最近、「地軸の傾き」が再び話題になっています。科学者調査によって地軸のブレが加速し、31.5インチ(約80センチ)もずれていることが明らかになったからです。このデータは、2023年6月に査読付きの地球科学ジャーナル『Geophysical Research Letters』誌に掲載された研究で発表されたもので、この傾きが確実に大きくなっている主な原因は、「人間の地下水のくみ上げ」とされています。

そしてその研究では、「このように傾きが進んでいることと、世界的に海面が0.24インチ(約6ミリメートル)上昇していることは関連している」というのです。

ここまでで、既に理解しなければならない情報がたくさんあります。が、傾きの変化が世界の海面にどのように影響するのでしょうか? また、そもそも地下水のくみ上げがなぜ、地軸の傾きに影響するのでしょうか? そして地軸の傾きが31.5インチ広がったことは実際、それほど大きな問題なのでしょうか?

ただ地軸の傾きに関する事実は、こうした個々の問題というよりははるかに複雑な問題と言えるでしょう。多くの可変的な要素には想像もつかないほど不安定で大きな余地が含まれており、地表のほぼ全ての状態に影響を与える可能性があるのです。

ここでは地軸の傾きについて知っておくべきこと、そして傾きが変化し続けるとなぜ問題なのか? を説明します。


地軸の傾きは
地球にどう影響する?

地軸の傾きというのは、地球を象徴する特徴です。地軸が傾いているからこそ、地球には春夏秋冬のような四季が訪れる地域ができます。そして北極と南極では、一日中太陽が出ていない極夜(きょくや)と一日中太陽が出ている白夜(びゃくや)があるのです。考えてみれば、その理由を理解するのは簡単とも言えます。

もし地軸の傾きが公転軌道に対して垂直であれば、遊園地にある乗り物「Tilt-a-Whirl」(自転しながら周回する「コーヒーカップ」に斜めに傾く動きが加わったようなもの)が傾く前のように、いずれの半球も日照時間は1年を通して変わらず、1日における太陽の軌道位置も年間を通じて一定となって月日を経過しての変化もなくなります。そしてその状況は、北極点と南極点でも同じになります。

ですが実際には、地軸は傾いているのでTilt-a-Whirlに乗っているときと同じように、中心(太陽)や水平面にかなり近づくこともあれば、かなり離れることもあるわけです。

earths tilt and the seasons shown in a diagram
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私たちが普段生活している場所では、地球はとても堅いもののように感じられます。ですが、正確にはそうではありません。主に固い岩石でできた地球の一番外側の層「地殻」は、多くの場所で深さ約25マイル(約40キロ)。地表面がわずか1平方フィート(約930平方センチメートル)でも、25マイルの深さの地殻の重量は約1万1000トンにもなると考えられます。

これはMLBのトロント・ブルージェイズが本拠地とするスタジアム、「ロジャース・センター」の開閉式の屋根全体と同じ重量です。さらに言えば、2012年に地中海のティレニア海で座礁、転覆した大型豪華客船コスタ・コンコルディア号(約11万4000トン)を回転させて直立位置に元に戻すのに十分な重さだったわけです。

しかし、太陽系で最も密度の高い惑星である地球において、25マイルの厚さの地殻は地球の直径の0.33%程度に過ぎず、1万1000トンというのも地球の総質量1.317 × 1025ポンド(5.972 × 1024キログラム)に比べればほんのわずか。地球をM&Mチョコレート一粒とすると、極めて薄い糖衣の部分が地殻に当たります。

地殻の上には海があり、地殻の真下には広大な地下淡水域があります。その下には、わずかに流動性の岩石を含むマントルがあり、その下の外核は液体です(現在、地球の内核は固体と考えが有力となっています)。

地下水の汲み上げが
引き起こす問題

well drilling and over pumping of groundwater in tulare county causing declining of groundwater levels
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2021年10月12日火曜日、カリフォルニア州バイセイリアで。果樹園の灌漑(かんがい)のため地下の井戸から汲み上げられる水。

最近発表された地下水に関する論文では、ある特定の現象について調査されています。「淡水を得るために人間が地殻の下、あるいは地殻内に貯蔵されている水を汲み上げようと穴を開けると、いきなり外殻の一部の重さが大幅に軽くなり、非常にシンプルな形で地球全体のバランス保持に影響を与えることになる」というのです。

想像してみてください。「ボーリングの玉や回転するコマの外側の一部分にだけ穴を開けてみたら、どうなるのか?」と同様ではないでしょうか。回転はできるかもしれませんが、ですが以前と同じようには回らないでしょう。

