記事のポイント

  • 洋上での風力発電の可能性については多くの人が知っていますが、洋上での太陽光発電のエネルギー生産力も同様にインパクトがあります。
  • オーストラリア国立大学の科学者たちが行った新しい研究では、このような太陽光発電設備が非常に有益となる場所、つまり天候や海が穏やかな地域の世界的な地図が作成されました。
  • この研究の試算では、インドネシア周辺地域だけで年間3万5000テラワット時(TWh)のエネルギーを生産することが可能であり、これは現在の地球の年間エネルギー生産量を上回ります。

新たな研究が示す
洋上太陽光発電の可能性

今、世界は太陽光発電を必要としています。それも、できるだけ早く…。すでに人類史上最大とも言えるエネルギー転換期を迎えていますが、気候変動がもたらす最悪の結果を食い止めるためには、さらに多くのことを行う必要があるでしょう。

脱炭素化に向けた動きの中で特に大きな2つが、風力発電と太陽光発電です。「洋上の風速は陸上よりも速いため発電の効率がいい」という点から洋上風力発電が注目される一方で、洋上太陽光発電というものも同様に。これは赤道付近の国々にとって、ゲームチェンジャーになるかもしれません。

オーストラリア国立大学の科学者が実施した新しい研究では、洋上太陽光発電所の設置に最適な環境をつくり出す、穏やかな海と風がある場所を詳細に示したヒートマップを作成。 その結果、赤道に近い地域、特にナイジェリアやインドネシアに近い西アフリカが最適な候補地であることが統計で算出されました。これらの海域にソーラーパネルが設置されれば、莫大な量のエネルギーを生み出すことができると考えられています。

今回の研究を発表した博士課程に在籍するデヴィット・フィルナンド・シララヒ(David Firnando Silalahi)アンドリュー・ブレイカーズ(Andrew Blakers)名誉教授は、ニュース記事や調査レポートを掲載するウェブメディア『The Conversation』とクリーンエネルギーと気候変動問題に関するオーストラリアのウェブメディア『Renew Economy』に投稿した記事で、その量を「無制限」と言っています。

「私たちの新しい調査によると、インドネシアの洋上太陽光発電だけでも、年間約3万5000テラワット時(TWh)の太陽光エネルギーを発電できる可能性があります。これは、現在の世界の電力生産量(年間3万TWh)に匹敵するものです。

これらの熱帯地域はいわゆる“無風帯”と呼ばれる緯度に位置するため、風力資源が乏しいところ。ですが幸いなことに、これらの国々やその近隣諸国は赤道直下の穏やかな海に浮かぶソーラーパネルから、実質的に無限のエネルギーを得られることになります

heatmap
Blakers / Silalahi
浮体式ソーラーパネルのヒートマップ。赤が最も良く、その後に黄色、緑、濃い青と続きます。灰色の線は熱帯低気圧の進路を示したものです。

洋上太陽光発電所の
メリット・デメリット

この研究では、「波が20フィート(約6メートル)より高くなることはなく、風が時速10マイル(時速約16キロメートル)を超えることもない地域であれば、暴風雨に備えて設備を強化する必要がないため、洋上太陽光発電の恩恵を大きく受けることができる」とされています。

インドネシアの場合、列島のいくつかの地域では、40年以上も乱気流が続いていないことが研究でわかりました。また、インドネシアは揚水発電の大きなポテンシャルも秘めているので、太陽が照っていないときでも電気を利用できるでしょう。

また、これらの地域は人口が密集してるので、「広大な太陽光発電施設を海上に設置することはメリットがある」と言えます。もちろん海洋環境の保護は建設する際に真剣に考慮しなければならない懸念事項ですが、研究者たちは「インドネシアの海上境界線で生み出せるエネルギーは、エネルギー需要の200倍以上ある」と見積もっており、トータルで考えるとその影響は比較的小さいものになると見ています。

浮体式太陽光発電アレイには、長所と短所がいくつかあります。環境エネルギー研究所によれば、メリットの一つは「水による冷却効果で陸上よりも15%以上効率がいい」ということ。ですが欠点として、「主に塩害による腐食、汚れや傷などに対するメンテナンスの問題」が挙げられます。

さらに、この有益な赤道直下(赤道から緯度5度から12度付近)以外の海域では、海はもっと荒れやすく熱帯低気圧の影響を受けることも少なくありません。よって、不可能ではないですが、「洋上太陽光発電所の設置は難しい」とも考えられています。

例えばアメリカは2023年6月に、最大規模の浮体式太陽光発電所を水上で稼働させたばかりです。中国、韓国、インドなどの国々もすでに大規模な浮体式太陽光電池アレイを設置しており、企業はより過酷な水域でも耐えられるアレイの設計に取り組んでいます。

気候変動問題と闘うためにはクリーンエネルギーの選択肢を可能な限り検討する必要があり、その中には、海や池、その間にあるもの全ての可能性を考慮することも含まれるでしょう。

source / POPULAR MECHANICS
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です