BTSのことを「今まで知らなかった」という方も、実際はそう少なくはなかったでしょう。しかしそれも、もはや過去の話。では、ここで言う「今まで」とはいつのことか?
最近では、日本やアジア圏はもちろんアメリカまでもK-POPが熱くなっています。そのを証明する材料のひつとしては、2019年には韓国4人組ガールズグループBLACKPINKが、カリフォルニア州インディオの砂漠地帯で開催される世界最大級の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」にも出演を果たしたことが挙げられるでしょう。以降、K-POPのセンセーションは俄然継続し、現在では韓国7人組男性ヒップホップグループBTSがアメリカ(ばかりでなく世界)のマスコミを席巻しています。
なぜなら、日本時間11月25日未明に「第63回グラミー賞」のノミネートが発表されたのですが、そこでこの韓国出身7人組男性アイドルグループBTSの楽曲「Dynamite」が、最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門でグラミー賞候補になっていたからです。
それ以前にもBTSのスゴさを物語るテレビ番組もありました。アメリカNBCの人気番組である『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』では2020年2月24日には特別とも言える内容で登場。ファロンとのロングインタビューと共に曲の演奏を行い、ファロンと一緒にニューヨークのランドマークのツアーを行いました。そしてファロンいわく、「BTSがニューヨークグランドセントラルターミナルを掌握した」と述べているように、上の動画のとおりに。さらに同年9月から10月にまたぐ5日間、『Jimmy Fallon Show』は「BTS Week」と銘打ち、「IDOL」「HOME」「Black Swan」「Mikrokosmos」「Dynamite」まで毎日違う曲のパフォーマンスを披露していたのです。
さらに報道でも…。CNNなど、アメリカのマスコミも騒がせました。それはこちらも現在もお騒がせ中のドナルド・トランプ氏が、新型コロナウイルスの感染拡大につながった可能性が指摘されることとなったオクラホマ州タルサでの選挙集会での一件。
この開催日は、2020年6月19日の「奴隷解放記念日(Juneteenth)」の直後ということになるわけですが、これと時を同じくしてARMYの愛称で知られるBTSファンたちも、社会の多様性のため、そして民主主義のために…行動を開始し戦っていたのです。
トランプ大統領の陣営は事前に、このタルサの選挙集会には100万人以上の申し込みがあったと豪語していました。ですが、この集会に対してARMYたちは選挙集会への偽の参加を呼び掛けを行い、結果的にこの集会への妨害工作を成功させたのです。そうして当日会場に集まったのはわずか1万9千人以下(一時地元消防局では、わずか6200人という数字も発表しています)と、陣営を当惑させる少なさだったのです。
こうして上の写真が物語るように、タルサでの選挙集会は実際空席ばかりが目立つ寂しいものになってしまいました。つまり、BTSのファンARMYのパワーは、自由世界の現リーダーのそれをも上回る(とも言っていい)存在なのです。ここでさらに、BTSの存在を知ったアメリカ国民も急増したということです。
◇BTSファン「ARMY」の社会活動とは?
ARMYという愛称で知られるBTSファンですが、このように集団化されたファンの存在というのは、世界に類を見ないわけではありません。しかしARMYというコミュニティーが、社会的・政治的な影響を及ぼすほどの熱量を持った独自性の高い組織であることは注目に値します。
ARMYをただのファン集団とみなすのは早計な判断と言えるでしょう。むしろ、グローバルな社会運動と表現すべきかもしれません。BTSの名を冠した熱帯雨林の再生運動を行なうばかりでなく、LGBTQの活動のためのファンドレイジング(民間非営利団体が活動のための資金を集める行為)を行なったりと、その社会正義を担おうとする行動力には目を見張るものがあります。
アメリカで黒人男性が白人警官に暴行され死亡した事件を受けて再燃した「Black Lives Matter」運動をこぞって支持し、この黒人の権利主張に対抗する「White Lives Matter」のハッシュタグ欄を、自分たちの好きな歌手の画像や動画であふれさせるなどの行動もとっています。また、BTS自体がBlack Lives Matter運動に100万ドル(約1億円)を寄付したのに続き、BTSファンは有志による慈善活動グループ「One in an Army」を立ち上げ、同額の100万ドルを集めています。
米インディアナ大学(Indiana University)のKポップ研究者であるセダーボー・サエジ(CedarBough Saeji)客員助教授は、「Kポップには自分に責任を持とうというカルチャーがある」とAFPBB Newsにコメントしています。「Kポップファンは全般的に外向的で、社会的意識が高い。とりわけ米国では有色人種やLGBTQ(性的少数者)を自認する人々の間で、Kポップは圧倒的に支持されている」ということです。
『エスクァイア』US版の2020年冬号の特集(※「エスクァイア」日本版では、独占ロングインタビューの日本語訳記事を2020年12月中に公開予定)では、そのBTSがなにより重要視するポジティブさがメンバーたちによって語られると同時に、社会正義の実現のために世界規模の原動力となっているファンたちへの、並々ならぬ愛もまた余すことなく語られています。
◇「ARMY」の活動が原動力のBTSメンバー
「私たちとARMYとは、お互いに充電しあう電池のような関係です」とメンバーのひとり、RMは『エスクァイア』US版の取材に答えています。
「教育や慈善活動、さまざまな問題に取り組む人々が世界中にいて、そのような話題が私たちの耳に届くたびに、疲れ切った僕たちも、この責任の大きさにまた奮い立つ原動力をもらうことができるのです」。
ARMYによる社会的な活動は、まさに注目に値するものです。
- 絶滅の危機に瀕しているクジラの保護
- ルワンダの子ども達へのダンス・スクールを通じた惜しみない援助
- コロナ禍で困難に陥った遠隔地の子ども達のためのリモート教育への資金集めのサポート
…など、小さな草の根運動を精力的に支援しているのです。
BTSのメンバーはその音楽にも増して、このような社会的な意義を伴う活動への貢献こそが、自分達に与えられた最高の使命であると語っています。
BTSも、ツイッターに#BlackLivesMatter の文字とともに「人種差別に反対する」との意思を投稿したりと、社会メッセージを発することを恐れません。
「私たち自身、もっと成長しなければなりませんし、できることに挑戦していく必要があります。もちろん音楽や芸術性も重要ですが、それにも増して、私たち自身がより良い人間になるための活動と考えているのです」と、RMは言います。
昔から著名人のファンという存在は、著名人に憧れ、セレブリティに胸をときめかせ、場合によっては恋愛感情さえ抱くものでした。しかし、BTSのファンであるARMYは、この既存の構造から逸脱した、全く違う存在でもあるのです。
一方でもちろん、BTSのメンバーはまだ全員が独身であり、彼らに想いを寄せるARMYが恋愛対象として希望を抱くことも自由です。そしてBTS自身も、その愛情を歓迎していると言えます。 「私たちのラブライフは年中無休です。世界中のARMYと常に共にあるのです」と、RMは言っています。
◇相思相愛、高め合うBTSとARMYの関係性
BTSとARMYとの関係は、アイドルの誕生日にテディベアのぬいぐるみを送って片付くようなものではありあせん。
ポップミュージックの名のもとに寄付や支援を募り、世界をちょっとずつ変えていくといった、斬新なダイナミズムを開拓しようとするものなのです。あの日、ドナルド・トランプ大統領を米国オクラホマ州タルサから追い出した彼らが次に目指すところは、一体どこなのでしょうか。私たちも目が離せません。
※「エスクァイア」日本版では、BTS独占ロングインタビューの日本語訳記事を2020年12月中に公開予定です。
Source / Esquire US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。