rikiya matsuda 松田力也選手がgstar rawをまとう
Sang-Hun Lee

あの伝説の南アフリカ戦から8年、世界の強豪と肩を並べるほどに進化し続ける日本ラグビー。そして9月8日(金)から迎えるラグビーワールドカップ2023フランス大会に、選手人生を左右するほどの大ケガを乗り越えた松田力也選手が日本代表に戻ってきました。背番号は「10番」、司令塔であるSO(スタンドオフ)のポジションです。

そこでエスクァイア日本版は松田選手を迎えインタビュー。ファッションシュートと同時に、ワールドカップ直前の思いを語っていただきました。

「絶対に強くなって戻ってやる」

2022年5月の試合中に左膝・前十字靱帯(じんたい)断裂(※)となり、手術そしてリハビリを重ねグランドに戻ったのが同年10月。そして同年12月3日のプレシーズンマッチ、対東京サントリーサンゴリアス戦に完全復帰するまでおよそ7カ月かかりました。このケガにしては復帰は早いほうだと思いますが、ケガ自体は相当なものでした。

ケガをしたその瞬間がいちばん不安が強かったですね。でも、佐藤さんというトレーナーさん(スレチックトレーナー佐藤義人さん)が「ケガしたよりも強くして戻す」と言葉を言ってくれたので、それを信じてやるしかなかった――。その期間にも日本代表の試合があって、それが励みになりました。観ながら、「絶対に戻る」という思いが強い信念へと変化していきました。ほんと日本代表のチームから、壮大なエネルギーをもらいましたね。

2011年に発表されたある研究では、前十字靭帯損傷再建術を行った患者の3分の2は術後12カ月までに復帰していないとされ、術後1年でのスポーツ復帰率は33~92%の数値に。競技レベルが比較的高いアスリートに関しては、44%の選手は損傷前のレベルでのスポーツ復帰ができていないという報告がある。

松田力也選手ファッション撮影
Sang-Hun Lee
ジャケット 3万6300円、Tシャツ 1万1000円/G-Star RAW公式サイト

「『自分たちは勝てる』という自信が何よりも大事」

日本ラグビーがここまで強くなるきっかけは、2015年のワールドカップが大きかったと思います。エディ(・ジョーンズ監督)さんが日本のポテンシャルを見いだしてくれたことで南アフリカに勝利でき、皆、自信がもてた。史上初めて、「ベスト8に入れるかもしれない」と希望が。

でも、2019日本大会に出場したときの僕は「入れるかもしれない」という希望ではなく、「入れる」という確信をもって臨みました。そのだけの練習を重ねてきたからです。言うまでもなく、それはキツいものでした。「他がやっていないことをやれば結果はついてくる」「これだけやったのだからできるはず」「これを克服したのだから勝てないわけがない」…と。周囲から見ている分にはなかなかわからないと思いますが、中にいると全員が「できないわけがない」と思えるくらいの練習を積み重ねてきましたから。だからベスト8に入ったときも、(外から見れば)誰も予想していなかったと思いますが、選手たちスタッフたちからすればそれほど驚きではありませんでした。とは言え、2019年に僕の確信は実現できませんでしたが、歴史を変える結果は出せました。それは大きかったですね。そこでまた「自分たちはもっと勝てる」と、身体にも魂にも刻むことができましたので。

rikya matsuda rugby japan national team
Sang-Hun Lee
シャツ 1万9800円、デニムボトム 2万8600円、下に着たTシャツ 7700円、スニーカー 2万3100円/G-Star RAW公式サイト

「次世代のために背負う日本代表の責任は大きい」 

勝つことが重要なのは次世代のためでもあります。次世代の育成に必要なことのまず第一は、結果を出すことです。それを観ている子どもたちが、「自分もこうなりたい」「自分ならもっと上をいく」と思えるように。2015年に日本代表が南アフリカに勝利したときは僕もまだ大学でラグビーをしている3年生で、「日本のチームがトップの強豪に勝てるんだ。ならば自分も目指してみよう」と奮起できたのです。結果は大事だと思っています。「勝つ」というのはその意味で大切なのです。だからこそ、日本代表の責任は大きい。

rikiya matsuda rugby japan national team
Sang-Hun Lee
ジャケット 3万5200円、デニムボトム 2万8600円、下に着たTシャツ 7700円、スニーカー 2万3100円/すべてG-Star RAW公式サイト

日本のラグビー界としては、今どんどん日本のリーグに世界から優れた選手がやって来ているので、最高峰のラグビーに接する機会も増えています。それを観てもらえる機会をもっと増やしたいですね。そして観てもらったときに、少しでもいい試合をする。身体のアタリの音だったりプレーだったり、多くの人に対して印象に残る試合をすることが重要だと思っています。

試合を通じていかに人の心動かし、その人の生活に影響を与えられる存在になるか――そうすることが僕たちのチーム“Our Team”がもつ「責任」だと思っています。そして、選手たちスタッフたちがそれぞれの「責任」を真っ当しながら、それぞれに「修正」を重ねたパフォーマンスをフィールドで表現し、次のステージへと登っていく…。2015年、2019年のワールドカップで心動かされた自分を忘れずに、それを必ずや実現することを誓います。

あと、スポーツ競技のラグビーという広い視野で言わせていただければ、ラグビーを始めるに際の「壁」みたいなものを無くしていきたいですね。生活をしている中、ラグビーというスポーツに触れる機会って少ないじゃないですか。それが心理的なハードルになっているでしょうし、設備が少ないという物理的な問題もあります。そもそもラグビー場をもっている学校は少ないですし、サッカーゴールと比べてラグビーゴールは2倍くらいの値段がするという金銭的な壁もあります…。学校に野球の球やサッカーボールと同じくらい、ふつうにラグビーボールがあるようになるといいですね。海外(ラグビーが強い国)だと、一般の公園にH型ポスト(ラグビーゴール)が当たり前のようにあったりしますので。今後僕たちがやるべきことは、いっぱいあります。

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Sang-Hun Lee
ジャケット 3万5200円、デニムボトム 2万8600円、下に着たTシャツ 7700円、スニーカー 2万3100円/すべてG-Star RAW公式サイト


[プロフィール]

松田力也(Rikiya MATSUDA)/1994年5月3日生まれ・京都府京都市出身。埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。181cm、92kg。伏見工業高校、帝京大学出身。大学選手権8連覇を達成し、U-20日本代表キャプテンを務めた。2016年、大学4年生時に日本代表テストマッチ初出場を経て、コンスタントに日本代表として試合に出場するも2022年5月に膝前十字靱帯断裂。そしてリハビリを重ね、同年12月には試合出場をはたす。2023年のラグビーワールドカップ フランス大会では10番を背負うことが期待される。X(Twitter) @rikkyon1010 Instagram @rikkyon10

※本記事は、ワールドカップ開催前のインタビュー記事になります。2023年9月10日(日)のチリ代表との初戦は42-12で勝利し、松田選手はSOでスタメン出場。コンバージョンゴールも全て成功させています。同月20日(水)は第2戦対イングランド代表となります。


Photo: Sang-Hun Lee / Hair: Ryunoshin Tomoyose / Make: Miho Hamaya