「ミレニアルピンク」ブームを覚えていますか?
そのブームの発端は、2016年にパントンがカラー・オブ・ザ・イヤーでローズクォーツ(ライトピンク)とセレニティ(ライトブルー)の 2色を選定したことから始まりました。 「アクネ(Acne Studios)」、「グロッシアー(Glossier)」や「キンフォーク(Kinfolk)」など、あらゆるブランドがこの色を採用し、トレーナーやスカーフ、ラグ、スマホケースに至るまであらゆるものにピンクが使われました。
ただ問題となったのは、実際にどんな色が「ピンク」だと特定すればよいのか…。サーモンピンクがかったアプリコットとも言えるでしょうし、ダスティーローズもやはりピンクと形容されるでしょう…。同じ「ピンク」でも、その色合いはさまざまです。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のイギリスで行われたプレミアでは、ティモシー・シャラメがリラックス感のあるローズピンクのコーデュロイスーツで登場し、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)に登場したアンドリュー・スコットもダスティーピンクの装いを披露するなど、ピンクのスーツが脚光を浴びています。
2019年もハリウッドの個性派スターの間でピンクスーツの動きがあり、それを示すようにマハーシャラ・アリやチャドウィック・ボーズマンがピンクを着ていました。
2019年5月、 ニコラス・ホルトがディオールの2019春夏コレクションでキム・ジョーンズが手掛けたパウダーピンクのスーツを着用。ルーズなフィットのジャケットというおなじみのスタイルでも、色が変わることで全く新たな印象を着こなしから放っていました。
また2019年に、ルイ・ヴィトンのグランダッドカラーシャツの上にシークイン(スパンコール)付き黒ハーネスというキラキラルックを披露したティモシー・シャラメ(もちろん頬も髭などなくツルツル)ですが…。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のプレミアでは、前述のコーデュロイのスーツやステラ・マッカートニー(ウィメンズライン)のネオンピンクのシルクスーツ姿を披露しています。実に同月内に2回も、ピンクのコーディネートで登場しているのです。ティモシー・シャラメは、新たな男性像の象徴的存在です。これは注目するに値するでしょう。ジェンダーの象徴的な意味に縛られている色でも、難なく取り入れているのですから…。
メンズウエアとウィメンズウエアの線引きがあいまいになり、スーツの下にチェストリグを付けることが流行っているような世の中でも、ピンクのスーツに関してはどこか「おきて破り」的で慣習に反したような感覚があります。ソックスに取り入れる以外は、なかなかエキサイティングなことということでしょうか…。
最も典型的な男性のスタイリングアイテムであるスーツに、「女性的」とされてきた色を使うことは、例えジェンダー規範に束縛されたつまらないものだと思っていたとしても、異端児的に感じられる方が少なくないでしょう。確かに見た目も、エキサイティングですが…。
男性と「ピンク」という色の関わりには、ちょっと複雑な歴史があります。
F・スコット・フィッツジェラルドの小説『華麗なるギャツビー』の主人公、ジェイ・ギャツビーが犯した最大の失敗の一つは、人妻であるデイジー・ブキャナンに対する行いではありません。明らかに、彼のスーツのチョイスだったのです。ギャツビーの恋敵であるトム・ブキャナンは、「オックスフォードを出ている? ピンクのスーツなんかを着るヤツが!」と言い、ギャツビーに色についての知識がないことを揶揄しています…。
とは言え、ピンクが常に少女の色だとみられていたわけではありません。実際に、その反対だった時代もあります。
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)の博物館の研究者ヴァレリー・スティール氏は、2013年刊の米『アトランティック』誌に「18世紀には、花の刺しゅうがついたピンクのシルクシャツを着ることは、男性らしいことだったのです」と語っています。ピンクは、「戦い」を象徴する色と見られていた「赤」に準ずるものとしてみられていたのです。
ピンクとブルーはその後、赤ちゃんの性別を表す色として使われるようになり、何十年間もバービー人形やサニタリー製品の色として、さまざまなピンクが使用されてきました。このことから、大抵のストレートな男性は避ける色だったのです。
しかし近年になって、ピンクは次第にメンズウエアに取り入れられるようになり、ランウェイでも復権の様相を見せているのです。
ディオールの2020春夏メンズコレクションショーでは、ピンクの砂を敷いたランウェイ上にトレンチコート、ジャケット、シャツ、ジャンパー、ソックスからジャケットのラペルなどにピンクが取り入れら、登場していました。
また、2020年1月パリで行われたショーでは、ロシャス・オムのダスティピンクのベルベットスーツ(上の写真右)、ルイ・ヴィトンではバービーのドリームハウスのようなピンクのボクシーなシェルスーツ(上の写真真ん中)が目を引き、ミラノで行われたグッチのショーでは、深いラズベリーピンクのチェックのスーツ(上の写真左)が登場していました。
ピンクはハイファッションの世界から今やストリートウエア、さらにその先へと浸透しつつあります。ミニマルデザインのフットウエアブランド、「コモンプロジェクツ(Common Projects)」は、定番の『アキレス(Achilles)』ラインにダスティーピンクを登場させました。
このほかにも、「コモンスウェーデン(CMMN SWDN)」のピンクデニムや、「オリバー・スペンサー(Oliver Spencer)」のリネンシャツ、「ノース・プロジェクツ(Norse Projects)」のコットンショーツなど、あらゆるところにピンクが採用されているのです。
英国の百貨店「Browns(ブラウンズ)」のバイヤーであるリー・ゴルダップ氏は、キム・ジョーンズのキャンディーカラーのスーツが、「“ピンクレボリューション”へとけん引する役割を担っている」と指摘します。
「ディオール」2020春夏メンズコレクションのショー以降、ピンクスーツの需要が確実に増え、「ライトピンクからサーモン、フューシャ(フクシャ)まで、驚くほどたくさんのバリエーションのピンクが装いを彩っている」とのこと。ゴルダップ氏はさらに、「このトレンドは確実に、夏にはより一般的になり、かつては着るのに勇気が必要だった色も、より身近で存在感を増しつつある」と分析しています。
ハイストリートファッション的には、ピンクはアクセントとして、遊び心のあるネオンカラーのトランクスやビーニー帽などに取り入れられる傾向にあります。が、徐々にニュートラルな色になることでしょう。
ピンクのスーツが当たり前になり、結婚式はフラミンゴの群れのような男性であふれるようになる時代が来るかもしれません…(!?)。ピンクのセットアップやスーツで、人々の注目が集められることを証明しているたくさんのセレブたちが、ピンクのトレンドがなかなか根強そうなことを示しています。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。