[目次]

▼ 世界で最初の飛行船ブームは…

▼ もし飛行機が空気より軽くなったら?

▼ 昔に名前で出ています。が、それは新しいテクノロジー

▼ ⇒現代の飛行船の解剖学(英語での解説)

▼ ソーラー発電の夢を描く

▼ ビランデンブルグ症候群の呪縛

▼ ⇒新世代の飛行船との出会い

▼ 高く飛ぶか、座礁するか?


世界で最初の飛行船ブームは、炎に包まれて終わりました。そして次の時代は、世界全体が炎に包まれるところから始まるかもしれません。

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この言葉は、アインシュタインのあの名言「第3次世界大戦でどのような兵器が使われるかは分かりませんが、第4次世界大戦はこん棒と石で戦われるでしょう」にどこか似ているようなにも思えます。

このところの温暖化によって、氷河は溶けだしていると言います。そして、多くの動物たちが絶滅の危機へと急ぎ足で向かっている、とも言われているのです。加えて、「一生に一度あるかないか」と形容される異常気象の報告は、一週間のお天気ニュースの中でも頻繁に叫ばれるなか、科学者、政府、エンジニア、活動家、そして基本的に地球が好きな人なら誰もが化石燃料からグリーンエネルギーへシフトする方法を見つけようと急務を要しています。

そしてわれわれはリベラルのフェイクに踊らされず、それが資本主義における利権の云々(うんぬん)でないことを祈りながら、正義の心で応援していることでしょう。そして、いくつかの変化は明らかに着実な前進を遂げています。まずは、内燃機関をEVに置き換えること。CO2をまき散らす発電所を問題視し、風力や太陽光、原子力に投資する。

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ですが、目を空に向ければ、そこにはターボプロップ・エンジンやジェット・エンジンを複数搭載した巨象が所狭しと空の合間を縫って行きかっているのです。改めてフライトトラッカー「Flightradar24」を見ると、ゾッとするかもしれません。 そしてどの象も、常にジェット燃料なくしては砂漠を行きかうことはできないのです。

ジェット旅客機は一酸化炭素、二酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物など、基本的にすべての悪質な酸化物を排出することで悪名高い乗り物。そんな中、持続可能なジェット燃料、あるいは完全な電動化された代替燃料を開発するための果敢な努力はいくつかの有望な結果を生み出しています。とは言え、ジャンボ機(ボーイング747-400)の重量は183トン弱とされています。そんな金属の塊を持続的に飛行させるには、あまりにも多くのエネルギーが必要となるのは想像できるはずです。

もし飛行機が
空気よりも軽くなったら?

「第1次世界大戦は飛行機の発展に弾みをつけ、続く第2次世界大戦はジェットエンジンの発展に寄与した...そしてここで新たな戦争として浮上したのが、炭素排出との戦いである」と、マニトバ大学交通研究所(UMTI)の所長兼教授であり、Buoyant Aircraft Systems International(BASI)の共同設立者であるバリー・プレンティス博士は『ポピュラー・メカニクス』誌に語りながらこう続けます。

「気候変動によって私たちは、テクノロジーと飛行船そのものに対する見方を変えています」

現在、飛行船は航空業界の墓場から復活し、いま、世界中の企業がそのエンジニアリングに夢中になっています。カリフォルニア州では、グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンが支援するLTAリサーチ(Lighter than Air Research)社が、硬式飛行船「Pathfinder 1」の試験飛行の準備を進行中。2023年11月8日には、シリコンバレーで世界最大の飛行船「Pathfinder 1」を公開しています。

※Lighter than Air (LTA):日本語では「空気より軽いもの」、つまり「浮揚ガスを用いて浮くもの」になります。空気よりも軽いガスを用いて浮力を得る技術やデバイス、例えば「気球」や「飛行船」などがこれに当たります。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

フランスとカナダを拠点とするFlying Whales(フライング・ホエールズ)社は(フランス政府からの資金も含め)数億ドルの資金提供を受け、現在全長650フィートのLCA60T型飛行船をテスト中です。また、イギリスのHybrid Air Vehicle(ハイブリッド・エア・ビークル)社は10年にわたる開発の末、エアランダー10型飛行船の生産準備を進めています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

このように多くの人(中でも大金持ちの皆さん)が「飛行船には未来がある」とのたまっていますが、それは具体的にどのようなものなのでしょう?

