アマゾンの
ブラックフライデーセールは
複雑な仕組みで成り立っている

今年もアマゾンのブラックフライデーセールが始まりました。先に「アマゾンの術中にハマった」という身近なエピソードをご紹介します。

ダイヤモンド・オンラインの編集者がネタ探しの一環でアマゾンのブラックフライデーを確認したところ、うっかり最新のAirPodsを買ってしまったそうです。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

それで私に「今週の記事テーマはアマゾンでどうか?」という打診が来たので、私もアマゾンのブラックフライデーを確認したのです。すると楽天のお買い物マラソンで買うつもりだった「奇跡の歯ブラシ」が楽天よりも安くなっていました。それでそのままアマゾンで買うことになりました。

それでふたりで打ち合わせをしながら「どういう仕掛けで私たちはこうやって買ってしまうのか?」を解説する記事を書こうと決めたのです。

実はアマゾンのブラックフライデーセールの裏側の仕組みは、思っている以上に複雑です。ざっくりとまとめただけで7つの異なる意図があって、結構複雑な仕組みに組み上がっているのです。その戦略意図ごとに、何が行われているのかを解説しましょう。

アップル、ルンバ、ダイソンなどは
集客のための目玉商品

まず一番目の戦略意図は「集客のための目玉商品」です。

これはダイヤモンドの編集者がまさにひっかかった作戦ですが、集客の目玉として人気商品を驚きの安さで用意してあるのです。

アップルのAirPods Proはまさにそのひとつで、実際、この記事を書いているタイミングでもアマゾンのイヤホンカテゴリーでベストセラー1位になっていて、過去1カ月で2万点以上購入されたという表示もあります。

apple airpods pro
MacFormat Magazine//Getty Images
※写真はイメージです。

読者の皆さんもご存じの通りアップル製品は値下げが行われにくいことで知られています。それが、今回のブラックフライデーセールでは15%引きで価格が6000円も安くなっているので、見た瞬間に買う人が出てくるのは容易に想像できます。

それ以外にも自動掃除機のルンバや、ダイソンのスティック掃除機などそのブランド力だけで集客ができる人気商品がブラックフライデーセールで大幅値引きになっているのですが、それが集客のための仕掛けになっているのです。

楽天などの競合サイトから
お客をスイッチさせる狙いも

次に二番目の戦略意図が「競合サイトからのスイッチ」です。

これは私がまんまとひっかかった作戦にあたるのですが、私が楽天から買うつもりだった商品を結局アマゾンで買ってしまったので、アマゾンから見ればスイッチに成功したことになります。

私が買った「奇跡の歯ブラシ」というのは磨き残しが少ない特別なブラシ構造になっていることでSNSサイトで話題の歯ブラシでした。少し前のことですがお試しで買ってみようと思って比較するとアマゾンよりも楽天の方がポイントを含めると安く買えそうだと思い、SPUでポイント還元率が上がる11月25日に買おうと楽天のカートに入れておいたのです。

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もちろんアマゾンは私の楽天のカートの状態などわからないのですが、私がアマゾンで「奇跡の歯ブラシ」を検索したことは知っています。他にもたくさん検索した人がいたのでしょう。そういった「検索が多いけど買われていない商品」は、他のサイトで買われている可能性が高い商品でもあります。

細かい裏側の仕組みまではわかりませんが、あまり値下げしないこの歯ブラシがブラックフライデーセールでは28%引きで売られていました。

しかも、私の画面ではアマゾンのブラックフライデーセールのサイトの一番目立つところにこの商品が表示されています。「まずはページを確認してみよう」と思ってサイトを訪れた私がまんまと次の瞬間、購買に進んでしまったのはアマゾンの仕掛けが十分に機能していたからなのです。

無駄な買い物をさせる
仕組みもバッチリ実装されている
european economic congress in katowice, poland
NurPhoto//Getty Images
※写真はイメージです。

三番目に「さらに無駄な買い物をさせる」という仕掛けも、公式には言えないでしょうけれども必ずあるはずです。

今回は同じくアマゾンで過去に私が調べた商品で、これは少々マニアックな商品なのですが「液体コンパウンド」という商品が33%オフになっていて、やはり同じく私のトップページに表示されていました。

説明しますと、私は趣味で中古のティファニーのアクセサリーをメルカリで購入して磨くということをしています。傷だらけのアクセサリーは驚くほど安く手に入ることがあるのですが、それを紙やすりで粗目から順番に磨いていき、最後はコンパウンドという粘土のようなもので磨くと新品のようにピカピカになります。

