「ナイキ」と「サブスクリプション(定期購買)・サービス」という言葉がいっしょに並んでいるのを初めて目にすると、即座に次のような夢想を始めてしまう方も少なくないでしょう。それは…発売前に大いに騒がれたスニーカーを手に入れるため、発売当日にウェブサイトで他の購入希望者と先を争って注文しなくても、そのスニーカーが自宅の玄関先まで届けてもらえる…といったように。 
 
 結局それは、まさに夢想でした。ナイキが初めて取り組むこのサブスクリプション・サービス「ナイキ・アドベンチャー・クラブ(Nike Adventure Club)」は、2歳から10歳までの子どもたちを対象にしたものであり、スニーカーを愛する大人たちに向けたものではありません。これは世界各地のスニーカー・コレクターにとって良い知らせではありませんが、それでも大いに理にかなったサービスと言えるでしょう。 
 
 なぜならこの新しいプログラムは、急成長する子どもの靴のニーズに追いつくのに苦労している親たちの買い物をより簡単にするため、特別にデザインされたものだからです。

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「ナイキ・アドベンチャー・サービス」では、新しいシューズと一緒にナイキが「カブーム(KaBoom)」という全米展開の非営利組織と協力してつくったアクティビティ・ガイドのブックレットが送られてきます。「カブーム」では、子どもたちが健康的で活動的な生活をおくるための支援活動に力を入れています。

ナイキ・アドベンチャー・クラブの詳細(英語表記)

 ナイキ・アドベンチャー・クラブでは、2019年8月12日より契約の申し込みを受け付けています。同サービスが狙っているのは、3種類あるプランのどれかに契約してもらうことで、親が抱える子どもの靴選びに関する面倒を解決することを狙ったものです。

 契約内容については、毎月一定金額(20ドル、30ドル、50ドル)を支払うことで、年間4足、6足、あるいは12足の新しいスニーカーが送られてくるというもの。デザインやフィット感を確認するための交換可能期間があり、それを過ぎたものは、加入者側で引き取ることも、あるいはナイキに送り返してリサイクルに回したり寄付したりすることもできます。 
 
 スニーカーの種類は現時点で約100種類であり、ナイキと同社傘下のコンバースのものから選べます。月額20ドルと30ドルの安い料金のプラン(年間4足または6足コース)ではスニーカーの値段は通常通りですが、月額50ドルである年間12足のコースでは割引を受けられます。また、どのプランでも送料や返品費用はかからず、さらに子どもたちと一緒に試せるアクティビティを紹介したブックレットがおまけで付いてくるのです。

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おまけで付いてくるブックレットの内容。

 「ナイキ・アドベンチャー・クラブ」は、比較的一般的なサブスクリプション・モデルと言えるかもしれません。しかしながら親たちにとっては、それでも色々な物事が少し楽になるので、それだけでも意味があると言えるのです。

 加えて、ナイキが今後こうしたカタチのサービスを様々なタイプの顧客に提供する可能性も考えられます。例えば、定期的に新しいスニーカーをシリアスなランニングシューズとして履き替える熱心なランナーや、数カ月おきに真新しいスニーカーを履きたいと考える…かもしれない他のアスリート(すぐに思い浮かぶのは、バスケットボール選手でしょうか)向けのサービスなどがあってもおかしくありません。 

 そして、このプログラムで見逃してはいけない最も優れている点は、「リサイクルコンポーネント」と言えるのです。

 ナイキは年に2度、料金支払い済のバッグを送り、親たちはこれに子どもが履いた靴を入れて送り返すことができるのです。こうした靴は状態が良いものは寄付に回され、そうでないものは「Nike Grind」を通じてリサイクルされるのです。「Nike Grind」はゴム、フォーム、皮革、そして生地部分を分離して、顆粒状にします。そしてそれを材料にして、新たな靴や洋服、そして遊技場の床材など新しい製品へとリサイクルするプログラムになります。

 「ナイキ・アドベンチャー・クラブ」の担当副社長であるDave Cobban(デイブ・コバン)氏は開始声明の中で、こう語っています。

 「ナイキ・アドベンチャー・クラブは、単なる最初の子ども向けスニーカークラブというだけでなく、ナイキの中でもユニークな位置を占めるものとみなしています」と綴り、さらに「子どもたちに幅広い選択肢を提供するのと同時に、彼らのために買い物をするご両親にとっての面倒な点を取り除きます」とのこと。

 しかし残念なことに、現状このサービスはアメリカだけのようです。英語版の規約を読む限り、「We provide this Platform for use only by persons located in the United States.」とあるので。

 そして実はナイキ、このプログラムを「Easy Kicks」と呼んで2017年からテストしていました。同社によれば、テスト会員は1万人に達したということです。それはここ最近、小売業者たちの間でこういったサービスが活性化しているからではないでしょうか? つまり、こうした子供向けのサブスクリプションを開始したのは、ナイキが最初の企業ではないということです。すでに大手の小売業者たちはスタートしています。

 Foot Lockerは、子ども服のサブスクリプションを行う「Rockets of Awesome」への少額出資を行っていますし、Walmart(ウォルマート)は子ども服のスタートアップである「Kidbox」と提携しています 。Stitch Fixは子ども向けのスタイリングサービスも提供しています。またAmazonは、サブスクリプションなしで購入前に試着できるショッピングサービスPrime Wardrobeを提供しています。Amazonの場合は、両親が自宅での試着用の洋服、靴、そしてアクセサリーをボックスに詰めて取り寄せ、かつ簡単に返却できるようにするオプションを、男の子用、女の子用それぞれに提供しています。

 ナイキはこの「ナイキ・アドベンチャー・クラブ」を使って、サブスクリプション・ビジネスのあらゆることに学んでいくことでしょう。そして、それが意味することは、私たちが将来、さらに多くの選択肢を手にする可能性があるということではないでしょうか。世界の老若男女が注目するブランドが、このようなサブスクリプション・サービスを始めれば、競合他社もそれに負けじとサービスを開発するはずです。そして、それで鎬(しのぎ)を削っていってくれれば…消費者である私たちの未来は、明るいとも言えるでしょう。

 

 
 

From Esquire US 
Translation / Hayashi Sakawa 
※この翻訳は抄訳です。