世の中のほとんどの人がクリスマスや年末年始を楽しみ、美食にふけっているそのときも、ファッションのつくり手たちは、年明けの「ロンドン・メンズ・ファッションウィーク」に向けて不休で準備を進めていました。

 メンズショーのシーズン幕開けを飾るロンドンは、新進気鋭デザイナーの登竜門となっており、かつてはここから、あのヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーンも世界へと旅立ちました。そんな伝統もあってか、ロンドンにはルールを度外視した、ちょっとクレイジーな空気もあります。

 今回のコレクションも、どれも圧倒的で素晴らしい作品ばかり…。そこで、「一流」を追求するエスクァイアUK版のファッションチームが、最も大胆なメンズウエアのコレクションがそろった2020-21年秋冬コレクションの幕開けを振り返ります。
 

「サステナビリティの要素がますます色濃く」

キャサリン・ヘイワード(ファッションディレクター)

 ロンドンのメンズウエアデザイナーがリードするこのファッション業界でも、アップサイクル(新しいものにつくり変えて、価値を高めること)やリパーパス(リメイク)、ハンドメイド、オーガニック、サステナブルといった2010年代の「バズワード」を取り入れることが急務となっています。

Bethany Williams
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べサニー ウィリアムズ(Bethany Williams)

 「エリザベス女王賞」などを受賞しているメンズウエアデザイナーの新星ベサニー・ウィリアムズは、社会的企業としてのビジネスモデルを構築することに成功しました。その中から、色とりどりのアップリケが施されたパッチワークのコートや、ボクシーシルエットのジャケット、ワイドパンツなどの2020秋冬コレクションを生み出しています。

 これらの作品は、イーストロンドンのシェルターなどに暮らす母子家庭を支援する慈善事業、「Magpie Project」と連携して製作されたもの。ナイロン製の生地は古いテントの素材を、リボンなどはおもちゃ工場の廃材を活用。製作自体は、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで行われいる元受刑者の女性向け訓練プログラムによって、ノースロンドンの工場で行われています。

 「E. Tautz(イートウツ)」のデザイナーPatrick Grant(パトリック・グラント)も同様のアプローチをしており、サステナビリティの問題についてバックステージで熱く語ってくれました。

 彼のコレクションの50%は、リサイクル素材を使ったもの。衣料リサイクル企業のAstcoから主に白いシャツとジーンズを調達し、Royal School of Needlework(ロイヤル・スクール・オブ・ニードルワーク)の学生が装飾やパッチワーク、ダーニング(ほころびをかがる技術)などを施します。

Adaptation,

 「Ahluwalia(アルワリア)」のデザイナーを務めるPriya Ahluwalia(プリヤ・アルワリア)のインスピレーション源となっているのは、60~70年代に有名インテリアショップHeal’sで活躍した英国人のプリントデザイナー、Barbara Brown(バーバラ・ブラウン)が創作した1965年の色やパターンです。

 彼女のデザイン哲学に忠実に、「アルワリア」はデットストックの生地を使い、過去のプロジェクトのテキスタイルを再利用。またユーズドデニムには、プリントやブリーチの代わりにレーザー加工で模様をつけています。

 今後「心地よく服を買う」ということは、まさしくこのような方向性になっていくでしょう…。

「服づくりも社会的な意識を高めている」

チャーリー・ティーズデール(スタイルディレクター)

 これは、誰もが想定の範囲内だったかもしれません。多くのデザイナーが、ロンドン・メンズ・ファッションウィークにおける約20分間のファッションショーの時間を、エコロジーの観点からファッションが犯してきた罪について考える時間に充てていました。

 そう、誰もが2020年、ファッション業界の重要人物たちが実際に、「製法や量、廃棄物といった点で、重大な変化を起こさなくてはならない」と感じているのです。それは純粋に、この問題を真摯に受け止めなければならない…という倫理上の決断もあるでしょう。ですがその一方で、「意識の高い顧客は、サステナブルなマインドのないブランドは遠ざけ始めている」というリスクも実感しているからに違いありません。

 パトリック・グラントは、自身が手がける「イートウツ」のショーで、「こんな緊急事態を、これ以上見過ごすことはできない」と語りました。この言葉に続くことは何か? それは、「6カ月ごとに新たに買い替える必要がなくなるよう、シーズンごとの変化を少なくする。そして、服が傷んできたら新品を買うのではなく、修繕することを推奨する」という「イートウツ」の方針だったのです。

