記事のポイント

  • 今は亡き、カール・セーガン氏の言葉を思い出してください。
  • 研究者たちは最近、暴走温室効果に関する初の完全なシミュレーションを完成させました。
  • 地球のような惑星が熱されると、大気にはますます多くの水蒸気が集まって惑星が冷却できなくなり、海は完全に蒸発して金星のような地獄絵図となります。
  • 研究チームは、どの太陽系外惑星が生命を宿し、どの太陽系外惑星が崩壊の危機に瀕しているのか? をよりよく判断できるようになると考えています。

今から30年以上前…1990年2月14日、宇宙探査機ボイジャー1号が約60億キロメートルの彼方から地球を撮影しました。それが下の写真、「ペイル・ブルー・ドット(淡く、青い、点)」として宇宙好き・SF好きの人々ならご存じのことでしょう。

ボイジャー1号が撮影した地球の写真「pale blue dot」
NASA/JPL-Caltech
NASAが公開した「ペイル・ブルー・ドット」の写真。写真とこの名称は、惑星科学者でボイジャー画像研究チームの一員でもあった故カール・セーガン氏が生み出したもの。

そして、この写真を紹介したチームの一員、故カール・セーガン氏が著書『惑星へ(原題:The Pale Blue Dot)』に記した一文を思い出します。

「はるか彼方から我々のこの小さな世界を捉えたこの写真ほど、人類のうぬぼれた愚かさを実証するものはないだろう」

そして、こうもつづっています。「私には人類の責任を問われているように感じられる。互いにいたわり合い、この“ペイル・ブルー・ドット”を守り、慈しむ必要があるのではないかと。我々の唯一の故郷なのだから」と…。

ボイジャー1号は1977年9月5日に打ち上げられ、2023年現在も運用はされています。つまり同機(および2号も含め)の現在位置は地球から最も遠い距離に到達しているとともに、その記録はなおも更新し続けていることになります。ちなみに、この写真が撮影されるに至ったことにも物語があります。それはご自身でお調べください…。


「暴走温室効果」の状態では
人類は生きられない

アメリカの多くの地域にとって、2024年はホワイトクリスマスとはいきませんでした。残念ではありましたが、「2023年は記録的な猛暑になる」と専門家が発表していたことを考えれば、驚くにはあたらないでしょう。気候変動がこのまま進行すれば、絵に描いたような完璧な12月にならないのは、恐らくこれが最後でもないでしょう。

※地球の歴史を46億年、人類の歴史を500万年とします。例えば46億年を1メートルの定規だと仮定するなら、人類の歴史は1ミリ程度…ということは理解しておきましょう。残りの寸法内で、人類以外のストレスで過酷な気象状況もあったに違いありません。しかし逆に、たった1ミリ程度の寸法内で、地球の環境を左右するほどのストレスを人間が与えてしまった…とも考えられるのです。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

万が一最悪の事態に陥った場合、人々は生き残ることさえできないのですが、今、「私たちはそうなるに至るまでのステップとしてはどのようなものなのか?」を知ることができます。

研究者グループが最近、地球のような惑星における「暴走温室効果」の状態を初めて完全にシミュレートし、天文学や天体物理学を扱う学術雑誌『Astronomy and Astrophysics』に発表したからです。

ネタバレ注意:美しいものではありません。

研究共著者のマーティン・ターベット氏は、プレスリリースで次のように述べました。

「これまで気候学における主要な研究は、暴走前の温暖化状態か、暴走後の居住可能な状態のどちらかにのみ焦点を当ててきました。ですが今回は、3次元地球気候モデルを使って気候変動そのものを研究し、その過程で気候や大気がどのように変化するか? をチェックしました。これは初めてのことでしょう」

本題に入る前にまず、英語で“Runaway Greenhouse Effect”、日本語で言う「暴走温室効果」とはいったい何なのでしょうか?