昔の名前で出ていますが
それは新しいテクノロジー

飛行船は人類の歴史の中で最も古い飛行物体(“空中現象”ではありません笑)のひとつで、気嚢(きのう)に空気よりも軽い気体を入れることで浮力をつけ、そこに推進用の動力装置を設置した乗り物になります。

18 世紀には熱気球を発明したモンゴルフィエ兄弟が、自分たちの発明であることを世間に知らしめるため公開実験を行います。1783年6月に役人を招待したうえで、リヨンの南50キロほど離れた地元アルデシュア県アノネーにて最初の公開飛行を行います。そして同年9月には、改良を施した「Aérostat Réveillon(レヴェイヨン気球)」と名づけられた気球に羊とアヒル、ニワトリを乗せた籠を取りつけ、ヴェルサイユ宮殿で大勢詰め掛けた群衆とフランス王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットの眼前で行われたということ。そしてその気球は約8分間滞空し、3kmほど移動。高度はおよそ460mに達し、その後墜落することなく着陸したと記録されています。

そうしてあれからほぼ 1 世紀後、1861年にアメリカで南北戦争が勃発したとき、南北両軍は気球を航空偵察に利用します。気球の軍事利用化、いわゆる「エア・パワー」の始まりとなるわけですが、南北戦争後は米陸軍の大幅な軍備縮小に伴って気球の使用も停滞します。

やがて軍人の高齢化に悩む米陸軍は、ヨーロッパから改めて「エア・パワー」を学ぶことになります。そうして1890年に連邦議会は、米陸軍通信団(Signal Corps)に情報収集・情報伝達の任務を付与し、その一環として1892年にBaloon Section(気球班)が通信団に設置されたというわけです。

civil war observation balloons
Buyenlarge//Getty Images
南北戦争の頃の偵察用気球。1865年頃、南北戦争時の気球操縦者であり科学者・発明家のタデウス・ローが操る「 Intrepid (イントレピッド)」号。バージニア州ゲインズ・ミル付近にて。

このような長い歴史をいま改めて見ると、飛行船とは、時として過去に凍結されたテクノロジーのように感じられるかもしれません。かと言って今日の電気飛行船と、20世紀初頭の第1次世界大戦前に開発された硬式飛行船「Zeppelin(ツェッペリン)」号と比較するのは、ダグラス「DC-3」とエアバス「A320」を比較するのと同じようなもの。どちらも同じ飛行物体ではありますが、基本的に類似するものはその形態のみと言っていいでしょう。

「昔の大きな飛行船は、ガス袋をつくるために麻のシーツに牛の腸を貼りつけていました」と、前出のBASIプレンティス博士は言います。「今日においては、まずコンピューターで管理さていない飛行船で飛行する人はいないでしょう。そして、製造技術は格段に良くなりましたし、原材料だって良くなっていますので。そうして飛行船のヘリウム(または水素)ガスバッグから発生する揚力を1オンスでも最大化にするため、最先端の原材料と技術を結集させて開発することになるわけです」

間違いなくLTAリサーチ社の「パスファインダー1」は、飛行船界の“ロールス・ロイス”とも言える新世代の乗り物です。2015年に設立され、グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンが支援する同社は、飛行船への取り組みについて口を閉ざしてきましたが、2023年5月にブルームバーグの記事によって、ついにそのボンネットの下をのぞくことができました。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

そんな「パスファインダー1」号のスペックシートには、「ケブラー」、「カーボンファイバー」、「リップストップナイロン」、「水素燃料電池」といった言葉がつづられています。

