この記事のポイント
  • 2040年代までに、北極圏の夏に氷がなくなる事態が生じる――。これが「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change=IPCC)」による従来の予想でした。しかし、そのタイミングが早まる可能性が科学者たちによって議論されています。
  • コロラド大学ボルダー校で進められている研究によると、「早ければ2020年代から30年代の間に、8月から9月にかけて北極圏の海氷が消滅する可能性がある」という研究結果が示されました。
  • 太陽放射を反射する働きのある海氷が、太陽放射にさらされることで外洋に溶け、太陽放射を吸収してしまうと言います。

当初の見込みから
10年前倒しの予測…
これが意味することは?

北極圏ほど、気候変動による深刻な影響を感じ取れる場所はないかもしれません。

世界自然保護基金(WWF)が同年12月11日に発表した報告書(*1)によれば、「分厚い氷に覆われたこの世界の頂点は、地球上の他の地域と比べておよそ4倍もの速さで温暖化の影響を受けています。北極圏の気温は1980年代初頭と比べて、すでに摂氏3度以上も上昇しています」ということ。

その主な原因は、氷の減少ということ。氷の存在を侮ってはいけないようです。地球を覆う氷は通常、太陽放射の約50~90%の範囲内で宇宙空間に跳ね返す遮光ブランケットとして機能しているとのこと。つまり、氷が失われてしまえばその効果も失われてしまうことを意味します。それどころか、溶けた海氷が海水となることで、太陽放射を反射するどころか、90パーセントは吸収されてしまうだろう…ということなのです。

北極に暮らすセイウチ
VW Pics//Getty Images

そうして何年もの間、科学者たちは「8月から9月の夏の期間に北極圏から海氷が消失する事態が将来必ず起きる」と予測を立てていました。そして、「そのタイミングはおそらく2040年代(*2)ではないか?」とも。

しかし、近年ではそれが早まる可能性が示唆されています。観測史上最も温暖な年となった2023年の夏、国際的な研究グループによって、北極海の海氷がこれまでの予測よりも10年早く消失してしまう可能性があるという結果が示されたのです。

コロラド大学ボルダー校のアレクサンドラ・ヤーン博士(*3)は、「北極海の海氷は、人工衛星によって日々観測されていますが、世界の気候学者が注目しているのは、いつ北極圏から氷が消えてしまうかということです。その予測は重要な意味を持っています」と、公式(*4)に述べています。

「そうなれば、純白の北極圏にも(海水で)青々とした夏が訪れることになり、これまでとまったく異なる環境が生まれることになるでしょう」

地球の温暖化。
海氷の減少が引き起こす
地球への悪影響とは?

北極圏における「氷の消失」とは、その言葉どおり「氷が完全になくなった状態」を指すものではありません。科学者たちは、氷の面積が100 万平方キロメートルにまで減少することが最も注意すべき基準であると考えています。これは、1980 年代の北極の夏の氷の面積の わずか20 パーセントに過ぎません。

氷が解ける北極海
VW Pics//Getty Images

これまで集められてきた海氷のデータを分析し、そこで算出される気候モデルを前提に「海氷の密接度(※編集注:特定の海域において、氷に覆われている海面の占める割合を0~10の10分比で表した値のこと)を精査。そのうえで導き出されたあらゆる気候シナリオによって示された現実は、2020年代~2030年代の間に北極圏で「氷の消失」が実際に起きる可能性が高いというものでした。

海氷の減少とは、海水温度の上昇を意味します。海水の温度が上がれば海面が上昇し、地球上の沿岸地帯が深刻な危機にさらされることにもつながるでしょう。また、海水温度の上昇によって北極圏の外来魚が増加し、すでに危機的状況にある生態系に深刻な打撃が加わる可能性も指摘されています。海氷の減少による影響は、海水温度だけではありません。海氷は海洋の波浪を妨げ、海岸浸食を防ぐという重要な役割も担っているのです。

北極圏で「氷の消失」が起こるという現実は、もはや避けられるものではありません。だからこそ、この地球規模の危機に対して人類がどのように対処するかが極めて重要な意味を持つのです。

温室効果ガスの排出量を一刻も早く削減し、さらに二酸化炭素を大気圏外に排出することが可能になれば、北極圏の海氷に及ぶ影響にも変化をもたらせるでしょう。海氷は気温に逆行して生成されることもあるというのは、ささやかな救いかもしれません。

「氷の消失がもはや避けられない現実であるとしても、その状態を長引かせないために、すべきことはあるはずです。つまり、温暖化ガスの排出量を可能な限り抑えなければならないのです」と、ヤーン博士は述べています。

「何千年もかけて築かれたグリーンランドの氷床と、北極圏の氷では成り立ちが異なります。将来的にCO2の排出を減らし、温暖化を防ぐ方法が発見されれば、北極圏の海氷も10年以内に復活するという予測もあるのです」


[脚注]

*1:WWF:Abrupt Ice Retreat Could Produce Ice-Free Arctic Summers by 2040

*2:WORLD ECONOMIC FORUM: The Arctic is now expected to be ice-free by 2040

*3:University of Colorado Boulder:Alexandra Jahn

*4:University of Colorado Boulder:The Arctic could become ‘ice-free’ within a decade

Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics