この記事をざっくり説明すると…

  • 「生命の起源は火星にある」と信じる科学者たちがいます。
  • 仮に生命体が、この銀河系のどこかから流れ着いたものであるならば、「地球よりも先に火星に到達していた可能性が高い」という考えです。
  • 「火星から採取した物質サンプルの中から、DNAの断片が見つかるかもしれない」と、現在期待が高まっています。

生命の起源は、本当に地球にあるのか?

 生命の起源が、この地球ではなく火星にある…。

 果たして、そんなことがあり得るのでしょうか? 確かに、生命の起源を火星に求める説を支持する科学者は存在します。また、明確な支持を表明しないまでも、「少なくとも、その可能性については否定すべきではない」とする立場を取る専門家も少なくありません。

 地球上に存在する生命の起源は地球ではなく、どこか他の天体で発生したとする「パンスペルミア説」という考え方があります。これは地球外で発生した生命の種子が地球に到達し、その後に地球に根づいたとする説になります。その仮説の支持者の中には著名人も含まれています。

 火星と地球という2つの惑星の特徴を比べれば、「そこまで荒唐無稽な考え方ではないのでは?」とする記事を、カルチャー系ウェブメディア「Salon.com」でも掲載しています。また日本も2015年より、国際宇宙ステーション (ISS) のきぼう実験棟を利用して、共同チームによる「たんぽぽ計画」という名で実験を進めています。

LUCAを巡る研究

 生命の起源について考える上でまずは、次の事実を頭に入れておくといいでしょう。

 生命がどこでどのように誕生したのか、その謎に対して明確な答えを持っている人など存在していない…という事実。このことに関して、現在の私たちが認識しているすべては、「これまで地球上で発見されてきた化石や炭素などから読み解いた、生命の記録や痕跡に基づいた推論に過ぎない」とも言えるのです。

 太陽系の他の惑星と比較しても、火星と地球の間にだけ存在する資源があります。そんな2つの惑星間の共通点について、研究を続けている専門家もいます。この研究の専門家の間では、「地球をより古く、小型化したものが火星である」という仮説は否定できるものになっています。ただし、火星の天然資源や内部の電磁気的境界層などは、「すでに燃え尽きてしまってている」とも言われています。

 ゲノム研究(ゲノミクス)を通じて、生命の起源に迫ろうとする研究もあります。この研究には、生命を構成するRNA(リボ核酸)やDNA(デオキシリボ核酸)がいかにして、どのような順序で出現したかに関して、解明しようとする研究も含まれます。

 これまで地球上に生まれたあらゆる生物にとっての共通の祖先となる単細胞生物、つまり「最終普遍共通祖先(LUCA=Last Universal Common Ancestor」に迫ろうとする研究があります。これは、「あらゆる生物には共通の祖先が存在する」という考えに基づくもの。例えば、人と馬との最も直近の共通祖先にさかのぼるなら、そこに姿を現すのは「すでに絶滅した哺乳類の一種」ということになるかもしれません…。

 それをさらに、はるか遠い過去へと追跡することでLUCAを特定しようとするなら、そこに現われるのは「火星由来の遺伝物質であった」、ということもあり得るのではないでしょうか…。

パンスペルミア説の論拠

 現在知られている地球誕生に関する有力な学説では、地球はおよそ46億年前に誕生したと言われ、それがほぼ一般的な解答となっています。そして、誕生したばかりの地球には水は存在していなかったという説も一般的です。

 また、地球にいつ水が誕生したかに関しては、「およそ44億年前に木星の重力攪乱のせいで、氷に覆われた微惑星が隕石となって地球に降り注ぐようになり、地球に液体としての水が存在するようになった」という説が有力となっています。

 さらに生命の誕生に関して直近では、ロンドン大学(UCL)の研究チームが『ネイチャー』2017年3月2日号において「カナダのケベック州で採取した岩石中にある微細な筒状・繊維状構造物が、熱水噴出孔により活動していた生命の痕跡である可能性がある」と発表しています。生命の痕跡としては、最古級(42億8000万年前~37億7000万年前)と推定されていますが、これら構造物の成因や年代については異論もあります。

 そして、「地球に水が現われるよりも前に、すでに火星の地表に水が存在した可能性が高い」というのが、生命の起源を火星に求めようとする説(パンスペルミア説)を支持する研究者の論拠のひとつとなっています。ふたつの惑星に認められる類似点は、決して少なくないのです。

the sharpest view of mars ever taken from earth
NASA//Getty Images

 「液体化した水が存在するのに適した温度まで惑星が冷却されることによって、生命が生まれる条件が満たされると仮定してみましょう」と、「Salon.com」のインタビューに応じているのは、アリゾナ大学で惑星科学を教えるエリック・アスフォーグ教授です。「この太陽系において、どの惑星がその条件を獲得し得たかと考えると、それが火星であることに疑いを挟む余地などないのです」と語ります。

 アスフォーグ教授は、さらに続けます:

「生命誕生の謎をどこかに求めなければならないのだとすれば、火星の可能性を無視することはできません。一体、何が生命誕生を可能にする条件であるか、私たちにはまだわかっていないのです。もしかしたら月の存在が不可欠であるというような、地球固有の条件が関係していないとも言い切れません。ですが、液体化した水が不可欠であるというのであれば、それがまず起こったのが火星であった可能性は低くないのです」

 宇宙空間をさまよう火星由来の物質が、惑星衝突などによって飛び散った破片と衝突したことにより、たまたま地球上に、それも条件のかなった水中に落下し、そして繁殖が起きたということも考え得ることです…。

 「生命が地球に到達するよりも、先に火星に到達した可能性のほうが高い」としても、特に驚くに値しないとする天文学者は複数います。「火星よりも地球のほうが太陽に近く、それゆえ何らかの物体が地球へ落下するためには、太陽の巨大な引力を避けなければならない」という考えからです。また、「太陽系の外から飛来してきた物質が木星の引力に引き込まれ、その結果、火星に落下する」ということも考え得ると言うのです。

 このような理論を検証しようと思えば、火星から採取したあらゆる物質サンプルにDNAが含まれているか否かを分析するというのは、1つの方法となります。

 「火星には、知的生命体によってつくられた運河が存在する」と主張したアメリカの天文学者パーシバル・ローウェル(1855~1916)の時代から、火星の地中に凍った水の存在が確認された現在に至るまで、火星に生命が存在するか否かを巡って諸説が展開されてきた長い歴史があります。そうした論争における最新の状況が、DNAの存在を巡る議論なのです。

 いずれにせよ、かつては熱く溶融していた火星のコアは、今や冷えて固まってしまっています。その影響で火星の重力は低下し、大気はほぼ存在せず、生命活動の維持に重要な役割を果たす保護環境は消滅してしまいました。しかし、細胞状の物質はまだ存在している可能性があり、凍結した状態で発見される日を待っているかもしれません。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です