 彼の考えを裏づけるように、「イートウツ」のテーラリングの多くは、国内で廃棄された衣料から取られたファブリックでつくられています。原料となった服そのものが、既にパッチワークで再生されたものであることも…。

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 一方、「Studio ALCH(スタジオ アルチ)」は、着脱可能なトートバッグがついた(おそらく)夏用の服の「冬バージョン」を製作。また、「Paria Farzeneh(パリア・ファルザネ)」が手がけるゴアテックスの優れた素材を使ったコレクションは、現代の環境悪化事象に対応できる機能を備えています。

 「暖かく、防風・防水・断熱機能があり、環境に配慮したものでなくではなりません」と、彼女は言います。

 彼女がコレクション全体で使用する木版刷のファブリックもサステナブルなもので、イランのイスファハンの男性がターメリック(ウコン)とサフランを使ってつくっているものです。
 

「サヴィル・ロウはセックス・ピストルズ風のダーティな雰囲気に」

―マレー・クラーク(デジタルスタイルエディター)

 英国のテーラリングは厳格なもので、正装、いわゆるスーツスタイルには従うべきルールが存在します。ですが、そんな絶対的定義を実践する人々には少々苛立たしいことが起こりました。

 ロンドンのデザイナー界にある、あらゆることに決まり事を定めるような確固たる伝統がある中で、今シーズンはセックス・ピストルズのような「反発」の精神がみられました。新世代のデザイナーたちは、スーツさえもパンク風のスタイルにしていたのです。

 旧世代のテーラーたちからすれば、このことに関して、実に嘆かわしく感じているのではないかとも想像しますが…。

 私(マレー)自身の立場は、旧世代の考えと同じです。

 「Wales Bonner(ウェールズ・ボナー)」は、パッチワークスーツやコントラストのきいたポケット、極端に幅広のウィンドーペーンチェックを好んで使用しています。「Martine Rose(マーティン・ローズ)」はバズワードが全面に書かれたファブリックを使い、大きなラペルにバッジやカラーピンをつけています…。

 さらに「John Lawrence Sullivan(ジョン・ローレンス・サリバン)」のコレクションは、ワイドかつビッグなボクシーフィットにストリングベストやレザーを合わせ、まるで金融街の銀行員がナイトクラブに入り込んだかのような雰囲気です。

「きちんとしてスマートなシューズの復活」

―フィンレー・レンウィック(副スタイル・エディター)

 メンズのショーに関して言えば、過去5年ほどのトレンドであったランウェイのモデルやフロントロウの有名人たちのフットウエアは、2つの(2.5でもいいでしょう)カテゴリーに分類できました。

 1つは厚底でゴテゴテ、レトロでアウトドアなテイストのスニーカー。もう1つは、ヘビーソールのブーツやダービーシューズです。しかし興味深いことに、この1月のショーでは、スマートな定番のシューズが流行していたのです。

 もちろん、スニーカーもありました。ですが、そこにはやはり、2020年シーズンらしさが宿っています。

 「Nicholas Daley(ニコラス・デイリー)」のサイケデリックなアフロ風コレクションには、ブラックのアディダスとのコラボシューズが登場していました。「ウェールズ・ボナー」が70年代にオマージュを捧げたコレクションにも、アディダスのコラボが見られました。ですが、これらはむしろ例外的と言っていいでしょう。

 アディダスを別にすれば、「ウェールズ・ボナー」のコレクションは、ピカピカに磨いたオックスフォードシューズや、ツートンカラーのモンクストラップシューズが主流だったのです。「イートウツ」のコレクションに関しては、パトリック・グラントが「これでもか!」と言うかのように、ボトムスをオーバーサイズにしていました。ですが、足元は厚底ではないニートなローファーでまとめる…といった具合です。

 もう1人の新星デザイナーであるマーティン・ローズも、(彼女の娘が通う)ノースロンドンの小学校風の靴を取り入れていました。このような黒や茶色の靴は、クラシックなレースアップシューズにおけるアバンギャルドなテーマとなっています。

 スーツの「回帰」についての話が、多く聞かれています。

 そんなわけで偉大さと愚かさを併せ持つファッションサイクルにおいて、ここ数年のスポーツウエアの流れから一転して、スマートなシューズへとシフトしようという流れに関しては納得できることではないでしょうか…。 

 「きちんとした、スマートなシューズを履くこと」、それが2020年のフットウエアのトレンドとは…、むしろ斬新なことと言えるのではないでしょうか⁉
 

Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。