park chanwook, show kasamatasu, パク・チャヌク 笠松将
photo:SHUN YOKOI
笠松さん:ジャケット27万5000円、パンツ7万3700円、シューズ14万8500円(参考価格)(すべてディオール/クリスチャン ディオール TEL 0120-02-1947)パク・チャヌク監督/すべて私物


国際派俳優として羽ばたきつつある笠松将氏が、世界中の映画人から尊敬されるパク・チャヌク監督に迫るインタビュー後半戦。『別れる決心』で「完璧」と称される圧倒的映像美をつくり上げるための秘訣から、作品の観方を左右する核心的質問をあえてぶつけたほか、韓国と日本と米国の映画製作の違いなどについて語り合いました。

笠松将(以下K):これ、すごく野暮な質問かと思うのですが…。今までの監督の取材や、この作品に対しての映画祭などでのインタビューも読ませてもらいましたが、なかなかヒントがなくて。

ラストシーン、彼女はXXXなのか? YYYなのか? どっちなんだろうなと…。これによって僕は、この映画がミステリーかロマンスか大きく分かれるな、と思いましたし。ぜひここについてお聞きしたいです。ラストシーンまでの流れも含めて。

パク・チャヌク(以下P):一番重要な瞬間を見せてはいないので、それは観客の解釈に任せようと思っていました。そういう意図で、「あれ」をはっきりとは見せなかったのです。でも、私の考えとしてはXXXだと思います。

K:えーっ!そんな…! 

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P:■■が砂で埋まって、そこに波がかかって、渦が生まれますよね? ここがこの映画の核心的なシーンだと思います。ソレが●●●した、あるいは今現在も●●●しているかもしれない場所に立ったヘジュンが、自分の△△にソレが●●●しているかもしれないのに、「ソレさん!」と叫びながら必死で探す姿が一番じれったいですね。そこがじれったくなるためには、彼がいる場所に、ソレが●●●していないとダメでしょう(※)。

K:もしかしたらエンドロールの歌・音楽が終わって、そのあとに主人公が例えば車に戻ると、もしかしたらケロっとした顔でいてくれるんじゃないか、と僕は思ったりして。これだけでは終わらない、終われない。何かこう、まだ続くようなそう思える映像であったと僕は感じました。

P:ええ。もちろん、そういう見方もあるでしょう。

K:だからすごく…。(編集者に)あっ、「XXX」っていうのは書かないでくださいね!

P:それはそうですね(笑)。でも、映画をつくったあと、公開されたあとには、監督の考えすらもさまざまな見解の中の1つにすぎません。

※編集部注:答え合わせはぜひ劇場で!

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重視するポイントも含め計算しておく

K:なるほど。監督がさきほどプリプロと撮影の段階でも、編集の段階でも、常に絵にして漫画みたいにして…とおっしゃっていましたが、映像で重きを置く場所は脚本ができた段階で決まっているものなのですか? それとも、撮影の過程で膨らんでいくものなのでしょうか?

P:ストーリーボードをつくる理由の1つが、まさに、イメージを正確につくりあげるためです。そういった点もあらかじめ計画します。ですが現場で、特にセットではなくロケで撮影をするときには、新たな発見がある場合があります。ですから、そのときそのとき瞬発的に表現しようと考えます。

K:ロケーションでは、いろんなことが起こりうるのは本当にその通りです。ただやはり現実として、準備をしていない撮影というのは、基本的にはできないわけじゃないですか。ということは、徹底的にリハーサルをしたりするのでしょうか?

P:まずはプリプロダクションのときに、俳優たちと座りながらたくさん会話をするんです、動いたりはせずに。共通理解が進まないシーンでなくても、画面には映らない場面までも、一行ずつ話し合いをして、どうしてこう書いたのかを説明します。そうすれば俳優から質問が出るかもしれませんし、俳優が自分のセリフを読んでみて、「この感情は理解できません」と言った場合には討論や論争になることもあります。私の説明でうまく説得できなければ、その俳優の意見に合わせて台本を直すこともあります。そういう過程を経ているので、撮影現場に来たときには、人物に関する分析は終えている状態です。次に、動き方に関してはその日の朝に…撮影の日の朝に、簡単にブロッキング(※)をします。ですが、前もってストーリーボードにすべて書いてあるので、全部予想したうえで撮影に臨めるわけです。座って話すのか、立って話すのか、などはね。黙って立っているのか、行ったり来たりしながら言葉を発するのか…そういうのはすべて、決まっています。なので、そんなに大きなリハーサルは要りません。

※1つ1つの撮影場面毎に俳優の正確な動きや位置取りのリハーサルを行い、演出・技術の細部の調整・修正を行うこと。

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SHUN YOKOI

監督と俳優、事前のコミュニケーションを徹底

K:監督と討論することや、監督に意見をするということは俳優にとってすごく勇気が必要です。話し合いというのは、どのくらい撮影の前に行われるんですか? 撮影に入る前のプリプロダクションはいつ頃? 1カ月前とかでしょうか? その時間によってたぶん、準備が間に合わないことがあると思うのですが…。

P:数カ月前くらいですね。私たちはちょっと長めにやるんです。特に韓国で映画を撮るときには、アメリカやイギリスで撮るときと比べて韓国でのプリプロは長めに行うほうなんです。4~5カ月はやりますね。とにかく、たくさん時間をかけます。

K:すごい。日本では準備期間があまりないこともあって。

P:アメリカもそうですよ。

K:本当に緻密な映像や音楽、編集も台本も、監督の演出も全部含めてすべてが監督の頭の中にあったもの。それを監督だけじゃなくて、チームが形にするパワーみたいなものが1つの作品として生まれているということが分かり、今回対談をさせていただき本当によかったです。このお話を聞いたうえで、もう一度観たいと思います。

P:ありがとうございます。

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SHUN YOKOI

 パク・チャヌク(박 찬욱、朴贊郁、Park Chan-wook)/1963年生まれ。ソウル出身。『月は...太陽が見る夢』(1992)で監督デビュー。『JSA』の成功により1990年代の韓国映画ブームを牽引し、カンヌ国際映画祭では『オールド・ボーイ』(2003)がグランプリ、『渇き』(2009)では審査員賞、そして今作で監督賞を獲得。『イノセント・ガーデン』(2013)でハリウッドで監督デビューを果たし、ロバート・ダウニー・Jr.主演のA24製作ドラマ『The Sympathizer』が控えている。

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SHUN YOKOI

 笠松将(Kasamatsu Show)/1992年11月4日生まれ、愛知県出身。18歳で上京。2013年から本格的に俳優活動を始め、2020年『花と雨』で長編映画初主演を果たし、2021年はNTV『君と世界が終わる日に』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、『全裸監督2』(Netflix)等に出演。2022年は主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE』(WOWOW)や『ガンニバル』(ディズニープラス)等にも出演。待機作は『TOKYO VICE2』。その国境を超える演技力で、海外での認知も拡げつつある。

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映画『別れる決心』ショート予告編 2023/2/17(金)公開
映画『別れる決心』ショート予告編 2023/2/17(金)公開 thumnail
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Photograph / Shun Yokoi(thida)
Styling / Keisuke Shibahara
Hair&Make / Mizuho(vitamins)