基本的には、気温の上昇によって大気が水蒸気を集めすぎてしまうことです。水蒸気は驚異的な断熱材であるため水蒸気がたまるとさらに熱がこもり、その熱が蓄積されていく…といった状態になります。やがて予想以上の速さで制御不能に陥り、「“暴走”して完全なる地獄絵図と化した惑星をつくり上げる」と考えられています。

※ひとつ留意しておくべくき点として、この暴走温室効果とは「人間による環境負荷によって、温室効果が暴走する」というものではありません。
 
地球では大気中の湿度が上がって雨が降り出すことで、この水蒸気の蒸発が止まるとされています。ですが、金星の場合は(あくまでもまだ仮説ですが)、「太陽に近くて温度が高いため、水蒸気は液体の雨や雲になることができない。 そのため、水分上昇による温室効果は地表の水分が全てが蒸発するまで歯止めなく進んで現状のようになった」とされています。

つまりは人的要因を無視したうえで、「太陽放射の観点から射出限界(湿潤な大気から射出 できる惑星放射の上限値)を超えて惑星に太陽放射が入射されたときに、水蒸気の増加などによって大気の光学的厚さが著しく増加し、大気圏を有する惑星気温の著しい上昇が起こる」とする説になります。

この研究の主執筆者であるギョーム・シャヴェロ氏は、同プレスリリースの中で次のように語っています。

「水蒸気量には臨界値があり、超えると地球はそれ以上は冷却できなくなります。そこから海が完全に蒸発し、温度が数百度に達するまで勢いづいて進むのです」

それがどのような状態か? ヒントが欲しいなら、金星を考えてみるとよいでしょう。

とは言え、気候危機が憂慮される現在でも私たちは、まだまだ金星のレベルに近いわけではありません。この研究チームによれば、「金星と同じような状態になるには、数十度の温暖化が必要ですし、私たちは『地球の温暖化を1.5℃に抑えたい』と考えています」とのこと。これは「実現する可能性はかなり低い」と思われていますが、「不可能ではない」とも見られています。

つまり、この研究の目的は「今すぐ変わらなければ、こうなってしまう」ということ示すことでもありません。なので、全過程をモデル化する必要もありませんが、研究チームは、どの太陽系外惑星が生命を宿すことができるのか? そして、どの系外惑星が破滅に向かうのか? を知るために、「地球の状態から金星の状態までになるまでの全ての段階を知りたい」と考えました。

暴走温室効果の兆候を示す
サインを発見

そこで見つけた「最もエキサイティングな発見は?」というと、雲でした。どうやら過程のある時点で、大気圏の高い位置に非常に奇妙なパターンの高密度の雲が形成され、これが危険の前触れとなるようです。共著者のエメリーヌ・ボルモン氏はプレスリリースで。「これまでの研究の結果、われわれはすでに水蒸気閾値(しきいち=状態が変化する限界値)の存在を疑っていましたが、この雲パターンの出現は本当に驚きでした!」とつづっています。

はるか彼方の太陽系外惑星を観測し、その生命維持の可能性を評価しようとするとき、このような雲は大きなサインとなるでしょう。研究者たちは、「このサインをすぐに見つけることができる」と考えてます。ボルモント氏は次のように続けました。

「この雲のパターンが、太陽系外惑星の大気を観測する際に検出可能な特定のシグネチャー、すなわち、明らかな特徴をどのようにつくり出すか? も並行して研究してきました。これからの世代の観測装置は、それを検出することができるはずです」

この研究の目的は「私たち自身の未来を予測することではない」とはいえ、「地球はどうなるのか?」という疑問を避けて通ることはできないでしょう。そして残念なことにこの“黙示録的なシナリオ”は、人為的な気候変動が原因であれ、太陽活動の激しさが変化することが原因であれ、「潜在的な高いレベルで可能性を残している」と確実に言えるのです。

この暴走温室効果が発生するのは、間近ではないかもしれません。ですが、われわれはどの太陽系外惑星が生命を宿す可能性があるか? そして、どの太陽系外惑星が破滅に向かいつつあるか? を知るための新しい方法にもなるでしょう。

Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics