筆者(チャールズ・P・ピエース)は仕事柄、北極圏を2度訪れています。一度目はカナダのハドソン湾北部、二度目はアラスカとロシアの間に位置するチュクチ海に浮かぶシシュマレフという堡礁(ほしょう=沖サンゴ礁とも呼ばれ、海岸からやや離れた沖合いに存在するサンゴ礁)島にある村です(このチュクチ海に浮かぶサリチェフ島にある村…は、写真家の星野道夫さんが19歳のときにひと夏を過ごした場所として、日本では知られています)。

北極圏と言えば、広大で荒々しく未開の地帯もまだ多い、この地球上で最も驚きに満ちた場所。仰向けに泳ぐホッキョクグマが、「お昼の肉が流れて来たぞ、早くボートから落っこちろ!」と言わんばかりに空気の匂いを吸い込んだ瞬間は、筆者にとって忘れられない思い出ということ。

まだ、そのような場所が地球には残されているのです。しかし、おそらく回復不可能なほどの環境破壊が、既に進んでいるというのも事実として認めなければならなりません。今回の記事は、「ワシントンポスト」紙からの転載です。

世界最大の地球科学会議である研究発表がありました。オレゴン州立大学の氷河学者エリン・ペティット氏によれば、スウェイツ棚氷(=南極沿岸域で最も海面上昇に寄与している二つの棚氷)が今後3年から5年以内に崩壊し、海面を劇的に上昇させる氷の川を発生させる可能性があるというのです。

また、北極圏のツンドラ地帯にビーバーが侵入し、ダムをつくって地表を水浸しにする様子を空撮した映像も公開されました。以前は凍結していた地域に進入する大型の商業船舶が野生生物の生態系を乱すとともに、とんでもない量のゴミを発生させてもいるのです。アラスカ先住民のコミュニティの多くでは、気候変動の影響からコロナウイルスのパンデミックが拡大し、この土地で何千年も暮らしてきた人々を食糧難の危機に陥れてもいるのです。
アメリカ国立雪氷データセンター(National Snow and Ice Data Center=NSIDC)の氷河学者で複数の国に跨る北極圏の状況に関する年度毎の評価を行う『北極圏レポートカード(Arctic Report Card)』の共同編集者であるトワイラ・ムーン氏は、次のように述べています。「地域における特徴そのものが、変化の一途を辿っています。私たち人類は、過去に経験したことのない変化を目の当たりにしているのです
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Arctic Report Card 2021
Arctic Report Card 2021 thumnail
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海面上昇の危険性は明らかに迫りつつあり、そのことが報告書にも詳しく解説されています。環境破壊を及ぼすわれわれ人類が自らの無自覚な行為を改めようとせず、環境破壊を放置することは、地球環境に対する冒涜とも言えるでしょう。地球上から原生地域が失われてしまえば、この惑星はもはやビーチフロントのショッピングセンターとなんら変わらなくなってしまいます。

アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union=AGU)の年次総会で発表された2021年のレポートカードには、研究者たちの予想をはるかに上回る速度で変化し続けている地球環境の風景が映し出されることになりました。2020年10月~12月までの期間は史上最高気温であったことが示されていました。さらに同年の夏は1985年の調査開始以来、分厚い海氷の面積の減少については史上2番目の面積を記録しています。また、世界気象機関(World Meteorological Organization)も、北極圏の気温が過去最高であったことを確認しています。2020年6月20日、シベリアの都市ベルホヤンスクでなんと摂氏37.8度(華氏100度)が観測されているのです。
…北極圏に住む人々にとっては、苛酷な状況がもたらされる結果となりました。グリーンランドやその他の地域で縮小する氷河の雪解け水が河川を氾濫させ、洪水を引き起こしたのです。減少する氷の下から露出した土壌の脆い崖がちょっとのことで海に崩れ落ち、致命的な大波を引き起こす可能性もあるのです。また、永久凍土が溶解すれば道路などが陥没し、水道などのライフラインが破壊され、地表の建造物も倒壊の危機にさらされることになります。
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#AGU21 Press conference: NOAA Arctic Report Card 2021
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シシュマレフの村では、このような状況がもう何年間も続きているのです。かつてのようには早々に凍ることの無くなった海面下に、島全体の約半分が崩れ落ちてしまいました。

影響凍土を失った先住民は冬の間、アザラシの肉を途中に埋めて保存することもできなくなったのです。彼らは、これを「Eskimo freezer」と呼んでいます。

訳注:「エスキモー」という呼称は蔑称として避けられる場合もありますが、可否については国際的な合意には至っておらず、議論が続いているようなので本記事では便宜上「Eskimo」と表記。

過去何世代にもわたりその土地を愛し、そこに暮らしてきた人々は、いずれ移住を強いられるであろう状況と対峙しています。彼らの世界は既に変質してしまっており、来るべき未来を覚悟せざるを得ない状況であるとのこと。

コロナ禍となり、視野がやや狭くなってしまた人も少なくないかもしれません。こうした地球規模の破壊がなおも進んでいることを、ぜひこれを機会に(強く)再認識してください。そして、できる範囲で、それぞれが行動していなければならないということも。

Source / Esquire US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。