記事のポイント

  • 特定の植物の保全状況を正確に把握することは、科学者が最も絶滅の危機に瀕している植物を保護するためにリソースを活用するのに役立ちます。
  • ロンドンのキューガーデンの研究者たちは、国際自然保護連合が実施した5万5000の植物の評価をもとに、AIを使って全ての顕花植物の絶滅予測リストを作成しました。
  • このリストは多くの科学者や関係者にも利用できるようになっており、キューガーデンのポータルサイトからアクセスできます。

AIで生成した絶滅予測リスト
植物の運命を変えるかも

ロンドンのキューガーデン(キュー王立植物園、Royal Botanical Gardens<RBG>, Kew)は、世界有数の植物の研究施設です。2023年10月には、気候変動によって既知の顕花植物(花を咲かせ種子をつくる植物≒被子植物)の45%、未発見の維管束植物(根から吸い上げた水分や養分が通る道管と葉でつくられた栄養分が通る師管の束を持つ植物)の77%が絶滅の危機に直面しているという悪いニュース*1を発表しました。

そして今回、研究者たちはこの山のようなデータにユーザーがアクセスできるよう、AIの力を活用して、32万8565種の顕花植物が直面している絶滅の脅威をリスト化しました。このAIによる絶滅予測の結果は、2024年3月4日(月)に植物科学の研究を掲載する国際ジャーナル「New Phytologist」に発表*2されています。

この研究の共著者で、キューガーデン研究所の保全アセスメント・分析チームの研究リーダーであるスティーブン・バックマン博士は、プレス声明*3で次のように述べています。

「私たちは、この予測が自分たちの地域の生物多様性に適用され、人々が自分の家や庭、地元の公園に保全が必要な絶滅危惧種がいるかどうか? を調べるために使われることを願っています。

より大きな視野で見れば、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにまだ正式には載っていないけれど、絶滅の危機にあるとされる植物があります。科学者たちは、これらの植物の絶滅リスク評価を優先して進めることで、その評価作業を速めることができます」

この絶滅リスク評価を開発するためにキューガーデン研究所研究員は、ベイズ加法回帰木(BART)*4に頼りました。ベイズ加法回帰木とは、統計学と機械学習の分野で使用される強力な予測モデルです。

想像してください。たくさんのパズルのピース(データ)を持っていて、それらを組み合わせて大きな絵(予測モデル)をつくろうとしています。そこでBARTは、その完成品をつくるために小さな木(決定木)をたくさん使います。それぞれ木からパズルの一部を解くようなものであり、全ての木を組み合わせると全体の絵が完成するというわけです。

ここでベイズの定理を利用します。絵をつくるとき、どの木が一番役に立つのか? どのように木を組み合わせるべきか?を考える必要があります。ベイズの定理*5を利用した統計学では、過去の経験(データ)をもとにこれらの判断をより良く行う方法を提供してくれるのです。つまり、過去にどんな絵が完成したかを見て、新しいピースをどう組み合わせればいいかを予測するというわけです…と、やはり第一線の科学者、難解なことをしています。 簡単に言えば、パズルのピースを賢く組み合わせて大きな絵をつくる方法、それがBARTと言えるでしょう。

このモデルによって、動植や植物を「近危急種」「危急種」またはそれ以上としてリストアップをする国際組織IUCNがすでにアクセスしている5万3000以上の種を対象に、トレーニングを実施。これによってAIを活用し、評価されていない残りの27万5004種に対しての評価を可能性の高い順に分類することができたということです。

科学者たちは、「これらの評価は“変動するターゲット”であり、ある植物は改善し、ある植物は急速に悪化する可能性がある」と述べ、「地球温暖化が進み続けるにつれて、この状態はより一般的になるもの」と推測しています。

これは、IUCNのレッドリストや世界維管束植物チェックリストなど、モデルを支えるベースラインのデータセットを更新する必要があることを意味しています。そうすることでキューガーデンがAIによって生成した予測を、可能な限り正確に保つことにもつながるはずです。

キューガーデンの保全アセスメント・分析チームの上級研究リーダーであり、この研究の著者であるエメア・ニック・ルガダ氏は、プレス声明で次のように述べました。

「特に『絶滅危惧種』や『近絶滅種』として評価されることは、植物の運命を変えます。絶滅リスクが判明すると、保全の優先順位をつけることができるためです。

私たちの予測は、最も絶滅の危機に瀕していると考えられる種を示す非常に有用な指標を提供し、さらには各種の予測に対する私たちの信頼レベルを初めて示すものでもあります」

研究者たちはこう述べています。

「この絶滅予測リストは科学者だけでなく、一般の植物愛好家に向けても設計されているツールです。さらに、キューガーデンのWebサイト『Plants of the World Online Portal』からもアクセスできます」

植物たちは大気中の炭素を吸収したり、海岸を浸食から守ったりすることで、気候変動がもたらす課題を解決する自然な方法を提供してくれてもいます。そんな植物たちの絶滅状態を知ることは、私たちがまだ利用できるツールは何かを教えてくれ、さらには壊滅的な状況に直面する時期をも特定するのに役立つことでしょう。

[脚注]

*1:キューガーデンの公式サイトに掲載された「Scientists predict 3 in 4 of the planet’s undescribed plant species are already threatened with extinction, says new report」を参照

*2:「New Phytologist」に掲載された「Extinction risk predictions for the world's flowering plants to support their conservation」を参照

*3:キューガーデンの公式サイトに掲載された「Kew scientists predict the extinction risk for all the world’s plants with AI」を参照

*4:論文「Bayesian Additive Regression Tree」を参照

*5:Bayes' theorem 18世紀のイギリスの牧師で数学者であったトーマス・ベイズによって考案され、既知の情報を基に未知の確率を推定する方法を提供する。辞書・辞典・データベースを横断して検索できるウェブサイト「コトバンク」の当該ページを参照

Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics