[目次]

▼ 共和党予備選で勝利したトランプ氏の致命的な弱点

▼ トランプ氏を支持しない共和党員は意外に多い

▼ 有権者の3分の2はトランプ氏に投票しない

▼ 刑事裁判で有罪になれば大幅に支持を失う

▼ 不測の事態が起きなければバイデン大統領が僅差で勝利か

※2024年3月18日に「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された、矢部 武氏(ジャーナリスト)による記事の転載になります。


共和党予備選で勝利した
トランプ氏の致命的な弱点

この勢いそのままにトランプ氏は11月の本選に向けた主要な世論調査でも、バイデン大統領に支持率で2~5ポイントの差をつけてリードしている。

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バイデン大統領は高齢の不安や高インフレ率、移民政策などに対する国民の不満もあって不人気ぶりが際立っているが、トランプ氏ははたしてこのまま優位を保ち、11月の本選で勝利するのだろうか。

答えは「ノー」だ。なぜなら本選と予備選の有権者は大きく異なるからである。

トランプ氏はコアな支持者の票はしっかりつかんでいるが、それだけでは不十分だ。本選で勝つためには共和党の穏健派と無党派層の支持が必要だが、移民や外交政策などで保守派が好む強硬姿勢を貫いているトランプ氏は、彼らの支持を十分に獲得できていない。それはトランプ氏にとって致命的な弱点となる可能性がある。

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トランプ氏を支持しない
共和党員は意外に多い

予備選で圧勝したトランプ氏だが、秋の本選に向けた民主党のバイデン大統領との戦いにはいくつもの不安要素がある。まずは共和党員の中に「本選ではトランプ氏に投票しない」という有権者が予想以上に多いことだ。

予備選第2戦のニューハンプシャー州(1月23日)では、トランプ氏が得票率54.6%とヘイリー氏に2ケタの差をつけて勝利し、「すばらしい夜だ。ありがとう」と上機嫌で支持者に謝意を述べた。

ところが、ABCニュースが行った出口調査では、投票した有権者の約半数は「トランプ氏以外に投票したい」と考えていたことがわかった。そして彼らの多くはトランプ氏が党の候補に指名されるのを止めるためにヘイリー氏に投票したという。

たとえば、2016年と2020年にトランプ氏に投票したという白人男性はABCニュースの取材に「もう一度トランプ氏に投票することはできない。あまりにもむちゃくちゃだから」と話した。

また、テキサス、カリフォルニア、バージニアなど15州で予備選が行われた3月5日のスーパーチューズデーで、ヘイリー氏に投票したという高齢男性はトランプ氏について「彼は死ぬほど怖い。その物言いといい、過激な行動といい、とてもまともとは思えない」と語った。

トランプ氏が共和党内で圧倒的な支持を得ているのは確かだが、一方で、「トランプ氏は絶対に嫌だ」という人も少なくない。唯一の対立候補だったヘイリー氏が撤退したことで、こうした人々が秋の本選で誰に投票するのかが非常に重要となる。

ヘイリー氏は撤退表明の演説でトランプ氏に祝意を伝えたが、「支持する」とは言わずに、「私たちの支持者たちからのメッセージを受けとめてほしい」と求めた。

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ABCニュースの調査では、ヘイリー氏の支持者の79%が「トランプ氏が共和党の指名候補になることに不満足」と回答したが、そのことを踏まえた上での彼女の発言だったと思われる。

その上でヘイリー氏は、「トランプ氏が党内外で自分を支持しなかった人たちの票を獲得できるかどうかは彼次第です。獲得することを願っています。最良の政治は人々を遠ざけるのではなく、自らの大義に引き入れること。彼にとって選択の時です」と述べた。

トランプ氏は予備選で圧勝したことを受けて、「共和党はかつてないほど結束している」と自信たっぷりに述べたが、現実はそれとは程遠い状況になっている。

有権者の3分の2は
トランプ氏に投票しない

トランプ氏にとっての今後の課題は共和党の穏健派と無党派層の支持をいかに増やすかだが、ここに興味深い調査結果がある。

AP通信とシカゴ大学全米世論調査センター(NORC)が2023年8月に全ての有権者を対象に実施した世論調査では、「トランプ氏を好意的にみている」と答えた人はわずか35%だった。そして「トランプ氏が共和党の指名候補になったら、投票するか」との問いに「ノー」と答えた人が「絶対に」「おそらく」を含め63%に上った。

この調査では、バイデン氏の支持率も現職大統領としては最低レベルで、「民主党の指名候補として支持するか」との問いに「支持する可能性は低い」と答えた人が54%に上った。しかし、「再指名されれば支持する」とした人は45%で、トランプ氏より少しマシだった。