つまり、わたしたちの祖父の時代の飛行船とは全く異なっているのです。


➥ 現代飛行船の解剖学


「パスファインダー1」に採用されている斬新なエンジニアリングの一例として、ガスセル内のヘリウム量をリアルタイムで測定するLiDAR(ライダー:対象物にレーザー光を照射し、跳ね返ってきた反射光をセンサーで検出して対象物を測定する装置)があります。LTAリサーチ社のアラン・ウェストンCEOは、『ポピュラー・メカニクス』誌に電子メールで次のように語っています。

「この LiDARは今までの飛行船になかったテクノロジーであり、次世代飛行船の安全性を高めるLTAリサーチ社の発明です」

LTAリサーチ社は、電気推進システムの動力源として太陽電池や水素燃料電池の可能性も視野に入れながら、パスファインダー飛行船の能力を高めていくつもりです。

LTAリサーチ社は、「この飛行船の役割は貨物輸送であり、人の移動ではない」としています。飛行船は航空貨物(これはしばしば最も古く、したがって最も効率の悪い飛行機によって実行される)よりも持続的かつ多くのトン数を輸送できるでしょう。しかし、飛行船が純粋なスピードの面で飛行機に勝つことはおそらくないというわけです。

「ジェットエンジンは素晴らしい発明であり、確かに手放したくはない」と、プレンティス博士は言いながらこう続けます。

「かと言って、貨物は文句を言わないので、貨物用ジェット機を正当化する理由はありません。それよりも人々が振り返って、『あいつらは一体、何考えているんだ』 ってディスられるのは貨物用ジェット機のほうでしょう」

つまり、補助的な貨物の役割であっても、飛行船は世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減することが可能で、同時に飛行機やヘリコプターでは到達できない、あるいは効率的に供給できない地域にも到達することができます。

気候変動の緊急性は現在、火に油が注がれているような状況です。だからこそプレンティス博士は、「現在の飛行船にとって唯一にして最大の市場は、大洋を越えて物資を運ぶこと」と考えています。ですがここで、ひとつの疑問が生じます…。

ソーラー発電の夢を描く

クリストフ・プフラウム博士は飛行船のエンジニアではありません。ですが、Computational Engineering(計算工学)といって、エンジニアリングタスクのための計算ジオメトリと仮想設計の仕様が含み、多くの場合はシミュレーション主導のアプローチと組み合わせられる論理的ます。計算工学では、アルゴリズムはエンジニアリングの課題を記述する数学的および論理的モデルの専門家であり、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルク校の数学者です。2010年には、薄膜太陽電池の光学シミュレーションの研究を発表し、その発展に大きく貢献しています。

「私は太陽電池の利用方法に興味を持ちました。そうした中、ひとつのアイデアが浮かんだのですが、それは再生可能エネルギーのみを使用では難しい分野でもあったのです。それは何かと言えば、大西洋を越える物資の輸送です。そして私は、飛行船『ツェッペリンNT』号の映像を見たとき...『よし、これこそが薄膜太陽電池を搭載すべものだ 』と思いました」

そうしてプフラウム博士はシミュレーション解析の専門知識を駆使して、プフラウ博士とチームを組み、天候、太陽電池の利用可能性、材料の微妙な違いをすべて計算。太陽飛行船が大西洋を横断する最適なルートを割り出し、ガソリンを大量に消費する競争相手と互角に戦えるかどうかを見極めました。その彼の研究結果は2023年3月、『International Journal of Sustainable Energy』のオンライン上に公開されました。

それでその答えは、「できる」です。

「最適なルートを見つけるのは、コンピュータサイエンスの観点からすると本当に難しい問題です。そこでチームは、理論上の太陽飛行船がロンドンとニューヨークの間を通過するためのグリッドシステムを作成することで、大西洋を横断するデジタル上の『都市』と『航路』を設計しました」

