私たち日本人にとって、藻類は欠かせない存在です。海苔やワカメ、もずくや昆布など(アレルギーなど一部の人を除き)子どものころから食べてきたはず。これら海藻類は、食物繊維やミネラルが豊富で「皮膚や髪に良いから食べなさい」と言われて育った人も少なくないでしょう。

 海に行くと、砂浜や海中に浮かんでいるその異様な姿に驚かれることも多いですが、彼らが存在しなければ人類の繁栄すらなかったかもしれません。「何千年もの間、人間は海藻をさまざまな方法で利用してきました。私たちの祖先はそれを食べ、農作のための肥料として使用していたのです。1万3000年以上前人間がアジアから北アメリカへ初めて入ったとき、彼らは沿岸における昆布のおかげで豊富に生息した魚に依存しながら生存した可能性がある」と、ウェブメディアの「New Scientist」では説明しています。

 日本・中国・韓国などのアジア圏では、日常的に食される藻類ですが、西洋圏ではアジアンフードのブームが到来するまでのしばらくの間、前述した「海に浮かぶ得体のしれないもの」としての認識が一般的でした。しかし今となれば、世界中の人々が海藻からの恵みを得、ときに利用しながら生活しているのです。例えばソースやヨーグルトの増粘剤として使用されるカラギーナンは、紅藻類に由来します。これはE407という名称で歯磨き粉をはじめとする、いくつかの化粧品にも含まれているのです。

 さらに重要視すべき点は、藻類の長い分子鎖を使用してバイオプラスチックが形成できるという点です。

藻類が地球を救う可能性
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 この特性と将来的な用途を考慮すると、藻類が持つ潜在能力は未だ十分に活用されてはいない…と言っていいでしょう。ヨーロッパおよび北アメリカの大西洋岸の岩の多い部分に沿って、豊富に成長する紅藻の一種であるアイリッシュモス(ヤハズツノマタ)はカラギーナンが非常に豊富です。ですが、「収穫が過剰に行われ、現在この資源は実質的消滅しつつあります」と、ウェブメディアの「New Scientist」には書かれています。

 幸いにも 2014年から、非営利団体GreenWaveは米国の藻類農家を再構築しており、イギリスではSeaGrown社が最近北海で商業栽培を開始しており、野生の藻類の収穫から栽培へと移行する作業をすでに開始しているということです。

藻類のおかげで、世界の人口の3分の2の需要を満たすことができる

 彼らの目標は、藻類の生産を藻類の生産を指数関数的に増加させることです。これは30年間で、91億人の人口に到達する地球の人口の食糧需要を満たすためにも必要です。

 「The Future of Food from the Sea」と題された2019年の2019年の論文によると、「藻類の養殖を行い、人工的な生息地をつくることによって野生の魚の個体数を増やせる可能性がある」とつづられています。

 この論文では、藻類のおかげで海から3億6400万トンの動物性タンパク質を(主に魚や甲殻類のカタチで)入手でき、世界の人口の3分の2の需要を満たすことができると予想しています。それでも不十分な場合でも藻類なら、その栽培は環境への影響は確実に低いカタチで成しえることができるのです。

 「必要なのは、海面から数メートル下に浮かぶ藻類を播種(はしゅ:種まき)し、浮標に接続して簡単に移動できるようにすることです。藻類は数カ月間放置し、その後、フックを使ってボートで集められます。プロセス全体を通じて、肥料を使用する必要はありません」と、論文内に仮説として記されています。

 藻類の栽培は海洋生態系を回復させるだけでなく、海に存在する酸素レベルを高め、海洋の酸性化と闘うのにも役立つのです。また、それだけでなく、いくつかの進行中の試験にもとづいて飼育動物の飼料に藻類を追加した結果、牛(温室効果ガスの主要な供給源の1つ)から放出されるメタンを最大67%削減できるそうです。さらに光合成により、商業的に栽培された藻類は大気から大量の二酸化炭素(CO2)を抽出することもできる…という研究結果もあります。

藻類が世界を救う可能性
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 今日成長している藻類は、大気から280万トンのCO2を除去し、1平方キロメートルあたり1500トン貯蔵すると推定されています。森林の結果(3600トン / 平方キロメートル)に比べて控えめな結果とは言えますが、海の広大な領域を考えると、それははるかに膨大な量と言えるのです。

 そこで貯蔵されたCO2がその先どうなるか?は、栽培された藻類の使用方法に左右されます。もしそれらをすべて人が食べてしまった場合には、CO2は数カ月で大気へと戻ります。一方、それらをバイオ燃料へ変換…つまり、石油やガスの代替物にした場合には、地球にとって大きな一歩となるでしょう(ただし最終的には、大気中へ戻って温室効果ガスとなりますが…)。

 いくつかの根本的な解決策として考えられているのは、巨大な藻類作物をつくり、それを捕獲したすべてのCO2とともに、海の深部に埋め込むことが現在提案されています。

 ウェブメディアの「New Scientist」によると、「2012年、フィジー諸島南太平洋大学のアントワーヌ・ド・ラモン・ニュール氏は、海面の9%を占める藻類の森が大気中のCO2レベルを、産業革命以前のレベルに戻す可能性があると推定しました」とのこと。

 それはロシアの2倍の面積であり、野生で栽培されている藻類が今日占める面積の10倍の面積があることを考えると、それほど小さな目標ではないでしょう。しかし、この規模で藻類の栽培に特化してしまうと、まだ評価されていない生態系に副作用をもたらす可能性も考えられます…。

 この最も過激な解決策を除いて、1つ確かなことがあります。

 それは地球の持続可能性、生態系の摂食、回復、海洋の酸性化の低減、大気中に存在するCO2にとって藻類は、大きな可能性を秘めているということです。海辺に存在する奇妙なものではなく、これからの地球を大きく左右する可能性のある…まさに「グリーンゴールド」なのです。

Source / New Scientist, ESQUIRE IT