2019年にスタートした日本初の給水アプリ「mymizu」(マイミズ)は、「アプリでカフェや公共施設など無料で給水できる場所を検索し、そこへマイボトルを持参すれば誰でも無料で給水ができる」という共創型プラットフォーム。その根底には、ペットボトルの削減というミッションがあります。

コンビニやスーパーでペットボトルの水を頻繁に購入し、そして、家にたまった空のペットボトルを捨てる際に胸を痛める…そんなストレスを、この「mymizu」を利用することをきっかけに減らすことも可能です。節約にも環境保護に対しても一役も担えるともあれば、自分の中のマインドセットも浄化されていくでしょう。それもスタイリッシュに、スマートに。

そこでこのプロジェクトに秘めた想いを、「mymizu」を立ち上げた共同創設者のルイス・ロビン・敬氏に語ってもらいました。

コロナ禍を経て、いま一度人とのつながりや絆(きづな)の大切さ、コミュニケーションの楽しさを見直させてくれるような給水アプリ「mymizu」。このアプリを通し、環境保護をしながら、副次的に新たなコミュニティ形成を可能にしているところが実にユニークです。

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東京国際フォーラム地上広場には、『東京水』を無料でマイボトルに入れることが可能な水飲栓(給水スポット)が設置されていますMAP

エスクァイア日本版:ルイスさんが「mymizu」を立ち上げられたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

ルイス・ロビン・敬氏(以下、ルイス):宮古島を訪れた際、美しいビーチにぺットボトルのゴミが山積みにされているのを見たことがきっかけです。コンビニエンスストアで手軽にペットボトルを買うことができる慣習の一方で、大量のプラスチックゴミが廃棄されていました。これを目の当たりにして衝撃を受けました。

エスクァイア日本版:……ということは、「mymizu」の大目標としてはペットボトルの大幅な削減ということになるのでしょうか。

ルイス:実はそこではないんです。もちろん、ペットボトルの削減は目標の一つではありますが、「誰でも参加できる環境活動をする」という事を一番の目標に置いています。例え2歳でも90歳でも気軽に参加ができること。それによってマインドセットを変えたいと思っています。

人々と一緒に社会的なソリューションを作っていく事を目指しています。“ペットボトル削減”という考え方の面白いところは誰にでも分かりやすいところにあるのだと思います。急に“CO2の排出量を削減する”と言われても、どこか遠い話のように感じてしまう方が多いので代わりに、“ペットボトルを削減する”と伝えることで誰もがイメージしやすいと思いました。

エスクァイア日本版:なるほど、より多くの方に身近に環境問題を感じて欲しいとの想いからなのですね。

ルイス:最近の活動では子どもたちとの共同事業も多いです。宮古島市と宮古島に住む中学生、高校生と一緒に組んで、無料で給水をできるお店「給水パートナー100カ所を目指そう」という取り組みを行いました。素晴らしいことに地元の子どもたちが地域のお店を回って「mymizu」を紹介し、参加を促してくれて、おかげさまで加入パートナーが4倍に増えました。

そこもエンパワーメントにつながると思っています。「自分たちで何かを作れる」「自分たちでインパクトを生み出せる」という子どもたちの自信にもつながると思っています。それって素敵なことですよね。

エスクァイア日本版:自分が社会に役立っているという実感を、子どものうちから醸成できるのは素晴らしいですよね。

ルイス:小さい頃にそういう経験ができたら大人になっても、「自分は影響力があるんだ」「自分にはこういうパワーがあるんだ」って気づいて、そこから主体的に行動ができるんじゃないかなと思うと、これからも若者とのコラボレーションをたくさんしていきたいです。

「mymizu」の活動の中心はコミュニティです。アプリのユーザーはもちろん、ビーチクリーンなどさまざまなイベントやキャンペーンを行って、できるだけ多くの人を巻き込むということを行ってきました。アプリのユーザーも一つのコミュニティで、概念の中心にあるのは“共創”です。コミュニティのメンバーで色々なものを創り上げていきたいのです。

日本初の給水アプリ「mymizu」 が目指すサステナブルな社会と 新しいコミュニティづくり
CEDRIC DIRADOURIAN

エスクァイア日本版:NIKEやアウディなどの企業とも取り組みをされていますよね。

ルイス:NIKEとのキャンペーンはとてもユニークでした。給水をしながら走ろうというコミュニティキャンペーンだったのですが、面白いのは参加者がアプリを利用して、走った分の給水スポットを増やしていくというインセンティブをつけたんです。結果トータル約3000人の方々が参加したのですが、そこまでサスティナビリティに興味がなかったという人にも興味を持ってもらうきっかけになったのが面白かったです。