そうしてチームは、風力データと太陽利用可能量を使って海を横断する『高速道路』を設定することで、この飛行船での旅をさらに向上させたのです。

inside pathfinder 1 airship
LTA Research
「パスファインダー1」のゴンドラ内部。

プフラウム博士のシミュレーションでは、夏は北大西洋に蛇行し、冬は赤道に向かって急降下する航路が作成されました。最終的な結論としては、太陽飛行船は風に耐えられるように堅固な構造で設計されており、貨物輸送の排出量を従来の旅客機に比べてわずか1%にまで激減させることしかできない数値だったのです。

「太陽飛行船は、非常に軽量で非常に効率的な薄膜太陽電池を搭載しており、飛行中ずっと充電し続けるため、紛れもなく環境に優しい」と、プフラウム博士は3月のプレスリリースで述べています。

そして、「この飛行船は運航中に、燃焼関連の放出物は発生しない」と加えています。

プフラウム博士が描くソーラー飛行船の未来は、まだ道半ばでもあります。例えば、LTAリサーチ社とハイブリッド・エア・ビークル社は、電気エンジンの動力にディーゼルを使用していますが、技術の発展とともに自然エネルギーに移行する予定となっています。

しかし、そのような未来が実現するためには、飛行船が直面する絶対的な最大の課題である「人々の認識」をまず克服する必要があるでしょう。

ヒンデンブルグ症候群の呪縛

皆さんが「飛行船」という言葉から連想するのは、大空を舞う軍用飛行船、あるいは悲劇的に地上へと墜落する軍用飛行船のモノクロ映像ではないでしょうか。1937年5月6日にドイツ製のツェッペリン社製LZ129「ビンデンブルグ」号が空中で大爆発し、第1世代の飛行船は幕を閉じました。

「私たちはこれを "ヒンデンブルグ症候群 "と呼んでいます」と、イスラエルを拠点とする飛行船会社アトラスLTAの社長ゲンナディイ・ヴェルバ氏は『ポピュラー・メカニクス』誌に語ります。ヴェルバ氏は以前、成層圏の気球を使って遠隔地にインターネットをもたらそうとするグーグルの関連企業X社による気球を用いた移動体通信システム「Project Loon(プロジェクト・ルーン)」に携わっていました。

「(あの1件のおかげで)水素に対する多くの人には潜在的に、(爆発の)恐怖は残り続けているのです。なので、それを克服しなくては困難です…」

crew members fleeing from burning hindenburg airship
Bettmann//Getty Images
ドイツの有名なツェッペリン社製LZ129「ヒンデンブルグ」号が、ニュージャージー州レイクハーストに着陸しようとする戦前に炎上。「静電気と漏れたガスセルが火災を引き起こした」と考えられています。

LTAリサーチ社「パスファインダー1」やフライング・ホエールズ社「LCA60T」のような飛行船は、ヘリウムを揚力ガスとして使用しています。ヘリウムはさまざまな化学実験MRI装置のような医療機器に不可欠なものですが、非常に入手困難なものです。水素ははるかに調達は容易なだけでなく、より軽く、より効率的なリフティングガスでもあります。

ですが、1922年に締結されたワシントン軍縮条約(Washington Naval Treaty)において、水素を用いた航空機の使用が禁止されています。それは現在も残っています。プレンティス氏のような専門家は、この100年前の禁止令を見直す必要があるとしています。

「1930年当時は、(水素を)検知する方法はありませんでした。無味無臭の目に見えない気体だったのです」と、プレンティス氏。「とは言え、今日のAmazonでは100万分の1単位で水素を検出できる携帯型検知器が購入できる時代です――水素は100分の4=空気中の水素濃度が4%以下では爆発しません(および75%以上も、爆発しないとされています)。なので水素の危険度が高まる前に、その場所を換気することができるでしょう」と続けます。

そして状況は変わりつつあります。2022年に欧州航空安全機関(European Aviation Safety Agency=EASA)は「設計および運用において、地上および飛行条件、緊急事態を含む全ての状況において、乗員および地上の人々の安全を確保するための適切な対策が講じられなければなりません」という条件のもと、あらゆるリフティングガスを許容する規制を更新。しました。