私はそこで満足しているのですが、そこからさらに「液体コンパウンド」を使うと鏡面仕上げにすることができます。でも高いので調べたけど買わなかったのです。めったに使わないので買っても無駄だと思ったのです。

たまたま私が調べて買わなかった商品が今回33%オフになったのでしょう。それはたまたまだとしても、私のページトップにそれが表示されたのは意図した仕掛けです。結局、私は歯ブラシと同時に買ってしまいました。

「数量限定タイムセール」で
衝動買いを促す

四番目に「衝動買いをさせる」という作戦も混じっています。

この役割を果たしているのはブラックフライデーセールの特設ページにある「数量限定タイムセール」のボタンです。

alarm clock on orange color background
akinbostanci//Getty Images
※写真はイメージです。

このサイトをのぞいてみると普通だったらまず出合わない商品が見つかります。数量限定タイムセールなのでこの記事を読まれたタイミングではもう見つからないとは思いますが、たとえばリアルタイムで今私が見ているのが首枕です。

これはストレッチ目的で一日8分、首の骨を伸ばす特別な枕で、販売ページには開発したとおぼしき博士3人の写真が表示されています。

これをうっかりカートに入れると「15分以内に購入してください。それを超えるとカートが無効になります」とさらに衝動買いを促す表示が出ます。

他にも「訳あり干し芋」とか「吸音材」とか「充電式湯たんぽ」とか、まあとにかく衝動買いをさせてしまう商品がこの仕組みに動員されているのです。実は今回、首枕も一緒に買ってしまいました。

さて、五番目に「在庫一掃」の狙いがあります。

これは世界中のブラックフライデーセールや年末商戦の隠れた目的でもあるのですが、こういったたくさんの顧客が集まるタイミングで、このままいったら売れ残ってしまいそうな在庫を一斉に売り切ってしまうのです。

特にこれはアマゾンに出品する販売業者にとって重要な作戦で、在庫をうまく一掃することができれば業者はまた年末年始の商戦に向けて新しい在庫を仕入れることができるようになります。

この時期、なんとなく欲しい物をアマゾンの検索窓に打ち込んでみると、意外なセール価格で売っていることがあるのですが、それはこの作戦が実行されている証拠です。

「Amazonデバイス」の大幅値引きで
経済圏の拡大も狙う

六番目に「買い物以外のアマゾン経済圏にも顧客を呼び込む」仕掛けがあります。

ブラックフライデーセールには「Amazonデバイス」というページがあります。そこをクリックすると明らかな目玉商品がふたつ表示されます。ひとつはFire TV Stickで、これをテレビのHDMI端子に差し込むとPrime Videoが大画面で見られるようになります。ブラックフライデーでは一番標準的なスティックが50%引きと普段購入するよりもかなりお得です。

もうひとつはスマートスピーカーのEchoでコンパクトタイプだと67%引きの1980円で買えるのですが、この価格は普段と比べてやはりお値打ちです。

これらの商品を消費者が買うと何が起きるかというとPrime VideoやAmazon Musicを楽しむためのデバイスなので、アマゾンの周辺サービスの利用者が増えるのです。そしてその際にはPrime会員になった方がずっと得なので、この作戦はPrime会員数の増加戦略にも寄与します。

アマゾンの最終ゴールは
「習慣化」にある

そして最後の七番目の狙いが「アマゾンで買い物をする習慣を強化する」ことです。

当然のことですが、アマゾンから見て一番おいしいお客さんは、もう何も考えずにいつもアマゾンで買い物をするお客様です。

私は経済の専門家なのでインターネット通販で買うときは結構マニアックに比較しながら買う習慣があります。するとわかるのですが、いつもアマゾンで買うよりも、都度調べてお得なサイトを探した方が安くなることが多いものです。

そのような経験から私はすぐに欲しい物はアマゾンかヨドバシ・ドット・コムで購入して翌々日までに手に入るようにしますし、じっくり待てる商品なら楽天市場かヤフーショッピングでどっさりとポイントをもらうようにしています。

ただタイパを考えたらそのようなマニアックな買い方は人生の時間の無駄ともいえます。私の場合は仕事として常に、各社の価格動向を知っておきたいという別の目的があるのですが、もし私が普通に生活する一般人だとしたら面倒くさいのでアマゾン一択でもいいかなとも思います。

アマゾンは検索も購入も購入後の追跡も返品も簡単にできるので、ことタイパだけを考えたらアマゾンを惰性で使い続けるというのはあり得る生き方だと私も思います。そのような習慣でアマゾンを使い続ける人を増やすためにも、年に何回かこうやってお祭りのようなセールを行って、お客さんに「めちゃくちゃ得をしたな」と喜んでもらうというのはアマゾンにとって究極の仕掛けなのです。

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