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オスカーウォッチャー=Ms.メラニー選:第96回アカデミー賞作品賞「これが獲る」私的Best3

会員の多様性拡大に、全米俳優組合ストによる公開延期…さまざまな要素が絡み合う2024年の米国アカデミー賞作品賞の行方を、映画界のプロが個人的ベスト3作品を抽出。初回は“オスカー予想屋”として驚異の的中率を誇るMs.メラニーが占う。

By MS.メラニー
graphical user interface, websitepinterest
Seacia Pavao / © 2023 FOCUS FEATURES LLC.

2024年、第96回アカデミー賞。作品賞を獲得するのはいったいどの映画なのか? 識者に訊く本企画、1人目は映画会社に長年身を置き、毎年アカデミー賞の行方を予想する“オスカー予想屋”として有名な Ms.メラニーが私的最有力候補3作品を選出します。

Ms.メラニー/ 映画会社に長年勤務しながら、“オスカーウォッチャー”として知られる。高校時代からアカデミー賞授賞式を鑑賞し始め、受賞予想を約25年間継続。その予想は各メディアからひっぱりだことなっており、毎年受賞作品を的中させることから「予想屋」というあだ名も……。著書に、『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむアカデミー賞』(星海社新書)など。twitter @mel_a_nie_oscar

作品賞予想1作品目=『オッペンハイマー』

映画『オッペンハイマー』
© Universal Pictures. All Rights Reserved.

「今年のオスカー作品賞、有力候補が何か?」と質問されたら、それは『オッペンハイマー』を置いて他にない。本作は既に、「作品賞を獲るかどうか」と言う議論は通り越し、作品賞を獲る前提で「何部門を獲るか」が予想屋としての一番の関心事になっている。

その一番の理由はクリストファー・ノーランで、全世界で敬意も人気も最高峰の彼が、難しい内容、ジャンルの作品を見事なまでの完成度に仕上げ、彼の名ひとつで世界的大ヒットに導いた功績は、「映画業界で最高峰の賞を与えるにふさわしい」と誰もが考えていることにある。

また、彼はなぜか、今までオスカーで冷遇されてきた印象があり、監督賞も作品賞も受賞していない中で、「今年は“ノーランの年”として祝いたい」と、映画業界全体が合意しているように見える。

それに加え彼は、近年のオスカー受賞には欠かせない、秋以降3月にかけてのいわゆるオスカーキャンペーンにも熱心で、試写やQ&Aにも主要キャストを従えて積極的に参加し、3日に一度は新たな映像がSNSに上がってくるような状況だ。

※(写真)『オッペンハイマー』より。キリアン・マーフィー

今年はクリストファー・ノーランの年

『オッペンハイマー』sag
Matt Winkelmeyer

公開時、『オッペンハイマー』という作品自体の評価については、技術的な部分や演出、演技への高い評価がある一方で、原爆の被害を描いていないことに対する批判の声も少なからず上がっていた。しかし、唯一の被爆国である日本では公開が見送られたことから、オスカーキャンペーンにおいてバックラッシュに使われたであろう被害者側の批判的な観点はさして世に存在せず、オスカー受賞に向かって本作の勢いは増すばかりである。

私が本作を観たときに強烈に印象に残ったのは、世にも贅沢なキャストの顔ぶれであった。細かな脇役に至るまで、知らない俳優はほとんどおらず、他の作品で主役級の俳優が3段ビリングで10番目に出てくるような作品は、他に見た覚えがない。

技術面でも超一流のスタッフが名前を連ね、ノーラン作品が、いかに映画製作に携わる人間にとって特別で、関わりたい作品であるかを物語っている。

このように本作は、作品自体を好きか嫌いかと言う議論を通り越して、ノーランを讃えるひとつのツールとして、オスカー作品賞に突き進んでいるように見える。

※(写真)'SAGアワード(全米俳優組合賞)でアンサンブルキャスト賞を受賞した、『オッペンハイマー』の出演者たち

作品賞予想2作目=『落下の解剖学』

ザンドラ・ヒュラー sandra huller
Les Films Pelléas/Les Films de Pierre

『オッペンハイマー』の、これほどまでの一強説をひっくり返せる作品はあるのか? ほぼないだろうと思う中、最近のアカデミー賞の特徴としてひとつ考慮に入れるべき可能性があるとすれば、それは外国人会員の増加である。

今年は『関心領域』『落下の解剖学』の2作品が作品賞候補に入ったが、中でも『落下の解剖学』に関しては、カンヌ映画祭でパルムドールを獲った後に主要部門全てにノミネートされるという、『パラサイト』(2019年)と似た動きをしている作品であり、全世界で興収14億ドル以上の社会現象となった『バービー』の監督グレタ・ガーウィグを差し置いて、女性で唯一監督賞ノミネートを果たしているほど、国際的な支持の高い作品だ。

※(写真)『落下の解剖学』より。ザンドラ・ヒュラー

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大逆転があるとすれば『落下の解剖学』。その理由

パルム・ドール受賞時のジュスティーヌ・トリエ監督と共同脚本を手掛けたパートナーのアルチュール・アラリ  palme d or winners photocall the 76th annual cannes film festival
Pascal Le Segretain//Getty Images

作品賞受賞の有力候補と認められるには、監督、俳優の誰か、脚本、編集がノミネートされていることが基本的な条件と考えられる中、本作はそれを満たしている。

本作の魅力はザンドラ・ヒューラーの圧倒的な演技に尽きると思うが、欧州での本作への根強い人気を見るにつれ、大逆転のチャンスがあるとしたら、ノミネーションの数で上回る『哀れなるものたち』よりもこちらのほうが可能性が高いのではと感じる。

※(写真)パルム・ドール受賞時のジュスティーヌ・トリエ監督と共同脚本を手掛けたパートナーのアルチュール・アラリ

作品賞予想3作目=『The Holdovers』

the holdovers
Seacia Pavao / © 2023 FOCUS FEATURES LLC.

もう一本、可能性があるとするとそれは、『The Holdovers(原題)』ではないか。『オッペンハイマー』は、「鑑賞後感の良い映画ではない」という弱点がある。オスカー作品賞は、時にそういった映画を嫌い、「鑑賞後感」が良い、ハッピーエンドの作品に作品賞が行くことがある。

最近で言えば、『Coda コーダ あいのうた』(2021年)『グリーンブック』(2018年)がそれに当たる。この2作品に共通していることとして、①監督がノミネートされなかったこと ②どちらも3部門受賞で、作品、脚本、助演俳優であること、が挙げられる。

※(写真)『The Holdovers』より

『The Holdovers』作品賞受賞の可能性を裏付ける「鑑賞後感」

da'vine joy randolph at 81st annual golden globe awards press room
Amy Sussman//Getty Images

監督はノミネートされておらず、『The Holdovers(原題)』は、助演女優賞の受賞はほぼ確実とされており、脚本賞は今のところ、本作と『落下の解剖学』『パスト ライブス/再会』のどれが獲ってもおかしくないと専らの評判だ。

物語は70年代ノスタルジアという内容で、最後は胸がジーンとなって終わる。以前から残っている高齢白人男性アカデミー会員がハッピーエンド映画を推した場合、『The Holdovers』の大逆転サプライズ受賞もあり得ない話ではないかも知れない。

※(写真)ゴールデングローブ賞授賞式で助演女優賞を獲得したダヴァイン・ジョイ・ランドルフ

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