もし連邦航空局(Federal Aviation Administration=FAA)がこれに従うなら、飛行船の新時代が本格的に幕を開けることになるでしょう。


➥ 新世代の飛行船との出会い

pathfinder 1 — lta research
パスファインダー1

LTAリサーチ社 - グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリン氏が支援する次世代飛行船「パスファインダー1」は、全長約300フィート(約91メートル)です。

テドラー(先端ポリマー素材)、カーボンファイバーなど最先端の素材を使用し、ガスセル内のヘリウム量をリアルタイムで測定するLiDAR、および電気推進などの次世代技術を搭載しています。

この巨大な飛行船の本拠地はカリフォルニア州サンタクララ郡の非法人地域で、マウンテンビュー北部とサニーベール北部の間に位置する軍民共用空港モフェットフィールド内。

もともとは1930年代にグッドイヤー社内の一部門として、ルフトシッフバウ・ツェッペリン社との共同プロジェクトの一環として、米海軍のLTA(lighter-than-air:飛行船)計画のために建造されたものをベースにしています。

LTA Research

zeppelin nt — zeppelin luftschifftechnik
ツェッペリン NT

ツェッペリン Luftschifftechnik 「ツェッペリン NT」の「NT」とはドイツ語で“Neue T echnologie”、日本語にするなら「新技術」となります。

全長246フィート(約75メートル)の飛行船でその構造は半剛体、つまり骨格を持ちながら内圧によって形状を維持しています。2014年、45年ぶりに次世代飛行船として公開されたグッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニーが運営する飛行船「Goodyear Blimp(グッドイヤー飛行船)」は、ドイツのツェッペリン Luftschifftechnikが設計したこの新しい飛行船。速度と効率性は向上し、操作性にも進化を見せています。

このリストの他の飛行船とは異なって、「ツェッペリンNT」は長い歴史をもっています。アルミニウムや炭素繊維構造などの新技術を活用することで、「ツェッペリンNT」は飛行船文化をけん引しています。

Zeppelin Luftschifftechnik

lca60t flying whales
LCA60T

フライング・ホエールズ - このリストで最大の飛行船は、フランスとカナダの航空新興企業フライング・ホエールズのものになります。その開発資金はフランス政府、およびカナダ・ケベック州 政府、そして中国の航空国有企業「AVIC」とフランス国内の投資家などからの出資を含めて総額1億ドルを2023年の5月の段階で調達済みとなっています。

「LCA60T」は全長650フィート(約198メートル)を超えるハイブリッド電動飛行船で、1メガワットのハネウェル製発電機(同社が製造する中で最も強力な発電機)を使用。持続可能な航空燃料で、このハイブリッド電気飛行船に電力を供給し、時速100kmで1000 kmの飛行を目指しています。また、揚力はヘリウムを充填(じゅうてん)した14個のガスセルが供給し、同社は2025年に最初の試験飛行を計画している。

Flying Whales

airlander 10 hybrid air vehicles
エアランダー10

ハイブリッド・エア・ビークル - 「パスファインダー1」が登場するまで、ハイブリッド・エア・ビークル社の「エアランダー10」は飛行船の新時代をリードしてきました。

このリストで唯一の真の非剛体飛行船である「エアランダー10」は、2012年に初めて飛行し、その全体的な形状から「空飛ぶお尻」というニックネームを得ています。

現在、この飛行船は4基のディーゼル燃焼エンジンを使用していますが、それでも一般的な旅客機と比べて75%の二酸化炭素排出量削減を実現しているとのこと。同社はまた、将来的には排出量ゼロの船をつくる計画もあるそうです。2023年2月、同社は「エアランダー10」がついに商業生産の準備が整ったことを発表しています。