エスクァイア日本版:「mymizu」はスポーツと相性が良いのですね。

ルイス:そうですね、サイクリングやハイキングをしている方も「mymizu」のコミュニティに参加してもらっています。サーフィンを楽しむ方も海でプラスティックのゴミを拾ったりするので、そういう方々も参加に協力的ですね。

自然の湧水も「mymizu」アプリの給水スポットとして表示

エスクァイア日本版:例えばハイキングだと給水スポットはどういったところになるんですか。

ルイス:実は、自然の湧水も「mymizu」の給水スポットの一つとしてアプリに表示しています。ハイキングをしながら湧水スポットを巡る方もいます。うれしいことに、私たちが主催しないでもメンバー同士で給水スポットを巡るイベントなどを開催してくれているみたいです(笑)。

アースデイにはアウトドアファッションブランド『コロンビア(Columbia)』とともに高尾山口に給水スポットを設置してイベントを行ったのですが、今後もこうしたアウトドア向けのスペシャルイベントも積極的に行っていきたいですね。

エスクァイア日本版:アプリでは世界中20万カ所のカフェや公共施設など無料で給水できる場所を表示していますが、一番最初は日本でローンチされたのでしょうか? 立ち上げられて困難だったことはありますか。

ルイス:はい、2019年に日本でローンチをしました。日本人にとって全く知らないお店に入って「お水をください(お水だけをください)」というのもハードルが高いし、「そもそもお水を買うから必要ないのではないか」という意見はありました。でも面白いことにスタートしたら「こういうのを待っていました」という声をいただき、急にユーザー数が増えていって、次のステージに上がることができました。

あとは「給水パートナーが本当に登録をしてくれるのか」という疑問はあったものの、そこも第一店舗が登録をしてくれたら、他の店も続いてくれて、今では国内パートナー登録は約2300カ所にのぼります。小さなチームで運営していることもあり、TVに取り上げられるとアクセスが集中して、サーバーがダウンしてしまうことはありました(笑)。

エスクァイア日本版:アプリはどのように作成したのでしょうか?

ルイス:アプリもゼロから作りました。これはコミュニティを中心とした活動だったのですが、どうやって金銭的に回そうかということも当初は課題でした。私たちはクラウドファンディングのキャンペーンをしようと決めまして、そこからなんとかスタートすることができました。

エスクァイア日本版:給水パートナー先も拡大傾向にあるのですか。

ルイス:IKEA、パタゴニア、ヒルトンホテルといった大手企業から、地方のお蕎麦屋さん、牧場など、多様なネットワークによって広がってきています。最近では地域のボランティアを募って「mymizu」のローカルヒーロープロジェクトを立ち上げました。ありがたいことに「mymizu」を広めたいという方が多くて、横のつながりの大切さを実感しています。グループに入って作戦や情報共有をできたらいいなと思ってくださる方も多く、全国のメンバーとオンラインでつながる場も大切にしています。

エスクァイア日本版:やはり皆さんSNSでつながっていらっしゃるのでしょうか。

ルイス:SNSもありますが、クチコミが一番パワフルですね。私たち運営サイドで営業活動は一切していないものの、給水パートナーで言うとオーナー仲間に口コミで広がっているのを感じます。

給水パートナーの方の話を聞くと「同じような事をしている、同じ価値観をもつお店とつながりたい」と言うモチベーションがあったので、給水パートナー向けの交流やイベントも開催してきました。

エスクァイア日本版:「mymizu」を利用しているある東京在住者の人が、例えば初めて北海道を旅したときに「mymizu」に参加しているカフェやレストランを発見したら思わず入りたくなるかもしれませんね。未知なる旅先でも親近感が湧(わ)くというか…。そこから地域のお店の方とのコミュニケーションが始まったりと、そんな使い方も楽しいですね。

ルイス:アプリをダウンロードしていただいている方は給水スポットを探す方もいれば、何か面白いお店を探したいと言う目的の方もいるんです。

エスクァイア日本版:なるほど。そういうアプリの使い方もアリですね。

ルイス:「mymizu」に登録している店舗はエコなこと、エシカルなことに興味をもち面白いお店が多いので、そのような同じ価値観をもつ人たちを関わりをもつために「mymizu」のアプリを使う方もいるみたいです。コミュニティには多様な方がいるんですが、価値観が似ていると分かると互いに話をしたくなるんですよね。環境保全に興味のある方は、不思議とスポーツに興味がある方が多いのですが…、例えばサーファーやクライマーは自然と常に向き合っていますから。ただ最近では節約目的の方もいらっしゃるんではないかと感じます。

