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[目次]

▼ KDDIがローソンのTOBを発表

▼ セブンとの競争軸が変わる

▼ ローソンの強みは「ビッグデータ+AI」

▼ セブンとは別次元の分析力を手にするかも…

▼ 既存の“追い出しモデル”は機会損失かも…

▼ 「おいしい話」に投資できなくなる時代

※2023年2月9日に「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された、鈴木貴博氏(百年コンサルティング代表)の記事転載になります。


KDDIがローソンのTOBを発表
三菱商事との共同経営を目指す

KDDIが、TOBでローソンの株式50%の取得を目指すと発表しました。TOBに成功すれば三菱商事が持つ50%の株式とあわせて、2社で100%の経営権を持つことになります。

KDDI、ローソン、三菱商事3社による共同記者会見の中で、三菱商事の社長が口にした言葉が印象的でした。三菱商事でローソンを支援できることにはこの先は限界があるという話です。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

ローソンは三菱商事の傘下に入ったことで、人材や商流などさまざまな点で経営上の支援を受けてきました。この点は、業界2位のファミリーマートが伊藤忠からの支援を受けていることと同じです。

にもかかわらず、これまでやれることはやってきたうえで、ここから先、ローソンがさらに進化するためには三菱商事では足りないというのが、今回の資本提携劇の注目すべきポイントです。

そこで考えるべきは、「KDDIが加わることでローソンはどう変わることができるのか?」です。

詳細はこれから詰めて秋ごろには発表されるということですが、経済評論家として即座に頭に浮かぶ話が三つあります。

それは、
(1)セブンとの競争軸が変わる。セブンを超える武器が手に入る
(2)コンビニのビジネスモデルがおそらく変わる
(3)資本主義の従来ルールが大きく変わる

の3点です。それぞれ、お話ししたいと思います。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

(1)
セブンとの競争軸が変わる
セブンの強みはIT+人材力

コンビニは、業界ダントツなのがセブン-イレブンで、そのトップの地位が失われることはまず考えられないというのがこれまでの常識でした。

セブン-イレブンのビジネスモデルは盤石です。業界でもっとも多い店舗数を持ち、業界でもっともすぐれた商品開発力を持ち、結果として業界でもっとも高い日販(1日あたりの店舗売り上げ)を誇るのがセブン-イレブンです。

そんなセブンの強みは、「IT+人材力」だと言い換えることができます。

people doing grocery shopping and using a self checkout
elenabs//Getty Images
※イラストはイメージです。

有名なのは「ITによる死に筋管理」で、よく売れる商品だけが売り場で生き残っていくことが商品力の強さの一翼を担います。

同時に優れた人材が、さまざまな飲食店や食品メーカーとコラボしながら新たな商品を生み出し続けることで、売り場に次々と強い商品を送り込んでいきます。

前者は創業当時以来のセブンの強みであり、後者はここ15年ぐらいで急速に加わった新しい強みです。そしてこの両輪が回り続けることで、セブンの牙城はなかなか崩すことはかなわないほどのものになっているのが現状です。

ローソンの強みは
「ビッグデータ+AI」
優位性はかなりエグい

では、これに対してKDDIが加わったローソンはどうなるのでしょうか。携帯電話会社の最大の資産は、利用者のGPS情報などのビッグデータです。

ローソンはこの先、「ビッグデータ+AI」が強みになります。セブンが「IT+人材」、それに対してローソンが「ビッグデータ+AI」という対立構造になるのです。IT対ビッグデータ、人材対AIの戦いになると言い換えてもいいかもしれません。

ちなみに記者会見で3社は、KDDIが加わる意味を「通信とDXだ」と説明していましたが、これは実にいい感じで本質をはぐらかした説明だと私は感じました。

一見すごいことを説明しているように聞こえて、その実、聞いている人にそのすごさが伝わらない説明です。聞き手が、せいぜいローソンのポンタがauと一緒になってもっとメジャーになる程度の想像しかできない説明をわざわざ選んだのだと感じました。

しかし、通信とDXで実現する新しいローソンの優位性は実はもっとエグいのです。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

ローソンはKDDIとの提携で
セブンとは別次元の
分析力を手にするかもしれない

具体的には、auのスマホシェアは現在27%です。つまりローソンを訪れる顧客の4人に1人は、auユーザーです。新たに親会社になるKDDIは、ローソンの顧客の4人に1人についてのGPS行動履歴、購買履歴、関心などさまざまな事柄に対するビッグデータを保有します。

結果、ローソンでは購買履歴という結果と、その背景にあるビッグデータという手がかりの相関関係をAIで分析できるようになります。

これは、人間が読み取れる範囲内のデータで人間が分析をしているセブン-イレブンとは次元の違うマーケティング分析ができるようになることを意味します。

この意味を、具体的に考えてみましょう。いま、セブン‐イレブンでは「金のプレミアム」のようなお高めのPB商品と、138円で売られるPBカップ麺のような安いラインのPB商品が混在しています。