今回の大統領選は「国民の約7割が望まない」といわれる不人気な候補同士の対決だが、それでもバイデン氏がわずかに上回ったのは無党派層の差が関係していると思われる。無党派層の間ではバイデン氏の支持率が10%前後上回っていることが世論調査で示されているからだ。

それではトランプ氏は無党派層の支持を広げるために何をすればよいのか。

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2012年の大統領選でミット・ロムニー共和党大統領候補の選挙顧問を務めたケビン・マッデン氏はこう提言する。

「トランプ氏はいつまでも2020年の選挙結果を蒸し返して後ろ向きになるのではなく、人々が関心を寄せる問題について未来志向のメッセージを発信する必要があります。すなわち、経済、移民問題、国家安全保障、外交、国際社会が抱える問題に焦点を当て、国をどう導こうとしているのかを語るのです」(PBSニュースアワー、2024年1月24日)。

しかし、あくまでも2020年大統領選で「大規模な不正があった」という虚偽の主張を続け、政敵への「復讐(ふくしゅう)」をほのめかすトランプ氏が、その強硬な政治姿勢を変えることはないだろう。それをすれば、「もはやドナルド・トランプではなくなってしまう」からである。

刑事裁判で有罪になれば
大幅に支持を失う

さらにトランプ氏にとっての懸念材料は、現在抱えている4つの刑事裁判のうち1件でも有罪になれば、共和党員を含む有権者の支持を大幅に失う可能性があることだ。

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4つの裁判とは、(1)2020年大統領選で敗北した結果を覆そうと、支持者らをあおって連邦議会を襲撃させた事件、(2)政府の機密文書を不適切に持ち出し、自宅に保管した事件、(3)ジョージア州の大統領選結果を覆そうと選挙管理責任者を脅迫した事件、(4)2016年大統領選の終盤に不倫相手への口止め料の支払いを隠すために業務記録を改ざんした事件である。

これらの中で最も古い(4)の裁判は3月25日、ニューヨーク州地裁で開始される。本来は(1)の裁判が先に(3月4日)行われる予定だったが、トランプ氏が大統領としての免責特権が認められるべきだと主張し、下級審から控訴審を経て、現在連邦最高裁で審議されているため、ニューヨーク州の裁判が先に行われることになったのである。

(4)の事件の概要はこうだ。2016年大統領選が終盤を迎えた頃、顧問弁護士のマイケル・コーエン氏はトランプ氏と関係があったとされるポルノ女優に13万ドル(約1900万円)の口止め料を支払った。コーエン氏によると、トランプ氏が彼に支払うように指示したという。その後、選挙に勝利して大統領に就任したトランプ氏はコーエン氏に13万ドルを弁済した。

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ニューヨーク州マンハッタン地区検察局のアルビン・ブラッグ検事は、「トランプ氏が弁済した時点で詐欺罪が成立する」として起訴した。同検事によると、トランプ氏は口止め料の支払いを隠すために業務記録を改ざんしたとみられ、選挙に関連する罪状にも問われるという。

これに対しトランプ氏は無罪を主張。支持者らを集めた集会で、「過激な左派勢力、ジョージ・ソロスの支持を受けるブラッグ検事は“私をやっつけてやる”と訴え続けてきた」などと激しく攻撃し、「裁判は常軌を逸した民主党の検察官などによる選挙妨害だ」と非難した。

するとこの後、マンハッタン地区検事局にはブラッグ検事やその家族、部下の職員らに対する脅迫メールや電話が押し寄せるようになった。その中には「トランプに手を出すな! さもなければおまえを暗殺する!」といったものや、白い粉と一緒に「後悔するぞ!」と書かれたメモの入った封筒もあったという。

new york grand jury votes to indict former president trump
KENA BETANCUR//Getty Images
ドナルド・トランプ前米大統領の罪状認否後の記者会見で話すマンハッタン地区検事アルビン・ブラッグ氏(2023年4月4日、ニューヨーク)。ドナルド・トランプ前米大統領は、2016年の口止め料支払いに起因する34の重罪について無罪を主張した。起訴されたことで、トランプ氏は史上初めて刑事犯罪で起訴された元米大統領となる。

この事態を重くみたブラッグ検事は裁判所に、トランプ氏に対し検事局への攻撃を控えるようかん口令を出すように要請した。また、陪審員が嫌がらせや脅迫を受ける恐れがあるため、彼らを保護して住所を明かさないようにすることも求めたという。

まるでマフィアのボスが裁判にかけられたときのような恐ろしい状況だが、それだけトランプ氏側も裁判を妨害しようと必死なのであろう。

裁判ではかつてトランプ氏に絶対的な忠誠を誓った顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が元ボスと決別して、トランプ氏に不利な証言をすることになっており、有罪になる可能性は十分に考えられる。初犯なので有罪になっても禁錮刑(最高4年)は免れるとみられているが、問題は選挙への影響である。