また、地球は多くの水と溶融金属を含んでいるため、新たな回転が他の液体を通して反響し、さらに異なる回転が生まれる可能性もあります。

地軸の傾きは科学的には「自転軸傾斜角」として知られ、約4万1000年の周期で 22.1度~24.5度の範囲で変動するものとされています。地球の緯度1度分の距離は約69マイル(約111.11キロメートル)なので、31.5インチというのは実に微々たるものでほとんど問題にはならないでしょう。

しかし、この論文で扱っている内容は一つの個別要因に関してであり、それが地軸の傾きにどれほどの影響を及ぼしていると考えられるか? ということについてです。もっと重要なことは、これは人間由来の要因であり、地軸の傾きの自然変動の一部ではないということ。人類は4万1000年前に既に存在していましたが、その頃の人類は地下水を汲み上げるために地殻を掘削したりしていません。

ちなみに浄水を目的とした「井戸」という観点で歴史を紐解いても、その歴史において世界最古のものは、新石器時代(約9000年前)のシリア、テル・セクル・アルアヘイマル遺跡のものとされています。

✅地下水の汲み上げ問題とは?
米国地質調査所(USGS)によれば、「地表下の帯水層には、世界の川と湖の1000倍以上の水量がある」と言います(帯水層とは、地下水を貯留している岩石および堆積層のこと)。この地下水は、地球上のさまざまな場所(砂漠でも)で見られますが、アクセスできない、または人間が利用するには処理が必要なことが多いのです。こうした水は地表近くにあって、溜まってから数時間しか経っていないものもあれば、地下の非常に深い場所で数千年もとどまっているものもあります。

米国科学・工学・医学アカデミーとアリゾナ州立大学が発行する季刊誌『Issues in Science and Technology』によると、人間が地下水の汲み上げという手段に頼るようになった背景には、湖や川の淡水枯渇という背景があり、地下水の利用目的は、飲料水用や灌漑、鉱物の採掘などさまざまです。しかし、地下水の汲み上げはそれなりの結果を伴うものです。過剰な地下水の汲み上げは、自然の水域や湿地帯に大きな混乱をもたらします。干上がらせるだけでなく、地盤の崩壊を引き起こし、野生生物や魚類、樹木に影響を与え、死滅させることさえあるのです。さらに現在では、地下水の汲み上げが地軸の傾きにまで影響を与えているようです。

傾きがぶれるには
他の要因もある

地球はコマやボーリングの球のように、ほぼ完璧なバランスを保っている必要はありません。実際、科学者たちは「テイア」という天体が原始地球と衝突し、その際の衝撃の大きさで地球が傾いて自転するようになったとの仮説を立てており、「この衝撃で原始地球から飛散した塊が月になった」と考えています。原始地球の残りの部分には、片側に大きなスイスチーズのようなクレーターができたため、自転の軸が変化したというのです。地球上の生物にとってはありがたいことに、これまでのところ地球の自転軸が元に戻るような事態は起きていません。

地球をはじめとする惑星は、自転することによって時間とともに少しずつ球体に近い滑らかな形になっていきます。こうした概念は、「静水圧平衡」と呼ばれています。

実のところ、球形に近いという要素はそもそも惑星としての第一の基準であり、そう考えるとテイア衝突後のゴツゴツした地球は、自転活動が回復するまでは「惑星」とは呼べなかったかもしれません。地軸の傾きは、球形を維持する能力には影響しないとされています。地球の静水圧平衡はその傾きにかかわらず、各惑星の自転現象だからです。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2018年、「20世紀に地球の傾きの変化をもたらした3つの主な原因を特定した」と報告しました。これらの原因とは「グリーンランドの氷の融解」、氷河が移動または融解し、氷の重みがなくなったことで地殻が徐々に盛り上がってくる「氷河性リバウンド」、そして「マントル対流」です。マントル対流は地殻の下にある流動的な岩石成分が加熱されて上方に向かって動き、表面近くで冷却されて押し戻されるという運動です。温度の異なる岩石の密度は異なるため、重心を狂わせるのです。

科学者たちは、地球の傾きが膨大な数の要因に基づいて変動することを知ってはいましたが、それらを一度に研究する能力はまだ定着していないとのこと。科学者らは2020年の論文で次のように述べています。

「地球は、内部から外部に至るまで、さまざまな時間のスケールで連続的な変化が進行しているため、こうした動的パラメーターはすべて定常値を持たず、時とともに変化します。その変動は、一定の基準値に比べて非常に小さいため、近年まで観測することができませんでした」

つまり、「今後数年のうちに、地軸の傾きのずれが特定要因によって大きくなったことを伝えるニュースを目にする機会が増えるかもしれない」、ということではないでしょうか。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です