記事のポイント

  • 核融合産業が“点火(プラズマの発生)”という困難な目標を達成した今、次の大きな挑戦は、太陽の何倍もの高温プラズマに耐えられるコンポーネントを設計することです。
  • そのような部品の一つにダイバータと呼ばれるものがあり、これはトカマク型核融合装置で最も高温な温度にも対応します。大韓民国超伝導トカマク先進研究装置(KSTAR)は、高温により長く耐えられるようダイバータをカーボン素材からタングステン素材に改良したばかりです。
  • タングステン素材のダイバータは、2025年に稼働予定の国際熱核融合実験炉(ITER)で使用されるもので、KSTARは貴重なデータを提供することになります。

2025年に予定されている国際熱核融合実験炉(ITER。人類初の核融合実験炉の実現を目指す大型の国際プロジェクト)の初プラズマ――つまり、その運転開始を核融合産業は心待ちにフォーカスしている一方で、世界各地にある他の小規模な核融合炉もこの次世代エネルギープロジェクトに向けて画期的な取り組みを行っています。

そのうちの一つが韓国のテジョンにある核融合炉で、大韓民国超伝導トカマク先進研究装置(KSTAR=Korea Superconducting Tokamak Advanced Research)というものです。2008年以来このKSTARは、摂氏1億度のプラズマを発生させて特定の水素同位体を融合させ、莫大なエネルギーを生成し、核融合エネルギー(太陽のエネルギー源と同じもの)の基本概念をテストしてきました。

太陽の7倍もの超高温プラズマを発生させたとしても、それは、この取り組みで成し遂げようとしていることの半分にすぎません。ドーナツ状のトロイダル磁場を形成するトカマク型の核融合炉は、そのプラズマを長時間閉じ込める必要がありますが、それは容易なことではありません。2022年9月、KSTARは摂氏1億度に30秒間到達。幸先の良いスタートでしたが、実際にプラズマを加熱するのに必要な分以上のエネルギーを生成するのには、十分な時間ではありませんでした。

ですが2023年12月、韓国核融合エネルギー研究所は「新たなアップグレードによってKSTARは、2026年までにこれまでの記録の10倍もの時間プラズマを維持できるようになるでしょう」と発表。これは、非常に素晴らしいタイミングと言えます。なぜなら、KSTARで収集されたデータはITERプロジェクトにも活用されるからです。

KSTARはこれを、トカマク型核融合炉内で見られる莫大な熱流束に対応できる、タングステン素材の新しいダイバーターによって実現しようとしています。韓国核融合エネルギー研究所のSuk Jae Yoo所長は、記者発表で次のように述べました。

「KSTARでは、ITERでも採用されているタングステン素材のダイバータを導入しました。私たちは、KSTARの実験を通じてITERに必要なデータを取得するため、最大限の努力を払うつもりです」

※ダイバータ(divertor)とは、「粒子排気」「熱除去」「プラズマ閉じ込め改善」の3つの機能を担う核融合炉を構成する機器のひとつ。炉⼼から排出されたヘリウム灰やプラズマを受け⽌め、その排気と除熱、さらに炉内不純物の制御などを実現する機構です。環状型のプラズマ閉じ込め装置では、コアプラズマから壁へ拡散しようとする熱流束や粒子束による装置内壁の損傷が問題でもありました…。

トカマク型核融合炉にとって、ダイバータは非常に重要な存在です。この装置は真空容器の底部に設置され、燃え残った燃料やプラズマの温度を冷やす不純物などを排気するためもので高い熱負荷に耐える必要があります。

カーボンは融点が高いため、以前はカーボンベースのダイバータを使っていました。しかし、これには一つ問題があり、プラズマ粒子がカーボンの表面に付着しやすいため反応の持続時間が制限されていたということ。そこでタングステンになると、融点は同じように高いものの原子質量が大きいためこの問題を回避することができ、KSTARは数秒ではなく数分間、反応を維持することができると見られています。

「核融合のためには、3つのことをしなければなりません。十分な量の粒子を集め、十分に高温にし、反応が起こるのに十分な時間維持する必要があります」と、オークリッジ国立研究所のMPEX(Material Plasma Exposure eXperiment)プロジェクトの責任者であるフィリップ・ファーガソン氏は、2023年に『Popular Mechanics』誌に語りました。

このMPEXプロジェクトは核融合炉のコンポーネント、特にダイバータを長期間のプラズマに暴露してテストするものです。

「材料による解決策が求められています。効率よく温度で維持できる材料を教えてください」

核融合の原動力となる科学を理解する時代が到来した中、この究極のエネルギー源を解き明かすことは、人類史上最大の工学的試練の一つとなるでしょう。

Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics