2021年2月末、イタリアの多くの場所は気温摂氏約20度と、過ごしやすい気温になりました。しかし2月は、暦の上でも冬であり、過去の気温と比較すると異常な暖かさであることがわかります。「良い天気だなあ」と手放しで喜べる状況ではないことは、この地球温暖化の問題に真剣に取り組んでいる方であれば、すぐに気づいたはずです。

  コロナ禍、大気汚染が一時的に改善されたとのニュースもありました。ですが、このパンデミックは地球上最も急務と言える問題を覆い隠し、地球全体を不健康な状態へと追いやるさまざまな影響はそのまま…軽減できていないまま時間は流れました。

 2021年2月上旬には、ヒマラヤ山脈が交差するインド北部のウッタラーカンド州で氷河の一部が崩れ、それが川に落ちることで大洪水が起きました。それによってダムが圧迫され崩壊し、大量の水がウッタラカンド州の渓谷に流れ込みました。そして数百人の死者と行方不明者が出たほどの大災害となりました。

 それだけではありません。南米ペルーのアンデスも同様です。この地は氷河の融解で引き起こされた洪水によって、1940年代から今日までに約3万人が死亡ていると推測されています。またアラスカも…。首都アンカレッジからそれほど遠くない地域の住民たちは、「いつ巨大な津波の襲われてもおかしくない」という恐怖と共に生活しています。なぜなら、南岸のプリンス・ウィリアム海峡にあるバリー・アーム入り江(フィヨルド)の中で、温暖化で溶けた氷河が地滑りを誘発し、斜面ごと海に崩れ落ち破滅的な津波を引き起こす可能性がある…と警鐘が鳴らされているからです。

加速する、氷の消失

 実際、氷河の後退(融解)はますます加速しており、一部の氷河は年間100メートルも後退しているという数値が報告されています。

 ヨーロッパでは、大陸最大の氷河であるアイスランドのヴァトナヨークトル氷河(より正確には氷冠)が20世紀に質量の約10%を失い、21世紀の最初の10年間でさらに3%を失っており、「2世紀以内に消滅する可能性がある」と推測されています。

 イタリアではさらに事態は悪化しており、過去150年間でアルプスの氷河が平均60%縮小したということ。2019年9月には、西欧最高峰モンブランのイタリア側の斜面を覆う巨大な氷河の一部が、8月~9月半ばの長引く猛暑の影響で崩落する恐れが高まっているとして、地元自治体が警告を発しています。

 イタリア・バレダオスタ州の町クールマイユールの広報担当者は、観光客に人気のプランパンシュー氷河で、全体の体積の5~6分の1に相当する約25万トンの氷塊が谷に崩れ落ちる危険が迫っていると報告しています。1日当たり平均35センチのペースで融解が進み、日によっては最大50~60センチほど後退しているとのことです。

 この喪失の結果、地滑り、海面上昇、その他の壊滅的な出来事に影響を与える可能性が高まるだけでなく、氷河が川に水を供給し、その水が耕作地の灌漑(かんがい)に使用されるため、飲料水が少なくなり、農業に深刻な被害をもたらすことも意味します。

 前述に少し触れた赤道のはるか北では、状況はすでに深刻です。

 2020年6月、シベリア東部の気温は38度に達しました。これは、北極圏でこれまでに記録された中で最高気温となります。このような熱波は、北極海を覆う海氷の形成をほぼ2か月遅らせており、結果的に後退に拍車をかけることになるのです。

出典:noaa
出典 : NOAA

 氷の衰退は、気候変動の結果であるだけでなく、さらなる悪影響の原因にもなる可能性もあります。それを簡単に説明すると…、海氷の白は太陽光線を反射します。つまり、その氷が少ないほど吸収される熱は大きくなります。したがって熱を帯びれば、自動的に氷の損失も大きくなるわけです。これが、北極圏が他とは2倍の速さで温暖化している理由なのです。

 同時に北極圏の急速な温暖化は、永久凍土の融解にも起因します。永久凍土とは、地球の大気に含まれる量の約2倍に相当する大量の二酸化炭素を内部に保持する地盤のことです。

 繰り返しになりますが、この悪循環("正のフィードバックループ"とも言われます)は止められません。永久凍土の融解により、二酸化炭素だけでなくメタン(環境に84倍大きな影響を与える)の大量放出を加速させる、大気を加熱してしまうのです。

二酸化炭素濃度が、400万年前のように…

 二酸化炭素と言えば、2020年には大気中のCO2濃度が過去最高の417ppmに達すると言われています。この数値は約400万年前、鮮新世(新生代の第五の時代)の大気状態として想定された数値とほぼ同じになります。別の視点から見れば、地球が過去にこのレベルに達していたというのであれば、現状の地球温暖化は人間のせいだという説は薄まるように思えます。ですが過去60年間で、二酸化炭素濃度を100ppmも上昇させたという事実からは免れることなどできないのです。これは、過去の数値と比較すると、100倍も速い速度となるのですから…

 今世紀末までには、800ppmに達すると推測されています。これは5500万年前(地球に氷がなく、気温が12度高かったとき)では、見られなかったレベルです。

出典  noaa
出典 : NOAA

 一方、熱自体は過去最高に達しています。

 2020年は、産業革命以前の平均気温より1.2度暖かくなっています。ヨーロッパはこれまでで最も暑い年を記録し、世界的には2016年と同じでした。が、決定的な違いがあります。それは2016年には、数年に一度赤道方面から暖かい海水が流れ込む、エルニーニョ現象が発生していたからです。一方2020年は、通常は寒い年となる、冷たい空気の流れの影響を受けるラニーニャ現象が起きる年でした。ですが実際の2020年は例外の年となり、記録的な熱波が干ばつを引き起こすのです。そしてその結果、オーストラリア、カリフォルニア、シベリアで山火事が発生しました。

 そうしてこの壊滅的な火災という、森林破壊の一因がひとつ加わったのです。そして世界の森林面積の縮小も、さらに進行しつつあるのです。1990年代から今日まで、合計40億ヘクタールのうち1億7800万ヘクタールの森林が消滅しています。森林破壊の進行率は過去5年間では低下していますが、それにさらなる歯止めをするにはまだまだ長い道のりが必要です。さまざまな植林プログラムは実施されていますが、それは部分的な効果しか持たない可能性があるとも危惧されています。

 「既存の森林を保護することは、新規で植林を行うことよりも重要だ」とグランサム研究所のボニー・ウォーリング( Bonnie Waring )博士は、英ウェブメディアの「BBC」に述べています。「私たちは、森林が自然に成長できる環境を整える必要があります。それこそがCO2濃度を減らし、生物多様性を高めるための最も効果的な方法なのです」とも、続けて語っています。

 森林と生物多様性のための環境を整えることこそが、いま最も重要なことなのではないでしょうか。そうすれば今後、新たな…もしくは、ますます大きな警報ベルを鳴らさずにすむかもしれません。また、気候変動の危機を背景に置きながらの、同じようなパンデミックが広がるリスクをも減らすことだってできるはずです。

Source / ESQUIRE IT