Hybrid Air Vehicles

h2 clipper
H2クリッパー

H2クリッパー社 - 次世代飛行船市場では、比較的新参者である「H2クリッパー」は、希少価値の高いヘリウムの代わりに水素をリフティングガスとして使用することで計画を進める、このリストで唯一のもの。

なぜなら、同社は2025年に最初の「H2クリッパー」プロトタイプが建造される時点で現状の飛行機での貨物輸送のコストを4分の1となることを目標に掲げているからです。

「H2クリッパー」は安全、速度、効率性という過去に成し得なかった目標を達成するため、より丈夫で軽量の原材料、量産技術、3Dプリンティング、コンピュータによるシミュレーションや制御といった最新の技術を取り入れ、クリーンなエネルギーだけで動く飛行船を具現化しようと日夜励んでいます。

巡航速度は時速280km、航続距離は9656km、最大積載量は15万kg、貨物スペースは7530立方メートル。貨物船の4~5倍のスピードと貨物機の4分の1のコストで工場から直接輸送可能となることを目指しています。

H2 Clipper Inc.


高く飛ぶか、座礁するか?

水素の使用はかなり有効なことですが、今日の飛行船がiPhoneのように普及されるために、技術の将来性を世界へと示す輝かしい成功例が必要となるでしょう。そんなわけで現在、会社名に“LTA”と入っているところも多く、その文字通り“空気よりも軽い”飛行船はいくつも登場しています。そんな中でも2023年にテスト飛行を開始したLTAリサーチ社の「パスファインダー1」に、世界的な注目が集まっています。

「最初のテストが大成功することを祈っています」と、前出のアトラスLTA社長ヴェルバ氏。 「成功に望みがないわけはありません。そこで成功すれば、私たち全員にとってとても良い日になるでしょう」とも言います。

その “とても良い日”が現実になるには、技術的にも政治的にも、まだいくつかの障害が立ちはだかっています。まずは、水素の信頼性を証明すること。そして、薄膜太陽電池やリチウムイオン電池を動力源とする推進力などのグリーンテクノロジーを開発し続けることも大きな課題です。

それに加え、この巨大な飛行船を地上で扱う技術を完成させることもまた、気の遠くなるようなエンジニアリングの努力が必要です。重い飛行機は空港のターミナルでただ座っているだけでしたが、飛行船の場合は風速、風向、気圧の変化に影響を受けやすく、より高度な地上操縦技術も必要となるのです。

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飛行前試験のため、カリフォルニア州モフェット・フィールドの第2格納庫に移された「パスファインダー1」。ビデオ提供:LTAリサーチ社

このような問題に対処するため、前出のプレンティス博士のBuoyant Aircraft Systems International社は飛行船が風とともに移動し、インフラがほとんどない地域にも着陸できるターンテーブル式の着陸システムを開発。同様にプフラウム博士の研究では、比較的小さな面積に多数の飛行船を固定するための六角形の駐車構造を設計しました。

「飛行船の時代はすぐ目の前」といった時代は何十年もの間続いてきましたが、ここに来て、ようやく状況が変わりつつあります。億万長者の投資家たちがこの技術の支援に乗り出し、ジョー・バイデン大統領の気候変動法案の登場で、政府は世界を変えるグリーン・エネルギー・ソリューションに本格的な資金を投入する準備が整ったというわけです。とは言え、「飛行船が米国政府の念頭にあるものかどうか」はまだわかりません

「公共投資の不足がこの業界を苦しめてきましたが、今は変わりつつあると思います」
とプレンティス博士は言います。そして、こう付け足します。

「第2次世界大戦中にチャーチル(※)が言った『Americans will always do the right thing, only after they have tried everything else.(アメリカ人はいつも正しいことをする、他のすべてをトライした後に)』のままです。アメリカは最終的には正しいことをするのです

航空機の脱炭素化となると、残された選択肢はそう多くはないのです。


※編集部注:この言葉はチャーチルが言ったとされていますが、その証拠はありません。
※画像と映像はLTAリサーチ提供。

From: Popular Mechanics