結果、そこで何が起きたと言えば、 それはもう今まで経験したこともないほどのストレスに満ちたドライブとなったのです。しかしながらその全体像としては、極めて楽しい旅路ではありました。

マコーリーは道中のあれこれを、ビデオに収めていました。ですが私のほうは当初、これを記事にしようなんて全く考えてもいませんでした。ですが結果的に、あまりにもおバカな旅とあったということで、その記念にちょっとだけ書かせてもらうことにします。

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Vittoriano Rastelli//Getty Images
若かりし日のジョルジェット・ジウジアーロ。
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Raphael GAILLARDE//Getty Images
車以外のデザインも多く手掛けていますが、コチラはブガッティ「EB 112」とジウジアーロ。やはり彼には車が似合います。

フィアットの「パンダ」と言えば、イタリアを代表する工業デザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロによるインダストリアルデザインの金字塔と言えるでしょう。フィアット「500」の遺伝子を具さに受け継ぐ車としても知られています。1980年代から90年代にかけてのイタリアで、ファミリーカーと言えばこの「パンダ」が筆頭格でした。

イタリアの山岳地帯やアルプス近郊に暮らす人々のために、「4x4」仕様車がつくられたのが1983年のこと。オーストリアのシュタイア・ダイムラー・プフ製の切替式4輪駆動システムが採用され、車高も十分に高く、非の打ちどころのない小型車です。私たちが借り受けた「パンダ」は、1993年式フィアット「パンダ4x4カントリークラブ」です。青と青緑を基調とした内外装が目を引く1台でした。そのときの走行距離の表示は約15万1000キロであり、修理歴は不明…。

テキサスでパンダは暮らしにくい…
それが、この旅でわかっていたこと

「絶対に無理!」とまでは言いませんが、「パンダ4x4」が「現代のアメリカに適している」とは決して断言できません。特にトラックだらけのテキサス向きではないことは確か。1000ccのエンジンを積んでいますが、これは新品でも50馬力以下という代物。ギア比も小さく、時速72マイル(約115キロ)も出せばもう限界となります。

オーナーである友人が手に入れたのは、去年の夏ということ。それから多少の整備はされているようですが、冷却パーツの汚れを見れば、整備が十分な仕上がりでないことは明らか。オースティンまでの長い道のり、水温計は常に沸騰状態でした。オーバーヒートを起こさなかったのが、実に不思議なほど。渋滞に巻き込まれると水温が下がるのですが、道が流れ出すとまた水温が上昇してしまうというありさまです。

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Chris Perkins
マッチョな2台に囲まれた「パンダ」。かわいい。

結局、最終的にはことなきを得ましたが、他にも不安な点がなかったわけではありません。横風にあおられれば、途端に制御が困難になります。ですが、それに関してはリアウインドウを開け放って風を通すことで、どうにかやり過ごすことができました。

追い抜いて行くトラックの恐怖については、車高の高さに多少救われた感があります。ですが、それでも自分たちがブリキの小箱の中にいるという事実から逃れられることはできませんでした。しかも、気温は30度近くまで上昇します。通気口からは熱風が流れ込んでくるような暑さで、窓を開けてどうにかしのぐほかありませんでした。

やっぱり「パンダ」は魅力的な車でした

小言が多くいってしまいましたが、実に魅力的な車ということも再確認できました。

エンジンの頑張りはなかなかですし、ギアボックスも驚くほど滑らか。ですが、1速ギアでは時速12マイル(約19キロ)がせいぜいと言ったところで、数えきれないほどのシフトチェンジが求められるのも事実です。のんびりとした加速ではあります。が、スピードに乗れば、安定した足回りを感じさせてくれるのです。

サスペンションは柔らかな上にタイヤも小さく、さらにその幅165mmということもあって、カーブを曲がれば車体がちょっと傾きます。ですが、傾きすぎるということはなく、不安感もありませんでした。

オースティンからヒューストンまでの帰路については、道が空いていたこと、気温がそこそこ低かったこと、出発前に冷却水を補充したこと…などが功を奏し、オーバーヒートの不安からも解放されました。そうなればもう、ドライブはただただ楽しいばかりです。

 
Scott Halleran//Getty Images
ヒューストンのスカイライン。

ところが、いざヒューストンに帰り着く頃には、そこで再びアイドリング時のオーバーヒートが始まったりもしました。そうこうしながらも、最終的には無傷でオーナーである友人の元へ返すことができました。そのときには心の底からホッとしたものです。冷却用のファンがときどき止まってしまうという不具合もありましたが、まずはそこから修理をすれば、運転中のストレスはかなり軽減されるでしょう。

カーメディアで仕事をしていると、何台もの素晴らしい車に乗ることができ、それはこの仕事における最大の喜びの一つでもあります。今回の「パンダ」は、特に印象深い1台となりました。

もしマコーリーが、「もう一度しようよ!」とこのロードトリップの再現をお願いしてきたら…、もちろん、私もためらうことなく同行するでしょう。ただし、「他の誰かにすすめることはできるか?」と問われれば、ちょっと考えてしまうかもしれません…。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です