靴磨き選手権大会とは

靴磨き選手権大会とは、靴磨き文化の発信と発展を目的として2018年から日本で始まった靴磨きに特化した大会。靴磨きを愛する人はプロ・アマを問わず参加することができ、2019年、2020年と開催され、コロナ禍を経て2023年は3年ぶりの開催となりました。

2023年の大会では大阪・東京で1ST ROUND(予選)、11月18日(土)に東京でFINAL ROUND(本選)を実施。全63名の出場者によって競われました。

靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会
2023年大会の本選会場となった銀座三越。

大会ルールでは、出場者が持ち込み可能となっているのは「ブラシ、磨き用クロス、磨き台に敷くためのシート、ハンドラップなど」と限定され、後日その詳細は出場者に伝えられることに。そして、その他に関しては大会側が準備したものから選び、時間内に磨き上げるというもの(なんと制限時間は、両足20分と非常にタイト)。そうして磨き上げられた渾身の靴たちを、審査員がチェックします。審査基準となるのは、靴磨きの基本的な技術による「テクニカルポイント」、靴磨きを通じた表現力による「プレゼンテーションポイント」。さらにFINAL ROUNDでは、来場者によるオーディエンス審査もポイントに加算されるという仕組みです。

靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会
会場には、スポーツの大会で見られるような本格的な計測機器が。オフィシャルウォッチパートナー となっているセイコーのものです。
靴磨き選手権大会の審査員
靴磨き選手権大会
審査員たちは、実際に磨き上げられた靴を手に取るだけでなく、磨いている最中や最後のプレゼンテーションもチェック。
靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会
会場では、老舗刷毛メーカー「江戸屋」と靴磨き選手権大会がコラボレーションして生まれた特製ブラシをはじめとする、大会オフィシャルグッズが販売。中には完売する商品も。
king seiko
靴磨き選手権大会
2023年大会では、キングセイコーの商品展示もありました。同ブランドの現行モデルは1965年に発売された2代目キングセイコー“KSK”のこだわりのデザインを踏襲し、現代的なスタイリングに進化させているのが特徴です。

大会の流れを簡単に追うだけでも「どんなものだろうか…」とワクワクしていましたが、今回実際に会場へ行くと、想像以上の熱い戦いが目の前で繰り広げられました。

2023年に開催された
靴磨き選手権大会を
レポート

11月18日(土)の銀座三越9階。その一角に異様なまでの人だかりができていると思ったら、ここがまさしく靴磨き選手権大会の本選の会場でした。幅広い世代の人々が集まり、年齢を問わず、靴や靴磨きが好きな人たちから支持されていることがうかがえます。

靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会
着席シートは有料観覧席ですが、満席になっていました。

大会の活気に終始圧倒されますが、もちろんそれ以上に、メインイベントである靴磨きが行われている時間は圧巻でした。

ラウンドで用意される靴は出場者みな同じですが、持ってくる道具はもちろん、当日選ぶ道具も各々違います。それを使って、「どういう想いを込めるのか?」「どういう人に届けたいのか?」を考えて磨くため、磨き方も仕上がりも変わってくるというわけです。自分の中にあるゴールを目指し、出場者たちの手元はその制限時間内止まることなく素早く動き、流汗淋漓(りゅうかんりんり)と懸命に励む姿は実に美しく映ります。

存在しない画像

ただ、熱気を発しているのは出場者たちだけではありませんでした。観客サイドも固唾をのんで見守りながら、力強い声援を時折発していました。中には、手づくりのうちわを持って応援しに来ている人まで…。開催側、出場者、観客によってつくりあげられた空間は、何人もの熱い思いが重なり合い、すさまじい熱量に満ちていました。

brift Hの新井田さん
靴磨き選手権大会

4回目となる2023年度の大会で王者に輝いたのは、Brift H(ブリフトアッシュ)の新井田 隆さん。優勝が決まるとその場に崩れ落ち、目に涙を浮べていました。

新井田さんは本大会の発起人であるBrift H 長谷川さんのYouTubeがきっかけで、この世界へ踏み入れたということ。そして靴磨き選手権大会は今回が3回目の出場ということもあり、念願の初優勝となったこと感無量の表情…。

「長谷川さんは社長でも師匠でもあり、世界一を獲った人物です。そんな人の背中を観てきているので、少しずつ自分なりに近づけたらと思っていました」という言葉を新井田さんから聞けば、優勝にかける思いも並々ならぬものだったことがうかがえます。

「過去の経験から20分間をどう使うかを1分単位で組み立て、身体を染みつくまでひたすらに練習しました」と話す新井田さんは、まさに努力の人でした。今回の予選では、3位でぎりぎり通過。そこで予選後も、自分よりも優れた技術を自分のものにして、本選までも微調整を重ねていったとのこと。その根底には、「技術は裏切らない」という想いがあるからだそうです。

「それに、『自分が身につけた技術は、決して失われることはない』と信じています。なので、ひたすらに技術を磨いて積み上げるようにしてきました。12年やってきていますが、自分の技術がやりたいレベルへようやく近づきつづあるので、今が一番面白いです」