基本的には購入する顧客層がまったく違う商品なのですが、結果的にどちらも死に筋になっていないため、セブンの人材は「どちらを買う顧客層もお店によく来てくれるからだ」と頭で分析をして両方の商品を品ぞろえするようなマーチャンダイジングがなされています。

smart warehouse management system using augmented reality technology
NanoStockk//Getty Images
※写真はイメージです。

これに対してビッグデータが活用できるようになると、結果に関わるPOS情報だけでなく、原因に関係するビッグデータが手がかりとして加わります。つまり、死に筋管理に加えて売れ筋管理が同時にできるようになります。

さらに、人材ではなくAIで処理すればエリア単位、地域単位といったざっくりとした切り口ではなく、個店単位で顧客行動に合わせた品ぞろえを実現できるようになります。

ローソンにはナチュラルローソン、ローソンストア100、成城石井など異なる顧客層向けの店舗フォーマットがありますが、それらの商品を統合したうえで一店一店、顧客層に合わせた個別の店舗フォーマットにすることも可能です。

もう一歩踏み込んで、考えてみましょう。仮にローソンの店舗を、サイバー空間上の日本地図に建設したとします。

これをDXの用語でデジタルツインというのですが、ライバルを含めたコンビニ店舗網をデジタルツインで構築して、そこに日本人の4人に1人の行動ビッグデータを加え合わせれば、ローソンはマーチャンダイジング上の試行錯誤の回数を、コンビニの実店舗よりも早くかつ多くまわせるようになります。

KDDIがGAFAに対抗するだけのIT力を仮に持っていると仮定すれば、論理的にはこういった戦い方に土俵を移すことでセブン-イレブンの優位性を無力化させることができるわけです。これが、経済評論家の視点で見ると実におもしろい提携劇だというのが一つ目のポイントです。

(2)
コンビニのビジネスモデル
自体がおそらく変わる既存の
“追い出しモデル”は
機会損失かもしれない

ここまで説明してきた、新戦略はあくまでセブンの既存のやり方に対抗する戦略の話です。その枠も、新しい提携は超えていくかもしれません。

コンビニエンスストアのビジネスモデルとは、狭いお店に効率重視で商品を並べ、顧客には用事が済んだらすぐに帰れと促す“追い出しモデル”です。あれだけ集客力がある店舗であるにもかかわらず顧客の回転率は速すぎて、店内には常に数人の顧客しか滞留していません。

不動産の利用効率を極限まで高めるという、コンビニのビジネスモデルとしては当然のものですが、実はGAFAをはじめとするIT大手のビジネスモデルとは大きく相反するのがコンビニのビジネスモデルでもあります。GAFAのビジネスモデルはむしろ顧客の滞留をどれだけ長くするのか、どれだけ長時間自社のサービスに依存させるのかを重視します。そしてKDDIが得意とするのは、そのような後者のビジネスモデルです。

この話は話し始めると長くなるので、なるべくコンパクトに説明します。たとえば「コンビニのファミレス化」といったキーワードを想像してみてください。

高校の授業が終わった後、下校途中の生徒たちがたむろしようとしてコンビニに立ち寄っても、買い物が済んだらすぐに追い出されるのが今のコンビニです。それで仕方なく、公園にたむろするわけです。

ちょっとお金がある生徒たちなら毎日、ファミレスや回転ずし店にたむろして仲間とぺちゃくちゃしゃべるのを楽しみにするわけです。それが日本が貧しくなるにつれて、たむろする場所がSNSに移行して、現在のZ世代に至るのが若者のつながり方の変遷だと想像してみましょう。

なぜコンビニはファミレスや回転ずし、SNSに滞留の利益を譲っているのでしょう?

このような思考から気づくことは、要するにコンビニには過去50年の進化の過程で切り捨ててきたビジネスモデル上の可能性がたくさんあるということです。中でも顧客を素早く追い出す現モデルから、顧客の滞留を促す別の可能性へのシフトには一定の魅力があるのです。

これまでの制約としては、「とはいえリアルな不動産の制約を考えたら“追い出しモデル”のほうが効率がいい」ということでした。ところがそこに、IT空間軸が加わると話が変わってくるかもしれないというのが今回のKDDIとの資本提携の重要な側面です。

つまり、顧客はサイバー空間上では常にローソンにログインした状態で、そこでの行動体験の一部として頻繁に(とはいっても1日2~3回程度でしょうが)コンビニ店舗に立ち寄るといった新しいタイプのビジネスモデルは考えうるモデルなのです。

これはセブンがかつて「オムニチャンネル」として検討をして挫折をしたビジネスモデル進化とも関係する話で、その意味でKDDIがローソン陣営に加わる意味は大きいと考えられるのです。

ローソンとしてはこの秋をめどに何らかのビジネスモデルを発表し、完成させた暁にはアジアなど海外に展開していきたいということです。実はGAFAの一角であるアマゾンは、アマゾンゴーという新しいコンビニモデルに挑戦したのですが、どうも失敗し、戦線縮小に向かっている様子です。

