記事のポイント

  • ユーロ・エアシップ社は太陽光を利用した飛行船「ソーラーエアシップワン」で、世界1周ノンストップ飛行を計画中です。これが成功すれば、化石燃料を使用せずにこの偉業を成し遂げる、世界初の飛行船となります。
  • この飛行船には太陽光発電フィルムが搭載され、余剰電力を機内の燃料電池に貯蔵する仕組みが備えられています。
  • ユーロ・エアシップ社は、この試験飛行が将来的な航空ソリューション発展の引き金になることを期待しています。

世界初の飛行船となるか?
理想的な持続可能性の
実現へ向けた挑戦

化石燃料に依存せず、持続可能なエネルギー源によって駆動するこの完全電動の飛行船「ソーラーエアシップワン」は、ユーロ・エアシップ社によって設計され、2026年に世界一周のノンストップ飛行を計画しています。同社は、「太陽エネルギーと水素電力を用いた電動エンジンで約2万5000マイル(約4万キロメートル)の世界1周飛行を20日間で達成する」と宣言しています。

もしユーロ・エアシップ社がこの夢を実現させることができれば、これは飛行船が動力に化石燃料を使用しないで世界一周する初のケースとなります。同社は自社ウェブサイトで、次のように述べています。

「歴史を振り返ると、全ての偉大な夢は、達成される前に不可能と考えられていました。これは、環境保護と再生可能エネルギーへの貢献という壮大な取り組みを実現するために、今こそ取り組まなければならない冒険なのです」

「ソーラーエアシップワン」の飛行は、25の国々、2つの海洋、およびいくつかの海域を横断が計画されています。飛行船の上部分のほぼ全面を覆う太陽電池フィルムを使用して、“日中に受ける太陽光から一定の電力を供給します”。余剰電力は燃料電池に蓄えられ、水の電気分解によって水素を生成し、飛行船の補助的動力となります。

太陽エネルギーと水素電力の組み合わせにより、飛行船はその動力を十分に確保することができるでしょう。しかも、それは安定したエネルギー供給であり、環境への負荷を抑えることができる理想的な持続可能性の実現となりそうです。

高硬度の飛行船は、二重のエンベロープ(浮力を得るためのガス袋)を装着することで飛行船の圧力を安定させ、内部温度を調整するように設計されています。同時に自動除氷システムも備えることによって、飛行船はさまざまな気象条件に対応した運航ができる設定です。その結果、これまでのような化石燃料によるエネルギー供給が必要なくなることが期待されています。

「ソーラーエアシップワンには、15個のヘリウムエンベロープを内包したアルミニウム構造が採用され、各エンベロープは独立して稼働します。そのため、さまざまな気象現象への『即座の対応と予測』が可能になるのです」と、同社は強調しています。

そして航路は赤道付近を取り、2万1600海里(およそ4万キロメートル)の飛行は約2万フィートの高度で行われる予定。ユーロ・エアシップ社は、「この旅程は20日で終える」と主張していますが、さまざまな条件によって最大で30日かかる可能性もあることも認めています。

「ソーラーエアシップワン」の建設は、2026年の飛行を目標に2024年から始まる予定となっています。ユーロ・エアシップ社のクルーメンバーであるドリーン・ブルネトンは、航空専門メディア『FLYING』に次のように語っています。

「私たちの目標は、若い世代を教育し活性化させること。気候変動や自然災害の到来を考えると、これは非常に重要なことです。新しい乗り物、環境にやさしい乗り物が必要なのです」

ソーラーエアシップワンを操縦するチームは、ドリーン・ブルネトンの他に元宇宙飛行士でフランス空軍パイロットのミシェル・トニーニと、世界一周気球飛行のパイロットであるベルトラン・ピカールの3人で構成されています。

3人目の“ピカール”と言えば、もうお気づきの人もいるかもしれません。あの深海探査艇「バチスカーフ-トリエステ号」に乗り、当時の有人潜水深度記録を達成した海洋探検者ジャック・ピカールを父に持ち、祖父オーギュスト・ピカールに関しては物理学者として潜水艇「バチスカーフ」の開発にあたっている…そんな家族の一人です。さらにオーギュスト自身も著名な気球飛行家で、1932年8月に水素気球「FNRS-1」で当時の最高高度記録を更新、そして深海探検者でありました。

そうしてユーロ・エアシップ社は、2026年に計画されている実験飛行を通じて同社の技術を実証し、ノンストップで飛行できる新時代の飛行船を開発。さらにその飛行証明を取得する計画を立てているというわけです。

同社の将来の目標は多岐にわたり、「生態観光旅行や無人監視飛行をできる飛行船を提供すること」もその一つとして挙げられます。「燃料補給の必要がない」というコンセプトは、これらを実現する可能性をより高いものにするでしょう。さらに重い積荷を運搬できる飛行船を活用し、物流サービスにも参入する意向を示しています。

キャップジェミニ・エンジニアリング社のコリン・ジュアネイは会見で、「ソーラーエアシップ プロジェクトは、持続可能な航空輸送ソリューションの出現を促進するエコシステムの触媒となり得るものだ」とニュースリリースでコメントしています。

まさに未来の乗り物の可能性は、“空”に向けられています。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Yumi Suzuki
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です