そして、それに続けていると、新しい発見もあるんです。そこに靴磨きの魅力を感じています」と笑顔で語ってくれました。

靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会

大会発起人かつ
世界チャンピオンが語る
靴磨きと身だしなみ

Brift Hの長谷川さんは、2017年にロンドンで開催された世界靴磨き大会で優勝したチャンピオン。そのキャリアは2004年より東京・丸の内での路上靴磨きより始まり、2008年には東京・青山の骨董通りに世界初のカウンタースタイルの靴磨き店をオープンに至ります。そうして靴磨き業界に、革命をもたらした存在となりました。

この靴磨き選手権大会もまた、大きな革命のひとつと言えます。長谷川さんに聞くと、始めたきっかけは2017年の世界大会で優勝したことで、帰国したばかりの成田国際空港で今大会のプロデューサーも務めていた田代さん(当時は伊勢丹の紳士靴のアシスタントバイヤー)に、「日本でも大会をやりましょう」とショートメールを送ったところから始まったそうです。

「オリンピックのように各国が持ち回りで世界大会をやれたらいいなと考えていたので、基本的なルールや評価の方法は変えていません。ですが、ロンドンの大会の形式をそのまま採用するのではなく、ロンドンでは片足20分のところ、日本では両足20分にするといったように、難易度に高くして日本仕様にアレンジしています。世界的に見ても、日本の技術レベルは高いので…」

靴磨き選手権大会
靴磨き選手権大会
日本は予選と本選でやり方を変えてくる人もいるそうですが、海外では前年とやり方を変えずに大会に臨む人もいるそう。「靴磨きを掘り下げて常にやり方をアップデートしていく日本のスタイルが、技術レベルの進化につながっている」と長谷川さんは考えています。

靴磨きは、身だしなみの一つと言えます。皆さんの中にも、身だしなみのために自宅で自ら靴磨きをする人もいるはず。ちなみに長谷川さんにとって、その身だしなみのポイントとは何でしょうか? 尋ねると…

「よく言われるように、頭(髪型)と爪先、つま先といった先端は大事にしています。また、人となりを表すという点で重要だと思うのが、靴や腕時計といった小物です。どういうものをつけているか? で、人格が見えることが服以上にあります。高級ではない服を着ていても、きちんと手入れをされたいい靴や腕時計を身につけていたら印象が変わりますし、その逆もまた然りです」

この日長谷川さんの手元で輝いていたのは、オフィシャルウォッチパートナーのキングセイコーから提供された腕時計。ちなみにコレクションの半分以上は、セイコーが占めているほどのセイコー好きだそうです。

今回、合わせた腕時計について聞いてみると、今日みたいなスーツスタイルだけでなく、Gジャンにも合わせやすいですね。洗練されたダイヤルがいいですし、何よりブレスレットがすごくかっこいい。ブレスレットはステンレス製なので、あまりエイジングしないと思うのですが、燻剤で塗って研磨することで、自分好みに使い込んだ雰囲気を出しています」とのこと。それは靴やアクセサリー類も同様で、「『そのままでは使わない』というのがこだわり」と言います。

brift Hの長谷川さん
靴磨き選手権大会

改めて、靴磨きというものが身だしなみにおいて大切なものであることが再確認できます。それを長谷川さんは、一つの文化として築き上げようとしています。

「2023年の大会では初めて参加費(1万円)を設定し、申し込みは先着順としました。果たして、どれだけの人が申し込んでくれるのだろうか? と思ったのですが、2時間ほどで枠が埋まったんです。さらに、7~8割は新しい顔ぶれ。この反応から出場者の熱量を感じられましたし、これだけまだ『やりたい』と思ってくださっている人がいることを実感しました。

ですが50年先の時代では、革靴を履かなくなっているということも考えられます。そうなってしまうと靴磨きが途絶えてしまう。だから今後は、茶道や弓道のように靴磨きを“道”として残していくことに挑戦していきたいと思っています。靴磨きが、精神性を高める一つの伝統文化のようなものになってもいいのではないでしょうか」

そんな長谷川さんは、2024年4月いっぱいで職人としては引退を表明。なので、長谷川さんに磨いていただきたい人はお早めに。かくいう私は、今回をきっかけに靴磨きの面白さに目覚めたこともあり、自分の靴を手にお店を訪れ、次なる挑戦についてさらに詳しく話をうかがいたいと思っています。


お知らせ

靴磨き選手権の大会で配布されたキングセイコーのフライヤーを持って、以下の対象店舗でキングセイコーを購入した人には、Brift H 青山店で利用できる靴磨きチケットのプレゼントがあります。

◇対象店舗

  • 和光ウオッチスクエア
  • セイコードリームスクエア
  • 銀座三越
  • セイコーブティック 京都四条
  • セイコーブティック 大阪心斎橋
  • セイコーブティック グランフロント大阪
  • 阪急うめだ本店

※なくなり次第終了