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ABCニュースが2月23日、サウスカロライナ州の予備選で行った出口調査では、「もしトランプ氏が有罪になった場合、大統領の資格はあるか」との問いに61%が「イエス」、36%は「ノー」と答えた。つまり、共和党有権者の間でも約3分の1は「有罪なら、本選で投票しない」としているのだ。

さらに共和党の穏健派や無党派層が多いヘイリー氏の支持者に限ると、この数字は大幅に増え、「有罪となれば、トランプ氏は大統領にふさわしくない」と回答した人が79%に上っている。

不測の事態が起きなければ
バイデン大統領が僅差で勝利か

ヘイリー氏の撤退表明を受けて、バイデン大統領は彼女の支持者の取り込みを図った。大統領はヘイリー氏の支持者らに「自らの選挙戦に場所を用意する」との声明を出し、「意見の不一致も多いが、米国の民主主義を守り、法による統治のために立ち上がり、米国の敵に立ち向かうという基本的な事柄については共通の土台を見つけることができると信じている」と述べた。

ヘイリー氏の支持者の何割かが本選で投票しないか、あるいはバイデン大統領に投票すれば、トランプ氏にとって大きな打撃となるだろう。政治経験の豊富なバイデン氏はそのことを認識しているからこそ、すぐに行動を起こしたのだ。

バイデン大統領は高齢の不安や力強さを欠いた演説、実績のアピール不足などもあって世論調査で過小評価される傾向があるが、実は選挙に強い。

2020年大統領選では僅差でトランプ氏を破り、2022年の中間選挙では民主党の大敗が予想されていた中、中絶問題などを前面に打ち出して戦い、上院多数派を奪還した。

片やトランプ氏は共和党内では圧倒的な強さを誇るが、保守強硬派を支持基盤としているため、民主党との選挙戦にはあまり強くない。

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共和党予備選でトランプ氏らと戦ったクリス・クリスティー前ニュージャージー州知事はこう述べている。

「トランプ氏が共和党にいる限り、今後の共和党は根本的な問題を抱えることになる。彼は2018年に下院の多数派を失い、2020年に上院とホワイトハウスを失い、2022年には知事選と上院選で多くの議席を失いました。2024年に敗れれば4回目の敗北です。彼はフロリダ州の邸宅に戻り、泣き言や文句を言い続けることになるでしょう」

クリスティー氏は「トランプ氏では本選に勝てない」と言い続け、予備選を戦ったが、共和党内の支持を広げられずに撤退を余儀なくされた。

一方、再選を目指すバイデン大統領も史上最高齢などの不安要素を抱えているため、3月7日に連邦議会で行われた一般教書演説では国民を安心させようと努めた。

「私は年を取り過ぎていると言われます。若くても年を取っていても変わらないものは何かを知っています。私たちを導く北極星を知っています。全ての人は平等につくられており、人生を通して平等に扱われるべきです…」

それから大統領は熱のこもった力強い口調で議会襲撃事件を起こしたトランプ氏を厳しく非難し、経済についても自らの実績をアピールした。

「経済は瀬戸際にあるという人がいますが、米国経済は世界の垂涎(すいぜん)の的です。わずか3年で1500万人の雇用が新規に創り出されました。過去最高です」と。

実際、株価は史上最高値を更新し、失業率は3%台半ばで50年ぶりの低水準にあり、米国経済は好調である。にもかかわらず世論調査であまり評価されていないのは、記録的な物価上昇によって家計が圧迫され、それが国民の不満として表れているからではないかと思われる。

しかし、そのインフレもようやく収まりつつある、2024年1月の個人消費支出(PCE)の上昇率は前年同月比で2.4%となり、およそ3年ぶりの低水準でインフレの鈍化傾向が示された形となった。

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バイデン大統領の全国顧問の一人であるジェイ・プリツカー・イリノイ州知事は2024年1月14日、ABCテレビの政治討論番組「ジス・ウィーク」に出演し、こう語った。

「バイデン大統領は経済を復興させてきました。今や所得が物価上昇率を上回るようになり、インフレは収まりつつあります。より良い状況を実現しつつあるのです。経済はこれからさらに改善し、大統領の支持率も上がっていくでしょう」

経済が好調であれば現職が有利というのは、過去の大統領選の結果で示されてきたことだ。

これまで述べたトランプ氏の致命的な弱点や好調な米国経済などを基に予測すれば、11月の本選までに国内外で不測の事態が起こらない限り、バイデン大統領が僅差で勝利する可能性は高いと思われる。

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