エスクァイア日本版:スタイリッシュに節約…というか、素敵なボトルを持って楽しみながらサステナブルな活動ができるということは、日々継続する上でも大切な要素になってきますよね。

ルイス:そうですね。皆さんを巻き込むには、その“スタイリッシュさ”、“カッコよさ”みたいなのも、やはり大切なポイントになってくるのではないかと思っています。例えば、私たちの食事を一つとっても、栄養素を考えた上で、きれいなお皿に盛りつけて…彩りも考慮したひと皿が出てくることで食事が一層楽しく、美味しく感じるわけです。栄養素を摂るだけでしたら、極論を述べるとチューブで栄養補給するだけでいいのです。でも、“食生活”とはそういったものではないですよね。目で、香りで、お店の雰囲気などを楽しむことで美味しさが倍増するはずです。「水(水分補給)」でも、同じことが言えると思っています。

水分補給という人間の根源的なことですが、水を飲むだけなら手ですくって飲むだけでいいです。でも、アプリを通して給水スポットをゲーム感覚で楽しむことや、お気に入りのマイボトルを持つだけで、公園の水道水が自分にとっては特別な「水」になる…そう感じられるのではないでしょうか。

私たちの目標は「新しい当たり前を作る」ということを掲げているので、どこに行っても「mymizu」のスポットがある、どこに行っても「mymizu」の給水パートナーの参加店舗があるようにしたいと思って頑張っています。最近では海外からの認知も高まってきていて、よく海外から連絡がくるんです。「mymizu」をウズベキスタンでできないかとか。現在、約50カ国で利用をしていただいていますが、これから世界にも「mymizu」の概念を戦略的に広めていきたいと思っています。

ルイス・ロビン・敬
CEDRIC DIRADOURIAN

エスクァイア日本版:いま新しく取り組まれていることはありますか。

ルイス:最近では教育プログラムにも力を入れています。東京大学の学生ネットワークとコラボレーションをして、日本の高校や大学のキャンパスでのマイボトルの利用を含めてキャンパス内のゴミを減らしていくなど、サステナブルな事業を行っている学生たちを集めて一緒にディスカッションをしたり、新しいソリューションを作ろうというプログラムを行っています。

学校や大学でも講演会やワークショップを行っていて、環境問題や社会問題について知った上で、どうアクションを起こしていくかというディスカッションやワークショップを行っています。

また特に印象深いプロジェクトなんですが、スキューバダイビングの教育機関である「PADI」とタイアップをして、若者向けのダイビングのライセンスを無料で取得できるプログラムを作りました。自分の目でいま海がどのような状況なのか、どういう問題が起きているのかを見てもらい、情報を発信してもらうというプログラムです。

座学も大切ですが、実際に自分の身体で体験することには計り知れないインパクトがあると信じていますので。

「mymizu」はWikipediaのようにコミュニティ(ファンや賛同者)が育ててくれる自由参加型!?

エスクァイア日本版:今後の展開、目標を教えてください。

ルイス:2030年までには、世界中どこに行っても「mymizu」が使えるというシステムを構築したいです。コミュニティを通して、新しい社会的インフラストラクチャーをつくっていくにはとても時間がかかるのですが、2025年までは日本の全市町村で「mymizu」があるという環境を目指しています。

あと、もう一つは手段になるのですが、昨年(2022年)「mymizu」ではスマートフォンのアプリに加えてウェブアプリを立ち上げました。目的としては、新しいアプリをダウンロードしたくない方や目が不自由な方など、さまざまな理由や状況においてアクセシビリティを上げるためにウェブアプリの開発に至ったということになります。

これにもユニークなストーリーがありまして…。このウェブアプリは、私たち運営側がつくったものではないのです。「mymizu」を愛用してくださっているエンジニアのコミュニティがつくってくれた、いわゆる自由参加型(Free-for-all)なんですよ。

エスクァイア日本版:それは面白いですね。Wikipediaのように自由参加型のような形にして、コミュニティの人々が大切に育てていくということですね。

ルイス:プログラミングができる方だったら誰でも参加できて、新しい機能を追加したり、改善したりできるんです。「mymizu」のプラットフォームは、アプリのユーザーがつくっていくんですね。投稿した場所の写真や位置情報などを更新してくれるんですが、管理もユニークなシステムで行われています。