だとすれば、ローソンにはアジアでアマゾンに代わる覇者になれる可能性もあるわけで、この2番目の可能性は注目すべきことなのです。

(3)
資本主義の従来ルールが変わる
一般の投資家が「おいしい話」に
投資できなくなる時代が来る

さて、今回の資本提携の発表を受けて、発表の翌日、2月7日の株式市場ではローソンの株価は15%も上昇しました。これまでローソン株を保有してきた投資家には今回のニュースは良いニュースだったわけですが、たとえばこの記事を読んでローソンへ投資をしてみようかと考える方には、ちょっと肩透かしな結果になるかもしれません。

というのは、もともと50%を三菱商事が保有するローソン株に対して、新たにKDDIがTOBをかけて残り50%の取得を目指すということになると、この提携が成功すればローソン株は上場廃止になるのです。

逆に、新規に値上がりしたローソン株を保有して株主であり続けようとしても、KDDIが十分な株式を入手できなければこの話自体が破談になってしまいます。破談になれば株価は元の木阿弥で、15%低い元の状態に戻ってしまうかもしれません。

要するに今回の資本提携は、ローソンの企業価値を大きく引き上げる可能性がある提携であると同時に、一般の投資家は手が出しにくい話になっていくのです。

そして仮に、今回の資本提携が大成功したとします。すると大企業は、新しい資本ルールに気づくようになります。

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KanawatTH//Getty Images
※写真はイメージです。

要するに大企業が手掛ける成長分野の投資は、株式公開をしないほうが有利だと考えるようになるのです。

アメリカの資本市場にはユニコーン企業と呼ばれる、時価総額が10億ドル(約1500億円)を超える非公開企業が多数存在しています。問題はその理由です。

以前はアメリカでは、有望なベンチャー企業は利益が上がらないうちから株式市場に公開して資金を調達して、その資金で成長を目指すというのが成功の定石でした。ところが、2010年代に入るとこのルールが変わります。巨大なベンチャーキャピタルが、「成功しそうなベンチャーであれば自分でどんどん資本を供給して、大きくなったあとで株式公開したほうがもうかるのだ」と気づいたせいです。

実際、この10年間で世界のユニコーン企業は増加の一途です。これを言い換えると、おいしい話には一般の投資家は投資できなくなる時代がやってきているということです。

ローソンと似た話に、ソニーとホンダが提携するソニー・ホンダモビリティがあります。次世代の自動車を開発するという事業を資本力のある2社が提携して、外部からの資金調達に頼らず社内ベンチャー企業をユニコーンに育成しようとしているのです。

これは以前、経営コンサルタントとして日本の小さなベンチャー企業支援をしていた頃に私がつくづく感じたことですが、日本という社会風土では、ベンチャー企業は成長軌道に乗り始めたら大企業の傘下に入ったほうが成長しやすいのではないかというようにみえます。

ドラマ『下町ロケット』をご存じの方は思い出していただければわかりやすいのですが、日本にはベンチャーが育ちにくいビジネス慣行が存在しているのです。

ある意味で、この先の日本を変えていくような新しいビジネスモデルは、今回のような大企業同士の提携で進めたほうが日本では成功する可能性が高いわけです。

ローソンの提携が成功すれば、そのことがよりはっきりするかもしれません。

はっきりと書くことは差し控えますが、KDDIにはもう一つ小売り分野で大型買収の可能性があって、おそらくそのこともあり、記者会見では3社ともGAFAを強く意識していたものとも推測されます。

この流れが定着すると、良いこととしては日本経済が再び活性化して、異業種大企業同士が手を組みながら新しいビジネスを作り上げるというプラスの経済活動が活発になることです。一方で、一般の投資家はそのような企業に投資をすることがますます難しくなるでしょう。

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これは当然のことですが、そのような世の中になれば、株式市場では三菱商事やKDDIに投資をする人が増えていきます。つまり社内でユニコーンを育てるトレンドが生まれると、資本市場の中で、より巨大な企業の時価総額が群を抜いて大きくなるという現象が起きていくわけです。

現に、アメリカの資本市場を見てください。ユニコーンと呼ばれるIT企業の多くがマグニフィセントセブンと呼ばれるアップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタ、テスラ、エヌビディアの7社から資本を供給されています。そしてそのマグニフィセントセブンが、アメリカの上場企業500社のインデックスであるS&P500の3割を占め、かつ、S&P500指標の上昇の原因の大半を説明するという状態が起きています。

ローソンのTOBが、もしローソンとセブンの業界順位逆転という結果を生み出した場合には、日本の株式市場のルールが大きく変わり、日本もマグニフィセントセブンのように「資本が資本を生む形で成長する新しい大企業」が支配する経済構造へと変わることになるかもしれません。

このように考えると、ローソンをめぐるニュースは間違いなく2024年の重大ニュースなのです。

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