投稿してくれて一度AIのアルゴリズムでチェックした後、コミュニティメンバーが最終的に承認するんですが、このAIのアルゴリズムもコミュニティのメンバーがつくりました。「mymizu」のローンチ初日から、全てコミュニティがつくり上げてくれたものなんです。 

エスクァイア日本版:なるほど。テック的な部分もコミュニティの拡大とともに進化しているんですね。運営側からの一方通行ではなく、コミュニティが育て上げているところが実にユニークですね。

ルイス:こうした「mymizu」全体の活動の中でも、個人的にとても大切にしているのは教育事業です。特に、若者にフォーカスした事業を拡大していきたいと思っています。

エスクァイア日本版:その核にあるのもやはり、サステナビリティということでしょうか。立ち上げ時に想像していたものから、さらに発展していっているという手応えはありますか?

ルイス:今年(2023年)でちょうど5年目になりますが、「mymizu」を立ち上げ始めたときは同じパッションを持った人々と実験的にしてみようと思ったのですが、企業、行政、市民団体の方々のおかげで、想像していたよりもスピーディに成長させることができました。 

エスクァイア日本版:ルイスさんの意志のもと発動し、みんなで盛り上げていったということですよね。

ルイス:SNSを見ても、「mymizu」の体験動画が1万件以上あるんです。それを見るたびに、「mymizu」コミュニティのパッションをとても感じますね。これからも情熱的な方々と一緒に活動をしていきたいと思います。

日本企業こそサステナブルな視点で革新をもたらすポテンシャルが高い

エスクァイア日本版:ルイスさんは環境問題を見つめてきて、それを取り巻く人々の意識に何か変化を感じますか。

ルイス:私が環境問題に取り組んでから十数年が経ちますが、この4年間で一気に変わってきたなと思います。企業の姿勢も変わり、新しいサステナブル事業をローンチしていますよね。多くのNGO、NPOが新しく誕生し、一気に環境に関するアクションがあがったなと感じます。

それはそれで素晴らしいのですが、まだまだ足りていないのが現実で、SDGsを謳(うた)っている中でも表面的な事業が多く、もっと環境問題に対してより深く、革新的な変化を起こせる余地があるのではないかと思っています。

そこで私が希望に思っているのは、日本企業の存在です。日本企業は世界的に見ても歴史がある企業が多く、ここまで人的にもテクノロジー的にもリソースがある組織は類を見ません。日本企業で本格的にサステナブルな革新をもたらすことができたら、本当にすごいインパクトだと思うので、企業とのコラボレーションも進めていきたいと考えます。 

エスクァイア日本版:「mymizu」の理念である共創を核に企業と絆を強めていくことで、さまざまな化学反応が起こりそうですね。

ルイス:いろいろな企業と話をさせていただく中で、『サステナビリティ=コスト』だと思ってしまっている企業も少なくありません。それを“コスト”ではなく、“大きな機会”と捉えていただければ視点も変わるでしょう。

「新しいマーケットをつくる」「新しい市場にリーチする」「新しいブランド価値をつくる」という視点では、これは大きなチャンスではないでしょうか。そのようなマインドセットのシフトが必要では? と思っています。

新しいプロダクトのパッケージを変えるとか、サプライチェーンを変えるという話になると、「高いんだよね」となりがちです。実際には、投資は必要かもしれません。ですが、長期的に考えると不可欠であり、企業価値も上がることなのでチャンスだと思っています。企業が変わらないと行政も変わりません。まずは、企業が変わっていくことに希望を持っています。

「mymizu」App Store Google Play Webアプリ(ベータ版)

[プロフィール]

ルイス・ロビン・敬

…無料給水プラットフォーム「mymizu」の共同創設者。一般社団法人Social Innovation Japan代表理事。世界銀行(気候変動グループ)やUNDP (国連開発計画)のコンサルタントとしての経験を含め、これまでに20カ国以上における国際機関、社会的企業、NGOで活動した経験を持つ。ハイチ、ネパール、バヌアツ、モザンビークなどの国々では人道支援活動を管理し、持続可能な開発に関連する多数の国際事業にも携わった。2017年には東日本大震災からの復興を記録するため東北の海岸沿600km以上の距離を自身で歩き「Michinoku Trail Walker」プロジェクトを起ち上げる。渋谷QWSイノベーション協議会理事。TEDx スピーカー。MITテクノロジーレビュー主催のアワード「Innovators Under 35 Japan 2020」において、未来を創る35歳未満のイノベーターのひとりに選出された。エジンバラ大学国際ビジネス学修士課程卒業。